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《最強》になりえない彼が、《最恐》と呼ばれる理由  作者: 岡部雷
トラブルは入学式の前に
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最初の戦闘 後編

すみません。1日繰り上げます。


 一人は無力化に成功した。

 自分の汗ならともかく、ただの水を大量に吸った服を着ていては、自慢の能力も発動しない。



「てめえら、ただで済むと思うなよ!」



 さっきと同じことを言っている。

 二瓶さんが《門》の位置を変えて、残り二人にも豪雨をお見舞いする。


 その隙に、俺は二人に《作戦》を手短に教えた。



「それでいいのか?」

「ああ、時間が惜しい。急ぐぞ!」

「「分かった!」」



 二人はすぐに、行動に移った。



「舐めんなあ!」



 拳先輩が、俺に向かって突進してくる。

 同時に、俺も先輩に向かって走り出す。

 地面を蹴って、拳を大きく振りかぶる。

 やや高い位置。


 だが、拳先輩はニヤリと笑う。



「死んでも知らねえぞ! ブッ飛ばしてやる!」



 ……その気になれば、先輩の手を怪我させることもできる。

 しかし、俺はそんな勝ち方は俺のスタイルじゃない。

 だから、俺は。



 全力で能力を展開して、その拳に突っ込んだ。



 そして、下からのアッパーが炸裂する。

 そのまま空に、キレイな一直線を描いた。

 正面に小さく、()()が見えた。



 ◆◆◆



 さて。

 いい加減、俺の能力を説明しておいた方がいいだろう。


 ①《壁》の性質を変えることができる。硬い壁から、ゴムボールのように柔らかくすることも可能。摩擦、弾性は思いのまま。


 ここまではいい。だが。


 ②展開できる範囲は、俺の体から半径最大3メートル。ちょうどボールの中にいるような状態になる。滅多なことがない限りは、足元部分の《壁》は、地面の形に合うような柔らかさにしておく。上には半球状に展開している。なお、壁は1枚しか出せず、複数枚は不可。

 イメージとして一番近いのは、〈ウォーターボール〉。詳しくは検索。ただし、俺は常に中心にいる。

 ③この壁の中に、他人また生物は絶対入れない。無生物も、身に付けているもの以外はほぼ弾き飛ばされる。大きいものとか絶対無理。


 と、面倒な能力だ。


 したがって、太一や二瓶さんは、俺のバリアの中にいれることができない。

 この能力の標準的なスペックは、またいずれ説明するとして。


 なにより、全力で展開しているととにかく時間が惜しい。

 なぜかと言うと。



 ◆◆◆



 俺が二人に告げたのは。



 〈俺がジャンプして、あの手がデカい先輩に襲いかかるから、俺の後ろから俺に飛びかかれ。ちょっと怖いだろうけど。残りは後で説明する〉



 俺はまず、二人が飛びつくであろう後ろ半分に、()()を高くするようイメージした。

 次に前半分だ。高い()()を付加する。

 なぜ、前半分に限定したのかと聞かれれば、全部に同じ性質を付加すると、殴られた衝撃が後ろの二人にダイレクトに伝わるからだ。


 そして、俺はあえてジャンプすることで、()()()()()位置に入った。

 この時点で、俺の後ろの二人は、トリモチに引っ掛かった虫のようにくっついている。

 その状態で、殴り飛ばされたのだ。


 気分はホームランボールだ。

 構図だけ見れば、俺たちはアニメの悪役のように、吹っ飛ばされて星になっているところだろう。

 が、それこそが俺の狙いだった。


 思った以上に衝撃が大きかったのか、かなりの速度になって殴り飛ばされた。

 現時点で、俺の能力は完全に球体状になっているはずだ。

 この壁の中にる俺は、急激にかかる重力も感じないが、後ろでくっついている二人はたまったものではないだろう。

 ごめん。


 しかし、悠長にしている暇はない。



「太一、《感覚》で落ちると思ったら合図!」



 一応、こっちからの声は聞こえるはずだ。

 向こうも頷いている。

 徐々に上昇が止まって、今度はそのまま放物線を描いて落ちていく。

 壁の向こうで、太一の口が動く。


 そのまま、下に向かって落ちていく。



 ◆◆◆



 もうお分かりかもしれないが、俺の目的は「とにかく逃げる」だ。

 悪いが正々堂々戦うのは、無理だ。


 そして、俺たちが殴り飛ばされた場所。

 まさか、学校案内を見ていたことが役に立つとは思わなかった。

 その道は、まっすぐ北に進んでいくと、ある場所に繋がる。

 それが、俺の目的地。


 俺たちは、そこの手前の数十メートル地点で着地した。

 二人が下にならないように、《壁》を回転させて、二人を上にする。

 もし、俺一人だったら、この《壁》をハムスターの回し車のようにして逃亡するが、この二人がいるから断念した。外に貼り付いた二人にとんでもないダメージを与えることになる。

 そして、《壁》の性質を変化させ、できるだけ衝撃を吸収させる。


 ここで俺の能力が切れて、上にいた二人が相次いで俺にのし掛かる。



「き、聞いてねえぞ! てっきり、三人であの先輩にのし掛かるのかと思ってたのに!」



 咳き込みながら太一が抗議した。



「すまん。でもまだ終わってない!」



 そのまま二人の手を引っ張って、そこに向かって走る。



「こ、ここって」



 二瓶さんは、俺の目的に気づいたようだ。

 太一も、それを見て納得したように「ああ……」と呟く。

 目的の建物に着いたと同時に、おれはそこの窓を乱暴に叩く。

 開いた瞬間、







「二瓶中将の娘さんが、上級生に襲われそうになりました! 助けてください!」








 目的を達成した。



 ここは校舎。

 その一階の、()()()

