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《最強》になりえない彼が、《最恐》と呼ばれる理由  作者: 岡部雷
キューピッドに休みはない。
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主人公は解決できない

すみません。大分遅れました。


 一度宇田川と別れ、俺は三度、舞子さんのいる事務室を訪れた。祝日にも関わらず出勤しているらしい。こうも通い詰めていると非常に親しくなったような錯覚に陥りそうだ。



「――――なので、あいつはもう二瓶さんに男がいるのは確実と見てるみたいです。どうしましょう」



 宇田川本人が悪いわけではないのだが、問題は全く解決していない。あいつの予測が勘違いであると思わせなければ意味がないのだ。



「君としてはどう? 優香ちゃんから異性の雰囲気、感じる?」


「色沙汰には疎いので……」



 俺はあいつほど欲求不満ではない。



「立場上、あたしも学校で優香ちゃんとはあんまり親しげにはできないしねぇ。さて、どうしたもんかな。その男子は、優香ちゃんから男の臭いがすると言ったんだよね? 物理的な加齢臭か?」


「この年で加齢臭してたら悲しくなりませんか……?」



 新陳代謝が活発な年代ではあるだろうけど。

 ここで、俺はあることを思い出す。



「そう言えば、『二瓶さんは男に会うのを楽しみにしてる。週末が近づくと特に』っても言ってましたねえ。まあ毎晩会ってるんですから、そりゃ楽しみでしょうけど」


「あのさぁ、太一は土日どうしてる? 友達と遊んだりとかしないの?」


「付き合いは悪くないですよ。普通に対人関係は築いてます。俺も最初は、ずっと二瓶さんとベッタリかと思ってたんですけどそうでもなかったんで安心しました」



 舞子さんは目線だけ動かして、壁掛けのカレンダーに目をやった。



「祝日はかなりある、か」



 何を思い立ったのか、ポケットから今時珍しい折り畳みの携帯を取り出すとどこかに向けて発信した。 

 すぅ、と大きく息を吸うと



「――――おい。今日中にこっちに来い。都合? 知るかボケ。とにかく日没までだ。いいな」



 ドス利きすぎィ! 低音どころか重低音だ。

 キャラ変わりすぎだ。一方的に電話を切ると



「上手くいけば、これでなんとかなるかも。そしたら君に頼みたいことがある! その男子のとこに戻る前に、優香ちゃんに伝言をね♪」



 ほんと、キャラの裏表が激しい。



 ◆◆◆



 夕方。

 二瓶さんは校門の近くにいた。案の定と言うべきか、宇田川も近くにいる。あの巨体で尾行がバレないのが不思議だ。二瓶さんが鈍感なのか、宇田川の尾行術が異常なのかのどっちかだ。ちなみに俺は、その宇田川に同行していた。

 舞子さんに言われた通りにしたけど、本当に大丈夫だろうか。頼まれた伝言を二瓶さんに伝えたときの彼女の目は忘れられない。

 ……疑わしげな目でこっちを見ないで。俺だって確証ないんだから。


 舞子さんは「その(さか)ってる男子は、今日も優香ちゃんの監視してるんでしょ? だったら簡単な方法がある。優香ちゃんは好かないだろうけど、これが一番手っ取り早い」と言っていたけど、本当に大丈夫だろうか。

 もうすぐ5時になろうというころ、校門の警備員がザワザワしだした。受付の事務室の脇に車が一台寄せてある。


 車には、一枚のステッカー。

 それは車の所有者が軍の要人であることを示していた。



「優香~~~~~~~~~~~!!!」



 事務室で手続きを終えた男が、二瓶さんにダイブした。



「パパは会いたかったぞ~~~!」



 うわぁ…………。心の底からドン引きした。


 あれが二瓶さんの父親か。

 スキンヘッドにサングラス。チンピラのような風体だ。それが女子高生に抱きついて頬擦りしている。

 軍服に身を包んでいるが完全に絵面が悪すぎる。親子と知ってなかったら即通報してもおかしくない。


 舞子さんの立てた作戦は、「二瓶さんの待ち人、実は父親」というものだ。父親と言えど異性。この年頃の女子は父親との折り合いは悪いかもしれないが仲が悪くない親子だっている。二瓶さんに後者になってもらったのだ。

