動物も見た目だけでは分からない。
更新が最近遅くなってすみません。
男なのに無駄にサラサラで、やや長めの髪の毛。のっぺりとした顔の表面。菱餅かハンペンで悩む。
どっかで見たことあるなと思ったらあれだ。
隣のクラスの男子だ。
以前3年生の事件に関わったときに俺に詳細を尋ねてきた人物だ。
「えーと、名前なんだっけ?」
「心外だなぁ。君、興味のない人間の名前は覚えないのかい? 愚兄が世話になったじゃないか」
「へ?」
ねっとりした口調も、次の言葉の衝撃に比べればマシだった。
「三原だよ。僕は三原健太郎。兄からは『世話になった』と言伝てを預かっている」
「あ゛?」
うそーん、とアホみたいな声が出た。
だって似ても似つかない。向こうは爽やかな熱血漢だが、こっちは陰気臭い。
「養子縁組でもしたのか?」
「おまえ失礼だな! ちゃんと血縁だ!」
優良遺伝子は全て兄に持っていかれたようだ。だが三原は唇を歪ませると
「ま、確かに僕は兄と違って気色悪い顔だからね。知ってますよ」
「え?」
やれやれと言わんばかりに、わざとらしいジェスチャーをした。
「両親でさえ贔屓に差が出るくらいだ。僕は兄と違って人望もないし、兄ほど異能力も優れてない。おまけにガリガリだから体力もない。唯一勝てるのは勉学くらいだけど、兄の学年は学業が優秀な生徒が多いせいで相対的に兄の順位は低い。だから僕は学年でトップになってもバカの扱いだよ」
俺はいたたまれなくなって頭を下げた。
「悪かった、そこまで言うつもりなかったんだ」
だが三原はそこまで怒っていなかったらしく、
「別にいいよ。そもそも僕とまともに喋ってくれる人間の方が少ないんだ。君はきっといい人なんだね」
「どんな生活を送られてきたのですか!?」
「初対面の女子は大体がゴキブリを見たような反応をするな。そして喋りかけたら、泣くか、たまに『耳を汚された』ってウェットティッシュで自分の耳を拭いてる。『耳レイパー』なんて酷いあだ名をつけられたこともあったな。男子ならまず格下扱いを受ける。会話はまずないな。僕には『はい』『いいえ』の選択肢すらない。腫れ物に触るような扱いだ。軍人の身内ならまず受けないんだけどね。それでも物理的ないじめがない分、僕は恵まれていると思うけど」
想像以上だった。
「あのバカ担任は何やってんだ!?」
「今の公僕にまともな対応を求める方が無理だろう。給与以上のボランティアするほど余裕ないだろうし。まあ僕の話はいいんだよ。君はここで何をしている?」
そうだった。俺の目的はここにあったであろう秋山さんを襲った連中の痕跡だ。
そのことについて説明すると
「……なるほど。でも先生たちが探して見つからなかった痕跡をド素人の君が見つけられるかな?」
「無茶してるのは分かってるよ。現にこの事件の黒幕はまだ校内にいるんだ。狙われて怪我しても文句は言えねえしな……って、じゃあおまえこそ、ここで何やってるんだよ?」
「君と似たようなことさ。この事件の真相を探ってる。こっちにも事情があってね」
「ちなみに聞くけど、どんな異能力だっけ? 俺と同じ〈範囲型〉なら、有効範囲はせいぜい数メートルが限界のはずだけど?」
三原は目頭を押さえる。まるで仕事に明け暮れたサラリーマンのようだ。
「……君は興味のない人間には壊滅的に関心がないんだな。まあいい。僕の異能力は《波長消失》だ」
「……それ、兄より優れてないか?」
《波長消失》。音波や衝撃波などの「波の性質」を片っ端から無力化する異能力だ。電磁波にも有効なため、放射線すら防ぐことができる。
だが三原は
「アホだな。物理攻撃を防げない時点で能力としては欠陥品だ。おまけに能力を発動すると音が聴こえなくなったり光が見えなくなったりするからかなり不便なんだよ。あと寒い」
俺の知らない苦労があるようだ。
「……って、話をそらすな。いま僕たちがしなくちゃならないことは真相を明かすことだろう」
「そのわりには、結構ベラベラ喋ってたけどな」
「……うるせっ」
しかしどれだけ探しても、肉片どころか血の痕跡すら全く見当たらない。
十数分後、三原は腕時計を確認すると
