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《最強》になりえない彼が、《最恐》と呼ばれる理由  作者: 岡部雷
見えない敵は大体近くにいる。
59/115

道に迷ったときは分岐点に戻る。

 書類の山が片付くのに時間はあまりかからなかった。先生は黙々とタイピングを続け、15分ほどで終わらせてしまった。

 これでようやく、事件の真相に近づくことができる。俺たち3人は額を合わせた。まず小宮山先生が口火を切った。



「話を整理しよう。一昨日の放課後、1年の女子が使っていた更衣室に誰かが侵入。このとき掃除当番の二瓶と秋山が遭遇している。そして犯人は逃走するときに端末を落とした。この端末の持ち主が真田だったことから、疑惑の目があいつに向かった。で、榎本と真田さんがこの疑惑を払拭するために動き出した。ここまでは合ってるか?」



 黙って頷いたけど、なんか忘れているような。



「だけど調べていくうちに、俺たち先公が他の生徒を疑っていることにたどり着いた。それでいいな?」


「分かったぁ!」



 俺の大声に小宮山先生も舞子さんもビクッとした。



「その3年生が太一の端末持っているのがおかしいんです! まずはそこからですよねっ!」


「あのなあ、テンション上げすぎだ。俺も当然そこを疑っている。両者に接点がない時点で、三原が真田に罪を被せる動機がない。それに――――」



 先生は机の引き出しから、紙を一枚取り出した。



「三原の調書だ。読んでみろ」



 調書によると、三原先輩は

 ・一昨日の放課後に女子更衣室の下の小窓から自身の能力《縮小》を使って侵入。その後、更衣室に金目のものがないか物色。そのときロッカーに端末の忘れ物を見つけ、これを盗もうとした(この後現場にて落としている)。

 ・数分後、掃除当番の生徒と遭遇。二人を突き飛ばして逃走。監視カメラに映らないよう、《縮小》を使用し、排水溝を伝って逃げたと供述。



「……この感じだと、太一の端末を盗んだのは三原先輩じゃないみたいですね。仮に先輩が犯人だとしても、女子のものだと思って盗ってる感じですから」


「だろ? 俺も端末の持ち主についての情報は西山たちから報告は受けてたんだ。だけど――――どうしました、真田さん?」



 先生の視線がずれたのでそちらを見ると、舞子さんが怖い顔をしていた。

 ハッと我に返ると



「……いや、なんでもない。それで先生は端末の持ち主が弟だってこと、他の先生たちには言ったんですか?」


「一応は。ですが他の先生たちは三原を犯人だと思っていますので、端末の持ち主についてはあまり関心がありません。少なくとも、弟さんは疑われていませんよ。ただね」



 舞子さんの表情が険しい理由が分かった。

 先生も同じ結論にたどり着いたらしい。



「そうなると、うちのクラスの女子の誰かが真田の端末を盗んだことになる。うちのクラスでそれができるのは、《転移門》の能力者である二瓶くらいしか、俺には予想がつかないんですよね」



 あ、詰んだ。



 しかし小宮山先生からすればそっちに興味はないようで。



「『うちのクラスに窃盗犯はいない』。今はそうしておきましょう。それよりも、三原が実際に侵入したかどうかも怪しいですし。犯人に脅されて見聞きしたことをそのまま喋っているだけかもしれない」



 俺は実際に三原先輩を目にしたわけではないが、人徳がすごいことだけは伝わってきた。

 先生はメモ帳に走り書きをすると剥がして俺に渡す。



「だから、榎本。おまえが話を聞いてこい。大人じゃあ、大っぴらにできない仕事だからな。寮の場所と部屋番号はこれに書いてある」



 ◆◆◆



 学校から一番近い寮。他の寮がマンションのような形式を取っているのに対し、ここはやや古典的というか入り口ですぐ靴を脱いでスリッパに履き替える必要がある。ここに畳があったら迷わずこっちを選んだんだけどなぁ。こういう木の床も嫌いじゃないけど。