 二瓶さんの顔は、はっきり言ってしまえばすごくにやけて緩みきっていた。隠そうと思っても隠せない。そんな顔だ。

 ……あれが演技なのだから恐ろしい。


 俺はこっそりと、宇田川を見る。がっくりとうなだれていたが、これで良かったんだ。



「そんな……二瓶さんがファザコンだったなんて……」



 がっかりするポイントはそこか。まあ、宇田川としては相手の男に美人を落とす方法を聞き出したかったのだから、相手が父親だったのは誤算だっただろう。



「絶対に男だと思ったのに……。週末は電話でもしてたのか?」



 うんうん、自分の嗅覚は信じていいよ。ただ相手が悪すぎた。彼だって根拠にしていたのは自分の勘。そのアテが外れたのだから、諦めざるを得ない。



「宇田川、悪いことは言わないからこれからはもう少し冷静にな? 今のおまえ、女子からドン引きされてるから。俺以上に」


「……え?」



 そんなまさか、と言いたげな顔だ。特に最後の一言が堪えたのか、みるみる顔が青ざめていく。

 当たり前だろ。俺の疑惑はとっくに晴れてんだから。



「どうしよう?」


「……悪い。さすがに自分で考えてくれ」



 対処法は思い付かない。



 ◆◆◆



「とまあ、そんな感じだ。お姉さんに感謝しとけよ、太一?」


「……なんかあっさり終わったな。連休終わる前に解決してんじゃん」



 台所で腕を振るう彼の隣には、優秀なアシスタントがいた。

 ちなみに俺じゃない。



「なるほどね、舞子(ねえ)の言うことなら、お父さんも逆らえないだろうから」



 喋りながら、されど手も休むことはない。

 二人でテンポ良く調理と後片付けを並行させている。料理が出来上がった瞬間にはシンクが使用前の状態になっていた。

 二人の時はこうしているらしい。

 食卓の上には皿が三枚。




 …………て。



「え、どうして3人前なの?」


「何言ってんだ? 一緒に食べるからに決まってんだろ」


「気まずいわああああぁぁぁぁぁ!!!」



 夫婦の家に乗り込んで飯食ってるようなもんじゃないか。

 いくらなんでも無理だ。



「悪いな太一。俺の晩飯はなしでいい。どうせきっちり人数分だろ? たまには『おかわり』をしてみるのもいいじゃないか。心配するな。舞子さんお手製のピザを食ってきた。正直、もう入らん」



 太一は何かを察したように



「……姉ちゃんのピザか。一人で食ったのか?」


「ああ。だから晩飯はいらねえ。これ以上食ったら吐く」



 どうも彼女は「量」を重視する傾向があるようだ。俺が食べられる限界ギリギリのサイズのピザを学食のオーブンで焼いたのだ。美味かったけど。


 かくして二人の恋路は守られたのである。

 連休前半、たったそれだけの期間だった。



 ◆◆◆



「……あの、正気ですか」



 祝日だろうと学校の教師たちに休みはない。生徒が色沙汰で頭を悩ませていた頃、職員たちも上からの重要連絡事項に仰天しているのだった。



「仕方がありません、小宮山先生のお気持ちもわかります。いえ、むしろ我々の方が怒りを感じているくらいです」



 校長が忌々しげに手元の紙を掲げる。



「確かに近年、能力者は減少傾向にあります。国の計画では、あと10年で国民の全員が能力者として覚醒するはずでした。しかし、現実は違います。ただの少子化だけではなく能力者として覚醒する子供が目に見えて減っている。国の軍事力の要である能力者の減少は、戦力の低下を意味します。ですが、我々教育者の目的は、兵器の育成ではない。こればかりは、本当に屈辱です」



 それは、政府上層部からの手紙。

 タイトルは〈異能力カリキュラムの変更について〉。



「『今日から実施』なんて、横暴すぎる……」



 誰かが呟いた。

 小宮山もカリキュラムの変更点に目を通す。2、3年生はともかく、入学したばかりの彼らには酷な内容に変わっていた。

 一人の女性教師が挙手した。



「この、『上級能力者による指導』、というのは?」


「……私も詳しくは聞いていませんが、〈連合〉レベルの能力者による直接指導があると……」



 その場にいる全員の顔が強張った。



「〈連合〉だと……?」

「いくらなんでも無理じゃないか? 戦力の差が大きすぎる」

「その人たちが教育に来る間、その人たちの管轄地域はどうなるの……?」



 ザワザワと、会議中にも関わらず話し声は収まらない。

 校長は軽く咳払いをすると



「……それで、うちを担当する方は既にいらっしゃっています。どうぞ」



 引き戸が開いた瞬間、さらに場の空気が凍りついた。

 入ってきたのは、明らかに出身が欧州の女性だった。スーツを着こなし、ブロンドの長髪が蛍光灯の光を反射している。

 見た目からして年齢は、二十代後半から三十代前半辺りか。



「リリー・スミスと申します。今回は国の教育委員会より派遣されて参りました。今後とも、よろしくお願いします」



 教師たちは軽いパニックに陥っていた。

 書類の内容は、どう見ても軍の介入があったことを伺わせる内容だ。にも関わらず、日本軍に絶対にいないはずの人間がここに来た。

 スミスは口を開くと



「皆さん、今回のカリキュラムの変更を『軍の介入』があったと思っていらっしゃるようですが、それはありません。ただ単に生徒の異能力の成長をお手伝いしたいだけですよ」



 流暢な言葉だが、それを素直に信じるほどこの場の人間は純粋ではない。


 ただ、二人だけ。

 その言葉を信用せざるを得ない教師がいた。

 小宮山弘明と、花田香織である。

しばらくの間、更新頻度が少し落ちます。

ご了承ください。


次回より新章開始になります。



面白い、続きが見たいと思った方は、ブクマや評価などしていだけると嬉しいです!

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