「そろそろ引き上げた方がいい。巡回の先生と軍人がやって来る」
結局、収穫が何もないままその場を後にした。
◆◆◆
三原の案内で人目につかない場所に移動した。
「さてと、ここなら誰も来ない。情報の共有といこうじゃないか……ってどうした?」
「ここに来るまで誰とも遭遇しなかったのが不思議だっただけだ。おまえ、大人たちの巡回ルート把握してるのか?」
三原は少し目を見開くと、俺の全身を舐め回すように観察してくる。
「なんだよ」
「やっぱり、君ってそういうところには目敏いね。だってこうでもしなくちゃ僕らみたいな子供は動くことすらできないんだから。さて、僕から情報を語った方が良さそうだ。君から話すと話がいつまでも終わらない」
的外れな指摘を受けた気もするが、ここはスルーしよう。
「僕が調べて分かったことは、犯人は4人以上。そして学校の敷地内にまだいること。そしてここから先は推測だけど、4月に起きた事件の犯人とは違う気がする」
「ほう、何を根拠に?」
「あのときの犯人は周囲に気づかれないように事前に入念な準備をしていた。それにクラスをピンポイントで狙っていた。でも今回は秋山直子の一件の後、桐山茜の事案が起きている。仮に戦力の分散を考えるなら、同時に別の場所で事件を起こした方がまだ効率的だと思わないか?」
「……確かに。桐山と秋山さんが同時に暴れてたら、そりゃそうなるわな。でも前回の反省を踏まえてやり方を変えてるとしたらどうだ? 一人ずつ確実に、みたいな」
「……だったら暴れさせないで、操ってる本人を介して『大人しくしないと自殺させるぞ』って脅す方が手っ取り早いんじゃないかな? 下手に警戒させたんじゃ目的の達成が遠退くだけだし」
それもそうか。
「それに、相手は標的にした生徒の異能力をまるで把握してないような感じだし。そうでなかったら、《無効化》の持ち主に攻撃しようなんて思わないだろう? 僕たち能力者にとっては天敵じゃないか」
「なるほどな。だから4月に襲ってきた連中とは別の勢力だと?」
「少なくとも、僕はそう睨んでる」
その時、ポケットに入れていた端末が震えた。
太一からの電話だ。
「どうした?」
『なあ、今どこにいるんだ?』
普段と少し違う焦りを感じた。
「何かあったのか?」
『今、玄関の郵便受けに手紙みたいなのが来ててさ。俺の素性が細かく調べられたノートのコピーが入ってたんだけど』
「……は?」
『俺の家族構成やら、じいちゃんのこととか。おまえにすら喋ってないことまで事細かに載ってるんだ。優香のところにも届いてるみたいだし』
……。
『しかも筆跡がどう見ても直ちゃんのなんだ。これはどういうことだ?』
「……悪い、あとでかけ直す」
トラブルにトラブルが重なった。
ただ、秋山さんが絡んでいる以上、今回の犯人たちの仕業であるのは確定だ。
予想に反して、敵はかなり速く動いているようだ。
「どうかしたかい?」
「なんか知らんが、操られた女子が書いたらしきものがばらまかれてる。しかも個人情報満載のおまけつきだ」
「敵の意図が全く分からないね……」
ふと、昨日の出来事が脳裏をよぎる。
謎の男は「あなたたちが秋山直子を追い詰める」と、えらく自信に溢れていたらしい。
もし、自分の家に自分のことを書かれた紙が投函されて、しかもそれが知り合いの仕業であったなら。
――――自然な流れで問い詰めるだろうな。
「一つ分かった。秋山さんは犯人から相当な恨みを買ってると見た」
「どうして?」
「操られたあげく、筆跡を真似たものを本人に成り代わってばらまいてるんだ。こりゃテロっつーより、個人的な嫌がらせだろ」
「なるほど……。もしかして、この事件はテロ組織は関係ない?」
「かもな。だから調べようぜ」
悠長にしている時間はない。
情報交換は移動しながらにしよう。
「ところで三原よ、おまえはどうしてこの事件を追ってるんだ? 俺はあくまで当事者だからっていう理由があるが。あれか、兄と同じで正義感かなにかか?」
「違うよ」
否定した三原は、少しうんざりしながら
「実は昨日の事件の犯人が僕じゃないかって噂が流れていてね。僕も結局は火の粉をどうにかしたいだけさ」




