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《最強》になりえない彼が、《最恐》と呼ばれる理由  作者: 岡部雷
天秤が傾いたら、もう片方の重りを外せ。
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いい人かどうかはお金で判断できない。

今回は時間が空いたので少し文章多めです。(本当に少し)

 現金争奪戦。開始して一時間も経過していないのに現在まともに戦闘できるのはわずかに三人である。

 ほぼ最終ラウンドだ。


 そして今、俺は音楽室の入り口で自らの異能力を展開し、廊下からの冷気を防いでいる。その冷気の源である能力者は、怒りで頭に血が上っている。

 あんなに歯を剥き出しにして怒る人初めて見た。


 パワータイプの能力者じゃなくてよかった。音楽室の扉は防音用の分厚いものだが、《身体強化》の人にとってはベニヤ板と大差ないのだから。

 目の前の先輩は、異能力は凄くても素の身体能力は普通なのだ。


 俺は後ろで作業しているであろう仲間に声をかける。



「彩乃先輩どうします!?」



 だが「うわちゃ~、プッツンしたな」と場違いなくらい呑気な返事。 

 現在、現金入りの木箱を握っているのは彩乃先輩だ。

 しかし目の前の向こうは冷気のせいで曇って見えない。見えるものがあるとすれば、狂ったように笑っている裁定委員会委員長だろうか。


 前は狂気、後ろは別の意味で狂喜。


 前後の二人のテンションの差が大きすぎる。



「あんた、あいつのことぶっ飛ばせる?」


「無茶言わないでくださいよ!」



 廊下で凍りついている生徒会役員二人を完全に無視して、眼鏡の委員長が俺の壁を殴りに来ている。

 無論バランスボールを殴ったような感触しか感じていないはずなのだが。

 やばいよー。目に光が宿ってないよー。



「なんか怖いんですけど!?」


「狙いはあたしだ。さてどうしようかな~」


「早くしてくださいよ! こっちはあと5分も使えないんすからね!」



 彩乃先輩はうーん、と首を傾げると



「やっぱやれ」


「はい!?」


「あんたが心配してるのは、あたしらが冷気でやられないかってことでしょ? あんたが抜けたらすぐに糸で防壁作るから、そこは心配するな。その代わりちょっと表の頭痛い奴に、あんたの実力を叩きつけてこい。これまでの経験から、少しは何か学んだんでしょう?」



 ……俺のプライバシーはどこ行ったんだ。


 それはさておき、俺も確かに考えた。基本の射程距離が短すぎるこの《壁》は、遠距離の攻撃には向いていない。

 かといって、今この至近距離で俺の最も得意とする弾き攻撃をしようものなら、この狂った先輩は廊下の向こうまでぶっ飛ばされて大怪我を負うことになる。そうなれば俺は現金の取得資格を剥奪される。


 俺の前回の敗因は、能力を最長時間で使おうとしたことだ。「5分あれば大丈夫」と考えてしまったことが失敗だった。

 常に最短、3分で決着をつけることを想定するべきだったのだ。

 そうなると、残り時間は1分半か。俺はもう一度だけ音楽室の中を見渡す。彩乃先輩と突っ込んできたときから、特に変化はない。



「どこまで行けるかな……」



 脳内で即席の作戦を組み立てる。あとは彩乃先輩に伝えるだけなのだが、目の前の相手に悟られては意味がない。



「彩乃先輩、部屋のものには触ってないですよね?」


「え? うん」



 ……彩乃先輩の虚を突かれたような顔は初めて見たな。

 こうしている間にも時間は減っていく。とりあえず今回は



「……防壁作るの30秒だけ待ってもらえます?」


「え? あ、分かった……」



 拍子抜けした返事を聞いた直後、俺は行動に出た。

 相手はこの眼鏡委員長だ。



「ちょ、ななななななにをっ!?」


「名も知らぬ委員長さん。愛の逃避行はお好きですか?」



 まずは《壁》の弾性を一旦解除する。すると空気の抜けた風船のように反発がなくなるので、当然というべきか殴った勢いで倒れこんできた。そのまま彼女の体をホールドする。ハグと言ってもいい。そして足元の弾性を復活させ、そのまま音楽室の中に一度引きずり込む。

