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《最強》になりえない彼が、《最恐》と呼ばれる理由  作者: 岡部雷
雑魚能力者は暗躍する。
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雑魚能力者は暗躍する ⑤

※グロ描写がありますので苦手な方はご注意!

 《同化》の異能力は非常に厄介だ。今回の場合は相手が《水》になるが、液体になられるのは非常につらい。

 〈異能力全集〉によると、この異能力は弱点がほぼないに等しい。水に粉をぶちこんだところで()()()()し、()()()()()

 熱による蒸発や、冷却して凍らせるという戦法も通用しない。水でありながら、水では絶対にあり得ない性質が現れるのだ。

 対抗手段は限られている。



「映画とかだと……人が壁や地面に叩きつけられると……凹む描写があるけど…………あれって絶対、誇張表現だよね……」



 場にそぐわない言葉が口を突いて出た。

 ただし。



「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!!!」



 悲鳴でそれどころじゃないだろう。

 俺の目の前には、()()()が転がっている。



「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いいいいいいいいい」


「うるせーな……少しは、黙ってろ…………クソババア」


「なんで……《障壁》じゃない……あんた《拒絶》か!?」


「気づくの遅いよ。でもこんなこともできるんだよ」



 俺が作る《壁》は本来、生物や身に付けている物以外の無生物を問答無用で弾き出す。

 でもそれは、《壁》を()()()()()()()()()()()だ。

 実はこの方法は後になって開発したものだ。


 これが、()()の異能力。



「《壁》を()()()()一定の大きさで展開する。いきなり現れたら境界部分にあるもん全部ぶった切っちまうから、正直使いたくねーんだけどね」



 これをすると正直コントロールが非常に難しい。最初の頃は地面や建物に亀裂を入れてしまい随分とお叱りを受けたものだ。

 普段通りに発動するつもりが、うっかり失敗したようだ。おかげで建物にもきっちり切った痕跡が残ってしまった。



「クソッタレェエエ!」



 悲鳴がうるさい。二日酔いってこんな気分なんだろうな。

 全身が痛すぎてどこがどのくらいのダメージを負っているのか、見当がつかない。

だけど、まだ掘り出し物があるかもしれない。俺は机の引き出しをもう一度漁る。



 ◆◆◆



「くっそっ!」



 松村彩乃は毒づいていた。

 彼女が動いていた「別件」。それは実験材料にされていた()()の救出だ。〈開発部〉の人間をあらかた縛り上げ、ようやく目的地に到着した。

 しかし彩乃は今、窮地に立たされていた。



「あの外道共が……!」



「材料」が管理してある場所は把握していたが、出入りしたことはなかった。故に、実物を見るのは初めてだったのだが



「なにこれ……?」



 目の前の景色に彼女は絶望した。

 四方は鉄格子、床と天井はコンクリート。そんなところに



「なんで()()()()()()なの……!?」



 高く見積もっても小学生ではない。乳幼児もいないが、似たような年齢の子供十数人が檻の奥の方に固まっていた。

 しかも全員、片方の足が枷に繋がれていた。その先は壁に打ち付けられている。

 急いで檻の出口を破壊する。電子ロックではない、普通の南京錠。壊すのに時間はいらなかった。



「助けに来たよ! 今その足のやつ外してあげる!」



 だが彩乃の姿を見るなり全員が怯えて逃げてしまう。



「どうしたの? ほら、それ外してあげるから!」



 すると一人の少女が震えながら部屋のある一点を指差した。

 目で追うと、そこには足かせが転がっていた。だが、何か黒い棒のようなものが挟まっている。

 正体が分からないので近くまで寄ってよく見ると――――――――



「…………っ!」



 それは干からびた子供の足だった。ミイラになっている。



「私たちの足も切っちゃうの?」



 その言葉は、彩乃の心に深く突き刺さった。

 込み上げる怒りを押さえ込み、呼吸を整える。



「……大丈夫。切るのは鎖の方だから」



 指先から《糸》を射出する。いつものように糸ノコにして早くこの子達を解放しなければ。




 そう、思っていたのに。



「なんで切れないの……!」



 彩乃の異能力で生み出した《糸》で切れないものなど、今まで存在しなかった。だが目の前の鎖にはまるで歯が立たない。鋼鉄だろうと粘土のように切れる《糸》が、全くの無力だった。


 追い討ちをかけるように、警報が鳴り響く。音の種類は「侵入者あり」。すぐさま背後からドタドタと大勢の人間が走ってくる気配があった。


 早くここを出ないと。

 ところが更に



「うっそ……!?」



 なんと、天井が()()()()()。タイミングが悪すぎる。

 鎖を切るのを諦め、糸をバネ状に変形させて落ちてくるコンクリートを防ぐ。

 天井が落ちることも、警報が鳴ることも予想していた。唯一の想定外は「切れない鎖」。


 これさえなければ全てが上手くいくはずだった。

 こうしている間にも、足音は近づいてくる。


 まるでこちらを嘲笑うかのように、ゆっくりと。




 ……ゆっくりと?

