能力者は道に迷う。
体育祭へのプロローグです。
「体育祭か……」
太一が言うには二学期の初日の時点で説明はあったらしい。
告白されると思って浮かれていたから全然聞いていなかった。
「つか、昨日の事件だって完全には解決してねえじゃねえか。体育祭なんて外部の人間の出入りが激しそうなのに大丈夫なのか?」
「警備を強化するのが妥協案なんだから、大人たちはやりたいんだよ。体育祭って結局は品定めの場所だから」
「『品定め』?」
聞きなれない言葉に耳が反応した。
「保護者だけじゃなくて、企業や公共の人事部門の人も見に来るからな。異能力の成績上位者は毎年奪い合いが起こるんだよ」
「あー……」
以前に聞いたことがあった。
異能力者が一人いるだけで雇う側としてはコストの大幅な削減になる。
ただしそれは同時に非能力者との雇用に差を生むため、民間公共を問わず「能力者枠」の人数は決まっている。
警察ですら能力者枠に上限を儲けており、唯一の例外は軍だけなのだとか。
「だけどさ、棒倒しと障害物競争だけってあまりにも寂しくないか?」
たった二つの競技を一日かけて行うのだ。
しかも棒倒しはトーナメント方式、障害物競争に至っては全学年同時スタート。
「3年生が圧倒的に有利だって言いたいんだろ? 分かってないなあ」
「何が?」
「上級生に勝ってみろよ。大手の企業から重役のお誘いが来るんだぞ? 20歳になる前から年収数百万は確定になるんだぜ?」
目をキラキラさせる友人に対して、一瞬だけ反吐が出そうになった。
「悪いけど『金は持ちすぎない』のが主義だ。あれは人間を狂わせる」
しまった、と思ったときは遅かった。
太一がドン引きしていた。いかんいかん。
「ほら、こ、コスト削減って言うくらいだからさ、ギャラは高いかもしれないけどブラック企業並みに働かされて体壊したら意味ないじゃん?」
「あ、ああ、まあな……」
ハハ、とひきつった笑顔を見せられてしまった。
弁解にしては苦しいか?
「と、とにかく優哉はどっちに出るつもりなんだ? まあ多分、障害物競争だろうけど」
「なんだその妙に確信のこもった言い方は」
「だって棒倒しは〈チームプレー〉、障害物競争は〈個人プレー〉を見るためのものだからな」
納得だ。
俺の異能力は連携作業には向かない。
逆に太一の《知覚強化》は棒倒し向きだろう。戦略を練るのも得意そうだし。
「でもその前に中間があるだろうが。俺としてはそっちの方が大切だよ」
「おまえそんな真面目なキャラだったっけ?」
「失礼な。俺はこう見えて成績は重視する方だ」
「まあ、いっつも成績上位に名前あるもんな」
「クラスで一番のおまえには言われたくねえよ」
太一はナチュラルに頭がいい。
筆記試験はほぼ満点、異能力試験でも好成績を修めている。《知覚強化》は様々なジャンルで使い勝手が良い分、狙っている所は多いだろう。羨ましい限りだ。
「中間って9月の末だよな? そっから12月まで試験がないのはありがたいけどさ」
「体育祭と文化祭が挟まるからなー」
二学期はイベントが目白押しだ。
不安は残るものの、今だけは忘れよう。
昇降口を過ぎようとしたとき、俺たちの前に誰かが立ちはだかった。
「小宮山先生?」
「太一、悪いけど今すぐ生徒指導室に来い」
むむむ?