 その上で、さっき自分たちが入ってきて、そのまま開けっぱなしになっていた窓から今度は外に飛び出した。



「ちょ、あんた、放して!」


「こっちだって現金は欲しいんだ。俺はできることをやらせてもらいますよ?」



 俺の拘束から逃れようとしているがそれはできない。何せ俺の《壁》は俺の意思で外部からの影響を変えることができる。

 なので今は彼女がどんなに暴れようとも、俺の抱擁からは逃れられないのだ。


 そのままの姿勢をキープしたまま、能力を最大展開し、音楽室からの離脱を図る。

 とにかく速く遠くへ。構図を説明するとややこしいが、透明なボールの上半分はクッションのように、下半分はとにかく弾むように。上下で性質を分けることで相手を拘束したままの移動を可能にした。


 今回はこれくらいでいいだろう。ボヨンボヨンと地面を弾みながら、残った時間をギリギリまで使いきって校舎から離れた正門近くに着地した。安全が確保された瞬間に能力を解除する。


 校舎からはかなり離れている。これだけあれば時間は稼げただろう。

 残る問題はこの怒り狂った冷たい女だ。



「テメエ……ぶっ殺してやる」



 目が血走ってる。こえー。なんか禍々しいオーラが背後から見えるんですけど!?

 言葉を選ばないと。



「抱きついたことは謝りますよ~? それに俺が死んだら~現金はおろかこれから先の将来に支障が出ますよ?」



 煽る煽る。

 眼鏡委員長は怒りにワナワナと震えながら能力を発動した。


 うげ、寒っ!! 


 だが作戦通りだ。今の煽りトークで再発動までの時間を稼いだ。


 前回の敗北で露呈したもう一つの問題。それは俺の能力には所謂「決め技」がないのである。確実に相手を沈められるような決め手に欠けるのである。



「あたしが現金をもらえるチャンスは、あれで最後だったのに……!」


「あら、失礼」



 ビキビキと、彼女の体の表面を氷が覆っていく。

 ……やはり来たか。

 シンプルにして純粋に強い、氷の武装。

 〈異能力全集〉って読むべき本だなぁ~。



「なんで毎年あと一歩のところで……!」


「申し訳ありませんが、同情誘っても無駄ですよ?」



 向こうが武装に時間をかけたお陰で、こちらも準備ができた。

 ここでなんとしてでも食い止めてやる。


 と思った瞬間に氷の粒が弾丸のように飛んでくる。飛び道具までありかよ!?


 避けることはせず、正面から受け止めた粒を受け流す。摩擦を低くすることでこういう芸当もできるのだ。

 相手は一定の距離を保っている。俺に飛ばされることを警戒してだろう。相手が纏う鎧は、《冷却》の有効範囲を自分の体表近くに密集させたことによってできたものだ。この手の勝負は関節あたりを狙えばいいのが定石だが、その部分は可動性を保持しながらも鎧が分厚くなっている。弱点のカバーはすんでいるようだ。


 こっちにも秘策がある。監視カメラはともかく、生徒や先生がいないこの場所なら、新しい技の実験にはもってこいだ。



 眼鏡委員長が手を上にかざすと、空中に大きな氷の塊が二つできた。大きさはそれぞれ小さな軽自動車ほどもある。

 あんなのを二つも見せられたら逃げ出したいものであるが、今回は実験だ。とにかくやってみるしかない。


 まず一つめ。

 これは正面から受けた。俺の《壁》は衝撃も吸収するので、とりあえず動きは止まる。そのまま《壁》を回転させて塊をどかす。

 ここまでは普段通りだ。



 既に次の氷は彼女の近くにない。さて、どこから来る?


