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《最強》になりえない彼が、《最恐》と呼ばれる理由  作者: 岡部雷
何に化けるか分からない
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一難は去る。

※ちょっと汚いものが出てきますのでご注意を。(食事中の方は特に)

 砂の塊にぶつかる瞬間、俺は体内で小さくしていた《壁》を元に戻して突破した。だが相手はそれを見ても、特に驚いた様子はない。そりゃ戦闘の途中で能力を切るなんて普通ないからな。

 ……本音を言えば、このハッタリは通用してほしかったけど。

 現時点で俺の《壁》は半径1メートルの範囲で展開している。この状態なら2、3分は持つはずだ。それまでの間に勝たなければ、俺の体はミンチコース確定だ。


 考える間もほとんどなく、敵は再び攻撃を仕掛けてくる。今度は暴風だ。だが俺の能力には通用しないので相手との距離を難なく詰められた。

 しかし相手はこれを狙っていたようで、近づいた瞬間に右手のパンチが飛んできた。とりあえず今のところ相手の攻撃は《壁》で防げている。すると相手は様々な能力を高威力かつ至近距離から何発も叩き込んできた。《壁》の耐久値を削るためだろう。ただの《障壁》と勘違いしてくれているのなら、これを利用しない手はない。

 時間経過からして、あと1分で能力が切れる。

 逃げに徹するために、動体視力と相手の行動予測だけは鍛えてきたつもりだ。


 再び相手が拳を構える。

 ……よし。これならいけるかも。


 拳が《壁》に当たる寸前、俺は《壁》に付与していた性質を変更した。作戦通り、拍子抜けした相手の体勢が崩れた。

 例えるなら、今まで殴っていたのはサンドバッグで、それがいきなり暖簾になったような感じで。


 ちなみに、相手を引き寄せた上で弾性を付与した《壁》を勢いよく展開することで弾き飛ばすのが、この能力では一般的な攻撃方だ。

 だが欠点もある。最初から飛ばされることを想定すれば対策ができてしまうからだ。それに相手は複数の能力を持っている。ただ遠くに飛ばすだけでは意味がない。

 戦闘向きではあるのだが、主にカウンターが主流。しかもすぐに対策ができてしまう。弱点は《障壁》と大差がない。

 でも今回は、それを利用する。


 進んでいる体を後退させるその一瞬を見逃さず。動きが止まった腕を壁越しに()()()。正確に言えば手首だ。こちらの感触としては、実際に触れているのと何ら変わりはない。

 途端に、向こうの血相が変わった。



「What!?」



 おー、本日聞き取れた単語二つ目。どうやら相手は英語を話す御仁のようだ。どうでもいいけど。

 焦る気持ちは分かる。



 だって相手は腕が引っこ抜けないんだもん。



 しかも突っ込んだ腕の大部分が《壁》の表面から奥深くに埋まっているので姿勢が不安定になる。

 俺は自分の意思で《壁》の形を変形させることはできない。だが、()から力が加わるなら話は別だ。

 バランスボールだって、表面に手で圧力を加えれば中にめり込む。中の空気が抜けていれば、もっと奥まで入るだろう。



 今の《壁》の状態は、相手が殴ってきた部分()()、伸縮するようにしてある。それ以外は体育マットくらいの固さだ。相手からすれば腕がめり込んだ瞬間は、少しサイズの小さいゴム手袋をはめたような感覚だったはずだ。違う部分があるとすれば。



「●●●! ●●●! ●●●●~~~~!」



 そのまま固まってしまったことだろう。ギプスのように。

 隙間なく皮膚と密着した状態の《壁》を硬化させたので、指を動かすことすらままならない。


 だがこちらにも余裕がない。

 あと15秒で能力が使えなくなる。


 十八番である弾き飛ばすが有効でない以上、必然的に()()()()を使わざるを得ない。

 弾む以外に、俺が知ってる使い道。



「……絶叫アトラクションは好きかい?」



 ◆◆◆



「えげつないことするね、あんた……」


「とりあえず拘束に成功したんですからいいじゃないですか。それにしても、先生と戦ってた方が《分身》だとは思いませんでしたよ。マジでこいつらなんなんですか?」



 辛くも勝利した。いやー危なかった。

 ちなみに俺が倒した相手は青い顔で気絶中。他のやつらよりも分厚い氷で拘束してある。



「……直に触れてやっと分かったけど、こいつは60近い数の異能力を持ってる。仮に自分が能力者だったとしても、それ以外に50人以上から吸い上げた計算になるね」


「…………、ってことは……」



 それだけの数の人間が、死んだということ。実感のわかない事実だった。

 呆けていると、スミス先生が頭を下げた。



「ありがとう。あんたがいなかったらあたしはここで死んでたよ。にしても――――」



 先生は親玉に哀れみの目を向けた。



「あんたって策士なのかバカなのかちょっと分からなくなったよ。殺さない主義かい?」


「いいえ。人を殺して罪悪感に苛まれたくないチキン野郎です。あとグロテスクなものは苦手なので」



 そこまで達観していない。

 ただやっぱり自分から人を傷つけるのに抵抗があるだけだ。血を見るのは苦手だ。

 先生は疑惑の目を俺に向けた。



「……こいつグロッキーにしておいて? ああ近寄るな! 私、ゲロの処理はしないからね? それにしても、やっと倒したと思ったら分身で、焦って振り向いたらあんたが高速()()()してたときはどうなるかと思ったよ。あれはあんたの必殺技?」



