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《最強》になりえない彼が、《最恐》と呼ばれる理由  作者: 岡部雷
天秤が傾いたら、もう片方の重りを外せ。
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軽くては困る、固くて役立つ。

予想外に体調崩したので遅れてしまいました。

あとちょっと長くなったので続きは明日になります。

 ハンマー投げ、という競技がある。


 紐の先に鉄球が付いたあれだ。ブンブン振り回されて最終的にはぶん投げられるあれの気持ちが、よくわかった。



「「「逃げろおおおおおおおおっ!!!!!!」」」



 阿鼻叫喚。

 目と鼻の先には、追ってきた連中が。それをほぼ水平に移動しながら薙ぎ払っていく。

 俺の視界に入らないところでハッスルしている先輩の顔が容易に脳裏に浮かんだ。



 ◆◆◆



 松村彩乃。

 目鼻立ちは悪くないほうなのに、化粧やら染髪やらで全身を固めている先輩。しかしその実力は全国レベルだという。彼女は最初、自分の異能力について《伝達操作》、つまり相手の体(正確には神経)を乗っ取る異能力だと語っていた。


 だが実際には違った。彼女の真の能力は《物質生成》。ただし限定的なものだ。その正体は「糸」。

 物質の具現化などヒトの持つエネルギーでは無理に思えるかもしれないのだが、異能力はそういう理論は排除して考えなくてはならない。

 でも、それを計算に入れても、やはり彩乃先輩の異能力は別格である。本来、《物質生成》において作られる物質の色は、生物は白銀、無生物は黒と決まっている。どの能力者で試しても結果は同じ。

 しかし、先輩の能力は目に見えない。それほど細い糸なのだ。

 強度は勿論のこと、驚くべきはその伸縮性だ。単純な飛距離で考えても数十メートルは優に越えている。


 どうやって俺の《壁》に糸をくっつけたのは分からないが、ガッチリと固定されているということは粘性か摩擦力もかなり高いことが予想される。


 ハンマー投げの鉄球が、直径1メートルにもなって襲いかかってきたら逃げるのが自然だろう。まさに今がその状況だった。

 こっちは加害者になるのが残念だ。



「ふぅ~、いい景色だねぇ」


「先輩、それは悪役の台詞ですよ」



 数分後、綺麗だった芝生は穴ボコだらけの荒れ地へと変貌を遂げた。

 そのあちこちで満身創痍の生徒たちが力なく横たわっている。死んでないよな?



「教職員が止めに来ないなら、問題は確認されなかったってことだ。安心しなよエノちゃん」


「果たして安心していいものでしょうか」



 しかし待っている暇はない。100人潰したところで、単純に考えてもあと350人以上は残っているのだ。僅か30人で乗り切ることを考えると先が思いやられる気分だった。



 ◆◆◆



 優哉と彩乃が大立ち回りをしているころ。


 生徒会・庶務連盟の筆頭である倉橋雛は予想外の事態に爪を噛んでいた。



「おまえがここに来たってことは、正解はこれみたいだなああああ~~~~~~!!!」



 一人の男子生徒が、恭しく掲げた木箱。片手で持てるレンガほどサイズだが、倉橋が現金を隠したのはまさにそれだった。

 トラップと見分けはつかない。だが、隠した本人は、ここがバレるとは思っていなかった。



「音楽室のピアノの中に隠すなんてなぁ~~」



 去年の会長が隠したのは、体育館のピアノだった。

 まさか似たような場所には隠さないだろうという裏をかいたつもりが、逆に裏目になっていたようだ。



「妙だな」



 雛を至近距離で護衛していた新田が呟く。



保田(やすだ)は〈裁定委員会〉だろう? 『あいつ』が一人だけで行かせるかって話だよ」


「それもそうね」



 その相手、保田の異能力は《脚力強化》。《身体強化》の劣化版と思われがちだが、脚の部分に異能力のステータスを全て降りきっているため、移動速度は並みの《身体強化》を凌駕する。

