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《最強》になりえない彼が、《最恐》と呼ばれる理由  作者: 岡部雷
雑魚能力者は暗躍する。
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暗躍を終えようと雑魚能力者に平穏はない。

 ……やっぱり目覚めは慣れた場所に限るな。


 端末のニュース欄には〈軍本部で火事。火元は不明〉と書かれた記事が多数あった。

 軍での立ち回りは昨日のことだ。


 資料を渡した相手の男性将校が、生徒が集められていた部屋に送り届けてくれた。

 どうやら下で起きたトラブルが上まで伝わったらしく、会議室のような場所に避難していたようだ。打ち身こそ多かったが、出血がなかったのは不幸中の幸いだった。

 結局、テストは完全にお開きになった。その当日に全員が地元にとんぼ返りさせられ、俺たちは夕方には寮に戻っていた。

 審査員らしき人が青ざめた顔で頭を抱えていた。人生何があるか分からないもんだ。


 それにても、よく揉み消したな。これが権力なのか。


 瞼が重い。昨日の疲労がまだ抜けきっていないらしい。もう一寝入りしようと端末を手放した瞬間、電話がかかってきた。

 表示は「非通知」。



「もしもし?」


〈やあエノちゃん。出てくれるのは嬉しいけど、相手のわからない電話にそう簡単に出るもんじゃないぞ?〉


「俺に非通知で掛けてくるような人はあんたしかいませんよ」


〈あははは~、……昨日は、ありがとう〉



 急にキャラが変わった。これが本来の喋り方なんだろう。

 ……でもギャルの見た目はそのまんまなんだよなぁ。



〈ただただ振り回して終わっちゃったけど、目的は達成したよ。君のおかげで大勢の子供達が助かったんだ〉



 それから先輩は事件の背景や、その後のことなど丁寧に説明してくれた。

 そのために色々と工作を重ねてきたことも。あまりにもスムーズに俺が仕事をこなせたのは、彩乃先輩の入念な下準備があったからこそのようだ。



「まあ、俺みたいなのでも役に立ったなら良かったです。正直、もう一人のほうがこういう作業には向いているような気はしますけどね」


〈最後の最後でどうしても一人じゃできないことがあったから、それなりに実力のある人間を探してたんだけど君の相方は軍に目ぇつけられてたしねぇ〉


「……ところで、そんなこと言うためにわざわざ電話したんですか?」


〈ああ、そうだったね。二つのいい知らせと一つの悪い知らせ。どっちから聞きたい?〉



 いつもの彩乃先輩に戻った。

 ……そこは知らせじゃなくてニュースなのでは? いやどうでもいいか。



「……じゃあ、いい知らせからで」


〈一つは私からよりも、別のところから今日中には来るだろうから秘密にしてあげる〉



 コケた。布団のなかだけど。



〈もう一つは、悪い知らせと一緒に教えてあげる〉



 なんじゃそりゃ?



「じゃあ悪い知らせは?」


〈――――君、幸運だね〉


「はい?」


〈実はもうちょっとで君、軍に捕まるところだったんだ〉



 …………。



「……それは、幸運ですね。やっぱ先輩に荷担した罪で?」


〈いや、君の異能力を見た上の人間がなんか気味悪がってね。《拒絶》だって説明してなんとか納得してもらったけど。それと、あたしの師匠から『君に伝えるように』って〉



 電話の向こうから、全く予想外の言葉が放たれた。



〈『異能力は()()を正直に申告しなさい』だって。変だよね。監査で判明したのは先生たちが書き換えることになってるのにね。師匠が『彼にとっては悪い知らせのはずだ』って言うんだよ。個人的には別に悪い知らせではないと思っているんだけど。…………どうした?〉



 彩乃先輩は、人の微妙な変化に敏感らしい。



「……へぇ、そのお師匠さん、すごいですね」



 なるほど、確かに悪い知らせかもしれない。俺はこのとき、背中に冷や汗を流していた。

 ……いや、まさかな。


 まだ誰にも言っていない秘密のことじゃないよな?



