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《最強》になりえない彼が、《最恐》と呼ばれる理由  作者: 岡部雷
見えない敵は大体近くにいる。
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容疑者はどこへ?

「君たちが異能力の授業受けてる間に、弟の端末を盗まれたと思ってる?」


「ええ。違うんですか?」



 俺の相談は続いていた。

 異能力のカリキュラムを受けている間、特に実技の訓練の場合は落として壊したりしないように、ほとんどの生徒が端末を鞄の中に入れている。


 俺が犯人ならその時間を狙うだろう。

 だが舞子さんはきっぱりと



「無理だね。君たちだけならまだしも、監視カメラに映らずに廊下を移動するのは無理だ。あのカメラは特殊でね、異能力で姿を隠してもサーモグラフィみたいに映し出せる機能がある。能力者用に開発された機械を騙せる能力者なんて、あたしの知る限りはいないね」



 つまり、教室に忍び込むのは実質不可能?

 いや、まだ可能性がある。



「転移は?」


「あのねえ、4月の事件以来この学校の中じゃ《転移》が使える場所が少なくなったの知ってるでしょ?」



 そうだった。そういえばそのせいで俺は寮の壁をぶっ壊してるんだった。すっかり忘れてた。

 あれ以来、建物から建物や、部屋から部屋への移動ができなくなっている。セキュリティが強化されている状態で、施錠された教室に侵入するのは不可能に近い。



「となると、太一の端末が抜かれたのはもっと別のタイミングだ。それでも、抜き取るのは至難の業だろうけどね」



 その意見には賛同した。

 太一はかなり用心深い性格なので、端末は使うとき以外は必ず鞄に入れてファスナーを閉めている。

 それに、よほどのことがない限りは他人に鞄を預けない。よくある「じゃんけんで負けた奴が友達の鞄を全部持つ」みたいなゲームにも参加しないくらい。


 その状態で鞄から端末を抜き取るのは、無理だ。



「つまりあたしらは今、『女子更衣室へ侵入した犯人』と、『太一の端末を盗んだ犯人』を追わなきゃらならない。これは少し面倒だぞ?」



 少し違和感を覚えた。



「……その言い方だと、二つの事件は別のように聞こえますが?」


「まあね。でももし同一なら、犯人の狙いは最初から太一ってことにならない? 自分の弟のことだから言うのもおかしいけど、あいつ人から恨み買ったこと一度もないんだよ」


「……確かにそうですね。じゃあ、犯人の目的は『罪を太一に擦り付けること』? でもそれだと」


「……ああ。犯人はこの二つの無理ゲーをなんなくクリアしたことになる。覚悟してかからないと、返り討ちに合うよ」



 舞子さんは新しい鉛筆を取り出すと、鉛筆削りに突っ込んだ。



 ◆◆◆



「太一に恨みのある人? いたら私が放置してない」



 寮に戻ってから、太一に部屋にいた二瓶さんに聞いてみた。まるで自宅のようにくつろいでいる。いくら外から見えないとは言え大胆だ。おお無防備よ。


 じゃなくて。



「そもそも、あいつは恨み買うようなことしてないでしょ」


「でもさ、更衣室に侵入した犯人が太一の端末を落としたのは事実でしょ? 俺がいなかったら今ごろあいつは謹慎、下手すりゃ退学なんだから」



 当の本人は呑気に夕飯を作っている。おー、この匂いはカレーだな。



「ところで、今日は食べていくの? だったら私、戻るけど」


「いやいい。最近料理の楽しさに目覚めてきたんだ」



 わずか2ヶ月で、俺の料理の腕が上がっていた。

 壁を壊して以来、俺が太一のご相伴に預かっていると、壁の穴の向こうから恨めしげな視線がこちらを射ぬいていたのだ。

 気まずさに耐えきれなくなり、俺は太一に料理を教えてもらうことにした。

 5月が終わる頃には、一週間のレパートリーが作れるほどにまで上達した。味は到底叶わないが、食えるものが作れるようになるというのは感慨深いものである。

 今は週に一度だけ、料理を教えてもらう名目で食べに行くくらいだ。



「そう。ならいいけど。でも、犯人がどこに消えたのか本当に分からないの。顔も逆光で見えなかったし。それに端末は太一のものってことで結論がついたけど、ジャージの方が分からないじゃない?」



 なんかそんなことも言ってたな。



「うちのクラスの名前入ってたんだっけ?」


「そう。背中に大きく『1の1』って。でもうちのクラスじゃないなら誰があれを着てたんだろう?」



 俺も少し考える。

 あのジャージは購買ではなく、教室で渡されるものなので間違えようがない。それに、ジャージのには小さくだが名前が刺繍されている。



「前からだったら、名前くらいは見えただろうにね」


「いや、前から見たんだけど、相手が機敏すぎて動体視力が追い付けなかった。申し訳ない」



 犯人は少なくとも、うちのクラスの人間じゃない。

 じゃあ、犯人はどこへ消えたんだ?