 正面から攻撃すれば受け止められることを理解した以上、それ以外の位置から来る確率は上がる。


 例えば、()()とか。日が傾きかけているこの時間なら、影で察知される不安も少ない。


 あれだけ大きな氷があるなら、押し潰すのには便利だろう。実際、止めることはできた。だが問題はここから先だ。

 このまま氷を弾き飛ばすこともできるが、それでは進歩がない。俺は基本的に対人では使わない『硬化』を試すことにした。

 こっちで防御するととんでもない硬さになるため、前に人に使ったときは相手の手が、かなり危ないレベルで骨折した。


 硬化にも二種類ある。一つは「形状記憶」と勝手に名付けている。俺の《壁》は本来は球体で発動するものだが、普段使うときは地面に当たる部分は性質を変化させて半球状態にしてある。「形状記憶タイプの硬化」は、「直前にどんな形になっていようと球体の状態に戻って硬くなる」のだ。そしてもう一つは「形状維持」。これは変形した《壁》をそのままの形で硬化させるものだ。


 前回は「形状記憶」で失敗したので、「形状維持」の状態で硬化させてみた。

 するとめり込んでいた氷がそのまま空中にとどまるような形になるのだ。これは便利である。そのまま、地面に触れている《壁》の部分に弾性を付与すると、潰れた風船に空気を入れたかのように弾んだ。


 これぞ即席新技、《武装壁》である。この《壁》は摩擦は調整できるが、粘着性は備わっていない。故に、獲物を使った戦法ができなかったのだ。

 だが、無人島で戦ったときのことを思い出すと、以外といけるのではないか? という疑問が湧いた。今回は試しにやってみたが、上手くいったようだ。


 《壁》の有効範囲は僅かに半径1メートルだが、今は相手の投げたデカい氷の塊もセットだ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()。想像には難くない。


 無人島の時は「相手を直接振り回す」という方法をとったが、何もギリギリまで近づく必要はない。

 物を使えば、距離は伸びるのだから。


 さらにプラスで、滞空状態で一部を除いて球体に戻った《壁》をあの時と同じように縦横無尽に回転させる。

 氷がくっついた状態なので、下手に当たると殴打で相手が死ぬ。



「……振り回すだけしかできないの? あんた猿みたいだね!」



 猿で結構。

 眼鏡委員長は照準を俺に合わせて今度は掌から氷柱を繰り出してきた。その先端はこん棒のように太い。

 あのまま突き伸ばしてそれを遠くに飛ばすつもりか。それとも敵に与えた武器とぶつけて破壊するつもりか。

 俺は壁の回転を止めた。だが勢いは止まらない。



「オラアアアアっ!」



 突っ込んだ勢いで氷柱をぶっ壊して距離を縮める。もちろん《壁》をガッチガチに硬化させて。



「……!」



 お互いの表情が分かるまで近づいた。



 沈黙。



「……?」



 委員長の怪訝そうな顔をする。まあ、あともう少しで直撃していたにも関わらず()()()()()したら。



「どういうつもり? 情けでもかけたの?」


「まさか。単純に制限時間の問題ですよ」



 短期決戦に臨んだつもりだったが、やはり現実は厳しい。連続で異能力を使用したせいで知らぬ間に体力の回復が追い付かなくなっていたようだ。普段やらないことに頭使ったしな。

 今回は敗けである。



「この感じだとしばらく能力は使えそうにないので。反撃を食らう前にリタイアします」



 両手をあげて降参のポーズをとる。



 ◆◆◆



 結論から言えば、現金争奪戦は生徒会・庶務連盟の勝利で幕を降ろした。彩乃先輩は制限時間をめいっぱい使って逃げきったらしい。



「いや~最後は焦ったなぁ。崖っぷちに追い込まれてさぁ、サスペンスドラマの推理ショーの直前かよ! ってね」


「でも逃げきってくれたんでしょう? ありがとう彩乃」



 大会終了後、倉橋先輩が彩乃先輩を労っていた。あんなこと言われて、よく友達でいられるなぁ



「なんのなんの。雛っぴ、それより現金の配分はまだかい?」


「うんうん分かってる。――――みんなー! 現金を教師のとこに持っていくから付いてきてー!」



 倉橋先輩の手には、彩乃先輩が死守した木箱が。


 職員室では校長先生が待っていた。



「今回はおめでとう。さあ、箱の中身を確認しようか」



 校長先生が鍵を取り出し、鍵穴に差し入れた。


 一同の期待が集まる。












「「「「「え」」」」」



 中身は、空っぽだった。

次回が後日談でその次から新章スタートです。



気が向きましたらブックマークや評価などよろしくお願いします。



次回は12月2日、更新予定です。

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