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青天 〜株式会社早乙女有害遺物浄化サービス〜  作者: naro_naro


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三、丁寧語

 テストと連休が明けると、各クラスに転校生がやってきた。皆テストを受け、結果に応じてクラス割が決められたらしい。健一はそういう噂を聞き流していた。


「木島久美子です。よろしくお願いします」


 その子は先生が統廃合の経緯を簡単に説明した後、言葉少なにそう自己紹介すると、窓際の前の方の席に座った。健一の斜め前だった。

 後ろ姿を見ながら考える。うちに来るとは思っていたが、同じクラスになったのは意外だった。学校も急な合併で気を使ってる暇がなかったのだろう。単純にテスト結果で振り分けただけのようだ。

 とりあえず、母の言う通りにしよう。健一は欠伸を我慢した。簡単だろう。関わり合いにならなければいいだけだ。女子だし、距離を置くのは不自然ではない。


「あなたが早乙女くんね。よろしく。同業だし、仲良くしてね」

「あ、よろしく」


 そう考えていたので、昼休みに挨拶されたときには戸惑ったし、周囲の目が恥ずかしかった。相手は堂々としていたが、健一は親戚の集まりに行った子供のように小さくなった気がした。

 後から考えればその小ささをごまかすための虚勢だったのだろうが、返事ついでにいきなり馬鹿なことを聞いてしまった。


「木島さんのところさ、なんで話し合ってくれないの?」

「さあ、わたし、あんまり仕事には関わってないから」

「ちょっと言ってくれないかな」

「無理よ。それに、学校に会社の交渉事を持ち込むのは……」


 そこで他の子に呼ばれ、木島は手を振るとそっちへ行った。健一は昼を食べて冷静になると、自分の振る舞いを後悔した。初対面で言うことではないし、相手の対応はもっともだった。

 自分は人並みに利口に立ち回れるつもりだったが、実際の言動があれでは並以下のようだ。


 木島はもう何人かの女子と打ち解けている。聞こえてくる話し声からすると、小さい頃の知り合いだったり、クラブ活動などで顔見知りだったりのようだった。


 それから午後の授業の間中、そっちの方を見ないようにしていた。調子に乗ってしまった後によくあるように小さく目立たないようにしていた。


 だから、放課後、木島と共に先生に呼ばれた時は悪い予感がした。あのことを言いつけられたのかもしれない。学校で会社の話をしないよう改めて釘を刺されるのだろう。

 しかし、悪い予感は当たったが、そのことではなかった。


「明日全校に知らせるんだけど、二千年祭な、うちも何かしようって決まってさ、夏休み明けに各クラスでポスター発表する。それで、まあ、なんというか、クラスに二人も専門家がいるからさ、ちょっと期待されてるんだよ」

 先生はいつものように気楽に話した。こんなことはなんでもない。ちょっとしたお使いと同程度の仕事だよ、と。

 ポスター製作などはクラスの皆で行うが、資料の調査、作成、検証など、二人が頭となってくれないかという依頼だった。専門家だから、と何度も繰り返した。

「テーマは?」

 木島が聞いた。健一は断ろうともしないのが不思議だったが、これは断れる状況ではない。後で家で考えてみればみるほど、この時の木島は大人だった。

「魔法と郷土。東西区になったことだし、魔法の歴史と郷土の関わりに光を当てようと思う」

「では、一般的な資料でまとめた方がいいですね。少数派や異端の学説は置いておきましょう」

「そうだね。学校の発表だし。そこは分かってるみたいだからまかせる」

 先生は健一の方を向き、どうだ? と目で問いかけた。

「そうですね。木島さんの言う通りで進めましょう」

 何も考えていなかったくせに、と自嘲しながら、表面だけ取り繕っておいた。

「じゃ、頼むよ。それと、必要なものがあったら言ってくれ。多少だが予算も下りるし、事前に言ってくれたら学校の名前使って資料収集していいから」


「そういうことで。よろしく」

「こちらこそ」

 職員室を出ると、木島がそう言い、連絡先を交換した。

「日程はぼちぼち詰めましょ。街の図書館や博物館にも出かけなきゃ」

「お小遣い足りるかな」

「予算下りるって言ってたじゃない」

「しっかりしてる」

 木島は照れたように笑った。校則ぎりぎりまで伸ばした髪が揺れた。


「健ちゃん、見かけによらずやるねえ」

 夕食後、一応会社に関わるし、と思って今日の出来事を、自分の失敗の部分は小さくして話すと、香織がからかった。父が皿を運びながら言う。

「ま、仲良くするのはいい。調査頑張れよ」

「そうね。魔法と郷土、なんて健ちゃんなら鼻歌交じりでしょ。そっちはちゃっちゃとすませて仲良くやんなさい」

 母が食べ終わったというのに漬物をつまみながら言った。

「おっ、早速来たね。久美子ちゃんって言うのか」

 放り出しておいたスマートフォンが振動し、画面を覗き込んだ香織がはしゃいだ声で言った。健一は睨みつけてメッセージを読む。


『例の件、いくつか候補日を挙げました。都合の良い日をお知らせ下さい』


 挨拶などを含め、事務的で、飾りも何もなかった。それを残念に思う気持ちに気づいて健一は驚いた。事務的で何が悪い。それでいいじゃないか。

 だから、健一も同様に事務的に返した。丁寧語で、距離感を意識して。

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