雑魚能力者は暗躍する ①
◇◇◇
「さて、やっと聞きたかった最初の話にたどり着いたね。あれは関係者しか知らないことだし、公式にはなかったことにされている事件だ」
「……あれって結局、軍ではどういう扱いになったんです?」
「あれは当時の軍にとっては致命的になりかねない事案だった……」
遠い目をする鶴宮。青年は気まずさを隠せずに目をそらす。だが表情は不満げである。
「悪かったとは思ってますけど、先に手を出したのはそっちのほうですからね?」
◆◆◆
真田舞子は自らを「学食のお姉さん」と紹介する。
そんな彼女の持つ異能力は《悪夢》。食事を作ることとは一切関係のないものだ。
何故そのような代物を身に付けたのか、その経緯は不明である。ただし、彼女の異能力を食らうとまともに眠れなくなってしまうためほとんどの人間が根を上げる。
相手がどんな悪夢を見ているかを彼女が知ることはない。曰く「本人にとって一番嫌なもの」である。過去のトラウマか、将来への不安か、それとも別のものか。
◆◆◆
「ブッシュ・ド・ノエルを作ったから食べないか?」
「来週から期末だぞ? よくお菓子なんて作る余裕があるなぁ!」
たった一日だけ知り合った先輩と別れてもう三週間。入道雲が青空をバックに輝く7月に入った。
中間はまあまあだったとはいえ、期末はさらにハードになる。学力の試験はともかく、異能力の試験がどのようなものなのか、あちらこちらで予測が飛び交っていた。
習ったことの総まとめである筆記テストとは異なり、異能力のテストで要求されるのは毎度変わるそうだ。前回の中間テストの場合、「自らの異能力を用いた周りのと連携」が求められるポイントだったりする。
そして今回。何がテストの課題になるのか。生徒の関心はそこに集中していた。
学校がそんな空気に包まれるなか、こいつはインターホンを押して呑気なことを言い出した。
「甘いもの食ったほうが頭は働くだろ?」
「お菓子作る時間があるなら勉強しろよ!」
反射的に叫んだが、こいつ実は頭もいい。畜生どれだけ設定てんこ盛りにしたら気が済むんだ。テスト前なのに余裕があるのはそのせいでもある。
「悪いけど舞子さんと会う約束してるんだ。どうせ二瓶さんと勉強するだろうから、オメーらで食え」
◆◆◆
1日前。
「どうしたの? またあのバカがなにかやった?」
俺が学食の事務室を訪れたとき、主は栄養学の本とにらめっこしていた。
「舞子さん、聞きたいことがあるのですが」
舞子さんが本を閉じる。俺の表情から真面目な話だと察してくれたようだ。
「……で、どうしたの?」
「あなたのお祖父さんは、何の不正を告発しようとして嵌められたんですか?」
舞子さんの顔が強張った。頬が少し痙攣している。
「珍しいから何かと思ったら。急にどうしたの?」
「いえ……、表向きだとは思うのですが、あいつ出会った日に言ってたんですよ。お祖父さんが本当のことを言ったと証明するために軍に行くって」
「そう。……いや、すまない。嫌なことを思い出した」
舞子さんはがっくりと項垂れた。なんでも太一がまだ母親のお腹の中にいるときに、彼らの祖父は軍を追放されたのだとか
「あのクソジジイの仇なんぞ取らなくていいんだよ」
あらら?
