過程は実感するのが難しい
本日の話は、一つ前からご覧いただいた方がいいかと思います。
および、今回の話は前後編です。
「ほらぁ、なにやってんの! さっさとしないと、さっきの会話が友達の遺言になるよ!」
「ど、どうしろって言うんですか!」
「あんたの異能力、スーパーボールみたいにできるはずだよ! 思ってたより頭固いね、アンタ!」
ああ、なるほど。入学式の前のこと思い出した。あの時は《壁》をゴムのような性質にすることで、遠距離の移動を短時間で済ませたのだ。
だけど――――
「あ、あんまり速くは動けないんですが!」
「今はとにかく、こっち方面に高く飛びな! 残りは飛びながら教えてやるよ!」
俺は能力を発動してベランダから飛び降りる。ちなみに、能力を発動するとどんなに高い位置から落ちても「落ちる」感覚がない。《壁》の向こうの景色は変わるし、実際に落ちているのだが。
とりあえず、全力で飛ぶには能力も最大限にする必要がある。《壁》を最大にして、とにかくゴムっぽく。
あんまりやったことがないので、勘とイメージだけで動くしかない。
弾んで、弾んで――――
「うおおおっ!?」
先生が指定した方向に飛ぶことにはなんとか成功した。が、予想以上に高く飛んでしまった。上に障害物がないので風船のようにぐんぐん上昇していく。眼下に学校の敷地が小さくなって――――
なんと雲の上まで飛んだ。これ落ちたら俺の体、跡形もなくなるんじゃ?
「よぉし、いいとこまで来たねえ!」
先生は俺と並んで上昇していた。
「きれいな放物線じゃないか! 野生の勘ってやつかい?」
なんで高速移動してるのに声がクリアに聞こえるんだろう。まあそれはいいとして、
「これからどぉすればいいんですかぁ!」
「今はそのまま飛び続けな! 急がないとマジであんたの友達、死ぬよ!」
今聞き捨てならない台詞が聞こえたんですが!?
◆◆◆
「ねえ鶴宮さん。あなた、絶対能力者嫌いだよねぇ?」
「何言ってるんだ。今こうしているのは、将来が有望なあの子達を助けようとしているのに」
異能力テロ対策本部。電話がひっきりなしに鳴り、職員が対応に追われている。
鶴宮は資料に目を通しながら、呼びつけた相手に冷たく言い放つ。相手も相手で危機感がゼロのテンションだ。
「『無人島でサバイバル』か。悪くない提案だろうけど、誘拐未遂が起きてから1ヶ月しか経ってない。こんな時に無人島に生徒を送ったところで『向こう』が食いついてくるとは思えなかったんだけどねぇ。だってどう考えても見え見えの罠じゃないの。……ここまであなたの計算通りに事が動くとちょっと気持ち悪い。どうやってるの?」
「自分が捕まるリスクと、生徒を捕まえて得られるリターンを考えろ。相手はうちの情報網ですら感知できなかったんだぞ? 捕まらないための用意はしてるだろう。四月の誘拐未遂だって、おまえの茶々入れを除いても、現時点で捜査は行き詰まってるらしい。それだけ、自分達の痕跡を消すことには自信があるんだよ。あとは情報操作をちょこちょこと。あんまりこういうの、俺は得意じゃないんだけどな」
「それにしても、懲りない人たちだねえ。四月に私がぶっ潰した組織の残党――、いやむしろ上層部かな?」
「多分な。でも意外だったよ。『彼女たち』の協力が得られるとは、正直思ってなかったから」
「……ヤッチーは論外にしても、あそこは物騒な能力者揃いだからねえ。幹部全員がアホみたいな能力じゃない。特に、ナンバー2と当たったテロリストはご愁傷さまとしか言いようがないよねえ」
鶴宮は紅茶を飲んで一息つくと
「あの人にはおまえのお気に入りがいる学校を担当してもらったよ」
相手はソファの上であぐらをかく。
「なるほど、私の機嫌も取っておこうってこと? で、私は何をしようか?」
「今回は間違いなくあの能力者を見つけてほしい。負の遺産は早く消さないとな」
「あー……」
《社長》はおもむろに立ち上がると、本部を出ていく。
「さて、どこにいるのかな~」
◆◆◆
「『四月の事件の犯人がまた動いてる』ぅ!?」
あまりの衝撃に声がひっくり返った。
現在上空?メートル。省エネのため少し《壁》のサイズを小さくしている。
予測通りなら、あと一分で切れてしまうのだが、それどころではなかった。
入学式の時に起きた、集団誘拐未遂事件。狙われたのは俺たちのクラスだった。あのときはギリギリで助かったけど、今回も同じように上手く行くかどうか。
「は、早くなんとかしないと!」
「だから今飛んでるんでしょうが! いい? 敵の組織の狙いは、アンタらガキの異能力そのもの! 急がないと死体で櫓が出来上がっちまうよ!」
「なんで俺を連れていくんですか!」
アホなのか?
