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《最強》になりえない彼が、《最恐》と呼ばれる理由  作者: 岡部雷
天秤が傾いたら、もう片方の重りを外せ。
64/115

1、もて余す。2、十分。3、ダメになる。

またまたお久です。

「待ってくださいよ。いきなり能力展開しても作戦もなにもなしにここで立ち回れって言うんですか?」


 現金争奪戦は始まったばかり。なのにもう敵の足止めにされてしまった。とかげの尻尾でもここまでひどい扱いはない気がする。

 なのに彩乃先輩は嬉しそうだ。



「『ここは任せて先に行け』って人生で一度は言ってみたい台詞だよね」



 ずっこけた。



「話聞いてました?」


「聞いてた聞いてた。いくら上級生でも、いきなり信頼するのは難しいかい?」



 この人呑気すぎィ!



「マイペースですねぇ。どうやって二人で足止めするつもりです? 大方、他の生徒は先にいくんじゃないですか?」



 大抵、ダンジョン攻略っぽいストーリーなら各階層のボスと味方のうちの一人が戦って、最終的に主人公は一人でラスボスに辿り着くのが王道だ。

 つまり俺たちは最初に足止めする一番雑魚のボスだ。いや相手の人数多すぎだって。



「ははは。面白いこと考えてるね。でも見てごらん?」


「…………」



 嬉しい誤算、なのだろうか。

 彩乃先輩の姿を見た上級生たちは、一斉に突進を止めた。近付きたくても、近づけない。そんな雰囲気だ。

 先に進もうとする猛者もいるのだが、なぜか上級生たちは片腕を出して制している。

 迂闊に手を出すな、と言わんばかりだ。



 ……ひとまず安心しよう。それに、この距離なら会話を聞かれる心配はないか。



「……ちなみに聞きますけど、彩乃先輩の異能力ってなんなんですか?」


「《伝達操作》の親戚ってだけ教えてあげる。あと君は自分の自己評価は低いようだけど、あたしらの学年でも君の名前は有名だよ? 上級生とほぼ互角に立ち回るなんて芸当のできる1年生なんて滅多にいないから」



 ほほう。

 たかが二人相手に恐れ戦いているのはそのせいか。



「……で、作戦は?」


「あれ、急に素直になったねぇ。褒められて嬉しかった?」



 うるさい。



「先輩の威圧だけじゃもう持たないでしょう。それに、倉橋先輩たちが現金箱を確保すれば即時撤退で合流するつもりでしょう? 倉橋先輩はそこまで見越した上で先輩を残したんじゃないですか?」



 彩乃先輩は、猫のような目を細めた。



「……言うねえ。なるほど、今年の新入生はマジで化け物ぞろいなわけだ」



 ぞろい? 

 だが、その言葉の真意を聞く前に彩乃先輩が動いた。



「大人の世界を見せてあげる」



 ◆◆◆



 無双。


 表すとするならそれ以外ないだろう。

 彩乃先輩が一歩踏み出した時点で上級生たちは逃げの体勢に入っていた。

 先輩と相手の距離は十数メートルはあったはずだ。にもかかわらず、彼らの逃げる足が止まった。


 約100人が敗北するまで、僅かに数秒。

 逃げの姿勢で固定されていた全員の手足が動き出し、よく見ると強制的に同じ動きをさせられている。あ、これダンスか。これほどの大人数が洗練された動きで急に踊り出したら絶対にフラッシュモブだと思われそうだ。



「いやだあぁぁぁぁぁぁ」

「助けてぇえええええええッ」

「体が勝手にいいいいいいい」



 しかも結構ハードなダンスだ。これをやらされたら例え能力を解除されても体力をかなり持っていかれるだろう。足止めに余念がない。

 だが彩乃先輩は不満があったようで




「チッ、逃がしたか」



 よく逃げたな、と感心している場合ではない。

 俺たち二人の右側からは炎で全身武装した人と、なぜか手刀の構えの人が。左を見るとなぜか本を持った生徒と、特になに持たず、武装の構えもしていない生徒が一人。



松村(まつむら)ぁああああ!! 今日こそテメエをぶっ倒してやるぜええええええええッ!!」



 炎がこっちに飛んできた。彩乃先輩はそっちには目もくれず



「悪い後輩。援護頼む」



 いや、これだけできたら4人相手になにをビビってるんだ、といいかけてやめた。先輩の顔には尋常じゃない汗が浮かんでいたのだ。



「ああ、そういうこと」



 一度に100人も操っていたら、先輩の脳に掛かる負担は相当なものだろう。あの4人は網から漏れた魚だ。スタミナ切れを起こしても不思議じゃない。そして俺を残したのは、近距離での戦闘に慣れているからだろう。

 この4人を5分で片付けなくてはならない。



「これ片付けたら向こうと合流するから」



 そういう流れか。



「了解」



 ◆◆◆



「ちょっと勝ったからって調子に乗ってんじゃねえぞ!」



 炎の先輩が火柱を放つ。普通真上に火柱は上がるものなのに、真横に飛ばすってどうやってるんだろ?

