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体育祭 イレギュラー

「いい勝負だったんじゃね?」


「バカ。読みが外れてたらただのアホな奴で終わるところだったぞ?」



カレーにスプーンを入れた。



「……さすがおまえの家族だな。うまい」


「そうか? なら良かった」



保護者のボランティアで太一の家族が昼食を用意してくれたのだが、これがまあ美味なのだ。



「……ちょっと和風だし入ってる?」


「作りすぎて余ったときにカレーうどんに転用するからな」



ご飯と食べても相性がいい辺り、こいつの血縁であると思い知らされる。

現におかわりの行列ができている。



「で、障害物競争の方は大丈夫そうか?」


「そもそも内容が分からねえ時点でどうこう考えても仕方ねえだろ。今は応援で消費したエネルギーを補充するのが先だ」



さっき小宮山先生が午後のスケジュールを説明しに来たのだが、なぜかジャージに着替えていた。

いつもはワイシャツなのに。

なんか疲労が溜まった顔をしていた。



若干不安定な足取りで去っていく先生の後ろ姿を見ながら太一が耳元で囁いた。



「気を付けろ。今年の体育祭はおかしいことだらけだけど、午後からもっとヤバいことにあるかもしれない」


「何か理由でも?」


「さっき教室に行こうとしたら軍人に止められた。で、そのときチラッと見えたんだけど割れた窓を交換してた。しかもかなりの枚数だったよ。でも俺たち、そんな音聞いてないだろ?」


