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落魄令嬢は伝説の指輪で天使を悪魔として使役する  作者: 山吹弓美


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011.ばあやとスーリャ

 あまり長く居すぎると、ばあやたちに迷惑がかかる。だから私は、手っ取り早く用件だけを口にした。


「すぐに出るから、服と歩きやすい靴があれば譲っていただけるかしら」

「分かりました。おそらくサイズが合うと思いますので、どうぞ娘のものをお使いくだされ」

「助かるわ」


 頷いてくれたばあやの提案は、まあ推測通りというか。ばあやは私より小柄だから、服をもらっても合わないものね。

 娘、スーリャも大きくなったのでしょうね。私とほぼ同い年だったはずだけど……と思っていたら、奥からそのスーリャが顔を出した。昔と同じ顔だったから、すぐ分かった。ばあやとよく似た落ち着いた眼差しと、首元でまとめられた柔らかい栗色のウェーブヘア。


「お母さん、ただいまもど……あっ」

「スーリャ。ひさしぶりね」


 笑顔を作って、名前を呼ぶ。あなたの名前を知っているこの私が誰なのか、分からないスーリャではないものね。

 そうして彼女は、ちゃんと私を分かってくれたわ。目を瞬かせながら、私に歩み寄ってくる。身長も、体格も、だいたい同じくらいね。


「ふ、フランチェッタ様? いったい」

「冤罪を掛けられて逃げてきたのよ。といっても、どんな罪を被せられたかはそちらのほうが詳しいのではなくて?」

「は、はい……」


 アンヘリエールの一族が王家への謀反を企んで、娘の私が逃げ出して行方不明、くらいは聞いているかと思うけれど。そこに、他に何の罪が被せられていてもおかしくはないわよね、ああもう。

 私について説明されたことを思い出したのか、スーリャの顔が暗くなる。果たして、どんな説明を受けたんだろうか。

 けれど、スーリャが口を開くより早くばあやが低い声で、だけどはっきりと指示を出した。ごめんなさいね、私たちは急いでいるの。


「スーリャ、お前の服と靴をお嬢様に差し上げておくれ。わたしらは、お嬢様をお逃しせねばならんのじゃ」

「わ、わかりました」


 ばあやの指示に、スーリャは慌てて引っ込んだ。程なく、シンプルなくすんだ緑のワンピースと布靴を持って戻ってくる。これらは私は見たことがないから、最後に遊びに来て以降に手に入れたもののようね。

 少し使っているみたいだけど、特に問題はなさそうに見える。


「これでよろしいですか? あまり着ていませんから、匂いや汚れは大丈夫だと思いますけれど」

「助かるわ。ありがとう」


 お礼を言ってすぐ、私は自分のドレスに手をかけた。

 ここには私とばあや、そしてスーリャしかいないから、すぐに着ていたドレスを脱いでワンピースに着替える。


「フランチェッタ様、こちらに」

「ええ」

「……おみ足は大丈夫ですか?」

「靴自体はいいものだったから、ちょっと擦れただけよ。こんな靴で、森を歩くものではないわ」

「そうですね」


 着替えを手伝ってくれたスーリャに言われて、木の箱に腰を下ろす。手早く靴を脱がせてもらい、巻いていた布を外してワンピースと一緒に持ってきてくれた靴下を履かせてもらった。ああ、あっという間に靴の履き替えまで終わったわね。

 その間に姿を消していたばあやが、ちょっと大きめの袋を手に戻ってきた。


「それと、こちらもお持ちください。少ないですがな」

「まあ」


 何かしら、と思って中を確認してみると固いパンと、それから更に小袋が入っている。その中身は、じゃらりという感触から考えて多分銅貨ね。

 衛兵隊から巻き上げた金があるにはあるのだけれど、それを彼女たちに言うわけにもいかない。だから私は、言葉少なに尋ねるだけにとどめた。


「いいの?」

「かまいませんよ。お嬢様のためですもの」

「ありがとう。使わせていただくわ」


 ばあやは、本当に気が利くと思う。私が成長したことでアンヘリエールの屋敷を離れたけれど、その後私が遊びに来る度に色々と世話をしてくれたものね。

 ここまで着てきたドレスと靴は、丸めてばあやのくれた袋に押し込んだ。置いていってもし衛兵に見つかったりしたら、大変なことになるもの。証拠隠滅くらいは、ちゃんとしないとね。


「ごめんね。それじゃ、私たちのことは知らないと」

「最初から、お見かけなどしておりませんよ。どうぞ、ご無事で」

「ばあやも、スーリャもね」

「はい」


 短い言葉を交わして、急いで外に出る。そこにはああ、ちゃんとグリンが待っていてくれたわ。


「早かったな、ラン」

「着替えただけ、みたいなものだし」

「似合ってるぜ」

「ありがとう」


 こちらも、言葉は短く終わらせた。表に出る前に手をつないで、もう一度姿を消す魔法をかけて。

 私たちは無言のまま、ばあやの家を離れる。このままテンレンの村を出て、魔法が効いているうちに人目のないところまで逃れればここはなんとかなるはず。

 そう思ったのだけれど……少し、甘かったみたいね。


「反逆者が来て、逃げました! 脅されました、助けてください!」


 スーリャが、玄関から飛び出して叫ぶ。衛兵たちが騒ぎ出す中、私は必死に自分の口をふさいだ。

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[一言] そして裏切られたと( ˘ω˘ )
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