短所は長所でカバーする。
連休が明け、伊藤も無事に復帰した。
もうすぐ最初のテストがある。筆記はともかく、実技ですべてが決まる異能力のテストは絶対にいい成績をとっておきたい。
問題があるとすれば――――
「小宮山先生、どうしたんだろうな……」
朝のホームルームが終わったあと、クラスの感想は一致した。
小宮山先生だけじゃない。この学校の先生たち全員がまるで生気を抜かれたかのような顔で仕事をしているのだ。
あの花田先生すら心ここに非ずだ。午前中の授業が全て自習になり、明らかにおかしな雰囲気に生徒たちも困惑している。
昼食を食べていると、校内放送が流れた。
〈え~、今日の午後の授業は全学年の生徒全員、グラウンドに集合してくださ~い〉
テンションの高い女性の声だった。少なくとも、俺たちのクラスで授業している先生ではない。
つーか、さっきまで降ってた雨のせいでグラウンドは惨状以外の何者でもない。
「太一ぃ、なんか知ってるか?」
「新しい英語の教師が来るって話は聞いたけど……」
それにしては日本語ペラペラだったな。
「はー、めんどくさっ」
女子のだれかが悪態をついた。よほど気にくわないのか、彼女は壁を蹴って教室を出ていった。
「なんであんな不機嫌なんだろ? 恵令奈パイセン」
本当ならこんな呼び方はしないのだが、クラスのみんながそう呼ぶので俺にも写っていた。
太一は口の中のものを飲み込むと、
「ああ、あの人《火炎》の能力者だろ? このタイプの能力者は、こういう時に手っ取り早い乾燥剤の仕事があるんだよ。蒸発した時の水分で、やってる最中は当人たちの不快指数ヤバイらしいけど」
確かに、不機嫌にもなるわな。
◆◆◆
グラウンドに入ると、先生たちが既に集まっていた。地面はすっかり乾燥してた。太一の言うとおり、湿度は高い。ただ、雨は止んだとはいえ、またいつ振りだすか分からないくらいの曇天だ。
憂鬱になりながら全員が整列すると、生徒の前に大きな台とマイクが運ばれてきた。運動会で校長が話すあれだ。
しかし、本来ならそこで話すはずの彼は先生たちの列の端で小さくなっていた。
生まれたての小鹿のように、膝が震えている。
「英語の先生、女だったよ。ちょっとウザかった」
戻ってきた恵令奈パイセンはそう言った。良く言えばフレンドリー、悪く(現実的に)言えば鬱陶しいそうだ。
一部男子の期待が高まるなか、当人が壇上に立った。
長いブロンドの髪と、青空のような青い瞳。見た目は定年が近そうだけど、若い頃は男に人気だったに違いない。
なるほど、英語教師の挨拶か。
……なんでわざわざグラウンドでやるんだろう。体育館でもいいだろうに。
彼女はマイクのスイッチをオンにすると
「えー、今日からー、新しく来ましたー。よろしく~」
聞き取れないことはないが、女性にしてはやや野太い声がめっちゃハウリングした。
なんだこの人?
自己紹介もなしに、次にいきなりおかしなことを言い出した。
「よーし、そんじゃ説明しまーす」
説明?
「ちょっとばかし国の方針が変わったんで、あんたらには異能力の新しいカリキュラムを受けてもらいまーす。じゃあ、頑張ってね~」
……説明になってない、と感じたのは俺だけじゃないはずだ。
しかし、何を「頑張って」なのだろう。? その意味を考えていると、いきなり後頭部に熱を感じた。どうやら晴れてきたらしい。空気もなんか乾燥している。
…………あれ?
