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《最強》になりえない彼が、《最恐》と呼ばれる理由  作者: 岡部雷
季節は巡れど春は来ない
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猫は爪を出し入れする。

更新遅れてしまってすみません。

 襲ってきた虎がいなくなってすぐ、秋山さんに駆け寄った。

 泡吹いて気絶していた。


 仰向けにしてとりあえず気道を確保する。

 頬を何回か叩くと、電源が入ったように目を覚ました。

 が。


 俺の姿を見た瞬間、形相が変わった。

 あれ、襲われたと勘違いされてる?



「えーっと、勘違いしないでほし……!?」



 秋山さんはしばらく怖い顔でこっちを睨んでいたが、やがてプルプルと震えだした。

 次第に目から涙が溢れる。最後には鼻水やら汗やら顔から出そうなもの全部出てきた。

 まずいぞ!?


 ……こんなの見つかったら俺はどうなるのだ? 「女子を泣かせた最低男子」のレッテルを再び貼られるのか?

 一学期の二の舞じゃねえかこん畜生!



「……………………え」



 え?



「………榎本になら、勝てると思ったのに…………」



 んんん?



 ◆◆◆



「あの虎が秋山さんの《ペット》ぉ!?」



 驚愕の事実に腰が抜けそうになった。

 秋山さんはギロッと俺を睨み付けると



「……羨ましい」



 そんな羨まれるような人生を送ってきた記憶がない。

 あれ? それにしてもこの人の地声こんなに低かったっけ?



「えーと、どの辺が?」


「全体的にズルいよね、あんた。だって異能力は『大して人の役に立たない』のに」



 あぐっ



「危機的な状況を全部『たまたま』乗り越えた上に」



 ひゃうっ



「ピンチの時には『都合よく』味方が助けてくれるんだから――」



 ゴハッ




「『努力もしてない』のに、この差はなんなの? どうして私はこんな『雑魚』にも勝てないの?」



 K.O。


 ……こんなに語る彼女を見るのは初めてだけど、毒が強すぎた。

 あまり酷いことは言っていないかもしれないが、普段が無口な分落差が大きすぎる。



「なんであんたがショックを受けたような顔してんの? 泣きたいのはこっちなんだけど」


「今の発言の中にあった言葉の弾丸数えてごらんよ。心がへし折れそうなんだけど?」


「……チッ」


「舌打ちしたな!? ……まあいい。それにしてもさっきの虎はなに?」


「夏休みで鍛え上げた私の異能力。非能力者を殺せるかどうか試したかったんだけど一般人だと捕まるから」


「へー。……え?」



 こいつ今恐ろしいこと言わなかったか?



「男をぶっ殺せるなら別に誰でもよかったんだけど」



 怖い怖い!

 男子とはあんまり喋らない子だなーとは思ってたけど裏でそんなこと考えてたの!?



「なんで俺を選んだの?」


「だって、なんか死んでも誰もおかしくないような状況にいつも首突っ込んでるし、そのまま行方不明扱いにでもなるかなーって。それにあんたの異能力は制限付きだからあたしでも殺れるかなって……」



 しょぼくれて自白してるけど動機が不明な上に思考回路がおかしい。



「もしかして、男を皆殺しにできたらスカッとするとか思ってる?」


「なんで知ってるの?」



 俺はジリジリと足を後方に擦らせる。

 この女はヤバイ。



「どうせあんただって、私に告白でもされると思ったからここに来たんでしょ? 体目当てで」


「体育館裏に呼び出されたら普通そう思うんじゃない? 確かに馬鹿正直にノコノコとやってきた俺も悪いけどさ!?」



 確かに彼女は『体目当て』にされそうな体型ではある。オブラートで包みまくった表現をするなら〈土偶〉である。

 低身長に加え、出るところが出てるものだから仕方あるまい。



「……はぁ。失敗しちゃったし、今日はもう帰っていいよ。でも今のことはみんなに内緒ね」


「待て」



 彼女の身勝手な物言いにさすがに腹が立った。



「いつ殺しに来るか分からねえような奴を野放しにするほど俺は平和主義じゃない」 



 途端に、向こうは汚物を見るような目に変わった。



「なにそれ? 正義の味方気取り? 今ここで、あんたにレイプされそうになったって通報してもいいんだけど?」



 秋山さんがポケットに手を伸ばす。俺は咄嗟にその手首を掴んだ。



「……な、なにするの」


「いい加減にしろよ? あの虎がおめえの異能力なら分かるだろ? この状況で俺が異能力を発動すればあんたの右手は切断できる」



 顔色が変わった。

 狂ったように暴れて俺から逃れようとする。



「放せ、このゲスっ!」


「ゲスに言われる筋はねえ! こら、暴れんな!」


「食い殺せっ!」



 まずい、と思ったときには遅かった。後ろから音もなく顕現した虎が飛び掛かってきた。

 泣く泣く彼女から離れる羽目になった。

 ところが虎は俺には目もくれず、主の方へ走る。



「バイバイ」



 なんと秋山さんは虎に乗った。乗馬ならぬ乗虎だ。そのまま体育館の屋根まで跳んだ。

 マジで追いつけなくなる!



