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《最強》になりえない彼が、《最恐》と呼ばれる理由  作者: 岡部雷
天秤が傾いたら、もう片方の重りを外せ。
62/115

笑う遊撃手。

一週間ぶりです。

 さて、以前にも触れたことだが、この学校には〈部活〉が存在しない。これは全国の〈特別能力者学校〉に共通する。


 主な理由としては、「スポーツ社会は、異能力の干渉を断固拒否する」という業界の反発がまずあげられる。異能力がスポーツの勝敗を左右するようでは、人間本来の身体能力などまるで意味を成さない。ある意味、異能力を使ってしまえば不正がやり放題。それは例をあげるとキリがないほどに。

 起こりうる問題を処理しきる術を、人類は持ち合わせていないのだ。

 無論、俺たちだってスポーツはやる。だが授業で行うことは滅多にない。様々な種類の能力者がいるなかで、大抵のスポーツ用品は耐久性が低すぎるのだ。かといって能力者のレベルに合わせたものを作ろうとするととんでもない量の札束が必要になる。さすがに税金だけでは賄えない。


 そしてもう一つが、「体力の考慮」。

 俺たちはほぼ毎日、異能力を使用している。これは思った以上に体力を消耗するので、部活で下手に体力を持っていかれると本業である〈異能力開発〉に影響が出るのだ。

 ちなみに、普通の異能力者には所謂デブがいない。異能力の使用はハードな運動と同じくらいエネルギーを消費するので、むしろ沢山食わないと体が持たない。

 なので能力者でデブがいるとすれば、かなりの間、異能力を使っていないことになる。


 話は逸れたが部活がない以上、上級生と接する機会は必然的に限られてくる。



 それが〈委員会〉だ。昼休みや放課後の約1時間程度、自らの所属する委員会の仕事を他学年の生徒と共に行うのだ。

 ちなみに好きなものに必ずなれるわけではなく、全てくじ引きでの選出になる。

 まず決めたのがクラス委員長と副委員長。これは男女一名が担当する。

 最初に男女のどちらが〈長〉のポジションになるのかをくじで決め、その後は男女別でくじを引く。

 その後は、女子しかなれない〈保健委員会〉を除き、その他委員会を再びくじ引きで決めていく。

 なんで全部をくじで決めるんだと誰かが質問したら、「手っ取り早い」とのご返事。

 そんな運任せの状況で、俺が当たった委員会。それが



 ◆◆◆



「え~、ではーこのパイプ椅子をー、えー、並べてください~」



 ……先生、前置きが長いよ。

 6月が下旬に差し掛かる頃、梅雨が少し早く抜けたせいか猛烈に暑い日があった。

 そんな状況で体育館に集められた、とある委員会。

 誰もがだるそうな態度を隠さない。



「じゃあ、お願いしますね?」



 そんな俺たちの目の前には、生徒会の面々が雁首揃えている。

 倉橋先輩は正式に会長になり、今日が初めての生徒総会らしい。というか、本来はもっと早い時期に行うのだが、ドタバタで後回しにされていたそうだ。

 で、俺たちの仕事は教頭の指示の下、体育館にシートを敷いてパイプ椅子を並べるという面倒極まりない仕事だった。


 何を隠そう、俺がくじ引きで引き当てたのは〈庶務〉という名の言わば「雑務係」だった。他の委員会のように決まった時間に活動はしない代わりに、こういう雑用が発生すると問答無用で呼び出される。

 椅子を並べるなら異能力で済ませてしまえばいいのにと思うのだが、なぜか委員会では基本的に異能力の使用が禁止されている。


 30分かかって椅子を並び終えた。

 おかしいな。パイプ椅子って聞いてたのに、なんだこの畳めない重い椅子は。座り心地は良さそうなクッション付きだけど、椅子の脚の部分がアルミじゃなくてもっと密度の高い金属だ。バリケード作るのに便利そう。


 椅子に座って休んでいると、頬に冷たい感触が走った。



「ほーら、差し入れ。1年坊、これぐらいでくたばるようじゃ庶務の仕事は勤まらんぞ?」



 飲料の缶やペットボトルを腕一杯に抱えた女子生徒がいた。あんなに沢山どうやってバランスを取っているんだろう。

 やや切れ長の目、小ぶりな鼻と唇。が、何より目を引くのは染めたであろう金髪。黒髪の方が似合っているだろうに、実にもったいない。よく見ると、爪にはマニキュアが塗られている。その上、化粧品の匂いがプンプンする。