 ◆◆◆



 前日、鶴宮邸。



「やはり異能力から推察した『異常性』は間違いないな。いくら敵だと言ってもまともな戦闘経験のない子供が、大怪我をさせた相手に()()()()()()()なんてのはおかしい。それに見ろ」



 鶴宮の目の前には、透明なケースに保管された赤林の手首がある。



「不自然極まりない。これはかなり限られた人間しか知らないことだから誤魔化すのに苦労はしなかったが」


「《同化》の異能力は《障壁》で切断した場合でも異能力の効果が続いて《壁》のこちらとあちらで動かすことができる。《無効化》は普通に無力化できるけど他に対抗策があるとしたら《拒絶》くらいだからね。あれで切られたらどうしようもない。ここまでの解説だと、不振な点は見当たらないけどねぇ」



 真向かいに座る《社長》は骨董品でも見るかのようにまじまじと観察している。



「おまえは彼の異能力の本質をどうみる?」


「どうって聞かれてもねえ。鶴宮さんの予想と同じとしか言いようがないわねぇ。にしても、壁に叩きつけられたのによく動けたね」


「彼が壁に叩きつけられた後もそこそこ動けたのは、能力を完全に解除しなかったからだろう? 目視できない《壁》を探知するには手探りしかない。その状態で体の内部に《壁》を納めてしまえば自分を守るものはなにもないように映る。大方、一部だけ体の外に出していたんだろうな。それで衝撃を和らげたんだ。その証拠に、部屋の壁の方に少しヒビが入ってる」



 鶴宮は手元にある現場写真から、そこで起きたことを脳内で再現する。



「……相手が油断して――――赤林の性格からして確実にとどめを刺しに来る瞬間を狙って《壁》のサイズを変えたんだろう。いや、〈大きさの違うものに置換〉と言った方が妥当だな。彼の異能力は《拒絶》と切断の原理は同じはずだ。もしかしたら、手首を切ったのは彼にとって想定外の事態だったのかもしれない」


「おかげでサンプル入手に成功してこちらとしては願ったり叶ったりだけどねー」



 しかし鶴宮は浮かない顔をしていた。



「問題なのは、赤林が《拒絶》に対応できるように自分の異能力を改造していたことだな。例え《拒絶》で切られても支障がないようにしていたらしい」


「本来できないことができるはずなのに、できない。……なんかややこしいね」


「難しい話じゃないだろう。克服したはずの弱点が克服できてなかった。《拒絶》じゃない《彼の異能力》なら、説明がつく」



 鶴宮は手首の断面に注目する。



「俺とおまえの予想通りなら、彼が人間であることに感謝しないとな」


「……それも、そうだね」



 ◆◆◆



〈まあ、気にしなくていいんじゃない? それじゃ悪いけど、仕事に戻らないと。じゃ、バイバイ〉



 彩乃先輩との通話はそこで切れた。


 先輩の師匠に、俺の秘密がバレたのだろうか? 

 いや、あり得ない。大丈夫だ。

 普通に調べるだけじゃ、あの手首に起きた異変は分からないはずだ。


 くそ、気分が落ち着かない。


 頭をかきむしっていると、チャイムが鳴った。こんな朝っぱらから誰だ?



「は~い……」


「お、ごめん、寝てた?」



 太一だった。なんだろう。妙に輝いている。



「どうした……俺はひじょーーーーーーーーに、疲れているんだけど」


「じ、実はさ、昨日優香のお父さんから電話が来てさ、じいちゃんの汚名が晴れたんだ!」



 ……

 …………

 ………………



「ああん?」



 ◆◆◆



「どどどどういうことですかかかかか!?」



 俺は舞子さんの事務室に特攻していた。



「いや、あたしも聞いてビックリしたよ。なんでも、あの資料つくった奴がジジイの告発の証拠になる帳簿を持ってたらしいんだ。まあ、良かったんだけどねー。うん」



 ……帳簿?



