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《最強》になりえない彼が、《最恐》と呼ばれる理由  作者: 岡部雷
雑魚能力者は暗躍する。
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雑魚能力者は暗躍する ②

 ◇◇◇



「直接ではないけど、僕と君が初めて関わったのはこの事件だね。ところで君、怪我させた相手を覚えているかい?」


「……まあ。でも――」


「言いたいことは分かる。あいつは君が負わせた怪我程度では到底許される奴じゃない。僕はね、君が怪我させたことを咎めたいんじゃないんだ。ただ、『榎本優哉』という人間の危険性がこれで露呈してしまったからね。おかげで君は軍からマークされそうになったんだよ。僕たちが誤魔化したけど」


「……いいんですか。その言い草だと『やるなら上手くやれ』って聞こえるんですけど」



 鶴宮は笑顔のまま紅茶に手を伸ばす。



「本当のところはね。でもあれは事故だ。気に病むことはない。むしろ彼女は()()()()()()()()で済んで幸運だと思うべきだよ」



 ◆◆◆



『〈覚醒者〉・・・発現した異能力を進化させた者。なお、ここで言う進化とは、『単なる強化』とは異なり、限りなく別種に近いと判断された状態を指す』



 ……説明を読んでも胡散臭い。あいつにそんな可能性があるのならば軍に行けるいいチャンスだろうけど。



「あの愚弟にそんな可能性あるかね?」


「異能力監査の評定は〈C〉でしたからね。こういうことだと言うなら納得はできますが……」



 計画の主体となっているのは軍だ。

 しかも持ち出し厳禁を意味する判子まで押してある。これが意味することとは。



「行ったところで実験用のモルモットになる未来しか見えないのですが」


「奇遇だねぇ、あたしもだ」



 コピー用紙に辞書のような細かい文字がミッチリと書き連ねられている。

 だが文書には何ヵ所か赤線を引いたところがあった。〈投薬、電気ショック等、覚醒に至るまでに様々な方法を――〉なんて書いてある。他の部分も似たような内容だった。

 明らかに人道に反した内容だ。しかも。



「日付からして来月には召集をかけるつもりみたいだね。学校を通して文書で通知でも送るんだろう。太一以外にも実験に使われる可哀想な子供がもっといるみたいだね」



 送られてきた文書には、あくまで太一個人のことしか書いていなかったが「戦力増強が云々」とか書いてある時点で複数の人間が対象であると見るべきだろう。


 あの先輩は軍人が嫌いだと言っていた。なのにどうして将校になんてなったんだろう。そして今、軍を裏切るような行為に出ている。

 矛盾しているようにも見えるが、あの人は自分で軍を変えるつもりなのだろうか? いや、本気ならわざわざ俺にこれを送ってくるなんて回りくどいことはしないだろう。



「……そういうことか」


「え?」



 思案顔だった舞子さんの奇妙な言葉に、思わず彼女の方を向いてしまう。彼女は資料の一番最後のページを見ていた。そこには彩乃先輩とおぼしき字で「一緒に頼む」。


 ()()


 困惑していると舞子さんの口からとんでもない事実が飛び出した。



「君ともう一人が受ける期末テスト。君らの実績を軍が評価して、特別に本部へ招待しようとしてるんだ。そこでやるらしいよ。何をするかは、私も聞いてないけど」



 あ゛?



 ◆◆◆



「松村くん、どういうつもりだい? 急に戻ってきたと思ったらこんなものを僕のところに持ってきて」



 鶴宮は自らのデスクに積み上げられた大量の書類の束を見つめる。

 持ち込んだ本人は、ゴミでも見るかのような目をしていた。



「これだけの証拠が出たんです。〈異能力開発部〉を潰す許可をください」


「……気持ちは分かる。君があの部署に恨みを抱いているのも百も承知だ。だけどね」



 鶴宮は普段あまり見せない、怒気のこもった顔になる。



「侵入はいけない。いくら盗むしか方法がなかったとはいえ、法を守らなければいけない立場の君がして許されることじゃない。それに窃盗品には証拠能力ない。それくらいの区別はつくと思っていたんだけどね」