◆◆◆
「おまえ異能力審査の評定、何だった?」
「〈C〉、ですけど……」
「そうか。じゃあ今分かる範囲でいいから異能力の詳細を教えてくれ」
思っていたのと少し違ったが、何やら深刻な事態のようだ。
もしかして欲望に任せて彼女を襲ったのではないかとヒヤリとしていただけに、ホッと胸を撫で下ろす。
ちなみに廊下にて盗み聞き中だ。俺は単純に聴覚が敏感なのである。
「……おかしいな。今年のデータと照らし合わせても、おまえの異能力は間違いなく〈A〉レベルなのに……」
「まあ、俺は別に異能力の評定がいくつだろうと問題はありませんが……」
「馬鹿野郎、正当な評価を受けさせないままにしておくのは教師としてのプライドが許さん。朝から悪かったな。確認してから、またあとで教えてやる」
2人がこっちにやって来る。察した俺は姿を隠した。
「ホームルームで連絡することも特にないし、悪いけど読書時間の延長ってみんなに伝えておいてくれ」
「分かりました」
物陰に隠れて様子を伺っていると、太一が迷いなくこっちにやって来た。
「バレてるぞ」
「だろうな」
小宮山先生にバレなければそれでいい。
「それで? おまえの異能力がどうしたって?」
「なんか実際の能力と評定が釣り合わないってさ。正直、どうでもいいけど」
本当にどうでも良さそうな反応だった。
将来の職場に困っていない彼にとって、異能力は基本的にオマケ扱いだ。
「でもまあ、使うときもあるかもよ? 危険が迫ってきたときにおまえの能力は重宝するんじゃないのか?」
「あのなぁ、俺の異能力はレーダーとは違うんだ。何でもかんでも聞こえちゃあ意味ねえんだよ」
例えば、闇雲に遠くの音を聞こうと聴覚を強化すると、近くの音が大きくなってしまうそうだ。
「不具合もあるんだなぁ」
「元々不具合の塊みてーなもんだよ。これ以上どう成長するんだか」
今以上の成長……?
ピンと来るものがあった。
以前、とある軍人から渡された資料。あれには太一の異能力の可能性について記載されていた。
あれには異能力を高める方法は書いてあるものの、方法自体はとても表に出せるようなものではない。
もしや政府の上の人間はそれを知ってて、中途半端な裁定を下したのではないだろうか?
となると確認しなければならない相手がいる。
◆◆◆
『珍しいねぇ、そっちから電話かけてくるなんて』
「お久しぶりです、彩乃先輩」
軍の最年少将校にして、この学校元生徒でもある彼女だが、以前に少しだけ縁ができた。
『それで用件は何かな?』
「異能力評定の審査員の中に、あの〈覚醒者〉の資料を作った人はいましたか?」
『赤林のこと? まあ、いたけど。どうした?』
「いや、真田太一の評定が低いって話がこっちで出てるんですよ。それで担任が抗議するつもりみたいで。もしあいつの評定をしたのがその人なら、不釣り合いな結果を下したのも納得できるかなーと思いまして」
『なるほどねー。でも主任が捕まった時点でほとんどの計画はおじゃんだよ? 今は異能力開発部の解体と新体制を整えるために大忙しなんだ。あの件に関して、少なくとも軍は干渉しない。もっとも外部に漏れてる可能性は高いから、安心していいとは言えないんだけどね』
彼女の後ろからは、何やら工事のような重機が動いている音が聞こえる。
「いえ。今現在の安全だけでも確保できるならいいんです。お忙しいのにすみませんでした、じゃあこれで――――」
『ちょい待ち。君らの体育祭って10月の真ん中辺り?』
「ええ、そうですが」
電話の向こう側から、トーンの変化した先輩の声が聞こえた。
『当日は重装備した軍が行くだろうから、気を付けてね』
「……やっぱり、正体不明のテロリストはまだ捕まってませんか」
力ない笑いが返ってくる。彩乃先輩の苦笑いする表情が目に浮かんだ。
『正直こっちの案件で電話してきたと思ったよ。頑張って探してはいるんだけどねー。敵もヤバいくらいに頭がいい。うちの参謀相手に逃げおおせた奴なんて、私の経験上は初めてだ』
「相当危険、ってことですか……」
『こっちも安心しなよと素直に言えなくて申し訳ない。でも一個だけ教えておくけど重装備した奴らの狙いはテロリストじゃない』
「はい? 警備じゃないんですか?」
『それもあるけど……本来の目的は君たちの体育祭に現れるであろう人物の捕獲だ』
人間相手に「捕獲」なんて、なにやら物騒な雰囲気になってきた。
「どうしてうちの学校が?」
『その人が伊藤光太郎に目をつけてね。彼の異能力を直で見たいんだそうだ』
「なんかその口ぶりだと、所在の分からない相手ってわけでもなさそうですね? しかも犯罪者って感じがしないんですが」
「正解。一応非公開の情報だけど、恩のある君には特別に教えておこう」
〈国際能力者人権団体・代表〉。初めて聞く名前だった。
『その人はあまり接触しないのが吉だ』
「どうして?」
彩乃先輩は、「唯一分かっていること」を教えてくれた。
『その人の異能力は《不明》。ただし――――』
会えば必ず発狂する。
やっと前作で書きかけたところまで追い付いたので、今回はきちっと完結させます。
(ただし更新頻度は相変わらず乱れます。)




