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《最強》になりえない彼が、《最恐》と呼ばれる理由  作者: 岡部雷
キューピッドに休みはない。
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言葉だけでは真意が見えないときもある

「……というわけだ。今日から添い寝は自粛しろ。そうでないと、おめーらのことがバレる日も遠くねえぞ」



 夜のご相伴にあずかる前に、俺は色ボケ野郎に警告した。宇田川がストーカーみたいで気持ち悪かったのはさておき、交際を周囲に知られないようにするのはこいつらの義務だ。

 もっとも、本当の理由は俺が思っていたものとは大きくかけ離れていたが。



 ◆◆◆



「はぁ? あのバカタレ……」



 宇田川に迫られた日の放課後。俺は再び舞子さんの根城を訪れていた。

 昨日と比べると大分片付いている。対照的に俺の脳内はごちゃごちゃしていた。



「どどどどうしましょう!?」


「やっぱこうなるか。予想はしてたんだけどねー。はあ……」



 彼女は眼鏡を外して眉間を押さえる。



「付き合う条件として、『周囲にばれないように』ってあるのもたぶん知ってるよね?」


「一応、聞いてます。……あれ? 確かその条件出したのは二瓶さんのお父さんだったような……」



 昨日の彼女の口ぶりからすると、二瓶さんの父親は二人の交際に口出しをする権利が一切ないような気がする。



「そ。でもあたしらもその条件だけは飲まざるを得なかったんだよねえ。言い出しっぺはあいつだけど、元からそのルールは言い渡す予定だったんだ」


「というと?」


「表向きは、『お互いの立場を考えて』なんだよ。確かに向こうは超エリートでうちらは反逆者の血縁だ。筋は通る。でも本当は違うんだ」



 舞子さんは含みのある言い方をした。



「話がよく見えないんですが……?」


「やっぱ蛙の子は蛙でさ。優香ちゃんもああ見えてすごい短気なんだよ。『寄り付く害虫は潰す』。考え方は親父と一緒なんだ」


「はぁ」


「例えば君に彼女がいて、その彼女に他の男がちょっかい出してきたら腹立つでしょ?」


「ええ、まあ」



 舞子さんはレンズを拭きながら



「……あの子はね、中学に上がる前に、弟にちょっかい出した子をボッコボコにしたことがあるんだ。相手は二人の仲を知った上でやったから自業自得って言っちゃあそこまでなんだけど、あまりにもえげつなく仕返ししたんだよ。こりゃヤバイってなってね。で、あの親父が提案したのがあの条件。二人の仲を知ってても諦められない女子がいたら、優香ちゃんは間違いなく報復に出る。だから、あえてフリーっぽく見せる。あのバカは優香ちゃんにぞっこんだから、百パー断るのは間違いない。それに、向こうだってフリーだと思って来るんだから、『誰かにとられる』って焦りはあっても、『奪ってやろう』とまでは思考が回らない。相手に悪意がないのに報復するのは筋違いでしょ? それはあたしらが口出しできる。騙すようで申し訳ないけど、そうでもしなきゃ相手の身の安全が保証できない」



 裏事情が恐ろしすぎた。

 あの規制にそんなルーツがあったとは。



「つまり、あの二人が付き合ってることがバレてしまうのは……」


「考えうる限り最悪のパターン。弟は優香ちゃんがモテるのも承知の上だし、コクった相手に手ぇ出すほど度胸ないからいいとして、優香ちゃんはそうはいかないだろうから」


「もしかして坊主頭にしたのは、ちょっとでも可能性を下げるため?」


「そう。まあ、バレたら意味ないんだけど」



 大人たちの苦労が見えた。

 でも、一つだけ分かったことがある。



「愛されてますねえ、二人とも。ここまで周りが協力してくれる恋愛もなかなかないような気がします」


「ちなみに、優香ちゃんは知らないけど太一は学校卒業してから家業を継ぐことになってる。理由は、言わなくても分かるよね?」



 なるほど、食いっぱぐれのない仕事まで決まってるのか。あの腕だ。客には困るまい。卒業してすぐ結婚しても将来に不安はないわけだ。



「だから、今の時点で無駄にはしたくない。ここまできたんだ。なんとしても交際疑惑を消さないといけない。遠距離恋愛ならともかく、相手が近くにいるって割れてるなら時間の問題だ。ラブコメ好きなら、協力してもらうよ?」



