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《最強》になりえない彼が、《最恐》と呼ばれる理由  作者: 岡部雷
季節は巡れど春は来ない
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猫に小判。

 遡ること、十数分前。

 榎本優哉が太一たちと別れた直後。



「直ちゃん、一人は不安だろうから優香の部屋においでよ」


「う、うん。ありがとう……」



 太一が先導して歩く後ろを、直子はトボトボと付いていった。



『――――秋山直子さん?』



 急に脳内に言葉が響く。辺りを見回しても誰もいない。



『ああ、歩くのは止めないで。変な動きをしたら即座に目の前の彼を殺します』



 直子が恐怖にすくんでいると、いきなり突風が吹き荒れた。

 砂か埃が目に入ったのか、太一が目を擦った。



『今です。彼から離れてください。あなたの異能力、《虎》を使って』



 慌てて直子は《虎》を出現させ、太一が目を開ける前にその場から離れる。



『離れましたね? ではそのまま敷地内の東にある雑木林に来てください。あなたの異能力なら問題ないでしょう? 私は常にあなたを監視していますよ?』



 おとなしく、彼女は指示に従う。

 本来その場所は生徒の立ち入りが禁止されているが、確かに《虎》を使えば規制フェンスを軽々と乗り越えることができる。



『はい、そのまま真っ直ぐ進んでください』



 指示通りに行動すると、開けた場所に出た。そこには、虚ろな目をした男たちがいた。



『さて、あなたにはこの人たちの相手をしてもらいましょうかね――――』



 その言葉と同時に、男たちが直子に襲いかかってきた。



 ◆◆◆



 話は現在に戻る。



「……それでやむを得ず反撃か。なら安心しろ。正当防衛だ。……くそっ」



 小宮山先生は悔しさからなのか壁を殴った。

 秋山さんはブルブル震えながら



「で、でも私が人を殺したことには変わりがないんです。私の異能力は、やっぱり危険なんです」



 そこで初めて、小宮山先生が妙な顔つきになった。



「……どういうことだ?」


「こ、コントロールができなかったんです。やめてって思っても消えなかったし、《あれ》は人を襲うのを止めなかったんです」



 うん?

 その場にいた伊藤も含め、俺たちは彼女の主張に違和感を覚えた。

 彼女の異能力は精密な動きや遠距離での操作には訓練が必要とされているが、本体の意に反しては動かないはずだ。



「……とにかく、おまえたちは一旦職員室に連れていく。今晩は少し休め。これ以上は外にいないほうがいい」



 ◆◆◆



 翌日。


 俺たちは職員室の簡易ベッドで夜を明かし、朝になってから寮に戻った。

 二学期は始まったばかりにも関わらず臨時休校となり、職員たちは緊急会議に駆り出されていた。

 安全が確認されるまでの外出禁止令が出され多くの生徒は暇をもて余していた。



「……だから帰ってくるタイミングで俺んちに寄ったのかよ」


「悪いな。話し相手がいないとしんどいんだ」



 結局、桐山は入院したまま。秋山さんは先生や警察などから聴取を受けている。



「秋山さん、これからどうなると思う?」


「どうだろう? 殺人が事実なら、例え正当防衛でもしばらくは帰ってこれないぞ。ただ俺の知る限りでは、直ちゃんの異能力ってそこまで危険なものじゃなかったはずなんだけど」


「夏休みの間に訓練して、ペルシャ猫からでっかい虎に進化してたんだが? それでも危険じゃねーっつーのか?」


「そもそも、《生成物質操作》ってのは謎が多い異能力でもあるからなぁ……」



 悩んでいても仕方ないし、取り敢えずは食べて体力付けとけという太一の助言に従い、久しぶりにあいつのご相伴にあずかった。



「一番分からねぇのは、犯人像だけどな。あれは何がしたかったんだ? 俺や伊藤の異能力が目当てとはいってたけど、だったら手駒を殺す意味がない。俺は正直、秋山さんのほうがメインの狙いだったんじゃないかって踏んでる」


「今のところ犯人は単独じゃねえって警察や先生たちは判断してるみたいだな。これに関しては俺も悪い。もっと集中していれば、直ちゃんに着いた異能力の痕跡が見えたかもしれないのに」



 太一が言うには、《伝達操作》でできることは難易度が低い順に「意思の疎通」「感覚の共有」「相手の身体の乗っ取り」だ。

 しかし「意思の疎通」は実際に口に出した言葉が伝わるだけなので無言でのやり取りはできないらしい。



「……で、どこまで()()()()?」


「なんだよ、俺が事件を調べてるとでも?」


「おまえなら聞こえるだろう。先生や大人たちが今回の一件をどこまで調べてるか。少なくとも、情報収集に関してなら太一ならお手のものだろう?」



 太一は観念したのか「こっちに来い」と俺を寝室に連れていった。

 部屋の中から明らかにこいつじゃない匂いがすることに関しては黙っておこう。


 引き出しからノートを一冊取り出して俺に投げ渡す。

 パラパラとめくったが、相当な量の情報が書き連ねられていた。



「……一日でここまで調べたのか?」


「確証はない。あくまで喋ってる内容をメモして自分なりに整理しただけだから」



 俺たちは二人で時系列を見直すことにした。



「まず一昨日の夜。この時点で直ちゃんの意識は謎の男Aに乗っ取られたことになる。だけど実はこの時点で先生たちとしてはかなり不自然に思ってるみたいなんだ」


「どういうこと?」


「《伝達操作》による相手の意識の乗っ取りは『相手が起きているとき』に限定される。だけど、直ちゃんが一昨日の時点で外出した記録がない。つまり誰とも接触してないんだよ」