 腕をガッチリと固定した後、壁を回転させて振り回した。

 普段は《壁》だけを縦に回転させてハムスターの回し車の要領で使っているのだが、今回はその《壁》に触れている状況で縦横無尽に回転させた。もちろん、相手を砂に叩きつけるなんて怖くてできないのでそれは避ける。

 それを能力が切れるまでの15秒、全力でやった。腕をが固定されているので逃げることが叶わないままあ滅茶苦茶な方向に振り回したのだ。

 人間同じ方向に10回転すると、フラフラになってまっすぐ歩けなくなるらしい。

 自分でもズルいなと思ったのは、俺には回った影響が相変わらずゼロだったこと。

 周りの景色が高速で動いているなー、くらいの気持ちにしかならなかったが、相手は涙目になって最後に吐いた。

 能力が切れた途端に、俺にもゲロが引っ掛かった。そのまま相手は青い顔のままぶっ倒れた。ああ、臭い。



「ねぇ、結局何回転させたの?」


「いやぁ無我夢中だったので……。あと別に必殺ではないです。殺すほどじゃないんで」



 でも大の男が涙流してゲロ吐いたくらいだからなぁ。高威力なのは間違いない。



「でもこれ、あんまり多用してないでしょ」


「はい?」



 なぜバレた!?



「その技は相手の予備知識不足が前提にある。そうじゃなかったとしても、向こうが遠距離から攻撃してくるタイプなら無意味だ。それに、相手が素手で攻撃してきたから成立したんであって、武器とか獲物で攻撃してくるんだったら全く意味ない。ここで使ったのは、他の生徒に見られる心配がないからでしょう? あと能力使ってるにしてはビジュアルが地味。腕持って振り回してるようにしか見えない」


「最後のは別にいいでしょう!?」



 全部当たりだけどさぁ!

 なんで「初見にか通用しないなあ」って思ったとこまで知ってるんですか!? 見てたの!?



「これくらいはざっと思い付くようにならないと、あんたのハンデはカバーできない。そう思っといた方がいいよ。それに、いざ決まったら相当ダメージ食らうみたいだしね。」



 改めてレベルの差を思い知らされた。

 あ、そうだ。帰る前に聞いておこう。



「ところで先生、《相対有利》の弱点ってなんです?」


「なんだと思う?」



 教えるつもりはないらしい。

 自分で考えろってことでしょうか?


 そこへ、大きな《門》が再び現れた。ようやっと、味方が来たようだ。



「う~ん、さて、仕事も終わったしあんたを学校まで送ったらそこでさよならだ」


「え、いなくなるんですか?」


「元々は別の仕事をしていてね、こう見えて結構忙しいの。今回だって緊急の案件だったから受けただけだし。でも久しぶりにまともに戦ったねえ。ああ、それと」



 先生が一人サイズの《門》を作る。目の前には、見慣れた校舎があった。

 スミス先生は少し声を落として



「……助けておいてもらっておこがましいけど、今回勝てたのは『まぐれ』だと思っときな。でも、臆病者にはしては良い戦い方だった。その臆病の精神、これからも伸ばしていきな」


「ええ。分かってますよ、先生」



 先生が背中をポン、と叩く。 

 俺は少し笑って《門》を通り抜ける。



 ◆◆◆



 大仕事を終えて帰宅した鶴宮は食事もせず、ただ畳に寝転がっていた。

 あとは()の報告を待つだけだ。



「はい、お土産♪」



 唐突に、仰向けになっていた彼の体の上に何かが落ちてきた。

 それは、小さなアンプルだった。中には透明の液体が入っている。



「それを使えばあら不思議♪ あなたも《譲渡》の能力者♪ どうする、鶴宮さん?」


「……これが最後か? 作れたのは確か10本だろう?」



 音もなく入り込んだ《社長》は、畳の上であぐらをかく。



「そ。作られた数のうち、今回とっちめた人を含めて実際の使用例が7件。残りはこうして全て鶴宮邸に保管してある。どうする?」


「……庭の池に残りのアンプルがある。おまえにやるよ」


「あら、《複合能力者(キメラ)》はもういいの? これがなくなったら、再現は不可能だと思うけど?」



 鶴宮は天井を仰ぎながら



「……それでいいんだよ。こいつは人の手に余る」



 ◆◆◆



 やっと平穏な日々に戻れる。

 四月に始まったこの騒動続きの毎日も、事件の解決でやっと終息を見た。お陰でその日は倒れるように眠った。翌日は今までにないほど清々しい朝を迎えた。


 さあ、青春と学生生活を謳歌するぞおおおぉぉぉ!!!




「えー、事件が解決したので、スケジュールにもう一度変更があります。来週、中間テストやりま~す」






 もうですか!?

おまけ


●の会話内容(和訳)


〈前回〉


「おや、あなたのようなお方に会えるとは珍しいですね?」


「なんだい、あたしのこと知ってるのかい?」


「知っていますとも。どうやら私は当たりを引いたようですね?」


「OK。よく分かった。でも、あんたら好きにさせるつもりはねえよっ!」



〈今回〉


「や、やめろ、なにをする! わああああ!?」



そんな感じです。



最後にもう一話挟んだら、次は中間テストです。ああ、嫌な思い出が……。









ブクマが過去最高速度(自分のなかで)で伸びていて非常にビックリです。

いつもご覧いただきありがとうございます!


評価や感想などもよろしかったら是非。



次回は10月11日、更新予定です!

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