 ◆◆◆



 翌日。

 授業は通常通り行われたが、午後の異能力の授業は教室で筆記の小テストに変わった。



「7月になったらすぐに期末ですからね~。今度の実技はもっと厳しいものになるので覚悟しててね~」



 花田先生は最近機嫌が悪いのか、しゃべり方のわざとらしさが日に日に増している。

 小テストが終わると、隣のクラスの生徒が寄ってきた。

 男なのに女子のような甘ったるい臭いが鼻腔の奥にこびりついた。中途半端に長い髪の毛が無駄にサラサラしていて、正直非常に気持ち悪い。

 ニヤァ、と笑うと



「ねえねえ、更衣室に君んとこのクラスの男子がいたって本当?」



 俺のときもそうだったけど、噂広まるの早くない? いや普通か?



「……言っとくけど、うちのクラスの人間じゃないよ。他の誰かだ」


「ふぅん、そう」



 その男子は、期待外れと言わんばかりの落胆を顔に浮かべたまま去っていった。

 なんなんだ、あいつ?



「ねえ、榎本」



 背後から別人の声が聞こえた。

 西山美咲(みさき)。二つのクラスが合同となって、〈直結型〉と〈範囲型〉という異能力のタイプ別で分かれるなか、唯一同じクラス、かつ俺と同じ〈範囲型〉が彼女である。

 太一は彼女を、「凶暴になったリス」と評価していた。普段はおとなしいのだが、怒らせるとかなり怖いらしい。



「おまえさ、一昨日の事件についてどう思う?」


「どうって?」


「真田の端末があったってことは、疑惑はあいつに向かうでしょ? あいつ人から恨み買うようなやつには見えないんだけど」



 やっぱりみんなそう思うか。

 ただあいつに鉄拳をお見舞いしたあんたに言う資格はないような。



「嫉妬はされそうだけどね」



 ん?



「だって、真田って男女問わず平等じゃん? 爽やかだし、頭もそこそこいいし、料理美味しいし。あんた隣だから、いつもご飯たかってるんでしょ?」


「たかりとは失礼な。俺はあいつが作りすぎたおこぼれを貪ってるだけだ」


「否定はしないのね」


「だけど、嫉妬ってどーゆー意味だ?」



 俺の質問に帰ってきたのは、考えられる限り最悪の答え。



「だって、真田って既に何人かからコクられてるじゃん? なのにあいつ『好きな人がいるから』って全部断ってるんだよ」



 ◆◆◆



「…………なあ、榎本くんよ」


「……はい」


「文字通り愚弟で申し訳ない……」


「ええ、本当に……」



 食堂の事務室はまるで葬式のようなムードに包まれていた。



「『ごめんなさい、あなたとは付き合えません』だけにしておけとあれほど言ったのに……!」



 二人で頭を抱えた。新たな可能性が浮上してきたのだ。



「太一の『好きな人』を探してるかもしれないぞ、これは」



 かなりまずい。

 太一と二瓶さんの交際は色々と複雑な事情があるのでひた隠しにしてきたのに、本人のせいで秘密の堤防が決壊寸前だ。



「でも、更衣室に忍び込んでいたのは男だったみたいですよ?」


「例えばさ、自分の好きになった女が太一に惚れたとかあるかもしれないじゃん? 振られてるけど」



 うーん、でも好きな人が太一に告白して玉砕したなら、むしろチャンスが来たと喜ぶのでは?



「それだったらまだいいけど、『あいつの告白を断るなんて、あいつのどこが悪いんだ! そんなにおまえの相手はいい女なのか!』とか思うバカもいるかもしれないじゃん? さすがにこういう展開はフィクションであってほしいけど」



 同感だ。



「とにかく、ここでしゃべっててもあたしら二人じゃらちが明かん。君んとこの担任、呼んでくれる?」



 時刻は4時すぎ。小宮山先生、まだ残ってるかな。

※ちなみに、男子に更衣室はありません。





面白いな、続きが気になるなと感じてらえたら、ブックマークよろしくお願いします!


評価、感想などもお待ちしております( ノ;_ _)ノ



次回は10月23日更新予定です!

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