 通路の角を曲がって、相手の全貌が明らかになる。



「わーお、鶴宮さんの言った通りですね」



 場違いなゴスロリ少女だった。長手袋にジト目に長い黒髪にミニハットが頭にセットだ。少なくとも軍の人間ではない。

 少女は仏頂面のまま、扉が開いた檻の中に滑り込む。



「あ、あんた鶴宮さんの知り合い?」



 彩乃の質問に、少女は仏頂面をさらに歪ませた。



「余裕がないのは認めますが、年下であろうと初対面の相手に敬語も使わずに話すのは失礼ではありませんか?」


「わ、分かりました! あなたは私の味方ですか?」



 態度を豹変させた彩乃に、少女はポケットから一枚の紙を取り出す。



「手袋は外せないので非礼ですがお許しください。これを見せるように仰せつかってます」



 書類にははっきりと「令状」の二文字が。



「これって……」


「はい。今あなたのしていることは侵入じゃなくてただの救出です。ですが私の助けが必要だろうということで派遣されて参りました。時間も惜しいので失礼します」



 少女が手袋を外して、鎖を掴む。

 直後、鎖は塵に変わった。



「はい。終わったから退いてください。足枷の部分は後で壊してあげますから。軍人さん。全員終わったらすぐにこの子達を鶴宮さんの所に連れていってあげてください」



 機械的にそう告げると、少女は再び鎖を壊し始める。



 ◆◆◆



 まー出るわ出るわ、とんでもない証拠の山。

 素人の俺でも思わず「えー……」と唸ってしまうレベルのブツだ。

 それにしてもこれ保管するのにしてはセキュリティ甘すぎませんか?



「て、テメェ…………」


「あれ、生きてたの?」



 掠れ声がやっぱり耳障りだ。おそらく手首と肘の間辺りでキレイに切れている。現在、文字通りの意味で出血大サービス中だ。

 放っておこう。



「さてさてと……」



 俺は更に机を物色する。

 と、引き出しの奥になにやら赤い物がある。慎重に取り出すと、



「帳簿?」



 俺が見たのは表紙のようだ。ほほう、研究費の横領かな?

 かなり古い。最初に日付は……



「んん?」



 20年近く前だ。

 しかも外貨。俺でも聞いたことのある単位なので、端末で現在の相場を調べて計算してみた。



「……2億円?」



 あくまで当時の外貨を現在の相場で計算しただけなので、実際はもう少し変動があるだろう。

 にしても2億円て。

 ぶっ倒れてる女の年齢からして、かなり若い頃だろう。そんな若造にこんな金額を払う馬鹿がいるのか?

 なにこの人。天才なの?



「おーい、この帳簿なあに?」



 返事がない。死んだか? いや呼吸はしてるな。

 直後、大勢の人間がこちら来る気配がした。仕事早いなぁ、こういうときは。

 扉が蹴破られ、若い男の叫び声が聞こえた。



「動くな! 赤林(あかばやし)朝子(あさこ)! おまえに聴取を――――ってええええっ!?」



 やっと相手の本名が分かった。


 この女の敵ってことはこっちの味方ってことでいいだろう。俺は物陰から姿を見せた。



「君が……松村少佐の協力者か?」



 眼鏡をかけた細身の男性は、驚愕に震えながら俺を指差す。なんか震えすぎて指がメトロノームみたいだな。



「紛れ込んだ一般市民ですよ。お探しの品はこれですか?」


「へっ!? あ、ああ」



 男性に資料と帳簿を渡した。



「ん、君! この帳簿はなんだ?」


「え? その資料と一緒に見つけたんですけど」



 男性は帳簿をめくると「……君、大手柄だよ!」とにっこり笑ってきた。



「はい?」


「これで豊田(とよだ)を追及できる……!」



 誰でもいいや。



 ◆◆◆



「いいのかい鶴宮さん。あなたにとっても赤林は相当恨みのある相手でしょうに」



 軍の内部にある集中治療室で、赤林朝子は一命をとりとめた。

 窓からその様子を見ながら、《社長》と鶴宮は今回の始末を語り合っていた。



「いいんだよ。実質のトップだったこいつが居なくなれば組織の改善はかなり楽になる。それに松村くんには汚れ役を押し付けてしまったことを謝らないとな」


「盗聴されてたんでしょう? だからあなたは彼女の味方になるとはっきり言えなかったんだ。向こうがどれだけの人質を確保してるか、分かったもんじゃないからね。それにしても500人かぁ。随分と大勢集めたねぇ」


「おまえがもっと協力的なら世界はもっと平和になるがな。だが安心しろ。俺はおまえを正義の味方だとは思っていないからな」


「当たり前だ。今回感謝するべきなのはうちの優秀な社員にだよ。ねえ、若菜ちゃん?」



 後ろで黙って立っていたゴスロリ少女は、頬を膨らませていた。



「いい加減、外出着がこのパターンしかないのは嫌です。もうちょっと普通の服がほしいです」


「善処しよう。あ、そうだ。鶴宮さんところの早馬くんが資料と一緒にとんでもないブツを持ってきたって聞いたけど」



 鶴宮は後ろを少し気にしながら声を落とす。



「……豊田の帳簿が見つかった。能力者リストを海外に流したときのやつだ」


「……あらまっ! 赤林がどうして?」


「おそらくだが、男女関係を疑っている。若い頃はあの女は美人だったからな。その筋で帳簿が漏れたなら、豊田の周辺から見つからなかったことも説明がつく」



 鶴宮は手にした〈異能力強化計画〉のページをめくる。



「なんの因果だろうな。告発しようとした大河原(おおがわら)少将の孫が、今回選ばれていたなんてなぁ」



 ◆◆◆



「松村少佐。君には半年の減俸と2週間の謹慎を言い渡す。異論はないね? 無関係の一般市民を巻き込んだんだ。本来なら懲戒ものだよ?」


「……あの少年は無事でしたか? あのあと会えなかったので」


「そこは心配しなくていい。時間で考えれば30分にも満たないからな。少年をいるべき場所に案内はさせたよ。怪我もそこまで重いものじゃないから安心しなさい」


「大将」


「うん?」


「疑ってすみませんでした!」



 深々と頭を下げた彩乃に、鶴宮は笑いかける。



「きちんと反省できるのは君の美点だ。そうだ。最後に一つだけ、君に頼みたいことがある」


「なんでしょう?」


「君の協力者のことなんだけどね――――」

次回、後日談です。



12月26日、更新予定です。

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