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少女と協力者①

「さて、どこから探そうか?」


「ある程度の目星は欲しいですがねえ。個人的には生徒会室で待つことをお勧めしたいですね」


「追い出された直後によく言うなあ」



 先輩の目線が後ろに向いている。

 そっちからはあの小さい先輩が「さっさと行け」と言わんばかりに睨んでいた。



「あの先輩、何か隠してません?」


「いやあ、分からんなあ」



 怪しい笑顔だ。

 絶対に何か知っていると確信するが、追及できるだけの証拠がない。

 そこは後回しにしよう。


 唯一のヒントはその人物が落としたであろうメモ一枚。

 だけどこの状況で都合よく証拠を残すだろうか? これは誘導ではないかと本能が警告している。

 これも後でいいや。



「まあ、あいつも悪いヤツではないんだよ」



 なんだろう、最初に抱いたモヤモヤが大きくなったような。



「大川先輩、本当に生徒会室に何かヤバイもの置いてないですか?」


「なんだ、思った以上に疑り深いな。だけど俺は知らないぞ?」



 素直に答えるとは思ってない。


 だけど生徒会室をわざわざ借りるということは少し変だ。

 生徒会も部屋は使うわけだし、何かを保管するなら職員室の方が安全だ。


 誰が何の目的で侵入したのかなんて知らないし興味ないが、面倒ごとに巻き込まられたのは非常に腹が立つ。



「くどいようですが、先輩は本当に何も知らないんですか?」



 流石に怒らせたのか、笑顔が一瞬だけ崩れた。



「本当にくどいな。何が言いたい?」


「この文化祭、最初から胡散臭い部分が多いじゃないですか。教えてくださいよ、どうやって開催まで持ち込んだです?」


「それがこの件と関係あるって言いたいのか?」


「この状況でない方がおかしいでしょう。疾しいことがないなら別に構いませんが。ただ、俺なら『都合のいい後輩』を使うのは『都合の悪い状況』ですけどね」



 先輩は既に表情を元通りに戻している。これ以上の揺さぶりはあまり意味がないか?



「ほう。だが、できることならしてやりたいが、()()()()()()()()()()()ぞ?」



 さっきと同じ言い草なのに、少し違和感を覚えた。だけど雰囲気変わった?

 念押しに聞こえるのはなぜだろう。



「……『黙って犯人を探せ』ってことですか?」


「そうさな。そういうことになる」



 表情一つ変えずに言い切りやがった。これがこいつらの本性か。



「……俺は便利屋じゃないんですがね? 場合によっちゃ犯人側に協力するかもしれませんよ?」


「固いこと言わずに頼むよ。君が協力しないなら一番困るのは君になる。君を善人だと思ってる友達を悲しませたくはないだろう?」


「はい?」


「君の過去なんて、その気になれば調べるのは難しくなかったよ」



 カードの切り方が上手い。最悪とも言える状況で、さらに追い討ちをかけてきた。ハッタリと言えたら楽だが、こっちも確証がない。



「正直な感想言わせていただきますが、ぶん殴りたいですね」



 先輩の口角が上がる。

 ああ、嫌な笑顔だ。



「おまえには無理だろ、人殺し」



 くそ、ハッタリじゃねえ。



 ◆◆◆



「で、どうしておまえがここにいる?」


「仕事。それにしてもよくもまあここまで曰く付きが揃ってるね、この学校」



 赤井が後ろでクスクス笑っているのがむず痒い。しかも俺の背中にナイフを当てた状態でだ。

 緊迫した状況のせいでさっきから汗が止まらない。

 なんとかして逃げたいが、下手に動けば俺はここで死ぬかもしれない。

 今は大人しくする他ない。とりあえず会話に乗ることにした。



「曰く付きってなんだよ? 伊藤や優哉の異能力が異質だって話か?」


「そんな単純な話なら苦労しないよ。こんな片田舎の学校に、素性があやふやな奴がゴロゴロいる。怪しさ満点じゃない」


「……なんの話だ」


「とぼけちゃってぇ。今の君は、親友ですら信頼しているとは言えないと思うんだけど? 榎本優哉に関して、君は彼を疑っている。長期休業で家に帰らなかったこと、不審な行動を取っていること。そして彼の異能力。君の情報収集能力をもってすればすぐにでもわかるだろうに、どうしてそれを先延ばしにしているの?」


