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体育祭 その①

 ◇◇◇



「その三原くん、だっけ? 今でも親交はあるのかい?」


「いえいえ。最後の事件以降、同級生は誰とも連絡してませんよ」



 ついに日を跨いだ。

 昨日の午前中に呼び出され、現在2日目の朝だ。自分の過去はそこまでして聞く価値のある話だろうか、と青年は首を傾げる。


 その日もまた、静かな部屋で2人は向き合った。



「で、今日は体育祭の辺りからだったね? 君から見た谷地さんの異能力はどうだった?」


「印象深かったのは覚えてますよ。ただ谷地さんも食えない人ですからねぇ――――」



 ◆◆◆



 体育祭当日の朝。


 いつもより早く目が覚めた。

 窓の外は濃い霧に包まれている。


 彩乃先輩の言葉を思い出す。

 彼女の情報が間違いでなければ、この学校にやべー能力者が訪れるのだ。


 なんでも《五感と三半規管と時間の感覚》に干渉してくるらしく、一度でも異能力を食らうと危機的状況に陥るのだ。

 その人は生徒に危害を加えるつもりはない、と彩乃先輩は言っていたが不安は残る。


 軍からマークされている時点で、普通だったら要注意人物だ。

 しかも異能力が危険となれば警戒せざるを得ない。


 家を出るとイベント開催日とあってか、朝から人通りが激しい。

 この中にその人がいるとすれば探すのは至難の技だろう。



 それから数時間。あくびが出るような開会式がようやく終わり、体育祭が本格的に始まった。


 が。



「なあ太一、体育祭だけど父兄は来ないのか?」


「おまえ、中間の異能力テストの実技がなかったのはこのせいだって言っただろ?」



 そうだった。中間テストは結果から言えばまあまあだった。しかし異能力の実技試験のみ、実行されなかった。理由は「体育祭で評価する」からだとか。

 他にも、体育祭なのに競技の練習は一切なし。当日まで内容の詳細についてもお預けを食らった。

 どうにも俺の想像していた体育祭とは何かが違うようだった。



「観客席にいる人間ってどう見ても親には見えねーよなー」



 観客席にはお堅い格好の中年男女が大勢いた。太一が調べて回るとビックリするような有名企業や軍の関係者ばかりのようだ。



「引き抜きかな? 親の話だと優秀なら1年生だろうと声が掛かるみたいだけど」



 なるほどな。

 さて。


 プログラムは午前が〈棒倒しトーナメント〉、午後からが〈一斉障害物競争〉だ。


 ……

 …………



「たかが競争に午後を全部使うとはね。どんな耐久リレーだって話だよ。完走できるかな……」


「なんかすまん……」



 障害物競争ごときに午後から閉会式までの3時間が充てられていた。

 太一もこの結果は予想外だったらしく、プログラムを見ては眉間にシワを寄せていた。

 まあ、全学年同時スタートなんて狂気じみたことはしないだろうしな。


 問題はこいつらの方だ。

 俺は眼前に広がる棒倒しのフィールドを改めて見回した。


 両陣営の間にはコンクリートの壁が何枚も設置されていた。

 防壁と目眩ましの役割だろうか。



「一直線に相手を攻められないように作っているのはいい趣味してるとおもうけどなあ。こっちとしても作戦が練りやすい」


「棒倒しっていうよりサバゲーに近いものを感じるけどな」



 〈ただの棒倒しではない〉と生徒の間で噂が流れていたものの、実際どうなるかは当日まで不明だった。

『地割れが起こる』『使う棒が鉄柱』など憶測が飛び交っていたが、想定していたよりはまともな作りだった。



「んで? うちの参謀はこの棒倒しをどう攻略する?」


「まずは上級生の試合を見てからだなー。おまえも見といた方がいいぞ」


「なぜに?」


「プログラムをよく見ろ。上級生たちの出番の方が早いだろ? 短い時間でどう戦略を立てるのかも大人たちは見てるってこった。失敗にしろ成功にしろ、俺たち下級生にとっては有益な情報になる」