 にしし、と笑うその先輩の顔が急に崩れた。見ると、彼女の脳天にチョップした人間がいた。



「ちょっと、彩乃(あやの)、他の子はともかく、あなたの仕事はまだ終わってないのよ?」



 見咎めた倉橋先輩がちょっと怒っていた。アヤノと呼ばれた先輩は悪戯っ子のような笑顔を浮かべると



「堅いこと言うなよ雛っぴ~。人間全うに働いたら全うに休憩するのが一番だぜ?」



 腕の中からお茶を一本取り出すと器用に倉橋先輩に向かって放り投げる。

 その後も生徒に飲み物を渡して回っていった。


 倉橋先輩は俺を見て、少し声を落とすと



「え、榎本くん。この間はごめんね? 迷惑かけちゃって」



 ……あれか。



「別にいーですよ倉橋先輩。潜在意識にまで干渉してくるような相手じゃあ仕方ない」



 ついこの間のことなのに、もうかなり過ぎてしまったような気がする。

 どうやらこの間の事件の犯人は、人の潜在意識に語りかける《暗示》なる異能力までどこかでコピーしてきたらしい。

 先生たちが証拠もなく一方的に決めつけたのは、この能力のせいらしい。もっと上手い使い方もあるのではと思ったが、なんでも使うのに条件を幾つかクリアしなければならないそうだ。

 倉橋先輩が事件の解決に消極的だったのも、その異能力のせいで間違いないと感じていた。実際、倉橋先輩はあの後、三原先輩の名誉回復に一役買っている。



「ところで倉橋先輩」


「なあに?」


「さっきのアヤノって先輩はお知り合いですか?」


「うん。中学からの友達よ。どうかしたの?」


「……いえ。あの先輩何者ですか?」



 俺以外にも飲み物を配って回っているが、この学校の上級生は真面目か狡猾な人間しか見たことがない。あんな風にフレンドリーな人は初めてだ。



「彩乃のこと気になるの?」


「ええ」



 ……返事がない。

 倉橋先輩を見ると、本気で引いていた。



「あなた、そんな顔してけっこうムッツリだったのね……」



 自然と眉間にシワが寄った。



「ムッツリってなんですか。男子生徒が女子生徒に『関心がある』と言ったら、全て欲情になるとでも思ってるんですか」


「え? 違うの?」



 本気で目を丸くしている。彼女の中での俺の評価ってどうなってんの?



「……上下関係をまるっきり無視するような先輩は初めてなもので」


「それは、あなたが会った生徒たちが、たまたま上下を意識するような連中ばかりだったからじゃないの?」



 あー……言われてみれば。



「君が思っているほど、この学校は悪い人間ばかりじゃないのよ? でも確かに、彩乃は人に優しいからね」



 にしても、あんなギャルみたいな生徒がいるのか。



「この学校、化粧は禁止してないんでしたよね」


「だって社会に出たら化粧してない方がおかしいでしょう? それに、肌の手入れは早い段階で見つけておくべきよ」



 俺は苦笑しながら倉橋先輩の顔をまじまじと見つめた。



「……先輩は化粧してないじゃないですか」


「私はいいのよ。肌に合ったのがあんまりないから」



 つまりはスッピンだ。因みにスッピンは「素顔でも美人」という意味もあるらしいから、倉橋先輩の場合は二重の意味で当てはまる。女子からしてみれば嫉妬ものだ。



「……話はそれましたが、あの先輩はどういう人なんです?」


「至って普通よ。それ以外に言えることはないわ。強いて言うなら『ありきたりな女子高生』よ」



 まるで収穫がない。

 なんだろう、この違和感。

 ……いや、変な人間と関わりすぎたせいで俺の頭の方がおかしくなったのだろうか?



「それより、今日はこれからの方が忙しいのよ、庶務の人たちは」



 倉橋先輩がのんびりした口調でとんでもないことを言い出した。



「……はい?」


「どうせ後で分かるけど、『イベント』なのよ。今日は」



 ◆◆◆



「今年もやって参りましたあああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!! 『委員会対抗・現金争奪大会』いいいいいいいいいいいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃッ!!!」



 ロクでもねーイベントじゃねえか!

 導入は普通に挨拶してたじゃん、なんでこんなイベント開催した!?

 壇上でマイクを握っている倉橋先輩は、普段と思いっきりキャラが違う。



「今年は去年よりも高い150万円! ルールは例年通り! 隠し場所は校舎を含め学校の北方! 死人廃人大怪我人、これさえ出さなきゃ問答無用! 始めぇっ!」



 各委員会が集合して、一斉に体育館を飛び出していく。残されたのは生徒会、クラス委員長、副委員長、および庶務の生徒。

 壇上から妙な視線を感じた。


 そこにいたのは、愚民を見下ろす女王。



「さーて、仕事の時間よ雑魚どもぉ?」



 ……本当、キャラどうしたんですか?

今回は平和になりますように……。



気が向いたらブックマークや評価お願いします。

感想などもお待ちしています。



更新ペース回復までしばしお待ちください…………( ノ;_ _)ノ

次回は11月11日、更新予定です。

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