「今は、あいつの話は関係ないだろ?」



 背後でのクスクス笑いが大きくなった。



「そうね。じゃあ本題。文化祭実行委員の頭2人に教諭たちは脅されているんだけれども、冷静に考えて機密がただの生徒にバレるっておかしいと思わない?」



 彼女の言う通り、 身内に軍人がいるならともかく、彼らは異能力を除けばただの一般人だ。ここで可能性は2つに絞られる。



「どこぞのバカがヘマをしたか、機密をガキに流す裏切り者がいるか。……結論は?」


「情報の管理に不備はない。管理体制について軍にも学校にも落ち度がない。ここまで言えば分かるよね?」



 話の方向がきな臭くなってきた。今までの経験からして間違いない。



「軍か学校の誰かに裏切り者がいんのかよ……」


「まあね。大人たちが調べた範囲ではここまでが限界だったから、その先に進むにはハードディスク奪還が不可欠ってわけ。本来だったら先生の仕事なんだけど、裏切り者が先生だった場合シャレにならないから」


「なるほど。それでおまえにお鉢が回ってきたってわけか。おまえがどこの組織に属しているかは問わない方が良さそうだな」


「そうしてくれると、こちらとしてもありがたいね」



 軍や教育機関に影響力がある上で、第三者的な立場になれる組織はこの日本では一つしかない。


 それはさておき。



「となると、目的のブツの隠し場所は速見先輩か? 俺の能力で見つからないってことはそうだろ?」


「察しが早くて助かるよ。そう、彼女の異能力《亜空間》の中にあるのさ」



 《亜空間》。

 文字通り、本来ならこの世界には存在しない空間を作り出す異能力。

 ものや人を中に入れることもできる、利便性の高いものだ。

 出し入れの瞬間を除けば、無力化をもってしても中のものは簡単には取り出せない。


 さっき見つからなかった時点でなんとなく予想はついた。



「でもそれなら、俺はこれ以上は役に立たないと思うんだけど? 俺の能力は戦闘向きじゃない」


「どっこい君にはまだいてもらわなきゃ困る。なにせ君は榎本優哉のことをよく知っているからね」


「なんで、またあいつの名前が出てくるんだ?」



 小柄な少女のため息が背後から聞こえた。



「文化祭実行委員の連中が彼を味方に引き入れてるから。本当だったらこっちに引き入れたかったんだけど、先を越されちゃった」



 彼女が言うには、優哉の存在は正面から戦うには厄介なのだとか。



「優哉が厄介ってどういうことだ?」



 一瞬、ナイフが背中から離れた。



「そっか。君は知らないんだ?」


「何を?」


「榎本優哉はこれまでに2回、確実に死ぬはずだったのに死んでないんだよ」


「……はあ? 死ぬはず?」



 気になる話題が出てきたところで教室に着いてしまった。


 その目前で柊に遭遇したが、なぜか彼女は俺をスルーした。

 どうやら彼女には俺たちの姿は見えていないらしい。他のクラスメイトたちも同じような感じだった。

 優香だけ、チラッとこっちを見た気がした。

 ……気のせいだよな?

 喋っても聞こえないと判断した俺は足を止めた。



「あれ、どうしたの?」


「どういうことだ? 優哉が『死ぬはず』って」


「私の仕事が終わったら教えてあげるよ。別に秘密にしたところで意味はないし。それより、あいつは今どこ?」


「ちょっと待てよ?」



 能力を発動して優哉を探す。脳内に莫大な情報がなだれ込んでくる。


 ……いた。


「生徒会室前で文化祭の実行委員長と何か喋ってるな。『……そうだ。俺が教えるのはここまでだ』…………『………………くれますね』…………あ、別れた」


「何か指示を出したの?」


「分からねえ。でもあの顔を見る限り、面倒ごとになったのは間違いなさそうだな」



 何やらブツブツ呟いている。

 それにしても、優哉の顔があそこまで歪んでいるのを見るのは初めてだ。



「で、どうして教室に来たんだ?」


「本拠地に乗り込む前の仮拠点ってとこかな。君がいないことにはもう気づかれてるだろうし」


「待て。一つ質問してもいいか?」


「どうぞ?」


「おまえの行動には粗がありすぎる。前のおまえならもう少しまともな作戦だったんじゃないか? わざわざあの状況で俺を連れ出す必要もないだろうに」



 以前の彼女はもっと周到に用意していた。

 まるで何かを焦っているかのようだ。


 今日は文化祭の初日。なぜこのタイミングで彼女は学校に来たのか。

 すると赤井は唇を尖らせた。



「しょうがないじゃん。あの2人の頭は思った以上にヤバだったんだ」


「え? まさか約束破ってデータの中身をネットに流したのか? 解析されたらヤバいんじゃ」



冗談のつもりが、彼女は「それに近い」と覇気のない声で言う。



「軍や先生たちはまだ知らないけど、データの解析に成功しちゃったの。多分、裏切り者が協力したんだと思う。アレが外に流れたら、この国は終わりよ」

結構間が空いてしまいました。


明日もう一本投稿します。


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