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少女と協力者②

夜のお供に。

「ちょっと待て、あいつらはデータの中身を知ってるってことか⁉︎」


「そういうこと。ちなみには私は事前に内容はともかく、誰のデータが入っているかは聞いてるの。その中に二瓶優香の名前もある。真田くんが協力しなきゃ彼女の安全を保証しかねるってのはそういう意味」



 楽しいはずの文化祭が一転、将来にまで関わる危機だ。

 今目の前で友達と談笑している優香の顔を見て、俺はなけなしの勇気を振り絞る。



「潜入して調べて分かったことを言っとくね。まず問題は、速見自身が《亜空間》を発動しないとハードディスクが取り出せないこと。唯一の救いはコピーがまだ取れてないこと。協力してくれるよね?」


「当たり前だ。でもどうやって取り返す? 」


「手っ取り早いのは榎本を味方に引き入れることかなー。情報を必要以上に拡散させたくない。下手するとあいつらがヤケを起こすかもしれないし」



 そうなれば最悪の事態だ。



「まあ、餌は撒いた。あたしが姿を晒すことで、あいつらは自分たちのモノが狙われてるってことには気づいてる。狙うとしたらそこだね」


「だけど狙われてるってなったら、表に出てこなくなるんじゃないか? ––––ああ、だから俺の力が必要なのか。《亜空間》の能力者は自分で作った空間には逃げられないから」



 赤井はニヤッと笑う。



「そう。実行委員である以上、学校からは出られないし、姿をくらますわけにもいかないでしょ? 逃げ道はない」


「となると問題は、あいつらを交渉の場に引っ張り出すだけの材料がこっちにはないことか。さっきおまえも言ったけど、ヤケになって情報をバラまかれたら収拾がつかなくなる」


