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《最強》になりえない彼が、《最恐》と呼ばれる理由  作者: 岡部雷
何に化けるか分からない
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上には上がいる。

 目の前の外人は物体を触らないで動かすことができるのに、本人から「その系統の能力ではない」と言われた。


 じゃあ、なんの能力者だ?


 単純に考えても、あれだけの雲を瞬時に自らの意思で動かすことなど無理だ。恐らく、軍の戦力の中でも五本の指に入るのは間違いないだろう。500人近い数の人間を、一瞬にして運び去ってしまうなんて規格外過ぎる。

 確かに、俺のクラスにも《液体操作》の能力者はいる。でも彼女――桐山はせいぜい25メートルプールを満たすほどの水を動かせる程度だ(それでも凄いが)。それに、このタイプの能力者は少なくない。なのに誰も能力を発動しなかった。いや、この場合は「できなかった」というのが正解だろう。


 よくある疑問として、「《液体操作》の能力者同士が衝突した場合、液体はどちらの意思に従うのか」というのがある。

 まず解答の一つは「先手必勝」。当人の力量には関係なく、先に能力を発動したほうが液体の操作権を得ることになる。

 ただし、これはあくまで《型》が同じの時だ。俺は授業で、この世界の異能力の二種類の分類を学んでいた。


 一つは〈範囲型〉と呼ばれるもので、俺はこちらのタイプだ。共通する長所は〈安定した出力〉〈無条件の全方位展開〉などがある。短所は〈有効範囲が狭い〉〈出力が一定以上にならない〉などが挙げられる。

 もう一つが〈直結型〉。長所と短所が真逆になる。こちらのほうが圧倒的に数が多い。この学校の《液体操作》の能力者は全員がこちらのタイプ。あの外人教師もそうだ。同じ型だったために、能力が使えなかったのだ。

 両者の具体的な違いは、《液体操作》を例にとって説明するなら、〈範囲型〉は自分を中心に半径数メートルの範囲にある液体なら、無条件で操作できることになる。ただし、液体がそれ以上外に出ると能力が切れてしまう。

 〈直結型〉はそれに対して遠距離まで液体を運ぶことができる。だが、遠くなればなるほど、運べる液体の量は減っていく。

 花田先生はこれを説明するのに、粘土を使っていた。先生は「〈範囲型〉の有効範囲は丸めた粘土で、これ以外の形にはなれない。でも安定した形。〈直結型〉は粘土を細く長く伸ばせるけど、バランスを間違えると崩れてしまう」と言っていた。


 この〈直結型〉と〈範囲型〉が衝突すると、事情は少し変わってくる。

 《範囲型》は、能力者を中心に半径数メートルにある液体しか操れない。操れる体積に限界があるのだ。

 《直結型》はそれに対してより広範囲の液体を操ることができる。しかし、操れる質量に限界がある。

 《物質操作》で型が違う場合は、〈範囲型〉に軍配が上がる。なんでも、理論上ではこっちの力が上らしい。

 故に、〈範囲型〉は近距離、〈直結型〉は遠距離で使用するのがセオリーなのだ。



 ◆◆◆



 長い説明をしたところで俺の予想は一歩も進まない。型の違いなど今はあまり意味がないからだ。

 ただ一つだけ引っ掛かった言葉があった。



「……質問してもいいでしょうか?」


「いいよ?」


「さっき仰っていた『一連の流れ』。多分、俺はそれを見てないですよね? 先生は俺たちがグラウンドに来てからは、壇上で話していただけですから」


「……いきなり突いてくるね。正解。でも、ヒントは貰ってるはずだよ?」



 相手は満足そうな笑みを浮かべているが、俺は逆に頭を抱えた。ヒントなんてどこにあった?



「先生は、今のこの状況でさっきみたいなことはできますか?」


「NO。さっきので全部使っちゃった。それに、湿度も下がってるしね」



 今の発言から分かったのは、今の彼女は《流体操作》に近い何か、ということだけだ。でもそれは違うと最初に否定されている。




 ……湿度?