「ああ? 決まってんだろ? アンタに犯人を取っ捕まえる手伝いをしてもらうんだよ!」
この人バカだー!
絶対に戦力にならないじゃん! 足手まといじゃん!
あと、もうすぐ能力切れるけど、多分、高度が全然足りねー!
先生もそれに気付いたらしい。
が。
「助けるのは一回だけだ! 次は自分で考えな!」
容赦なんてなかった。
幸運だったのは、能力が切れてからも慣性が働いたのかしばらく上昇していたことだ。
引き換えに、温度と気圧の急激な減少、あと空気が薄かったことで失神しかけたが。それに風圧も半端じゃない。……先生、ビンタで起こすのはやめてください。
先生は俺を抱えたまま、ジェット機さながらに加速した。これが一番早かったんじゃ? 風圧がさっきよりひどくなった。
「どう? 空を飛ぶって気持ちいいでしょ!」
いやスカイダイビングしに来たわけではないんですけど。
酸素が薄い…………!
「ほら、もう見えてきたよ!」
大海原に、ポツンと見える陸地。
……おかしいなあ。砂浜で既にドンパチしてません?
「ちょっと遅くなったね。やれやれ」
呑気にしてるけど、あんたのせいじゃね?
それにしても、俺は事情を説明されたからまだいいほうだ。
太一や伊藤たちは説明もなく無人島に飛ばされて、しかもそこで怪しい集団に襲われるのだから何が何やらだろう。
「言っとくけど、向こうは下手すると殺しに来る。理解しときな!」
もう驚く気力も残ってない。
こうなりゃヤケだ。
先生は上空から俺を放り投げた。さて、どーすっかな。
◆◆◆
状況だけ見るなら、生徒の方が明らかに劣勢だった。こっちは素人の子供、相手は犯罪のプロだ。
当たり前だが、異能力の使い方が暴力的だ。
前も思ったけど、生け捕りするつもりあるのか?
……俺の頭もおかしくなったな。こんな危機的な状況なのに、そんな悠長なことを考える暇があるんだから。
《壁》を展開したまま砂浜に着地した。突然の乱入者に敵味方双方が固まる。
今だから言えることだが、俺の異能力は確かに殺傷能力がある。《壁》を硬くした状態で体当たりをすればトラックに轢かれるのと同じ衝撃が伝わるだろう。《壁》と物との間に人を挟めば、圧死させてしまうこともできる。他にも色々考えた。
向こうは殺しに来るだろうし、こっちだって殺す気で行く必要があるかもしれない。
色々考えている間に、先生も俺のとなりに着地した。
《壁》を解除しなかったのは正解だった。盛大に砂を撒き散らしている。
乱入者が二人に増え、敵も味方もますますポカンとしていた。
「で、どうするんですか?」
「テロリスト相手に子供を戦わせたのはあたしの落ち度だ。ふん。結構な人数割いているね。しかも位置がバラバラだ。こんなときは――――」
先生はなぜか海に入っていった。どうするつもりだ?
耳をすませると、波の音の合間に、先生の独り言が聞こえてきた。
「……相手は数十人。能力の詳細は不明。となれば、これが一番かな」
次の瞬間、先生の周囲の海面から大きな影が数体ほど飛び出し、テロリストたちに襲いかかった。
海から上がった先生の服は濡れていなかった。そういう能力を使ったのだろう。本当に便利過ぎる。
「さて、次は」
先生が指を鳴らすと、男や女の悲鳴が聞こえてきた。
実際、俺の目の前にいたテロリストも、情けない悲鳴をあげていた。
そりゃだろう。
いきなり水が体にまとわり着いた上に、それが凍ったのだから。
無茶苦茶すぎる。
「あの、先生。俺の存在いりました?」
だが、先生の顔はあまりいいものではなかった。
「……これから来るんだよ、本命が」
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次回は10月7日、更新予定です!