「しょうがない。一回ダメ元で榎本に連絡を––––うわっ!」



 俺の端末を取り出そうとした彼女が着信音に驚いた。どうやら誰かからメールが着ている。

 俺は彼女から端末を取り上げ、画面を開く。



『彼女持ちのくせに他の女と逢引とはいいご身分じゃねえかイケメン様よ』



 教室の外に目をやると、冷めた目の親友がいた。



 ◆◆◆



「で、この学校からいなくなったおまえがなんでここにいるんだ?」



 あのまま教室で話を続けるのも難しいので、一旦場所を人の少ない階段の踊り場に移した。


 優哉の機嫌は最高潮に悪かった。一見すると普段のあいつとなんら変わりないが、顔の筋肉が落ち着かないしさっきから立ったまま貧乏ゆすりをしている。


 赤井が俺にしたのと同じ説明を繰り返した。



「なるほどねえ。どおりではっきり言わないワケだ」



 優哉は思った以上にすんなりと納得した。しかしさっきから手の関節をゴキゴキと鳴らしている。



「じゃあ、協力してくれるのね!」


「ああ。俺もさっきあの先輩とは一悶着あってな。少々イライラしている」



 喋り方がぎこちない。それにしても、普段と違う様子を幾つも見せておいて『少々』なのか。



「よし、あの性根の腐った2人をぶっ潰すぞ。俺に案がある」



 普段の彼なら、こんなことも言わない。



 ◆◆◆



「犯人を捕まえた⁉︎ 一体どうやって?」



 夕方の4時を回った頃、大川のもとに『犯人捕まえました』と電話が着た。



『とりあえず人目につくと文化祭の継続に問題がありそうなんで、倉庫の来てください。ああ、ついでに速見先輩もお願いします。首実検したいんで』


「おう、了解」



 大川は電話を切ると口元が緩んでいることに気づく。

 こうも上手くことが運ぶとは。〈あの人〉には感謝しないといけない。



 ◆◆◆



「おーい、来たぞ」



 来た。

 大川先輩と速見先輩は優哉の電話から数分とかからずにやってきた。


 今、俺は赤井の能力で身を隠している。目の前には、優哉と縛られた赤井がいる。


 優哉の『案』は直球だが、迅速かつ安全な解決としては一番マシなものだった。



「おう、コイツだ間違いない」



 赤井の顔を眺めた速見先輩が断言した。

 大川先輩が優哉の背中を叩いた。



「よくやった! さすが人殺しは仕事が早いなあ!」


「面倒ごとはさっさと片付けるのが一番ですからね。じゃあ俺はここで」



 あれ、今の会話でなにか不自然なことを言ったような。



「––––あんたらをぶっ潰します」



 次の瞬間、あいつは容赦なく2人に襲いかかった。狭い倉庫の中で、あの球体状の異能力を発動したのだ。



「おまえ、何をっ……」



 不意打ちを食らった大川先輩は弾き飛ばされて壁に叩きつけられた。



「いやあ、人殺しってのは存外怖いんだぞってことを覚えていただこうと思いまして」



 痛みで動けない大川先輩を無視して、優哉は速見先輩に詰め寄った。



「ほら、出せよ。ったく、よくもまあ騙してくれましたねえ」



 普段とのギャップが激しい。



「ひ、ひいぃぃ……」


「なんだ、高い声出せるんじゃないですかぁ。ほぅらぁ、出してくださいよぉ、開けちゃっいっだぁっ⁉︎」



 赤井が優哉の頭を叩いた。



「やりすぎ。見てごらんよ」


「え? あーあー……」



 速見先輩が口から泡を吹いて気絶している。



「殺人鬼が笑顔で迫ってきたらか弱いレディには刺激が強すぎるよ?」


「やかましい。大体『殺人鬼』ってなんだよ。生憎だが俺は誰も殺した覚えはねえぞ。死にかけたことは3回くらいあるけどさ」



 優哉は気に留める様子もなく、速見先輩の肩を前後にガクガクと揺らしている。



「その様子だと太一にも喋ったのか?」


「いいや? でも君が不審な行動を取りすぎて疑っているフシはある。夏休みに家に帰らなかったらそりゃ疑われるでしょ。『家に帰れない事情がある』って時点でまともな家庭じゃねーって言ってるようなもんだし。でも、だからあたしのこと助けてくれたんでしょ? これでも感謝はしてるんだ」


「まあ、そのツラ見れば安心だな。さてどうやって目的のブツを出すんだ? 本人に《穴》を作らせる以外に方法あんの?」



 気絶している状態で顔を叩かれたり全身を揺さぶられたり、いくら悪い奴とはいえ速見先輩が不憫に思える。

 しかも学生にありがちな欲望が一切見えない。おそらくその手のトラップもあったのだろう。


 むしろ赤井の方がドン引きしていた。



「ないことは……ないけど……、あんた、思った以上に肝が据わってるのね」


「あ?」


「なんというか、躊躇がないというか……。ゴメン、気絶してる女が相手だから多少のオイタをするものだとばかり」



 優哉の顔が鬼瓦みたいに変形した。



「俺のストライクゾーンじゃない」


「「そういう問題?」」



 思わず赤井と一緒にツッコんでしまった。



 ◆◆◆



 数十分後、誰もいない屋上で若い教師が電話で話していた。



『……で、その後はガムテープで拘束しました。小宮山先輩、いつもこんな生徒相手にしてたんですね。お気楽とか言ってすみませんでした』


「……すまん、苦労をかけた」



 この件を依頼した教師は、電話口で固まっていた。



『ハードディスクの回収はまだですが、こうもトントン拍子だと逆に怖いですね。「罠かな」って思う気持ち、分かりました』


「だろ? なぜか榎本は幸運に恵まれてるんだよなぁ」


『それで、その榎本が「文化祭は最終日までやっていいんじゃないか」とか言い出しまして』


「まあ、俺たちとしては盗まれた物が帰ってくれば少しは安心できるけどな。だけど大川と速見に協力したヤツがまだ見つかってねえ」



 電話の相手の少女が、少し言葉を詰まらせてから



『……それなんですが、速見が少しだけ口を割りました。相手は〈キメラ〉と名乗っているそうです』


「マジかよ」



 小宮山は、また頭痛のタネが増えたと嘆くのだった。



 ◆◆◆



「さて、悪い奴らも捕まえたことだし。真田くん、どこから聞きたい?」


「優哉が人殺しってのはどういうことだ? まずはそこからだ」



 赤井が優哉に目配せする。

 諦めたようなため息とともに、優哉は語り出した。



「結論から言うと、俺は()()()()()()()()()()()()()()()()()()らしい」



やっと更新が回復しそうです。

乱れ気味ですが今後もよろしくお願いします。

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