 なんかさっきそれに似たような言葉を聞いたような――――






『蒸発した時の水分で、やってる最中は当人たちの不快指数ヤバイらしいけど』



 蒸発して湿度が上がった。蒸発させたのは確か。



『英語の先生、女だったよ。ちょっとウザかった』



 恵令奈パイセンは何をもって『ウザい』と断言したのか? 話しかけるだけでウザいときもあるが、もしそれ以外の要因があるとすれば、何だ?



「……先生もしかして、この地面を乾燥させてた生徒に何かしました?」


「すーごいねー! 正解まであと一歩だ!」



 ここでようやくヒントの意味が繋がりかけてきた。もしかしたらこの先生の異能力は、条件を満たすことで発動するものなのかもしれない。よし、これを繋げて――――




 その時、俺の脳裏に恐ろしい仮説が生まれた。一瞬、「そんなバカな」と考えてしまう。だがこれなら理屈が通る。

 でももしそうなら、俺はとんでもない相手と対峙していることになる。まず絶対に勝てない。



「どうした? 顔色悪いぞー?」



 ちょっとくどい英語教師から一転、その裏にとんでもない力量を感じ取った。

 俺は空唾を呑んでゆっくりと口を開いた。



「……じゅ、順を追ってもいいですか。間違ってたら指摘してください」


「どうぞ?」


「先生が使ったのは、《流体操作に似た別の能力》。それには条件がある」



 先生は無言で頷いて先を促した。



「……それは、『炎熱系統の能力を近場で体験する』。だから先生は、能力を使っている生徒に近づいたんじゃないですか? だから鬱陶しいと思われた」



 先生は頷きはしなかったが、否定もしなかった。



「……もし、その相手と()()なら、冷やしたり、それこそ()()()()()()するのが最適ですよね?」



 先生はそこまで聞くと、やれやれと言わんばかりに首を横に降った。

 外れた?



「……ちょっと、助言を与えすぎたかもね。私も丸くなったもんだ」



 俺は戦慄した。先生の口から正解だと、ほぼ宣言されたようなものだ。



「せ、先生まさか」


「そ。あたしの異能力は『相手の能力に対して()()になる力を発動する異能力』。これだと長いから、《相対有利》って呼んでるけど。仲間内でのあだ名は『後出しジャンケン』とか『天敵』とか」



 膝が震えている。

 そんな強引な異能力だった。



「これでも使い勝手は悪い方なんだよ? 複数の能力を相手にすると、相手が変わるごとに自分の能力も変わっちゃうんだから」



 だがその面倒な点ですら――――



「……逆に言えば、相手の能力を解析できるってことですよね?」


「大雑把にだけどねー。それに使える能力は周囲の環境によっても変わるから、今回のはたまたまそうなっただけ~」



 なんちゅうチート能力。ここまで生きた心地がしないのもの珍しい。

 しかしここで俺は一つの問題に気付いた。



「……でもその理屈だと、能力がない人が相手の時は『普通の人』ってことですか?」



 先生の顔が強張った。よし、攻略法が見つかったか!?



「……やらしいとこに気付くねぇ。でも惜しい。私の異能力は基本的に『あらゆるものに対して天敵になる』。弾丸が飛んでくれば『勢いを殺した』上で弾を『腐食させる』し、毒盛られても体内で『解毒』しちゃうから。あ、ちなみに《無効化》も効かないから。あたしも理屈ってヤツは知らないけどねー」



 攻略法なんてなかった。

 味方だったから安心できるが、敵だったら即降伏だ。

 とんでもない能力者がいたものだ、と考えていると小宮山先生が焦った様子で駆け寄ってきた。



「スミス先生! 無人島に――――」


「お、思ったより早かったねえ。おい坊主。ちょっとついてきな」



 そう言うなり、とても還暦近くとは思えないような俊敏さでどこかに走っていく。

 坊主とは俺のことらしい。慌てて追いかけた。

 スミス先生は校舎の建物をかけ上がっていく。そして3階に到達すると、いきなり教室に飛び込んだ。そのままベランダに飛び出して――――



「ヒャッッホウーーーー!!!」



 空を飛んだ。

 ……『落下』に対して有利なのって、『飛行』なの?



 あと、俺どうすればいいの?




いつもご覧いただきありがとうございます!

ブクマに評価も増えてきて、本当に感謝の一言に尽きます!



やっと調子が戻ってきたので予告復活します!

10月6日、更新します!














ブクマ100まであと少し……!

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