体育祭 その③
「と、とりあず、決勝進出おめでとう……」
準決勝も難なく勝利し、我がクラスは決勝に駒を進めた。
準決勝の内容を説明するなら、火柱と濁流のダブルパンチとしか言いようがない。桐山の《液体操作》で作った濁流で壁をなぎ倒し、《気体操作》の江川さんと《気圧操作》の浜田で風のバックアップを得た恵令奈パイセンが《火炎操作》で水面と水平になる形に火柱を出現させる。これで相手の行動範囲を限定し、かつこっちは《物質生成》の能力者によって自作の船を作り出し、最終的には体当たりで棒を倒した。
決勝までの間に10分休憩が入った。グラウンドの整備に少し時間がかかるらしい。それも計算に入れてあの作戦を敢行するのだから太一は恐ろしい奴である。
だが表情は暗かった。
「テンション低すぎね?」
「だって次の相手はどうなるか、分かったもんじゃねえからなあ。10分で作戦思い付くかなって感じ」
「どゆこと?」
「うちのクラスより好戦的な連中が多いんだよ。正面からパワーでゴリ押しされたら勝てないかも」
「棒そのものは《重力操作》の太田で固定できるとして、それ以外はうちのクラス、守備は弱いからなぁ。宇田川がいればちょっと違うんだろうけど、あいつ今回は障害物競争だからなぁ。それを用意する辺りやっぱり、おまえ策士だわ」
太一の手には小さなメモ用紙が握られていた。
「《知覚強化》のおまえが、《迷彩》と《透明化》の二人を使って敵の情報を入手するっつーのはどういう理由だ?」
「情報は持っといて損はない。それに、二人とも戦闘向きとはいえ、パワーは人並みだしな」
こいつが最初から総力戦をしなかったのはこのためだ。二つのグループに分けたときに、それぞれに一人ずつ配置して次の対戦相手を偵察に向かわせていたのだ。
自分の得意分野である「情報収集」を他人にやらせて大丈夫なのだろうか。一応この体育祭は異能力を審査する場でもあるのだ。
「それで? 最後の戦いはどうするつもりだ? 正面突破は難しいんだろ?」
「壁さえなければ。相手のクラスは最初から壁を引っこ抜いてぶん投げてくるから」
「横暴……」
よく死者が出なかったもんだ。
「《身体強化》が5人もいる時点で勝ち目は薄い。せめて西山か直ちゃんがいてくれれば良かったんだけど」
「《速度操作》に《生成物質操作》か。あの《虎》なら、人間くらいは蹴散らしてくれそうだ」
二人とも障害物競争だ。
人間パチンコも、火柱と濁流のダブル戦法も既に使ってしまっている。伊藤は手際よく敵の異能力を無効化しているが今回に限って言えばあいつは補助役だ。
「二瓶さんの《転移門》がもうちっと成長してたら戦略も広がるだろうになぁ。」
初戦と準決勝では二瓶さんは全く活躍してない。
なにせ異能力の成長が壊滅的なのだ。ワープなんて結構向いているだろうに。
一応、審査で〈A〉評価を得られるための基準は
・一度の移動距離がおおよそ150キロメートル
もしくは
・広さ1ヘクタール、高さ100メートルの体積を移動できるだけの大きさの《門》を作る。
もしくは
《門》の開通時間が2時間。且つ同時展開4セット(計8個の《門》)の生成。
だが彼女は最近になってやっと
・最大で人間が一人通れるサイズ
その状態で
・移動距離限界およそ10メートル
・開通時間最長で10秒、1セットのみ
散々な結果だ。
超絶美少女にも弱点はあるようだ。
「この状態でどう使うんだよ? 先生たちも見てるし、参加してないのがバレたらテストは赤点だろ?」
「分かってるけどさぁ……」
「全員参加」は体育祭においては必須だ。個人のテストも兼ねている以上、二瓶さんの見せ場を作らなければならない。
「あいつも武道は一通り習ってるけど、実際の戦いは素人だ。試合では勝てても実戦じゃ使い物にならない」
恋人に対しても容赦ない。
「それに、相手の中には《念動力》使いもいる。しかもそいつ、異能力テストでは学年首位。《身体強化》をオフェンスの要、ディフェンスに《念動力》で布陣は磐石。これをどう崩すかなんだよ。戦法が割れてる時点で対策はきっちりされるだろうし」
太一なりにも作戦は考えたらしい。
むこうが投げてくる壁を《転移門》を使ってカウンターのように跳ね返す。これは無理だ。人間より大きい壁は転移できない。
それに《転移門》は発動した時点で《出口》の位置がバレてしまう。
誰かを移動させる? だめだ。人が通るサイズだと移動できるのはせいぜい2人。敵に捕まって終わりだ。
「……思い付いた作戦がないわけじゃない。でも賭けになるからあんましたくないんだよ」
「おまえ、勝てない勝負は降りる方か?」
「だったら、優哉はもっといい作戦思い付くのかよ?」
「うーん?」
◆◆◆
生徒が作戦を練っている頃、担任は校舎内で戦闘に巻き込まれていた。軍人数名と協力して処理に当たっていた。
と言っても、彼に対する攻撃は全て跳ね返っている。
「よし、これで6人。おいおまえら、仲間はあとどのくらいいるんだ?」
捕まっているのは見た目外国人の男女だ。異能力を発動しようとするも失敗に終わっている。
尋問を続けようとしたが、すぐさま別方向から火炎が飛んでくる。
「ちっ……!」
相手は大柄な女だ。筋肉のつき方は軍人を思わせる。他の軍人も手一杯のようで増援は望めない。
普通なら小宮山の相手ではない。だが今回は違った。その女の手には、虫除けスプレーのような缶が握られている。
(食らったらヤバイな……)
必然的に距離をとることになる。
だが相手は素早く小宮山との距離を詰める。
(速い!)
気づいたときにはスプレーの射程に入っていた。
咄嗟に息を止めたものの、結果として異能力の発動が遅れ小宮山は横から盛大な蹴りを浴びせられた。
床を転がり体勢を整えようとするも、その前にまた蹴りが来る。完全に向こうのペースに呑まれていた。
ところが。
相手の動きが急に止まる。そして次の瞬間、廊下に崩れ落ちた。まるで糸の切れた人形のように動かない。
小宮山は立ち上がって確める。脈と呼吸はある。だが反応は一切ない。
「代表……すみません」
◆◆◆
「それって作戦としてありなのか?」
俺の即席の提案を聞いた太一は微妙な表情を浮かべた。
「棒倒しのルール上は問題ないはずだ。大丈夫、『書いてないことだからセーフ』なんてセコいことは言わないから」
「隙を狙うのは悪いことじゃないけどさ、優香の能力をそういうのに使うのは……」
「問題ないと思うけどねえ」
少し開きますが4月10日更新します!
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