努力は必ずしも結果にはならない。ただしズルは後でしっぺ返しがくる。
ちょっと遅れました!
「本命」はまだ来ていないようなので、先生は生徒の避難を優先させることにした。
「そいつらはもう動けないはずだから、とりあえずこの辺に並べといて!」
先生が俺を従えているのを見て、生徒たちは警戒を解いて指示通りに動いた。どうやらほぼ全員が砂浜にいたらしく、クラスのみんなの無事も確認できた。
氷でガチガチに拘束された外国人の男女が砂浜に並べられている。ざっと数十はいるだろう。どこかで見たマグロの競りを思い出す。
「これ、どうするんですか?」
「とりあえずは軍と警察の到着を待つしかないねー。全国にある無人島でおんなじことが起こってるはずだからあっちも忙しいだろうし。それとこれから生徒たちを学校に送り返すけど、あんたは残ってね? ……さてジャリたち! いきなりで悪いけど今度は帰宅だ! 大丈夫、学校までの安全なルートは確保してるから!」
先生が言い終わる前に、その隣に巨大な《転移門》が現れた。申し訳ないが、二瓶さんのものとは比べ物にならないサイズだ。
生徒たちは我先にと雪崩れ込んだ。そんななか、太一が寄ってきて
「おい、優哉は?」
「悪い。ちょっと残れって言われてんだ。もしかしたら帰れないかもしれないから、俺の飯はいらねえ」
「そうか……。気を付けてな!」
そのまま彼も《門》の向こうに消えていった。
生徒たちが無人島に来て、謎の戦闘を繰り広げそこから学校に戻るまで、実は30分も経過していない。
あっという間の出来事だった。
教師と無人島で二人きり。
字面だけみると怪しい展開が待っていそうなものだが、現実はそんなことを考える余裕もなく。
「あの、俺が残る意味はありますか?」
「あるよ。これから本命がここに来るって言ったでしょ。あたしの能力で対抗しきれるかどうか微妙なんだよ」
「……なんで普通の先生たちじゃなくて俺なんですか?」
先生は太陽が眩しいのか目を細め手を額に当てて日陰を作っていた。
「……あんた、《譲渡》の能力者って分かる?」
スミス先生の言葉に、俺は首を横に降った。聞いたことのない異能力だ。
いや、聞いたことはあるか。
確か入学式の事件で誰かが言ってたような。
「『誰かの異能力を他人に移す』異能力。あいつらのなかにはそういう能力者がいる。これを使えば、能力を持たない人間Aが、能力者Bから能力を譲り受けることができるの。しかも複数の人間から別々の異能力を一人の体に収めることもできる」
わー、便利そう。
「ただし譲渡した側、つまりBは死ぬけどね」
俺はがっくりとうなだれた。そんな気はしてたのだ。
「何となくわかってました……。そうでなきゃ『死体で櫓』はできませんからね。もしかして《拒絶》の異能力はそれにも有効なんですか?」
「そう。で、あたしの異能力は《譲渡》に対して有利になる力が発動できない。大抵の異能力は、《敵の能力にとって相性が悪い能力》か、《無効化》でどうにかなるんだけど、これだけはどうにもならないの。ただの能力者よりも上位にあるから、先生たちが来ると逆に能力を奪われる可能性もあるんだよ。それに唯一対抗できるのが《拒絶》ってわけ。生徒を巻き込むのは本当は好きじゃないんだけど、どうもあたしは〈外れ〉を引かされたみたいでさ」
外れ?
「なんでも、この学校に新種の能力者がいるみたいでね。しかもかなり強力な能力で、それを捕まえるために敵さんの戦力はほとんどがここに向いてるらしいよ。さっきこいつらの能力全部解析したけど、こりゃ紛争でパワーバランスが傾くレベルだよ。戦闘が長引いたら、間違いなく生徒たちは殺られてた」
え? この人たちそんなに強いの?
「……どうやって拘束してるんですか? さっきチラッと見ただけなので断定はできませんけど、能力はバラバラでしたよね?」
「あの氷を通して、今はこいつらの〈生命力〉を吸い上げてるの。知ってるだろうけど、異能力の発動に必要な体力にはボーダーラインがある。今はそれを下回るように調節してるから、能力は使えない。そこまで体力吸われてるから、自力での脱出も無理。それだけのことよ」
さらっと凄いことやってんなあ。
「でも先生、俺以外の生徒返して良かったんですか? 俺はその『新種の能力』じゃないんですけど。 逆に学校側に敵が攻めに来たら危ないんじゃ?」
「学校は大丈夫よ。あたしより強いのが守ってくれるから」
これだけ有用すぎる異能力を持っているのに、それより強いってどんだけだよ。
「それに、あたしの能力だって標的になってるはずだ。自分で言うのも変だけど、異能力で戦うとき以外は相当便利な力だしね。交換してあげるって言ったら、欲しいでしょ?」
欲しいです。
口には出さないが、心の中では叫んでいた。
だが、会話はここで終わることになる。砂浜に突如として《門》が現れ、そこから一人の男が出てきた。
茶色の髪に白い肌、彫りの深い顔に灰色の目。間違いない。砂浜に並んだやつらの親玉だ。あれが「本命」か。
男はニヤリと笑うと、口を開き
「●●●●●●●●●●●●●●●●●●?」
え? なんだって?
