散財する人にとって他人はATM
お久です。
倉橋雛。
現生徒会長にして、軍の最高権力層の身内。
その体に宿す異能力は《電気操作》。
俺が知っていたのはそれくらいだったのだが。
◆◆◆
「「「倉橋いいっ、現金の在りかを吐いてもらおうかぁっ!!!」」」
数人の男子が壇上に向かって襲いかかった。
生徒会の役員じゃないし、さっき一緒に仕事をした庶務でもないってことは、彼らはどこかのクラス委員?
「「「ぎゃあああああああああああああ!!!」」」
お約束というべきか、ベタというべきか。
襲いかかった男子たちは、倉橋先輩の放った電撃をモロに浴びて壇上でピクリとも動かなくなった。
「クラス委員たち、今すぐ出ていきなさい。そうでないと、あんたたちもまとめて潰すわよ」
先輩の笑顔に気圧されたクラス委員の面々は、気絶した男子を引きずって体育館を後にした。
ちなみに、うちのクラス委員は奇跡的な確率で二瓶さんと太一である。
現金争奪大会。
ダイレクトなネーミングだ。
この学校は現金の持ち込みは禁止だが、生徒に配布された端末には電子マネーのアプリが入っている。俺も太一に聞いて始めて知ったことだが、学校の敷地内にあるスーパーに陳列された商品は「税金または寄付金で負担してくれるもの」と「自腹」に分けられる。前者は菓子以外の食品、生活必需品や文房具などの消耗品だ。後者は主に菓子や漫画雑誌だ。一応前者も全てレジは通す。学校の経費扱いになるためだ。万引きなどしようものなら、猶予も裁判もない実刑を食らう。まあ醤油とかキュウリを盗むようなバカはいないだろうけど。
また外食チェーンの店も幾つか存在するが、これは完全に自腹である。音楽や娯楽用品は、基本的に配信アプリや通販アプリで購入することになる。
登壇した彩乃先輩がいつの間にかマイクを握っていた。
「さあて、我々〈生徒会・庶務連盟〉は全力で現金を守りましょう。制限時間まで守りきったらこの人数で山分けです!」
庶務の生徒はクラスにつき一人。それが8クラス×3学年。プラス現生徒会役員が6人。金額が150万円なら計算上5万円が懐に入ることになる。
学生には大きな額だ。
それよりも、庶務が集まったのは今日が最初のはずだ。いつの間に皆仲良くなったんだ?
理解が追い付かない俺は瞬く間に置いてけぼりになった。
そこへ壇上から降りてきた彩乃先輩が
「おーい、そこの1年生。あんたこの間の召集に来なかったでしょう。ルール教えてあげるから、おいで」
いつ召集があったんだ?
◆◆◆
どうやら俺が先日の事件で昏睡している間に各クラスの庶務を集めていたらしい。
もう他の庶務と生徒会役員は額を付き合わせて何やら会議をしている。
「君、現金争奪大会についてってどこまで把握してる?」
「いえ。そもそもこの学校現金の持ち込み禁止じゃないですか。出所はどこです?」
「あちゃ~、そこからか」
彩乃先輩は俺の知らなかったこの学校のシステムについて語り始めた。
異能力は国にとって重要な位置付けにある。今のこの国において異能力は不可欠であり、一人の無駄もなく人材を育てたいのだとか。
国だけではなく、民間企業も異能力は優先的に欲しがるらしい。なのでこの学校は税金だけではなく、大企業もスポンサー担っているのだ。彩乃先輩の言葉を借りるなら「私たちは投資の対象」らしい。
なんでも、今回のイベントは民間企業からの寄付金で開催されたらしく、獲得した現金は学校側が生徒の個人口座を作っていて、そこに放り込まれるのだとか。
「君らはまだだろうけど、2年生になったら自分で少しずつ稼ぐようになる人もいるからね」
能力者のバイトは本来禁止されているが、優秀な能力者の場合、スポンサーを申し出てくる人がいるのだそうだ。
どこから来るんだと尋ねてみると、「民間かもしれないし、公的な機関かもしれない」。能力の種類によって違いがあるのだとか。
「だから、今回のイベントは言わば小遣い稼ぎね。スポンサーがつくようになれば150万円なんて額がはした金に見えてくる」
金銭感覚が狂いそうだな、というのが第一感想だった。そこまでして能力者がほしいのか?
「軍とか警察はわかりますけど、民間企業が能力者を欲しがる理由はなんですか?」
「……能力者が一人いれば、それだけで非能力者数十人分の仕事が片付く場合もある。簡単に言えばコストの削減だよ。100人で1ヶ月かかる仕事が、一人で1日で済むならお金はかなり浮くことになる。ま、これ以上は関係ない話は止めて、お金を取りに行こうじゃないの」
……ルール説明は?
