やらなきゃいけないときに限ってやる気は出ない
トラブったのでミスがあるかもしれません。
大平先生が説明の大部分を端折ってしまったので追記すると、合格証の隠し場所は全部で8ヶ所。つまり1クラスごとに割り振りが決まっている。
学年全体でシャッフルされたら洒落にならなかったけど、これならまだ大丈夫だろう。
難点なのは、個人単位の赤点ではなく、失敗すればクラスで連帯責任を取らされる。ちなみに補習内容は「決まってからのお楽しみ」だそうだ。
「では、制限時間は2時間。始め!」
学年主任の声と共に、クラスごとに生徒が輪になった。
「俺、『太陽の』なんだけど!」
「じゃあ、あたし近いかも! 『光が』だから!」
どうやら文を作ること自体はやはりすぐに終わりそうだ。
俺の持っていた『届かない』のメモは、宇田川と桐山に持っていかれた。
パズルが得意な面子が集まって、文章の復元をしている間。暇を持て余した俺は、同じく時間を潰していた太一に疑問をぶつけてみた。
「こんな宝探しゲームみたいなので本当に試験になるのか? 正直、異能力の出番が全く見当たらないんだけど」
太一も首を傾げながら
「大平先生はああ見えて評価には私情を挟まない人だ、って聞いてたんだけどなぁ……」
俺個人としては、俺たちはあの先生の逆鱗に触れてしまっているので不安が残る。
でも太一が言うのなら信用するべきか?
そうこうしている間に、文章の復元が終わったようだ。
復元された文章は3つ。それが俺たちのクラスの合格証がある場所のヒントなのだそうだ。
1・「太陽の光が届かない暗闇の中。されど人ならざるものに安寧あり」
2・「全てが白に変わるとき、鍵穴が見つかる。」
3・「1から8まで全て足しても、9には及ばない場所。」
……なんじゃこりゃ?
これ本当にヒント?
◆◆◆
絶対に異能力の試験じゃないだろ、と宇田川が先生に抗議したが、「文句があるならやらなくてもいいぞ? 補習は確定だけどな」と小宮山先生に一括されてしょげて帰ってきた。
メンタル弱っ。
いや問題はそこじゃない。
「たったこれだけをヒントに探せって言うのか? 無茶すぎるだろ!」
男子の一人が既に諦めモードに入っている。
クラスの中でも頭脳が優秀な数名が、暗号の解読を買って出たものの、すぐに15分が経過した。
他のクラスは悩む様子もなく、すぐさまグラウンドを出て行った。あっという間に出遅れた。
更に数分。
「何かの保管庫ではないか?」という仮説が持ち上がった。暗い場所、そして人ではないものに「安寧」、つまり安全というわけだ。
「鍵穴」の見つけ方は、その場所に行かなければ分からないだろう。となれば最後のヒントがカギだ。
「ただ数字を足すってわけじゃないでしょ? 1から8まで足したら36なんだし」
女子の中で一番成績がいい西山が言う。この3番目の暗号が解ければ、少なくとも場所が分かる。
だがさっぱり分からない。1から8まで足してなお、9には届かない? どういうこっちゃ?
「もしかしてさ」
二瓶さんが入ってきた。
「これは異能力のテストでしょ? この暗号、もしかしたらなにか異能力で解読できるような仕掛けがあるんじゃない?」
おおっ、と一同から驚きの声が上がった。なるほどそれなら異能力の試験に――――なるか?