「一つ聞いてもいいですか」


「何を聞きたい?」


「お祖父さんを嵌めた将校って、何て名前です?」


「豊田」



 俺だあああああ!



「申し訳ありませんでしたあああああああああ」



 スライディングで土下座した。



「へ?」


「帳簿見つけたの俺なんです……」


「いや、なんでそんな失態犯したみたいな態度なの?」


「だって二人が交際を隠してるのって裏事情があったじゃないですか」


「あー、そうねぇ……」


「忘れてたんですか? ねぇ忘れてたんですか!?」



 舞子さんは両手の人差し指をこめかみに当てる。



「一休さんのネタなんて最近の若者に通じますかね!?」


「慌てない慌てない」


「一休みしてる場合じゃないでしょう!」



 ひとしきり突っ込んだ。



「でもさぁ、あれだけ美男美女の組み合わせにちょっかい出す馬鹿がいるかね?」


「それを心配してたんでしょーが!」


「じゃあ、逆にめっちゃアピールすればいいんじゃない? 四六時中ベッタリ」


「それはそれで気持ち悪い!」



 舞子さんは唇を尖らせた。



「じゃあどうすんのさ。あたしらとしては素直に二人を祝福したいんだけど」



 俺は一番出したくない案を出すことにした。



「要は二瓶さんの過剰反撃を止めさせればいいわけですよね? だったら――――」



 ◆◆◆



 数時間後、どこかから悲鳴が聞こえた。数分も経たずにチャイムが連打された。



「……やってくれたね、榎本くん」



 泣くなよ! こっちが罪悪感で死にそうになるわ!

 ああもう頬を膨らませるな! 可愛いなあもう!

 涙声が可愛いって無敵じゃねーか!



「だって二瓶さんにとって舞子さんは信頼できる大人でもあるけど、唯一の天敵でもあるでしょう?」


「だからって……!」


「太一にちょっかい出す女が悪いのは認めるよ。でも二瓶さんはオーバーキル過ぎる。これだけは譲るつもりはない」



 心を鬼にした。

 俺が舞子さんに「もし二瓶さんが少しでも妙な動きをしたら即《悪夢》を使ってください。あなたに対する恐怖の具合からして、それが一番効き目があるはずです」と頼んだのだ。

 実際、これが一番効果があったようだ。



「……あなたのおかげでコソコソしなくて済むようになったのは感謝してる。でも太一に寄り付く害虫をどうして排除しちゃいけないの?」


「質問を返すよ。その害虫に、太一は一度でもなびいたのか?」



 二瓶さんは答えない。



「……今までが今までだから不安になるのも分かるけどさぁ。将来の旦那をもうちょっとは信頼してもいいんじゃない?」



 舞子さん曰く、「優香ちゃんは不安なんだよ。万が一、太一が自分を離れるんじゃないかって」

 太一から口止めされているので本人には言えないが、あいつは自分の彼女の本来の性格が決していいものだとは思っていない。


 ワガママで短気。それでいて時に図々しい。普通だったら幻滅する要素だ。


 じゃあなんで好きなんだ? と尋ねるとそんな自分を太一のために一生懸命に直そうと努力する姿が好きらしい。

 だから。



「『優香は俺のもんだ』って、あんな恥ずかしいことよく言えるよな……」



 ヤバイ他人の台詞なのに鳥肌出てきた。二瓶さんはそれを聞いた瞬間、ゆでダコのように真っ赤になっていった。



「とりあえずおめでとう」



 俺の言葉を待たずに、彼女は隣の部屋のチャイムを鳴らす。


 ……さて。

 もうすぐ一学期が終わる。


 夏休みか。


 ああ、入道雲デカいな。

次から新章です。

さて次回はいよいよ……?



次回は12月29日、更新予定です。

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