◆◆◆
なんでも、庶務と生徒会は毎年この大会で手を組んでいるらしい。
その役目は、他の委員会から現金を守ること。
「隠し場所は私しか知らない。だから今からその場所に向かいます」
体育館の外に出ようとすると、かなりの数の生徒がうじゃうじゃいるのが見てとれた。
現場に着いたところで戦闘が始まるのは目に見えていた。
「じゃあ、皆。私を守ってね?」
台詞だけ聞けばお姫様だが、さっきの実力を見てしまうと「あんた一人で十分ではないだろうか」と思ってしまう。
生徒会の指示によって倉橋先輩を囲むように輪が作られる。先頭に立つのは生徒会の面々。俺は倉橋先輩に近いポジションを得た。
「なんで俺がここなんです?」
「あなたの《壁》は使い方次第では便利だしね。大丈夫。彩乃がそばにいるから」
倉橋先輩は笑顔でそういうが、このギャルのような先輩、そんなに強いのか?
「強いなんてもんじゃないわ。実力はこの学校飛び出して、全国でも通用するレベルよ」
……なんでそんな人がこの学校で呑気に学生なんかやってるんだろう。
さっきの話を聞く限りだと、彩乃先輩にはもうスポンサーがいてもおかしくないのだが。
「まあ、力だけじゃないのよ、この世界」
それは知っている。
「ところで倉橋先輩、俺このイベントのルールとかよく分からないんですけど。さっき彩乃先輩に聞きそびれたので」
「そうなの? もう、彩乃ってば……」
ようやっとルールを聞き出せた。
・「隠し場所」などと言ってはいるが、実質は「現金の入ったケースの奪い合い」。ただしトラップの箱が14もあるので、本物がどこにあるかは倉橋先輩しか知らない。
・制限時間は3時間。終了時点で「本物の箱」を持っていた生徒の所属する委員会で総取りとなり、人数に応じて分配される。
・先輩が言ったルール以外は問答無用のため、委員会で同盟を組んだりするのも自由。ただしあくまで現金を受け取れるのは一つの委員会のため、同盟を組むケースは少ない。
・庶務と生徒会役員は、他の全ての委員会から現金を守りきる役割のため、やや人数は多目でも許されている。
「一番厄介なのは、クラス委員ね。あそこは単純に考えて倍の戦力があるから」
委員会は基本的に各クラス1名のみの選出だ。それに対して、クラス委員は委員長と副委員長の両名が一つのグループの扱いになるために戦力は増える。その代わり、一人当たりの取り分も減るわけだが。
「先輩、このまま現金取りに行くんですか?」
「もちろん。もし本物が他の委員会に見つかってたら全力で奪いに行かなきゃならないからね。奪われるよりも守る方が楽なのよ」
なるほど、周りの生徒たちが攻撃を仕掛けないで様子をうかがっているのはそのせいか。
ふと後ろを見ると、しんがりを勤めている彩乃先輩の姿があった。後ろ歩きなのにえらくスムーズだ。
向かった先は、校舎の北にある大銀杏。木の根元の辺りに人が密集している。どうやらあそこにあるようだ。
「……フフッ」
笑った倉橋先輩は、自らを守る生徒を飛び越え、明後日の方向に走り出す。
あれぇ?
驚いたのは俺だけではない。どうやら生徒会役員は知っていたようで、すぐに倉橋先輩に追従する。
「会長を守れ! 庶務の2年生はここで他のやつらを食い止めろ!」
いつか俺に向かって謎の熱い理論をかましてきた中性的な顔の先輩が、それだけ言い残して倉橋先輩の後を追う。
やっぱり生徒会にとって他の人間は捨て駒なのだろうか?
2年生たちが横に並んで壁になる。異能力を発動しているものの、相手の数が多すぎる。ざっと見積もっても100人は下らない。
そこに怒号が飛んだ。
「バカ野郎! 護衛の人数は多い方がいいんだ! 2年生! あの能無しの言うことは聞かなくていい! ここはあたしに任せて先に行きな!」
2年生が作った壁を飛び越え、彩乃先輩が前に立つ。
「他のやつらもぼさっとしてないで! 早くしないと全部持ってかれるぞ!」
結局、彩乃先輩以外の庶務もそこからいなくなった。
……なんで俺はこんな解説をしているのだろうか。
「よし、エノちゃん。あんたにはここであたしと一緒に手伝ってもらうよ」
ちょっと待って。
ここに来てようやく気づいた。いつの間にか俺の体がなにかによって拘束されている。上半身は動くのだが、膝から下がなにかに固定されたかのように動かない。
「この人数相手にですか? 俺の能力知ってます?」
2人で100人の能力者を相手にするなんてただの自殺行為だ。
にもかかわらず。
彩乃先輩は笑顔のまま。
「4分以内に片付ける。それなら文句ないでしょ」
次の瞬間、足の拘束が解けた。
「さあ、能力を展開しなさい?」
来週からは更新ペースを徐々に回復していきます。
もうしばしお待ちください……。
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次回は11月18日、更新予定です。