「棒倒しがうるさ過ぎて気付かなかっただけじゃねえのか?」



まともなツッコミを入れたつもりだったが完全に太一は無視した。



「俺の異能力を舐めるな。ガラスが割れた音なら絶対に聞こえるはずだ。しかも量が多すぎる。俺たちがいない校舎で何か大きなトラブルがあったと考えるのが妥当なとこだろ」


「そうか。まあこの学校も100%安全って訳じゃねえからな。お互い気をつけようや」



◆◆◆



『間もなく、障害物競走を開始します。出場する生徒は正門に集合してください』



正門近くに設けられたスタート地点にいた生徒は、ほとんどが1年生だった。なんでも、上級生はほとんどが棒倒しを選んだようだ。


一緒にいた宇田川が絡んできた。



「優哉ぁ、おまえの異能力って移動速度どんなもんなの?」


「計ったことはないけど、そこそこの速度は出る。宇田川の方こそ大丈夫なのか? 《身体強化》なら棒倒しの方がよかっただろうに」



なぜこいつがこっち側を選んだのかは不明だ。

見た目だけなら、陸上選手というよりはレスリングとか柔道とかの選手の体つきだし。



「なんか面白い噂話を聞いてな。こっちの方がワクワクしそうだったから」



噂、というワードが引っ掛かった。



「どんな噂だよ?」


「『普通の障害物競走だと思って参加したら後悔する』そうだ。面白そうだろ?」



申し訳ないが全く魅力的ではない。あくまで個人的な意見だが。

俺は太一の「障害物競走は個人プレーを見る」という言葉を参考にしただけだ。



「それだけの理由でこっちを選んだのか?」


「能力者の障害物競走だぞ? ただでさえ一般人ではできない体験ができるんだ。その俺たちでさえ見たことないようなレースだったら、参加しなきゃ損だろ?」



馬鹿と言うか、愚直というか。

残念ながら、俺にとってはそういった類の刺激はあまり響かない。



「ま、お互い頑張ろう」


「それに、この競争でトップに立てば俺を見る周りの目にもきっと変化があるはずだ……!」



絶対それがメインの目的だろ、と心の中でハリセンを振り回す。



「うちのクラスだと、参加してるのは秋山さんと西山、あとは山田くらいなもんか」



山ばっかだ。



「根暗、うるさい、普通だな!」



酷評だった。



「なあ宇田川、知ってるか?」


「何をだ?」


「今の言葉、おまえの後ろで全員聞いてるんだけど」



「…………え゛?」



◆◆◆



「山田はどうしてこっちを選んだんだ? 体力は一般人並みじゃなかったっけ?」



長い髪を頭頂部で団子状にまとめている彼女に尋ねた。いつも思うのは「あの中、蒸れそう」。



「大丈夫、こいつ使うから。一等賞はいただきよ」



操り人形と化した宇田川の背中で得意げに鼻を鳴らす。

単純におんぶしてもらっているだけなのだが、宇田川がその事実に気付くことはない。この状態だと山田の方が醜態を晒しているようにも見えなくない。



「最初からそのつもりだったのか」


「まーね。棒倒しと一緒で、ルールなんて最低限のものだけだし。私の異能力なんて普通に使っても良い印象は持たれにくいから、どうせ使うなら思い切った方が得じゃない?」


「……確かにね」



本当にルールに違反していないらしい。審判役の先生は見て見ぬふりをしていた。

やられる方も悪いってことか。



「私はこいつを使うけど、正直、直ちゃんと茜は強敵だよね」


「俺は強敵の頭数には入ってないのかよ?」


「だって5分に一度使えなくなる異能力なんて相手にならないじゃん。別に対戦するわけじゃないんだし」



ぐうの音も出ない正論。痛いところを突かれた。

プログラムを確認したときから思っていたことだが、午後は閉会式までが3時間が全て障害物競走に割り振られている。

どう考えてもおかしい。

5分以内にケリが着けばそれでいいと思っていたが、予想外に耐久力が求められるらしい。

競走なのに俺は5分に一度、必ず休憩を入れなければならない。


外れを引いたことに気付いたが遅かったのだ。



さて、どうしたもんだか。



◆◆◆



同時刻、若い男女が人気のない場所で相対していた。



「それで? 俺を呼び出すとはどういう趣向ですか、花田先生?」


「とぼけないでください。あんたの親玉が来てるでしょ?」


「……だとしたら?」


「首を持って帰りたい」



あまりにもストレートな物言いに、小宮山は顔が強張るのを感じた。



「仮にも教師の発言じゃないですね……」


「ちょっとは察してよ。ただでさえ侵入者の数が多すぎて手に負えなくなってるのに」


「優秀な軍の精鋭を持ってしても、侵入者の協力者の割り出しはまだですか?」


「私としては、最有力候補のあんたに尋問したいところだけどね。安心しなよ。あんたのことはまだ上には報告してないから」



これはまずいぞ、と小宮山は頭を抱えた。

ただでさえ潜入がバレているのではないかと上司が懸念している今、スパイとして軍に捕まるのは都合が悪い。

情報共有ができれば一番いいのだが、そのための材料が圧倒的に足りない。

分からないことが多過ぎて、どこから手をつければいいのかすら見当がつかないレベルなのだ。



「あんたのとこの親玉狙いにしては人数が多すぎるし、警備の穴を的確に突いてくる時点で内通者の存在は間違いない。ねえ、今日の体育祭、何かおかしくない?」


「それが分かれば苦労しないんですがねぇ……」


「そうねえ」



花田は片手で顔を覆いながらため息をついた。



「とにかく、何か分かったらすぐに教えて。でなきゃ……どうなるかは言わなくてもいいよね?」



花田が立ち去った後、小宮山は別の意味で冷や汗を流した。

携帯を耳に当てて、あくまで通話の形を取る。



「なんで相槌なんて打つんですか……!」