「まさか、〈仕込み〉か? 学校に来る前に誰かに会って《伝達操作》を食らったなら、調べる相手は多そうだな」



 だが太一は首を横に降る。



「……これが4月なら可能性もあったかもな。でも今は異能力に対する警備を強化してるから、もし外で《伝達操作》を食らってても敷地内に入ったら強制的に解除されるらしい」


「それって……」


「ああ。そこから出た結論が『犯人は学校の敷地内にいる』。生徒の外出が禁止されてるのはそのせいだ」



 学校側は人間の出入りを完全に封鎖しているらしい。

 その後の経過は俺の見てきたこととほぼ一致していた。



「で、今朝だ。先生たちが軍も含めてこの学校の中を探し回ってるんだけど怪しい人間が見つからない。現時点だとこれが精一杯だな」



 俺はノートに再び目を落とすと、気になった走り書きを見つけた。



「なあ、この『外部企業に直談判』ってのは?」


「うちだけじゃなくて、全国の学校の警備を任されてる民間企業があるんだって。今朝そこに協力を要請したらしい。だけど先方も忙しいのか分かんないけど、来ないって言ってるらしいんだ」



 沸々と怒りが込み上げてくる。

 桐山も秋山さんも利用されたのだ。

 ちょっとは協力してくれてもいいだろうに。



「ところで、秋山さんを襲った連中の身元はまだなのか? 一部でも遺体は残ってるだろ?」



 太一はうーん、と首をかしげ



「それに関してはなぁ、実はかなり変なことになってる」


「どんな?」


「伊藤たちの目の前で爆発した男がいただろ? あの跡形も残らなかったやつ」


「いたな。それで?」


「あいつは四散したとはいえ、体の成分らしきものは検出されてんだ。でも、先生たちが直ちゃんが教われた現場に着いたとき、犯人に繋がるものが()()()()()()()()んだって」


「……は?」



 おかしい。彼女は返り血を浴びていたし、間違いなく現場には大量の血液があったはずだ。



「後で体に戻すために《液体操作》で体外に出た血液を拾ったとかは?」


「あれだけ出血しててまともに動けるならな。あと、自分以外の血液は《液体操作》では動かせないぞ。『生物に流れる液体に関しては操作の対象外』。これは鉄則だ。他人の血液を操るには『体外に出て数十秒後』でないと。それだけ外気に晒された血なんて雑菌まみれだぞ。体内に戻すには汚すぎる。それだったら、現場に何も残さないことで『直ちゃんの証言の信憑性を落とす』ほうが筋じゃねえか?」


「なるほど、『その状況で秋山さんの返り血をどう説明するか』……。それに、あの男が死ぬ前に言ってたってやつ。『俺たちが秋山さんを追い詰める』だっけ? あれってそういう意味か?」


「仮にそうだとしたら、犯人の目的は意味不明になるけどな」



 確かに。

 最初は、『成長した異能力の実験』だと思った。

 次は、『見えない敵に操られ』ていて、その敵は異能力目当てだと思った。

 最後に、『全てが消えてなくなった』。


 全くもって意味不明だ。

 この犯人、いったい何がしたいんだ?



「太一ぃ、この外出禁止令の裏情報って何だったっけ?」


「え、『禁止令を破った生徒の安否について学校側は一切の責任を負わず』……って優哉?」


「要するに自己責任だろ? ちょっくら行ってくる」



 俺は友人の制止を一切聞かずに寮を飛び出した。



 ◆◆◆



「さてと……」



 俺は秋山さんの行っていた立ち入り禁止の雑木林にいた。フェンスは高いものの《壁》を使えば乗り越えることなど朝飯前だ。


 先生たちが立ち入った跡こそあるが、太一の言うとおり、ここが秋山さんが襲撃を受けた現場だとは思えなかった。

 土が荒らされていたり、木の幹に傷があったりと争った形跡こそあるものの、あのおびただしい返り血から想像していたような血痕は見当たらない。

 あまりにも不自然だが、そもそも異能力が絡む犯罪は常識では起こり得ないことばかりだ。



 観察していると、背後で誰かが枝を踏む音がした。



「誰だ?」



 聞き覚えのある声なのだが、誰だっけ。

 警戒しながらゆっくりを振り返る。



「おまえは――――?」


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