 俺の狙いは、最初から()()たちだ。

 普通の生徒では、例え訴えても動いてくれないだろう。相手の立場が上だから。

 しかし狙われたのが、()()だからこそ成立する。本人もその場にいて、首を縦に振っているのだから、信じない方がおかしい。

 チクリ魔とか、卑怯ものとか言われても俺は気にしない。

 なにせ、軍の中枢に近い人物だ。

 その娘に危害が及べば、この学校の先生たちは、路頭に迷うどころではない。


 先生たちが血相を変え、慌てて職員室を飛び出していく。

 この時期に学校にいる生徒は限られているだろうから、特定は難しくないはずだ。

俺たちも顔を見てるから、逃げようはない。

 あの先輩たちも、年貢の納め時だ。


 安心したせいか、それとも体力の限界か。

 ここで俺は、膝から崩れ落ちた。


 だが、これだけは言わせてほしい。












 勝った!



 ◆◆◆



 その後の調べで、やはり先輩たちは二瓶さんに良からぬことをしようとしていたことが発覚した。

 そのためには、俺と太一は邪魔だった。

 俺が最初におかしいと思ったのは、昨日は相手の立場がわかって逃げ出したのに、なぜ今日は怯まず向かってきたのか。

 どうやら、良くない写真を撮影して本人、さらには父親も脅すつもりだったらしい。


 本当に、ひどい人たちだった。



 あのあと、俺たち3人は職員室で待機するよう先生たちに言われ、応接机に向き合って座っていた。



「優香のお父さん怖いからなあ。あの先輩たち、退学じゃすまないと思う」



 隣に座る太一は、昔の何かが記憶によみがえったのか、助かったのにガタガタと震えていた。



「ねえ、榎本くん」



 正面に座る二瓶さんが、俺の方に身を乗り出す。



「助けておいてもらってなんだけど、あなたの能力、もうちょっと応用できないの?」


「まあ、やろうと思えばできないことはないけど、一番早く逃げるには、あれが最善手だったんだよ」



 彼女は、疑わしげな表情を崩さないまま、



「あなた、本当に《障壁》の能力者なの?」



 一番聞かれたくない質問だった。

 しかし、あれだけ見せたのだ。()()()しかなかっただろう。



「普通だったら、3人とも中に入れるよね?」


「うん、普通はね。でも、おれは無理なんだ」


「もしかして、複数の展開も?」


「無理だね」


「ねえ、本当に《障壁》?」



 だって調べた範囲では、俺の能力に一番近いのそれなんだもん!

 二瓶さんは、まだ納得しておらず



「じゃあ、もう一回見せてよ」



 俺は首を降った。



「無理。明日にして」


「は?」


「この能力、一度使ったら一日使えなくなるんだ」



 異常なまでの燃費の悪さ。

 これが俺が安易に先輩たちに攻撃できない理由だ。

 その日のうちに復讐に来られたら、なす術がないのだ。

 さらに。



「さっきさあ、『時間が惜しい』って言ってたけど、その能力、どのくらい持つの?」


「普通で五分。さっきみたいに全力だったら、三分持てばいい方だよ」


「絶対《障壁》じゃないよね、きみ!」



 俺の告白に、二瓶さんだけではなく、太一までが目を見開いている。

 なぜならば。



「それって、()()()()()()()1位じゃん!」



 《障壁》の能力の最大の利点。それは「持続する時間の長さ」だ。

 どんなに悪くても、なにもなければ、最低()()()は維持できるそうだから。

 これが分かったときは、相当な外れ能力を引いてしまったと、枕を濡らしたのを覚えている。


 それでも。



「一応、他の《障壁》と比べて、いいところもあるんだよ?」



 それこそが。



「攻撃耐性だけは、上限がない」


「「はあ??」」


「制限時間つきだけど、その間なら、どんな攻撃も俺には通らない」



 これだけが、俺の能力唯一の、誇れる一面だった。

 だが太一は、



「でも、それってあり得ないんじゃ」



 彼の言うことも事実である。

 あの先輩だって、許容限界があると踏んで俺を攻撃したわけだし。



「これは憶測だけど、絶対防御の代わりに、色々失ったんだと思ってる」



 俺は、この能力で渡り合っていかないといけない。

 それが俺の運命だ。

 が、太一はやや気まずそうに



「……こう言っちゃ悪いけどさ、『自分以外誰も守れ』なくて『《壁》は1枚だけしか作れない』上に、『一度の発動時間』と『次の発動までの時間』が代償じゃ、いくら耐久力あっても割りに合わなくねえか? 能力だけ見たら、すっげえ自己中に思われそう」



 そこ言うなよ! 目を背けてるんだからさ!

入学前の騒動は以上になります。

お楽しみいただけましたでしょうか?



少しお休みをいただきまして、週明けから第一章スタートになります。


ブクマも、ランキングもお待ちしております。

気が向いたらポチッと。


誤字脱字のないよう努力はしておりますが、ご指摘ありましたらお願い致します。

内容につきましても、質問を受け付けております。

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