「……私の味方をするって約束してくれたじゃないですか」


「僕は悪人の味方をするつもりはないよ」



 松村彩乃は顔をひきつらせ、憤然としたまま部屋を出ていった。









「そ、れ、で~~~~~? 私をわざわざ呼び寄せた理由はあれかいぃ?」



 部屋の隅から、ニュルリそれは姿を表す。ずっと部屋にいたはずなのに、その気配に彼女が感づくことはなかった。



「僕が使い物にならないとなれば、おまえの所に行くのは必然だからな。おまえの部下なら喜んで協力するだろう。だから――」


「それを止めろと? ねえ鶴宮さん。私だって馬鹿じゃぁない。この案件に彼女に首突っ込んでほしくないんでしょう? なにせ――」



 普段の薄笑いが一瞬、消える。



「《譲渡》の異能力が復活しつつある。そりゃそうだよね。20年近くも流出しっぱなしだったんだ。どこかで『複製』ができていてもおかしくない。しかもそれに成功したのが〈異能力開発部〉となると、慎重にならざるを得ないよねぇ。しかも薬の再現過程で『異能力の覚醒』なんてネタが生まれたんじゃないかな。思わぬ収穫に小躍りしたくなるのも納得できる」


「……俺は薬の製法なんぞ知らんが、どう思う? オリジナルの製造法が分からない状態で解析できると思うか?」


「……無理じゃないかなぁ。だって『あの人』があれ作ったときに使ってたのってそんな専門的な機械じゃないよ? 台所にありそうな道具と、そこら辺に生えてた雑草やら何やらを〈異能薬〉に適当に混ぜ合わせたら出来ちゃった的なところあるし。問題なのはそれが偶発じゃなくてきちんと計算して作ってるとこなんだよねぇ。まあそれは今回いいとして、この案件にチビッ子が絡むのは私としても面倒だと思うところはある。そもそも〈異能力開発部〉とは私たちの方が因縁としては深いでしょう? ……あ、と、は~」



 社長は部屋のカレンダーを見つけると食い入るように見つめた。



「戦力不足に陥った軍が人事部が打ち出した最後の強行手ダァンッ! 『いっそ優秀な奴をさっさと捕まえて雇ってしまおう』作戦ッ! 全国から選りすぐりの即戦力になりそうな生徒を見繕って『ちょっと喧嘩』させてさらには超厚待遇を見せつけてあわよくばその場で契約してしまおうって欲丸出しスギィ! こっちを先に解決しないといけないってのがまた面ドゥッ()!」



 一息で言い切った。

 そんなハイテンションの具現化を視界に入れることなく、鶴宮は



「……そのなかにはおまえのお気に入りもいるんだ。俺もその子がどう動くのか見てみたいんだよ」


「わりと危険じゃなあぁいぃ?」



 社長の言葉に、鶴宮は眉間にシワを寄せた。



「分かってるだろ。あの子はサシなら負けない」



 ◆◆◆



「はあぁ!?」



 変人の巣窟にご招待? 死んでも御免だと言いたいところだが、舞子さんの言いたいことが分かった。



「えー、つまり『軍本部で会おうぜ後輩』ってことですかー……?」



 俺に自分の秘密をしゃべったのは、これを狙ってのことなのか?

 テストは来週。舞子さんの話だと、異能力のテストに丸一日を割くらしい。その一日でなんとかしないと、来月太一は連れていかれる。

 太一を逃亡させることも提案したが舞子さんは「こいつらは多分どこまでも追いかけてくる」。やっぱ来週のテストのタイミングでどうにかするしかないのか?



「もっとも、榎本くんが愚弟のために危険を犯すような人でなければ協力関係は成立しないんだけど」



 俺は頭を抱えた。



「悪いことされそうになってる友達を放置できるわけないじゃないですかぁ~……」


「泣きながらでもやるの? うちの弟にそこまでの価値が君にあるの?」


「ありますよぉ。俺は愚直なバカは嫌いになれないタチなので」



 舞子さんは信じられない物を見る目をしていた。



「君、軍本部の恐ろしさを分かってて言ってるの? 下手すると死ぬよ? だとしたら行かない方が――」



 俺は右手を突きだして舞子さんの言葉を遮った。



「あいつが二瓶さんと無事に過ごせるならそれでいいんです。それに俺の異能力は、元々こういうときのためのものですから」



 ◇◇◇



「榎本くん。君は自分がしたことの大きさを分かっているよね?」


「あははは……はい。すみませんでした」



 鶴宮は記憶をたどる。



「あと君、あの時に受けた忠告、覚えているかい?」


「やっぱり『あれ』は鶴宮さんでしたか」



 青年も自らの過去を思い出していた。



「いや、嘘をつくつもりはなかったんですよ? ただですねぇ、あのー」


「歯切れの悪い言い訳は良くないよ?」


「はい……」



 鶴宮はここに来て笑顔を消した。



「誰かのために怒ることは悪いことではないが、君の異能力は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()だろう?」

気が向いたらブクマ登録や評価のほど宜しくお願いします!



次回は12月15日、更新予定です。

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