 俺のクラスメートは誰もここに入っていない。倍率が高いのだ。

 入ってすぐ目に入るのは、大きな玄関ロビー。そこにシックな色合いの調度品が並んでいる。同じ寮なのになぜここまでデザインが違うんだと内心でツッコミを入れた。

 建物自体は4階建てと大きく、探すのに手間取りそうだ。あちこちから談笑が聞こえてくるが、全く知り合いのいないこの場所で誰かに声をかける度胸はなかった。

 えーと、965、965……



「誰だ?」


「おわっ!?」



 背後に見知らぬ生徒がいた。多分上級生だ。引き締まった細身に、横真一文字に結んだ唇。



「ちょうど良かった。965室はどこですか?」


「……三原に用事ってことは、一昨日の事件のことか? まあいい。案内してやるよ」



 案内される途中で、大部屋を幾つか見つけた。入り口に掛けられたプレートには〈談話室〉と彫られている。中では十数人の生徒が何かの話題で盛り上がっていた。

 寮の談話室って、こんな感じなのか。最近雨ばかりだったが、今日は夕日が部屋全体に差し込んでいる。

 ……眩しっ。



「ここだ」



 ドアには真鍮で出来たライオンがあしらってあり、その口にはつり輪があった。

 ドアノッカーなんて見たのは生まれて初めてだ。

 数回ノックしたが、中からの反応はない。



「……悪いな、留守みたいだ」



 ある程度は予想していた。明日退学になるのだから、手続きも色々とあるだろう。

 踵を返して戻る道すがら、上級生は



「ところで、あんた誰だ? 〈裁定委員会〉の連中じゃないようだが」



 一歩下がってお辞儀する。



「申し遅れました。1年の榎本と申します。ちょっとこの事件を調べてまして」



 先輩の花からフフッと空気が漏れでた。



「……いや、バカにするつもりはなかったんだ。大方、更衣室にいた女子の友達かなにかだろ? 君も災難だったな。俺は尾上(おがみ)。それにしても、堅苦しい挨拶するな、おまえ」


「目上には敬意を払えと教育されてますので」



 尾上先輩は、あっそうと俺の文言を聞き流す。



「三原は前にも一度やらかしてるからな。悪い奴じゃあないんだけど」


「やっぱり先輩も、怪しいと思います? 話を聞く限りだと、三原先輩はそんな外道には思えないのですが」



 尾上先輩は難しい顔で腕を組む。



「……でもなあ。侵入だけならまだしもロッカー漁ってたんだろ? 倉橋から色々聞いたよ。たかが端末のために1年のジャージまで用意して、そこまでする必要あるかね?」


「お知り合いで?」


「知り合いじゃなくても、事件の詳細は誰だって気になるだろ。3年生の間じゃその噂で持ちきりだ。知ってると思うけど、あいつは善人過ぎる性格だから周囲が受けたショックも大きかったんだ。前回と違って入る目的がどう考えても下世話だからな。これが氷室だったら、すんなり納得できるんだけど」



 なるほど、前会長とはえらい違う評価だ。



「一つお尋ねしたいのですが、前回の侵入の際、何が狙いだったかご存じですか?」


「うん? 期末テストの不正採点の記録だろ? 泣き寝入りしてた女子がいてなあ。三原にすっごく感謝してた。元から仲良かったんだけど、どうして付き合わなかったのか不思議なくらいだ」



 ……何を狙ったかに関しては、おそらく倉橋先輩は誤情報を流したのだろう。その女子生徒への配慮に違いない。



「そうですか。ならもう一つ。どうして先生たちはまともに調べもせず、供述だけで三原先輩を犯人だと決めつけたんでしょう。第三者から見てもはっきり分かるような証拠があっても良いと思うのですが」



 尾上先輩は苦笑いしながら



「……俺に聞かれてもなあ。決めたのは先生たちだろう?」


「……それもそうですね。失礼しました。では先輩として、三原先輩のことどう思います? ぶっちゃけ、犯人だと思ってますか?」


「正直、あいつがそんなことするような奴だとは思ってない。だから、なんで証拠が出る前に自白したのかは確かに気になるがな」



 潔いのもあいつの良いところなんだけど、と尾上先輩は自分の意見を述べた。



「仮に金目当てだったとして、端末って売れるもんなんですか?」


「売れるよ。端末には生徒の個人情報がギッシリ詰まってる。一人の情報を売っただけで数十年は暮らせる額になるって噂もあるくらいだから。ただ、ロックかかってる場合は5回解除ミスすると端末は自動で残ってるデータを消去する仕組みだから、ロックはかけておいた方がいいぞ」



 俺は端末を渡されたときのことを思い出していた。



「記憶が間違いなければ、先生が一度パソコンに繋いでいたような気が……」


「あれは教師が専用のコードを入力して初期設定をしてるんだ。あれの方がもっと危ないぞ。専用コード以外の有線の外部入力あった場合、問答無用で端末はデータを消去するからな」



 対策は徹底されているようだ。二瓶さん、あれどうするつもりだったんだろう。

 そこまで喋ったところで、玄関に戻ってきた。



「悪いな、お目当ての相手に会えなくて」


「いえいえ」



 俺は笑顔で寮を後にした























 ――――ふりをして急いで寮の裏手に回る。

 三原先輩の部屋に当たる部分を見つけた瞬間、能力で窓に向かって飛んだ。

 ガラスに当たる瞬間、《壁》を硬化させた。


 中に転がり込むとベッドには男子が一人、眠っていた。

 多分この人が三原先輩だ。

次回、決着です。



評価に感想など、先が気になった方はぜひぜひ。





次回は10月27日、更新予定です!

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