「待てやコラアァアアアア!」



 《壁》で加速して追いかける。

 この異能力は長時間移動に特化したものではない。手早く処理しないと不利だ。

 《壁》の足元部分をバネのようにして、一気に跳んだ。



「え、ちょキャアアアアアッ!」



 彼女の悲鳴を誰も聞いていないことを祈ろう。



 ◆◆◆



「……脳震盪、って感じでもないし脈拍も体温も異常はないね。なにか精神的なショックを受けたんじゃないかと思うんだけど、心当たりはあるかい?」


「精神的、ですか……」



 正解は「彼女が生み出した《虎》を《壁》越しにぶん殴った」。

 思った以上に威力があったのか、虎の体を後ろから前に向かって貫通してしまった。

 虎は消失し、ピクリとも動かなくなった秋山さんが残された。

 ちょっと罪悪感を覚えたので彼女を病院まで連れていったのだ。


 そして医師の診断がこれである。首をかしげながら男性医師はカルテに目を通す。

 安堵する反面、彼女が目覚めた後の事後処理が面倒なのは目に見えていた。



「何て言うか、体力をごっそり持っていかれた? そんな感じだよ。何をどうやったらこうなるんだか」



 元凶は目の前にいる。

 俺は気まずさを覆い隠すように話題を変えた。



「あの……《生成物質操作》って形を変えることがあるんですか?」



 唐突な質問に医師も眉をひそめた。



「『形を変える』? 生き物の形は一度決まったら変化はしないはずだけど?」


「その……例えば、雀が鷲みたいな見た目になるとか」


「……それだったらないことはないけど、どうして? そう言えば彼女はその異能力だったね。もしかしてそういう変化があった?」



 やっぱり誤魔化すのは無理だ。

 俺は事の経緯を説明した。



「……なるほど。だけどそれは違うな」


「違う?」


「元々は虎が本来の姿だ。能力が目覚めた時期はまだ小さかっただろうから相対的なサイズは小さかっただろうけど」



 あまりの衝撃に俺の思考は数秒止まった。

 あのバケモンが従来サイズだと?



「あの……俺が知る限りでは普通の猫だったんですが」


「自分でも気づかない間に能力が変わっている時もあるし、結局は思い込みに近いものがあるからねー。全力展開したら思った上に成長してるケースは少なくないんだ」



 ……あれ? その理屈だと俺ももしかして?

 ちょっと希望が出てきた。



「恐らく彼女、次のテストで評価はかなり上がるだろうね」



 結局、秋山さんが目を覚ます前に、俺は病室を後にした。



 ◆◆◆



「ちっくちょぉ……!」



 悔しすぎて噛んだ。

 今までの限界を越えようとしたが、全く変化がなかった。


 範囲は広がれ! と念じても広くならないし、持続時間も変わらない。最大展開では3分過ぎたら自然消失した。



 トボトボと自室に戻ると、部屋の前に秋山さんがいた。

 思わず身構える。


 ところが。

 事態はここから急変する。



「え……?」



 秋山さんは頭を下げたのだ。



「…………」



 ボソボソと何か喋っているのだが聞き取りにくい。だがこっちの喋り方の方が馴染みがある。

 耳を某有名映画に出てくる主人公の象のようにした。



「……い、いまからいってもしんじてもらえないとおもうんだけどわたしのほんしんじゃないのあれはわたしじゃないんですおねがいですしんじてください……!」


「待て待て! 変換が追い付かん!」



 えーと? 「今から言っても信じてもらえないと思うんだけど、私じゃないの、本心じゃないの。あれは私じゃないんです、信じてください!」、か。


 どーすりゃいいんだ。


 この後も彼女との会話はずっとこんな感じになるのだが、あまりにも面倒なので最初から翻訳していく。



「記憶がないの! 昨日の夜からさっき病室で目が覚めるまでの記憶が!」


「言うてもなぁ……」



 だけどなんか引っ掛かる。

 前にも似たような話があったような?



「……あ」



 そうだ。

 忘れるべきではなかったのだ。



 入学式のときだ。

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