「本来、君は部外者だからあんまり言いたくなかったんだけね。うちのじいさんは軍人としては鑑だったかもしれねーけど人間としてはクズだ」
「外面が良かった?」
「そうね。それが一番妥当かも。あいつの掲げた『大義』のお陰で、ばあちゃんも母さんも苦労させられたよ。あいつは〈軍〉は清くあるものだとずーっと信じてたからね。不正が分かったときはえらく怒ってたけど、頭のいい連中に正面から突っ込んでいってものの見事に返り討ち。無様ったらありゃしない。二瓶さんのお祖父様に助けてもらったときだって、頭なんか一度だって下げなかった。援助のお金を持ってきてくれた時はいつも『自分の復帰はいつだ』ってばかり聞いてた。間違ったことはしなかったかもしれないけど、もう少し躊躇してほしかったもんだ」
「質問よろしいでしょうか」
「なんなりと」
「あいつ軍にいくつもりないですよね?」
「いや、それに関しては本気だ。優香ちゃんとの未来のためには、ジジイの最後の尻拭いはしなきゃならん。それが済むまでは籍入れられないよ。大体の人はジジイの無実を信じてるみたいだけど、確たる証拠もなしに決めつけられないから」
oh、そこは本気なのかい……。
「でも、ジジイが告発した相手はマジで悪いやつだったみたいだから、あいつが言ったことも本当かもしれない。死んだ今となっては関わりのないことだけど」
「お祖父さんは心労で?」
「ああ。崖から飛んだ」
まさかの自殺だった。重いなあ。でも肝心のことが聞き出せていない。
「くどいようですけど、何を告発しようとしたんです?」
「……『軍人事部保管の〈異能力登録簿〉の不正流出』。まずまともな軍人ならやらないことだ」
「すみません、バカなんでもう少し噛み砕いていただけないでしょうか?」
「だから、軍に所属する能力者の持つ異能力の種類、人数、異能力の性能。それが細かく書かれたリストを金で売ったって話。しかもこれから戦おうって相手の国に流れたってジジイは言ってたな」
やべぇよぉ、この国の軍人まともなのがいねぇ!
……彩乃先輩は除こう。
「でも、君が聞いても意味なんじゃない?」
「いえ、聞けて良かったですよ。聞いてた話との食い違いが解消できたので」
「あたしはてっきり期末テストの話をしに来たんだと思ったんだけどね」
「へえ、どうしてです?」
「今回の期末はあたしが担当だから」
「ほう…………、はい?」
今なんつった?
「君ともう一人。あたしの異能力が通用しそうにない人間がいるからさ、君らだけは別口でやるって話だけど……知らないでここに来たの?」
「詳しく聞かせてください!」
舞子さんの話によると、今回の異能力のテストは、彼女の異能力《悪夢》を使うらしい。嫌な予感しかしねぇ。
「可哀想に」という俺の表情に、舞子さんはぎこちなく
「……ごめん、君の方がきついと思う」
へ?
「試験に関することだから詳しくは言えないけどね」
なんだろう、聞いて良かったのだろうか。
「まあ、そこはいいや。実はあたしも君に話があったんだ。悪いけど、明日もう一度来てくれる?」
◆◆◆
翌日。
俺は能天気な太一の誘いを振り切って、舞子さんの待つ事務室に向かった。
「よっ、約束の時間ぴったりだね」
「日を改める必要はあったんでしょうか?」
「この間の現金争奪戦で一緒に戦った上級生がいたでしょう? 今日その子から君宛に荷物が着いたんだ」
「彩乃先輩が?」
「『転校』する前の日だったかな。急にあたしのところに来て『後日後輩に渡したいものがあるので代わりにお願いします』ってさ。あの子、軍の将校なんだって? あたしの君との関係に気づいてる連中なんてほとんどいないのに」
舞子さんは部屋の隅に置かれた段ボール箱を引っ張ってきた。
ガムテープを剥がすと、中から出てきたのは意外なものだった。
「なんでこれが?」
舞子さんの顔に疑問符が浮かぶ。入っていたのは一冊の本とメモ。表紙に大きくタイトルが書かれていた。
「〈異能力強化計画〉……?」
なぜこれを送ってきたのだろう? 白紙のメモの裏には『受け取ったおねーさんと一緒に見るように』。
なんの目的だ?
「あたしも見ろってこと?」
舞子さんは帳簿のページをめくった。
「おい……」
「どうしました?」
帳簿を握る彼女の手が震えていた。
「……まずいな」
「はい?」
「見てごらんよ」
それには一人の人物の異能力しか書かれていなかった。
「でもあの子には感謝しないと。警告のつもりだろうね」
俺は最初の一文に目を落とす。
『〈覚醒者〉候補・真田太一について』
期末テストをクリアとか、それ以前の問題です。
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次回は12月13日更新予定です。