『気付くかと思ったけど、余裕がない人間って注意力がないものね。さて小宮山くん、私なりに推理してみたんだけど』


「はい?」


『はっきり言って私や伊藤光太郎目当てにしては人数が多すぎる。というか、チャレンジャーな連中が多いわね』


「チャレンジャー?」


『あなたは、私に勝負を挑んで勝てる自信はある?』


「死ねと言ってるんですか?」


『違う違う。無駄な労力を使う気があるかって聞いてるの。世間一般の認識からして、私、異能力の強さには自信があるんだけど』



そこまで聞いて小宮山は理解した。



「『様子見じゃない』ってことですか。代表や伊藤の偵察が目的なら、ここまで大人数にする必要はない。むしろこの戦力で捕獲できる、『別の人間』がいるってことですか?」


『もしかすると最悪の展開もありうるわね』



上司の声から余裕が消えたのを見て、小宮山もすぐに気付いた。



「もしや真田ですか?」



異能力の進化が見込まれていて、且つ軍志望ではない人間。

狙うには十分な理由がある。



『ねえ、真田太一くんの異能力、もし進化したらどうなると思う?』


「確か、《思考を読むことができる》……じゃなかったでしたっけ?」


『もし、それ以外の要素があるとしたら?』


「……はい?」


『《考えを読む》()()()()()よりも価値のあるものだとしたら?』



現実に存在しない異能力の上を行くもの? 小宮山は一瞬、思い悩んだが



『ま、そこは後回しにしましょう。とにかく、今日は生徒の保護に努めなさい。もしものときは助力するから』



◆◆◆



「競争なのに『ここで待て』って変な指示だよな」


「まー、ここまで障害物が何もない方があたしは変だと思うけどねー」



障害物競走、開始10分。

正門から普通に指定されたルートを移動すると、途上にあるグラウンドの入り口でなぜか先生が「はい、じゃあこれ持って」と番号札を渡された。俺が貰ったものには〈7〉と書かれている。それを持ってグランドに入ると、『障害物競走参加者、ここで待て』と書かれたプラカードを持った別の先生がいた。

俺より先に6人がいたことを考えると、先着順らしい。

すぐ後に到着した山田(&宇田川)と呑気な会話を交わしていた。

それにしても焦点は合っているのに全く無反応の宇田川を見ていると、言い知れぬ恐怖を覚えた。


全員が集合したことを確認すると、先生はプラカードを拡声器に持ち替えた。



「ではこれより、改めて障害物競走のルールを説明します。今あなた達が持っている札の番号は、各自が保有する〈ポイント〉です。これから先、チェックポイントが3つありますが、そこで今貰ったものと同じ札を貰います。それを集めてゴールするのが条件です。ここまでで何か質問がありあますか?」



どこかのクラスの生徒がスッと手を挙げた。



「それっておかしくないですか? 今貰った札は先着順の数字じゃないですか。これだと最後にゴールした人が高得点になるんじゃないですか?」



先生はニッコリ笑うと



「そうです。なので次のチェックポイントでは先着30名が先に行くことができますが、残り10人は脱落となります。その次のチェックポイントでも同様に行います。最終的にゴールできるのは上位3人まで。そしてゴールのみ、1位には120点、2位には110点、3位に100点が与えられます。残りは全て脱落扱いとなります。ただし最後は獲得ポイントで順位が決まるということだけ覚えておいてください」



参加人数は40人丁度。チェックポイントの数から計算すると、真っ直ぐにゴールに向かった方が高得点を得られる。


途中までゆっくり走って最後だけ本気、という訳にもいかないらしい。



「最後に、チェックポイントには時間制限がありますから注意してください。それでは健闘を祈ります!」



◆◆◆



グラウンドを出た俺は、《速度操作》を操る同級生、西山に声を掛けられた。



「なんかおかしくない?」


「なんかしなくてもおかしいよ」



何せ次のチェックポイントはグラウンドを出たらすぐの位置にあるのだ。視界良好も甚だしい。

それでいて制限時間はなんと45分。徒歩でも十分に間に合う。この不自然さは何なのだろう?

棒倒しと比べると、見劣りどころか怠慢もいいところだ。

戸惑っているのか誰も動く気配がない。上級生ですら右往左往しているところを見ると前例がないようだ。


金属で出来た番号札。これを集めてゴールを目指す。

そしてどこにも見当たらない障害物。


あー、これは————



「————榎本、ごめん」



反射的に異能力が発動した。《壁》が何かを弾いた感触があった。



「西山、テメェ殺す気か⁉︎」



どうやら高速で蹴られたらしい。

まあ、肝心の相手は吹っ飛ばしたのだが。



「だって、こうでもしなきゃ点数稼げないじゃん!」



障害物は、()()()だ。相手が持っている番号札を奪うことが許されている。先生が止めないのがいい証拠だ。

あーめんどくせ。


案の定、グラウンドにビリで入ってきた生徒は、他の生徒に集団で襲われていた。強奪が認められている以上、ゴールでの加算はオマケに近い。ここにはトータルで820点ものポイントが転がっているのだ。



「言うても俺が持ってるのって7点だぞ⁉︎」


「手の内知ってる奴から潰していかないと、ね……!」



この競技のマシなところは、仮に高得点を得たとしてもチェックポイントを通過できなければ全てボツになることだ。他人から奪うのに夢中になってそこを忘れると全てがおじゃんになる。

かと言って、誰からも奪わずに1位でゴールしても、続く2人が高得点の札を持っていれば順位が逆転してしまう。


この勝負、この異能力でどうやって攻略しようかな?




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