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青天 〜株式会社早乙女有害遺物浄化サービス〜  作者: naro_naro


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五、薄曇

「これはちょっと、一言あってもいいんじゃない?」


 母が怒っている。香織もむっとした表情だ。


「難しいところだな。影響範囲の大部分は旧西三区だし。こっちにはちょっぴりはみ出してるだけだよ」

「でも、普通は何かしら連絡するべきでしょう? 今までの事例はそうだし」


 健一は黙って聞いている。茶は母の怒りのまま苦い。

 タブレットの画面には問題の地図が映っているが、有害遺物の影響範囲が旧の区境をまたがっていた。父の言う通り大半は旧西三区だが、遺物そのものは旧東一区に存在していた。微妙なところだった。

 業界の暗黙の了解で、こういう時は影響範囲の大半が存在する方が処理をし、報酬を受け取るが、相手に話を通し、一部を協力金として提供する事例が多い。

 もちろん、それは法律ではないので無視しても罪には問われないし、協力金の割合や渡すかどうかもそれぞれの話し合いによる。

 でも、話し合いすらしないというのはどうか、と健一も思った。


「連合会に報告しようよ」

 業界団体に間に入ってもらえば、と香織が言ったが、父が首を振った。

「取り合ってもらえないよ。これはルールじゃない、慣行だから個別に話し合って仲良くやってくれって体よく断られるだけだろう」


「向こうは何がしたいのかな。こんなことしてたら共倒れだよ。お互い体力ないんだし」

 健一は皆を落ち着かせようと、あえて穏やかな口調で言った。父はそれに気づき、茶を飲んで落ち着いたが、香織はまだ怒りを治めない。感情がそのまま顔に出ている。


「そもそも、協会はなんで許可出したのかね。こっちに通知もなしに」

 母がまた焚きつけるようなことを言った。健一は、姉は確実に母の娘だ、と変なことを考えた。うちの女は燃えやすい。


「おい、協会も巻き込むつもりかい? それは勘弁してくれよ」

 父が言った。それはまずい、と健一も同意した。


「でも、変は変ね」

 香織が母の肩を持つ。


 健一は何が正しいのか分からなくなった。理屈は母と姉の方が通っている。でも、正しい理屈を貫き通していくとややこしい騒動になる。それを避けたいという父には大いに同意できる。闘う体力も時間もない。

 相手から仕掛けてきたが、それに食い付いていいものかどうか。応じるにせよしないにせよ、後の方針が立たない。

 決めるというのは悩ましいものだな、と思う。


「健ちゃんはどうなの? さっきから黙ってお菓子食べてばっかだけど」

 香織が火の粉を降らせてきた。それは相手にせず、さっきと同じく消火するような口調で言う。

「向こうさ、何か考えがあってこんなことしてるんだろ。それが分からないのに無闇に苛立っても何の役にも立たないよ」

 父が、ほう、という顔をした。香織はその言葉で冷静さを取り戻した。


「健一だったらどうする? こういう時、どうやって向こうの考えを調べるか、言ってみろ」

「そりゃ、父さんが持ってるコネ使おうよ。ひいじいさんの代からこの商売やってんだから、いるでしょ。キジマさんとこっちをつなげる立場の人」

「言うようになったな。確かにいる」


「先生?」

 母が口を挟み、父は頷いた。健一も知っている。元区議会議員の先生は父方の祖父の書生のようなことをやっていた人で、二人の仲人もしてくれた人だ。今でもそれなりの影響力があり、何かと頼りにしている。


「先生って、旧西三区にも顔が利くの?」

 香織が不思議そうに言った。

「利く。それどころか合併を進めたのは先生の一派だし」

「じゃあなんで今まで頼まなかったのよ」

 それには母が答えた。

「先生にご迷惑をかけるにはそれなりのものがいるのよ。うちはおじいさんのおかげで特別扱いだからだいぶ助かってるけど、そうそう頼めるものじゃない」


 父が机を軽く叩き、注意を集めた。

「分かった。この件は俺に任せてほしい。ちょっと動いてみる。皆は変わらず仕事しててくれ。こん……、いや、来週中にははっきりさせる」

 母と香織がそれぞれ、分かった、とつぶやいた。


「それから、健一。普通にしてていいから」

 健一は、分からない、普通って何のこと、という顔をした。

「学校の研究発表だよ。普通でいいから。木島の娘さんを避けることないからな」

 香織が微かに笑い、健一は赤くなった。

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