雑魚能力者は暗躍する ③
遅れました!(開き直り)
7月の第二週。異能力のテストはその金曜日だった。
「榎本、伊藤。放課後職員室まで来るように」
学力テストが終わった日の帰りのホームルームで、小宮山先生からの呼び出しがかかった。
二人して職員室に向かうと、軍服に身を包んだ二人の男がいた。
「初めまして。私たちは軍本部から派遣されている。今回君たちには――」
事前に舞子さんから聞いていた情報を含め、やはり今回のテストは軍で行うようだ。なんでも「優秀な君たちの実力を是非とも国益のために使ってほしい」のだそうだ。
国益じゃなくてあんたらの利益でしょうが、とはあえて言わない。
「急な話ではあるが、明日の異能力のテストは軍本部で行う。1時間後には出発するので準備してほしい」
本当に急な話だ。まあ着替えやら何やらは用意していあるが。荷物の中には、あの資料も当然入っている。
◆◆◆
全国から20人。
それが今回〈特殊異能力審議〉を受ける人数だ。
なんでも本物の有事を想定したガチ訓練に近いものをやるらしい。
わー、恐いなー。
「榎本くんの評判もすごいが、伊藤くんは今年の新入生のなかでは最も期待されているんだよ。おっとこれ以上は秘密だな……」
移動(ただし護送車。なぜに護送車?)する最中、正面に座った将校は伊藤の方を見てニヤニヤしていた。
これじゃ俺たちマジで犯罪者みたいじゃねーか。
その時、将校がどこかから連絡を受けて席を外した。それを見計らったかのように伊藤が耳打ちしてきた。
「おまえは知ってるんだろ、俺の本当の異能力」
「ああ」
こいつの異能力は表向き《無効化》となっているが実際はさらに上の次元の代物らしい。
そして俺はその異能力に唯一対抗しうる(のではないかと言われている)異能力を持つ。実際試したことがないので確定ではない。
それでもこいつは信じている。自分の目の前にいると。
「……もしもの時は頼む」
さて、守れる約束だろうか。
◆◆◆
護送車から新幹線へ。新幹線から再び護送車に乗り換える。窓がカーテンで塞がれているせいでせっかくの都会の景色を楽しむこともできず、そのまま1時間ほど揺らされていた。
そして車の速度が徐々に落ちていく。
「今夜はここで寝泊まりしてもらう。車を降りてついてきなさい」
降ろされたのはどこかの建物の地下駐車場だった。自動ドアの向こう側には、大理石の床とシャンデリアが見えた。
将校が先に進むと、ホテルマンらしき男性がこちらに向かって恭しく礼をしていた。
「本日はご利用誠に」
「この子達を部屋に案内してくれ」
挨拶くらい聞いてやれよっ!
「あの~、すみませ~ん」
俺はおずおずと手をあげた。将校がゆっくりと振り向く。
「どうした?」
「後になって『宿泊費は自腹』とか言いません?」
「そこは心配しなくていい。全て軍の経費だ」
「ありがとうございます」
90度を越える角度で礼をした。
ロビーこそ見れなかったものの、高級ホテルのすごい部屋であることは事実だった。都会の夜景って見てると目がチラチラするなぁ。
しかも一人部屋だ。
俺は改めて、彩乃先輩が送ってきた太一に関する資料に目を通す。室内に監視カメラはないので大丈夫だろう。
さてさて?
〈《知覚強化》が覚醒した場合、最も現れるのは『視覚』であると予測される。物理的に不可視のものを《視る》ことが可能になる〉
「物理的に不可視」?