 まあ、《壁》がある以上全く意味がない。

 すると炎の向こうから拳が突き抜けて



「ぶべらぁあああああ――――――っ!」



 よし、一人弾き飛ばした。いや、勝手に突っ込んできたからなあ。

 次は誰だ?

 本を持った生徒が叫んだ。



「とりあえずこいつら潰すまでは協力する! 俺が1年相手にするからテメエらはその間に松村を潰せ!」



 ヤバイなあ。この3人、さっきの先輩と違って距離がある。

 ……いや。違うか。戦うことを考えちゃダメだ、俺は。



「彩乃先輩、ここから移動してもいいですか?」



完全に回復したのかどうかは不明だが、顔色はさっきほど悪くない。その状態の彩乃先輩は侮蔑の色が浮かんでいた。



「……見捨てるつもり?」


「いえいえ、先輩もきちんと連れていきますよ」


「……50メートルも離れたら私の異能力は無効になるけど。まだ体力を削りきってないだろうし」



 つまり、今先輩を連れて逃げれば、足止めという役目は失敗に終わることになる。



「先輩がいいなら、俺は別に構いません。それに」



 愚痴はさっさと喋って残さないのが俺のルールだ。



「倉橋先輩以外の生徒会連中がふんぞり返っているのがムカつくので」



 それを聞いた彩乃先輩は、打って変わって口許を緩ませた。



「やりなよ、後輩」



 ◆◆◆



 俺の能力で作った《壁》は鉄のように硬くもなればゴムのように柔らかくもなる。また、どこを硬くするか柔らかくするかも全ては俺の意思で決まる。なので俺は《壁》を柔らかくしてからその状態で前から先輩の腹部に腕を回す。見ようによっては腹を殴っているようにも映るかもしれない。

 その状態で、足元の弾性を一気にあげる。しぼんだ風船に空気を入れるかのように。瞬間、俺と彩乃先輩は空へ飛び出す。



「君、本当に逃げるのだけは速いんだねえ!」


「あいにくこれしか取り柄がないので!」



 ざっと15メートルほどの高さだ。そこから目を凝らしても、生徒会や庶務の面々は見つからない。

 後ろに目をやる余裕はないが、拘束から解放された委員会連盟が追ってきているのは間違いない。

 目を見開きながら探していると、彩乃先輩が



「エノちゃん、殴るのは嫌い?」


「痛いのは誰だって嫌でしょう!? なんでそんなこと聞くんですか?」


「あたしの師匠も似たようなこと言ってたからさ!」


「誰ですか師匠って!」



 親とか先生じゃなくて師匠?

 しかもなぜこのタイミング?



「気に入った! あんたならあたしの秘密、教えてもいいかも!」



 おお、女子の秘密。男子にとっては甘い誘惑だ。


 ……ここが空中じゃなければ。そして今が逃走中でなければ。



「今すぐあたしを放しな! あの野郎共、ガチで片付けてやる! この高さなら問題ない!」



 あれ、なんかイキイキしてる?

 何かが変わった彩乃先輩に困惑しながらも、手を離す。まだ生身で落ちれば間違いなく高さだが、先輩には秘策があるのだろう。

 先輩どんどん下に落ちていく。俺の体もそろそろ下降し始めたところで、後ろから光を感じた。



「ふざけんじゃねえぞぉおおおおおおお!」



 あ、さっき吹っ飛ばした先輩だ。どうやら炎で気流を操作しているようだ。炎熱系統の能力ってこういうのがあるから便利なんだよなー。



「ぬおおおおっ!?」



 これは相手の悲鳴じゃない。

 俺だ。

 何かが《壁》の周囲にある。目には見えないが何かがある。まるでぐるりと一帯が圧迫されているような感触だ。

 元々《壁》も目に見えないし、はた目から見ればなにもないように映るだろう。

 だが間違いなく、何かがある。敵の攻撃か?


 しかし次の瞬間、真下に()()()()()()

 その先にいるのは彩乃先輩。


 先輩の手の動きは、なにかを手繰り寄せるかのように。


 そうか、彩乃先輩の秘密って―――――――――



「エノちゃんよ、ヨーヨーは好きかい?」

タイトルに関しては分かる方は分かると思います。私は最初に見たとき思わず唸りました。



気が向いたらブックマークや評価など。感想もお待ちしております。






更新ペースの件ですが、いきなり元に戻るのはちょっと難しいので、次回は11月22日更新予定です。

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