 本来、能力者にコンクリートなどあまり脅威ではない。 あれくらいのものなら本気を出した能力者なら間違いなく粉砕できる。

 恐らくは壊したコンクリートをどう使うのかも見たがっているのだろう。単純な異能力よりも、はやり応用の仕方や戦略を重視しているのだろう。



 ◆◆◆



「あづー……」



 炎天下に晒されて既に1時間くらい経過している。

 テントなんて意味がない。



「上級生たちの棒倒し、エグいの多いなぁ」



 たった1年しか違わないはずなのに、2年生の棒倒しは戦争みたいになっていた。

 地面に大穴、辺りには粉々になったコンクリートの欠片。試合が終わると数名が病院に搬送された。


 おかしいな。棒倒しってもって平和な競技だったと思うのだが。



「だから言っただろ。実戦形式にしたら間違いなく誰か死ぬ」



 納得は出来るけど、これ半分殺し合いだろ。

 彩乃先輩が現金争奪戦を「はした金」と呼んだのも分からなくはない。

 体育祭は最初から異様な雰囲気に包まれていた。



 ◆◆◆



 異様な雰囲気に包まれていたのは大人も同じである。



「見つかったか?」

「いえ、こちらはダメです」

「くっそ、どこに隠れやがった……」



 私服で変装した軍人たちは血眼になってある人物を探していた。



「どこにいるんだ? あの〈代表〉は」



 ◆◆◆



『どうして私は狙われるのかしら』


「そりゃあ、あなたの異能力はレア中のレアの中でもバケモノじゃないですか。副代表も異常ですが」



 端から見れば校内の廊下で男が誰かと電話しているようにしか見えない。

 しかし実際には、彼の後ろに女性が佇んでいる。



「それに、軍に真っ向から噛み付いて今日まで逃げ仰せてるんですから」


『軍が間抜けなだけじゃない?』


「世界的に見てもこの国の軍はそこそこ優秀ですよ。敗北の数が多いのは相手が悪すぎるんです。それにしても今日はなんでわざわざ?」


『国の未来を背負う子供を見に来てはいけないの?』



 小宮山は周囲に警戒しながら



「……だったらなんで〈あの人〉まで連れてくるんですか。誰か生徒を拉致でもするつもりですか? それに、この間の残党だってまだ捕まってないのに。今日ここにいることだって掴んでる可能性は十分にあるんですよ?」



 部下としては当然の心配である。しかし上司は不適に笑う。



『なんのために私が()()()したと思ってるの? それよりもあなたの受け持ってるクラスに面白い生徒がいるわね?』


「……伊藤光太郎ですか。あいつは確かに優れた能力ですが――――」


『何言ってるの? 私は最初から完成している異能力に興味はないの』



 予想が外れた小宮山は思わず携帯電話を落としてしまう。それほどの動揺だった。



「まさか、榎本ですか?」


『誰それ?』



 まるで関心がないと言わんばかりに彼女はポケットティッシュで鼻をかむ。



「じゃあ誰なんですか? あいつらの他には異質な異能力を持った生徒はいませんが――――」


『真田太一っていう生徒がいるでしょう?』



 予想外の名前に、小宮山は誰もいない廊下を改めて見回した。



「あいつですか? 特に異能力が戦闘向きって訳ではないんですが」


『うちの支部を襲った連中。そいつらの根城を調べたら変なリストが出てきてね。その中に名前があったのよ』


「……それ、どういうリストです?」


『〈異能力の著しい進化が期待される能力者〉って書いてあったそうよ。条件さえ揃えば一段階上のステージに行けるみたいね。リストに載っていたのは5人。そのうち3人は能力が既に進化していたわ』


「あいつにそんな可能性が……もし軍にバレたら放っておかないでしょうね」


『ええ。まだ能力が進化してない2人のうち、調べたら一人はゴリゴリの軍志望者。間違いなく将来は軍の戦力になるでしょう。パワーバランスを考えると、彼まで持っていかれる可能性は潰しておきたい』



 小宮山の所属する組織〈国際能力者人権団体〉と〈日本軍〉の戦力は現在〈日本軍〉に軍配が上がる。半年前の事件の被害者たちも続々と復帰している今、戦力の差は徐々に開きつつある。

 戦力が少ない上に敵が多い彼らは、常に緊張した日々を送っている。



「なるほど……でも大丈夫だと思いますよ? あいつは根っからの軍嫌いですし」


『元・軍人のあなたが言う? 大義の前では個人の主張なんて意味がないってこと、忘れたわけじゃないでしょうに』


「まあ……」


『《譲渡》に関してはないと断言できる。でもそれ以外の方法で能力を軍事利用することも不可能ではない。この条件が消えない以上、軍嫌いの彼はむしろ危険よ。しかもそのリストの出所、軍の関係者みたいだし』


「え……っ!?」


『安心して。理由は分からないけど軍はこの事を把握してないみたいなの』



 だからね、と、谷地深幸は笑う。



『唾付けに来たのよ』




やっと元のペースに戻れそうです。


本日もう一本アップします。

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