スミス先生は、俺を庇うように前に立つ。
「●●●●●●●●●●●●●●●●●●?」
先生は普通に会話してた。
何語だ? (※英語です)
先生の言葉を聞いた男は、表情を変えることなく
「●●●●●●●●●●●●●●●●●●?」
それに対し先生は。
「……OK。●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●!」
単語一つしか聞き取れなかったが、それが決戦のゴングになった。
だが直後、先生は信じられない言葉を俺に向かって呟いた。
「あんた、能力はしばらく発動しないで」
◆◆◆
まず相手が放ったのは、火炎放射だった。先生は怯むことなく、海水を操って大波を相手に向けた。だが相手は、今度は何か白い物体を波に向かって投げつけた。瞬間。大波が爆発した。
晴れているのに、大雨が降ってきた。
今度は相手が突進してくる。右手は放電してるし、左手は地面の砂を巻き上げている。
全く異なる二つの異能力の同時発動。これが《譲渡》で得た力か……!
先生は再び海水を操ると、まず海に近い方である相手の右腕に狙いを定めた。
そうか、海水は真水と比べても電気を通すんだ。
じゃあ砂は? 今度は先生が右手を砂に突っ込んだ。そのまま持ち上げるのかと思いきや、その部分だけ砂が溶けた。
それを武装にして、相手に向かって人間には無理であろう速度で跳躍した。《加速》の異能力を使ったのだろう。
相手は待ってましたと言わんばかりに周囲一体に《重力操作》をかけた。しかし直後、先生は《無効化》を発動することでこれを防いだ。そのまま溶けた砂を纏わせた腕を相手に叩きつけようとする。
だが今度は、相手が周囲の温度を急激に下げてしまった。
溶けた砂が固まり、しかもいつの間にか相手が操っていた海水が氷になって先生を拘束した。
先生は動じることもなく、内側から氷を破壊した。そのままバックステップで一旦、相手との距離をとる。
「相手の能力の数も分かんないとなると、埒が明かないわね……」
先生が呟いた瞬間、俺はなぜか能力を発動していた。直後に上から砂が降ってきた。
ビックリして振り向くと、さっきまで目の前にいたはずの男が後ろにいた。
もう一度振り向いても、やはり相手がいた。
「先生、もう一人いますよ!」
「ああそう。こいつ、あたしの能力の唯一の弱点知ってるわ……」
うっそぉ!? 弱点あるの!?
「坊主。悪いけどあんたにも協力してもらう必要が出てきた。後ろのヤツは頼んだ……!」
えええええええぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?
◆◆◆
5分でどう対処する? 能力が発動できない1分はどう考えても致命的すぎる。しかも既に発動してしまっているので、残りは多分4分は切った。
俺の異能力は確かに殺傷能力はあるけれど、それは相手が動かない場合だ。移動にしたって速度に限界があるし、反射神経はあくまで俺自身のものだ。相手が《加速》してしまえば――――
いや、考えてる暇はない。
ここで俺はある意味で最悪の選択をすることになった。
「……?」
相手の男の顔に疑問符が浮かんでいた。
当然だろう。
《壁》を消したのだから。
その証拠に、頭上から砂が少し落ちてきた。
丸腰になった。
俺は逃げに徹する技術は磨いてきたが、格闘術はからっきしだ。今まで平和な人生だったので喧嘩の経験もほぼゼロだ。
だが、逃げに徹するからこそ磨いてきたものがある。
男は小バカにしたように鼻で笑うと、地面の砂を大量に能力で持ち上げた。俺ごと持ち上げないのは、すぐそばに先生がいて《無効化》を常時発動しているからだろう。でもあんなの食らったら圧死する。
いきなり詰みに近い状況になった。
俺がここで別方向に逃げれば、二人の攻撃を先生は一人で受けなければならない。
残された選択肢は、前に進むあるのみ。
俺は砂を蹴った。
正面から砂の固まりが迫ってくる。
視界が真っ暗になった。
すみません。決着は次回に持ち越しです。
(祝)!ブクマ150越え!
人気のジャンルじゃないし、受けないよなあと思いながら書いていましたが、ここまでくることができました!
ありがとうございます!
これからもブクマに評価、感想などお待ちしています!
誤字脱字などありましたら遠慮なくご指摘ください!
次回は10月9日、更新予定です!