うっすら疑問は残ったが、二瓶さんの言葉を聞いて即座に動いて人がいた。
「このクラスにある異能力で、かつ暗号の解読に一役買いそうなのと言えば、恵令奈パイセンの《火炎操作》か、柊の《温度操作》の2人じゃね? これきっと、炙り出しだよ」
伊藤だった。
彼の言う通り、今この場でできるとすればそれしかない。
だが。
「でてこないよ?」
紙に変化はなく、ただ炙って終わってしまった。
それ以外だと、隠された暗号を読み解けるような奴なんて。
「……」
どうやら、いたみたい。
◆◆◆
「はあ? どう考えても嘘だろ!」
炙り出し以外で見えない文字を書く方法。「不可視インク」を使えばいい。
そしてうちのクラスには、そのインクを見抜ける奴がいる。だがその当人が発した言葉に、クラスが分裂した。
「『おまえらと女子は別ルートで試験をやります』!? ふざけんのも大概にしろよ!?」
宇田川が彼に掴みかかる。
「光太郎と太一だけだと!? おかしいだろうが!」
「そう言われても……」
太一が乱れたジャージを整える。
なんでも、暗号が書かれた紙の裏地に不可視インクで「これを見破った人、そして同じクラスの《無効化》の能力者。及び女子には別の試験を用意していますのでそちらに向かってください」と書かれていたそうだ。
太一の能力《知覚強化》が役立つ場面を見たのは久しぶりだった。彼の異能力で、本来なら見えないインクの文字が解読できた。それにしても。
……やっぱあの先生、かなり私情を挟んでない? だって太一と伊藤がいなくて、かつ女子がいないとなれば残ったメンバーは先生に怒られたばかりの連中だらけだ。
となると。必然的に「保管庫」の場所も限られてくるような気がする。この学校には図書館に収まりきらなかった大量の本が書庫に保管されているのだ。俺以外の奴らは、土日の間ずっとそこで本を整理する操り人形になっていたのだから。
露骨だなぁ。
「もしかして、暗号の二番目って本の分類コードのことじゃない? うちの学校小説の数多いし」
女子の一人の一言で、俺たちの行き先は確定した。
「おーいおまえら、30分経過するけどまだ行かないのかー?」
小宮山先生がボリボリと頭を掻きむしっていた。
宇田川が再び抗議する。
「先生! なんで俺たちが別口なんですか!」
「なんだ、そこまで気付いたならさっさと行けよ。早くしないとどっちも補習だぞ? 俺は親切だから教えてやるが、補習の内容は『死ぬかもしれない異能力強化・補習バージョン』だ。普段の授業の数倍はきつくなるから、おまえらひよっこにはしんどいだろうなあ」
それを聞いてみんなが凍りついた。普段の授業でさえまともについていける人は少ない。なのにそれより数倍キツイって。
揉めてる場合じゃねえ。
慌てながら、それぞれの目的地に赴くのだった。
「なんだおまえら。思ったより早いじゃねえか」
図書館に向かうと、大平先生は本の修繕をしていた。一応確認ですけど、今試験中ですよね?
「じゃあ、地下の書庫を片付けてもらおうか。おまえらの分の合格証は、どこかに置いてあるから。ま、せいぜい時間いっぱいまで頑張ってくれ」
先生は先頭にいた俺に、書庫の鍵と整理する内容を書いたメモを手渡した。
◆◆◆
「うへー……」
地下の書庫は、本来の図書館と同じくらいの広さだった。そこに、そこ以上の本がぎっしりと並んでいる。人がほとんど入らないためか、通路が狭い。
本の保存のために温度と湿度の調整は万全のようで、入り口も二重になっていた。
俺たちが整理するのは、小説の文庫版だった。新刊が入ったので持ってこいとのこと。メモに目を通すと「能力は使ってよし」とあったので、それぞれの能力を使って仕事を始めた。
この間は完全に肉体労働だったみたいだけど、今回は能力を使っているのでペースは格段に速くなった。
《個体操作》の渡辺と、《重力操作》の太田。二人の協力で大量の本を一度浮かせる。
体の一部を大きくする《拡大》の能力を持つ本田のが、万が一に備え、本の下で手を大きくする。本が床に落ちないようにだ。
メモの指示に従い、《気圧操作》の浜田が、書庫の気圧を上げる。
細かい分類をした後、図書館に持って行く分を段ボールに詰めて、宇田川と《迷彩》の岩田が運搬した。なぜこの二人なのかというと、「一応授業中だから、見つかるな」とメモに書かれているからだ。
怪力の宇田川に、岩田が近くで《迷彩》をかけ続ける。ものの30分で片付いてしまった。
だけど、合格証が見つからない。
終わったらくれるのだろうと宇田川は予測していたそうなのだが、実際にはそんなことはなく。
大平先生は一言
「探せ」
どうしろと?