 言われなくとも。



 ◆◆◆



 舞子さんから他言無用の命令を受けたので、情報は極力伏せないと。

 それを意識しつつ、俺は太一に進言した。

 あいつが頭を抱えて反省している間、俺は自分で開けた穴を見ていた。

 できなかった部屋の行き来を可能にしたのは俺だ。こんなことなら、壊さなきゃよかったかもしれない。



「記憶を操作できる能力者とかいねーかなー……」



 この世に存在しない能力の一つ。あったら便利そうな能力だが、なぜか存在しない。

 《死者の蘇生》や、《時間の移動》と並んで、〈三大・ありそうでない異能力〉。

 しかし今は、ないものを願っても仕方ない。



「とにかく、数日でいい。宇田川の勘違いってことで話が収まればそれで解決だから」


「で、でもなぁ」


「壁をぶっ壊した俺が言うのもおかしいけど、多少は我慢しろ。それに、おまえはこの間まで一人で寝てたんだから、おまえ自身には支障はないよなぁ? ――――それでいいよね? 二瓶さん?」



 壁の穴に向かって言う。

 普通に隣の部屋が見える。鬼のような形相の美少女が睨み返してきた。



「ねえ、私が誰かに添い寝してもらわないと眠れないの知ってるよね?」



 高校生なんだからそれくらいしっかりしてぇ! ……と本気で叫びたいところを我慢する。



「頼むよ! これは二人の将来のためでもあるんだから!」



『二人の将来』と聞いたところで、二瓶さんの顔が真っ赤になった。

 こっちの苦労も知らないで



「あのねえ、これからの人生上り坂ばっかだと思うなよ! 上がったら落ちてくのが世の常だ! ちったぁ落ち込んだところでしょげるな! ここまで来たんだから、せっかくの明るい未来を棒に降るなよ!」



 説教じみたことを言っているのは分かっている。

 だけど俺は、ラブコメはハッピーエンド以外は認めない主義だ。



 ◆◆◆



 結局、二人は俺の説教が効いたのか離れて眠った。壁を挟んですぐ近くに眠ることで妥協した。壁に開けた穴は床や天井には到達しない大きさだ。布団を敷いて横になれば、相手の姿は見えない。ただ、添い寝とまではいかなくても、すこしは改善できたかもしれない。

 とにかく、宇田川の変態じみた嗅覚から逃れられればいい話だ。


 さーてと。

 おれは翌日から、あえて宇田川の検証に付き合うことにした。

 折角の休日だが、背に腹は代えられない。



「それで? 二瓶さんの相手に心当たりは?」



 相手がいるのは確定かよっ。これは面倒だ。



「一つ聞きたいんだけど、男の臭いってのはどーゆーこっちゃ? あの距離で分かるのかよ?」


「なんつうか、雰囲気だ! あの人からは、男を知った女の臭いがする! 割りと最近!」



 一ミリの根拠もねえ。

 物理的な臭いじゃないの? 無理に引き離す必要なかったかも。悪いことしたなぁ。

 問題は、根拠なしなのにピンポイントで言い当ててることだ。



「で、相手の男がいたらどうするんだ? 両思いなら、むしろ潔く身を引くのが男じゃないか?」


「は?」



 どう見ても「なに寝惚けたことをいっているんだこいつは」って顔だ。



「おまえ、俺が二瓶さんのこと好きだと思ってるのか?」


「違うの?」


「なにか勘違いしてないか? 俺はただ相手の男が気になるだけだ。あれだけの美少女を落としたんだぞ? その方法を聞き出せば、俺もモテるかもしれない……! なぜ俺はモテないんだ……!!!」



 想像以上に欲求が溜まっていた。

 でも良かった。思っていたよりは悪い奴じゃなかった。



 …………どうしよう。異能力全く役に立たねえ。

◇◇◇



「君って結構、損な役回り多いね? 貧乏くじを引くだけならまだしも、片割れのように上手いこと回せない。トラブルは大きく、複雑になっていく。おまけに終わっても大して評価されない。当然だよね。片割れの存在が大きすぎる。大体はあっちが解決しちゃうし」


「それ誉めてますか?」


「いや全く」




新章始まってから、能力が出てこない…………。







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