「そんじゃ、無人島生活頑張ってねー」
雲は晴れたんじゃない。空を覆い尽くしていたはずの雲が全て――――
◆◆◆
「…………」
文字通り、絶句していた。
咄嗟に能力を発動したおかげで俺は助かったが、俺を除いた全ての生徒が突如上からの濁流に飲み込まれて姿を消してしまった。
腕で頭をガードしていた、わずかな時間の出来事だった。
元凶である外人教師は、立ち尽くして動けない俺を見て目を丸くした。
「あれ、あんた生き残ったの? 幸運だねえ。あんたはこれから自習だぞっ♪」
「あ、あの…………みんなは」
「さっき言ったでしょー、『異能力の新しいカリキュラム』に行ってもらったの。ちとサバイバル経験を積まないと、あんたらまともに異能力が使いこなせないからねぇ。その点、あたしの異能力を受けてまともに立ってられるなんて、やっぱ《拒絶》って恐ろしいわ。ま、あんたはこの時点で合格。大体3日くらいは好きに過ごしてもらっていいよ? 誰も怒ったりしないから」
理解が追い付かない。
「み、みんなはどこへ行ったんですか!」
「聞いてなかったの? 無人島。360度ぜーんぶ海の無人島。ちなみに、あたしから情報を引き出してもあいつら圏外にいるから教えられないよー? ま、きちんと異能力を使いこなせる奴らなら、この程度の問題は朝飯前だからね」
なんてことだ。ついさっきまで普通に会話していたのに、今あいつらは全く知らない土地に放り出されているのだ。
伊藤の姿もない。これは仮定だが、あの場で彼の異能力を発動すれば知らない場所に運ばれることは避けられるが、そのまま生徒の大部分が地面に激突する。だから異能力を使えなかった可能性が高い。。
この教師、まさかそこまで計算してたのか?
俺の顔がどうなっていたのかは分からないが、それを見ていた教師の眉間にシワが寄った。
「『気に入らない』って目ぇしてるけど、これは上の方針だ。あたしを殴るのはお門違いだよ? それに、災害ってのはいつ来るかなんて分かりゃしないんだ。急に起きたからって、文句は言えないだろう? それの模擬みたいなもんさ。あんたらが四月に襲われたのは知ってる。だからこそ、予期せぬ事態に備える必要性があるのさ」
言っていることが正論過ぎるので反論できない。当事者であるからこそ、あのときの恐怖は身をもって知っている。
外人教師は手元の端末を操作した。
「……あんたの異能力は本来どっちかっつーとゴリゴリの戦闘向きだねえ。でも、一度の発動時間と次の発動までのタイムラグを考えると、能力の特性に関係なく〈逃げ〉を含めて計画を立てないといけなくなる。かといって人命救助には全く向いてないしね。他人の能力に力添えができるわけでもなし。いくら基礎が優秀でも、応用の幅が狭すぎるんじゃあ話にならない。さしずめ、相手の弱点を見極めてから行動するタイプだろ? 長年の習慣の賜物だ」
初見で随分と俺の基本戦法が暴露されてしまった。マジで何者?
外人教師は、何かを思い付いたのかわざとらしく手を叩く。
「せっかく周りが強化イベントしてるのに、参加しないのも寂しいよね。じゃあ、ここで問題。あたしの異能力は、なんだと思う? 一応、さっきの一連の流れは見てるはずだからヒントはなしね。ちなみに、念動力タイプじゃないよ」
先生なりの配慮だろうか。
それはいいとして、この人の能力? 俺は空を見上げる。空と太陽が眩しい。
この先生は、空を覆っていた雲をかき集めて巨大な水の塊を作り上げて、みんなをそれに巻き込んで無人島までぶん投げた。
にも関わらず、物を動かすタイプではないという。
つまり、先生の場合は能力の発動になんらかの条件が必要なようだ。ここで俺は頭を悩ませた。その先が全く予想がつかないのだ。
先生は「一連の流れ」と言っていた。
先生が能力を発動する前にしていたことと言えば、壇上で喋っていたことだけ。
この世界では、能力の発動に特定のキーワードは必要ない。ならばそれは無関係。となると、それより前になにかがあったと見るべきだろう。
一体、なんの能力者だ?
◇◇◇
「この条件でよく正解できたよねぇ。この頃から警戒しておいて正解だったよ。このとき、変な才能開花しちゃったよね」
「まあ、そのお陰で今日まで生きてこれたんですがね」
「やっぱり、君という存在を作り出したのって僕たち大人だろうね……」
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