 保田は狭い音楽室を縦横無尽に跳び跳ねながら追っ手から逃れていた。



「くそっ、ここが音楽室じゃなければな……」



 新田の悔しそうな呟きに、倉橋も同調する。

 ここにある楽器がこのイベントで破損した場合、その修理費は自腹になってしまう。そうなれば5万円では赤字になるのだ。

 必然的に、音楽室での異能力の使用は制限される。それも見越した上でこの場所を選択したのだが、自分の異能力も加減を間違えれば楽器の破損に繋がる。


 他の配下たちも、この狭い部屋で使っても問題がなく且つ、保田を捉えられるような異能力は持ち合わせていない。


 そのうち、他の委員会たちも集まってきた。最初の足止めに残った彩乃ともう一人はまだ来ない。

 彩乃がいれば、この状況も打破できそうなんだけどな、と倉橋は内心でため息をつく。



 ◆◆◆



「急ぎたいのは山々だけど、雛っぴがどこ行ったか聞くの忘れちった~」



 彩乃先輩と行動を共にしてかれこれ10分。敵の委員会の襲撃を回避しながら移動していたが、肝心の味方陣営がどこにいるのかさっぱり不明だ。

 そしてこの言葉である。



「聞いてないんですか?」


「だって咄嗟のことだったしぃ。それに、雛っぴが逃げた方向は校舎がある。もしかしたら教室のどこかかかもしれないね」



 その時、遠くの方で爆音が聞こえた。でも倉橋先輩たちが逃げた方向とは別だ。

 彩乃先輩は思うところがあったのか、その方向に向けて目を細めた。



「……もしかして、あれかなー。あの子は遠回りして敵を撒こうとしたのかもしれない」


「なるほど。だとしたら俺たちは行きすぎたのかもしれませんね」



 俺は駆け出そうとしたが、首根っこを捕まれた。

 カエルの断末魔のような気色悪い声が喉から飛び出した。



「なにするんですか!?」


「あんた走っていくつもり? 間に合わないよ」


「んなこと言ってもですね。実際の戦闘のときに異能力使うこと考えたらこうするのがベストなんですよ」



 すると先輩は、ずい、と顔を近づけてきた。



「なんのためにあたしがいると思ってんの?」



 ◆◆◆



 生徒会・庶務連盟は苦戦を強いられていた。

 出入り口を固めて保田を囲む作戦で箱を奪おうとしたところで、どこから連絡が入ったのか道中で遭遇しなかった委員会が徒党を組んで一気に音楽室に攻め込んできたのだ。


 ただでさえ足りない戦力がさらに手薄になる。



「表の奴らは生徒会でなんとかする! 庶務の人たちはとにかく保田を捕まえて!」



 指示は飛ばすものの、連携は上手くいかない。


 さらに音楽室の立地も悪かった。

 校舎の最上階の角という、籠城するには適していない条件。他の委員会が大っぴらに戦闘できないようするつもりで倉橋はこの場所を選んだのだが、全てが裏目に出ていた。



 ◆◆◆



「あいつは目先のことしか見えてないからねぇ。念入りに作戦を立てたつもりでも、逆に自分を追い詰めることの方が多い」


「解説ありがたいのですが、ミノムシみたいにされてる俺の尊厳はどうなるんでしょう?」



 文字通りの意味で簀巻きにされていた。

 さすがにここまで来ると具現化した糸がよく見える。

どうやって移動しているのかというと、某有名アメコミの主人公の要領だ。糸の先端を樹木や電柱にくっつけながらの形になる。



「それにしても、まさか()()()()()を持っているとは思いませんでしたよ。最初は異能力を偽っているのかとも思いましたけど」



移動する途中、俺は彩乃先輩の「秘密」を聞かされた。この学校の生徒はどうしてこう素性が安定しないのだろう。

しかし当の本人は秘密を喋ったにも関わらずケロリとしていた。



「確かに異能力に関しても、あんまり口外してないからねぇ。そっちだと思うのは妥当だよ。あたしの本当の秘密を知ってるのは、雛くらいなもんだ」


「なんで俺に喋ったんですか? 常識的に考えて機密扱いでしょう?」



 何故だろう。入学してから他人の秘密を大量に聞かされている。

 ネタにしたら恐喝し放題だ。がっつり違法だけど。

 しかし今回のはガチだ。伊藤の能力の秘密を聞いたときもビビったが、今回も一般人が聞いちゃダメなタイプの部類だ。



「言ったでしょう。あんた師匠に似てるんだよ」



 彩乃先輩の返事はそれだけだった。

 いやだから師匠って誰? と普段なら色々と雑念が入り交じるのだが、今回はそうもいかないようだ。

 目的地に近づくにつれ、彩乃先輩の雰囲気がどんどん変わるのが分かった。

 これだけオンオフがはっきりできるなら、「あの秘密」が一切漏れてこないのもなんとなく分かる。気配が違いすぎる。



「全く、平和ボケした連中だよ」



ああ、なぜ女はこうも裏の顔が怖いのか。

次回は総力戦になりそうです。



気が向いたらブックマークや評価などしていただけるとモチベーションになります。


いつもご覧頂き有難うございます。

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