俺はその脇に赤ペンで小さく書いてあったページを開く。
〈一例として、現在いわゆる《テレパシー》に分類される異能力の一部を発現した能力者は確認されているが、《記憶の読み取り》という部分は発現した人間は未確認である。代替として《体内のホルモンバランス、心拍数、脳波などを探知し本人の状態を推測する》という方法が用いられているが、これはあくまで《テレパシー》によるものではない……〉
それから細かい説明文がズラズラと続いた。
要は、今の太一なら可視光線の外側――電波やマイクロ波――を見ることができるが、『覚醒』するとそれ以外のものも見えるようになるってことか。
そして研究者達が一番期待しているのが、「心を読めるようになること」。
確かにこんな異能力が出てきたら情勢は一変するだろう。隠し事ができなくなるのだから。
今の異能力でできるのは嘘発見器の代わりくらいなのだろう。
そこまで読んだとき、誰かが部屋の電話が鳴った。用件を聞くと、ルームサービスとのことだった。
ドラマや映画だと、こういうときは変装した敵が襲ってくる定番だ。もしくは変装した味方。
今回は後者だろう。頼んでないし、頼み方から知らないし。
「やあ後輩。しばらくぶりだね」
「別れてから1ヶ月も経ってない気もしますがね」
見事にホテルの従業員に変装していた。確か未成年ですよね? 部屋の時計は日付が変わるまで1時間を切っている。
「将校って立場はこういうとき便利なんだよ」
なるほど、あえて詳しくは聞かないでおこう。
さて、作戦会議だ。
◆◆◆
翌日。
昨日の打ち合わせは、ほんの数分で終わった。「続きはまた明日」ということで、今日やるべき最低限のことだけを知らせてくれた。
「おはよう~、昨日は寝れたか?」
ホテルの食堂で挨拶してきたのは、普段より頭が数段膨らんだ同級生だった。
「その寝癖、行く前に直せよ?」
伊藤は席につくなり、オムレツとウインナーにケチャップとマスタードをたっぷりとかけて4枚切りのパンに挟んで食べていた。一斤の半分を一度に食う奴を見たのは初めてだ。
俺は納豆とほうれん草のお浸しと味噌汁。だが我らが太一先生には遠く及ばない。70点だな。
そこへズカズカと昨日の将校が近寄ってきた。監視でもしてるのか? なぜか私服だった。俺たちを見つけるなり、鬱陶しそうな顔になる。
「……9時にはここを出る。それまでには準備を済ませておけ」
昨日とは打って変わって少し高圧的になっていた。
なにか悪いことでもあったのだろうか?
昨日の彩乃先輩との接触はバレていないはずだ。
俺は表情を変えないように注意しながらコップを口に運ぶ。
◆◆◆
再び外が見えない車に乗り込み、今度こそ軍本部に向かう。
再び暗い地下駐車場に車は停まったが、ホテルとは雰囲気が違いすぎる。やはり組織を構成する人間の違いか?
出入り口の扉を過ぎた瞬間、まるでもう戻れないような感覚にすら陥ったくらいだ。
案内されたのは学校の体育館のような場所だった。既に何人かの同じくらいの年齢の人たちが集まっている。
仲良くしゃべっていた男女3人組が近づいてきた。
「君らもこの《テスト》の候補者なの?」
口火を切ったのはショートカットの小柄な女子だった。
「ああ。俺たちは同じ学校なんだけど、君たちも同じ学校なの?」
「ううん。みんな別々だよ?」
伊藤の奴、普通に可愛い女子と会話してやがる。
噂では学校で既に4人ほど親しい女子がいるらしい。一部男子から異常な嫉妬を買っている。
ちなみに俺はラブコメは好きだがハーレムエンドは認めない。
「君はなんの異能力だ?」
彼女の後ろにいた、寝ぼけたような半開きの瞼が印象的な男子が問いかけてきた。
「俺? 多分《拒絶》」
「《拒絶》うぅ!?」
男子がビックリするくらいの大声を出したので、既にいた人や新しく入ってきた人たちの注意がこっちに向いた。
「おいおい……めっちゃレアじゃん! 《障壁》の上位互換だろ!?」
痛でででででで
肩を掴むな揺さぶるな。
「で、でも欠陥まみれなんだ。使い勝手は良くないんだよ……」
「またまたぁ~~~。『俺本気出せばスゴい人ですけど? でもいい人だから黙っちゃうよ』ってタイプ~? 嫌われるよ~?」
うぜぇ。
ねちっこさ半端じゃねぇ。
そもそも俺は嘘は言っていないんですがね?
周りがざわざわしだした。視線が痛いったらありゃしない。
「静粛に!」
入り口におっさん将校がいた。多分偉い人だろう。
「ではこれより、厳正な審査によって選ばれた諸君に課題をこなしてもらいたい! 能力者が年々減少傾向にあるなか君たちのような希少な存在が――――」
長い話は聞き流そう。
理想やらなにやらを話すこと約10分。
「……そして今回の君たちへの課題は『テロリスト襲撃への対応』! 君たちにはテロリストに扮した軍人一人と戦ってもらう!」
どよめきが起こった。先頭経験のない子供にいきなりプロとぶつけるのは問題でなはいかと思ったが。
「ワクワクする……!」
「ここなら本気でやっていいんですよね?」
「燃えてきたぁぁぁ!!!」
そんなことはなかった。
どんな口説き子文句で連れてこられたんだ? こいつら。
さっきの半開き男子も喜びに震えている。
平和ボケしすぎじゃね?
が。
「がはっ……!?」
次の瞬間、俺たちが見たのは壁にめり込んだ半開き男子だった。
「え?」
みんなポカンとしていた。
え、じゃねえよ。軍人はこんな奴らばっかだよ。訓練だろうとなんだろうとマジで殺しにくるんだよ。
はあ、嫌な記憶しかねえ。
まあでも、ここまでは彩乃先輩の説明通りだ。
さて、仕事をしますかね。
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次回は12月18日、更新予定です。
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