真実を知るものは笑い転げる。
※前回、友達がとんでもない能力を持っていることが判明しました。
「でも先生、なんで俺に話したんですか? 口外しない方がいいなら、別に話さなくても」
病院の非常階段は薄暗く、非常口の緑の光だけが暗闇にぼんやりと浮かんでいる。そんな場所で小声で話すものだから、まるで怪談のようなシチュエーションだ。
小宮山先生は険しい顔をするとまるで悪事を告白するかのように
「……この学校で唯一対抗できそうなのが、おまえだけだからだよ」
あまりにも唐突な言葉に、俺の思考は停止した。
俺の能力って、そんなチート相手にも通用するの?
「あくまで可能性だ。もう隠しても悪いから言うけど、おまえの能力は《障壁》の一段階先。《拒絶》って呼ばれてる能力だ。普通の《障壁》と違って、物理攻撃や異能力への耐性が格段に違う。おまえの場合は時間制限があるけど、大体の攻撃は通らないだろ? そこに賭けてるんだ」
話が大事になってきた。確かに俺の能力で防げなかった攻撃はない。制限時間内であれば負けなしの戦績だ。
だが、伊藤のような無茶苦茶な異能力は相手にしたことがない。
「おまえの能力は世界にも数例はある。でも伊藤のはあいつが初めてだ。どこまでの相手なのか、大人がまだ分かってねえんだよ。だから、この状況で俺たちが出せる最大限の切り札がおまえなんだよ。まだ表沙汰にはなってないけど、情報が漏れればあいつを欲しがるやつらは多いだろう。………材料として。それでとりあえず情報を完全にロックできるまで、あいつは無闇に動かないほうがいいって結論になったんだ」
「材料」の一言は、もしそうなった場合に伊藤がまともな人間の扱いを受けないであろうことを容易に予想させた。それなら、しばらく会えないのも仕方あるまい。
能力だけで言えば、上にはなれるはずだ。しかし伊藤は一度の発動時間が俺よりも長い。延長戦は難しいだろう。
「もしおまえの能力が通用するなら伊藤の実力はそれまでの扱いになる。むしろそうなってくれた方があいつのためになる」
伊藤よりも俺の異能力が上だったら俺の方が戦力として連れ去られない? と思ったが、よく考えれば俺の能力は既に前例がある。つまり、ある程度の情報は既に握られているということ。
対して伊藤の能力は新参扱い。未知のものを調べたいと思うのは人の性だが、行きすぎるとまずいことになる。
「この情報を知ってるのは?」
「俺を含めた一部の人間だけだ。調査した先生、あと軍の上層部が数人。生徒で知ってるのはおまえだけ。上からはおおっぴらにするなとお達しが来てるから、緊急時以外は他言無用で頼む。最後に伊藤に会ってるのはおまえだから色々聞かれるだろうけど、うまいことやり過ごしてくれ」
俺は上を仰いだ。
「……分かりました。なるべく善処します」
ようやく俺の問題は解決した。新たな問題は見つかったけど。わずか3日の出来事なのに、ひどく時間がかかった気がする。2週間くらい。
ふと、赤井の顔が頭に浮かんだ。
本当のあいつは、一体どんな奴だったのだろうか。
◆◆◆
校長室の隣には、隠し部屋がある。存在そのものは広く知られているが、実際使われることはほとんどなく、 生徒からは長年「無駄部屋」という名前が付けられていた。
その部屋が今日、使われていた。
あるのは長机一つと、パイプ椅子が二つだけ。それでも話し合いをするには十分なものだ。
一人の女性教師が部屋に入ると、少女が椅子に座っていた。
表向きは新人教師。本来の役職は〈日本軍人事部特殊審議官〉。花田香織は椅子に座るなり、目の前の相手に愚痴をこぼす。
「……まったくもう。警察から証拠品を取り上げるのに、私の身分明かさないといけなくなったじゃない。釘は刺したから大丈夫でしょうけど。まあおかげで邪魔者は消せたわ。次期総帥戦、うちの派閥が圧倒的に有利になった。チャラにはしてあげるけど、今後は気を付けてよね」
「…………すみません」
ボソッと答えた少女に名前はない。彼女は今回もまた、与えられた任務をこなしただけである。
この学校では「赤井夏美」と名乗っていた。
花田は「まあいいわ」と流すと、持参したファイルを机の上に置いた。
「――――面が割れた以上、もうこの学校にはいられないわね。さて、次の仕事だけ「そのことなんですが」」
花田の表情が固まる。目の前の彼女は、今まで自分から意見するようなことをしたことがなかったのだ。
少女は立ち上がり、一礼すると
「私、今日で辞めます。お世話になりました」
そのまま部屋を出ようとしたので、花田は彼女の腕を掴んだ。
「……正気? 今のあんたは軍の秘密を知りすぎてる。野放しにするくらいなら、ここで殺さなきゃいけない。その意味分かってる?」
「ええ。でももう疲れたんです。いいですよ、ここで別に殺しても。もし実験にでも使うつもりなら、ここで舌噛みますから」
普段見せない表情と口調にさすがの花田も少したじろいだ。が、
「……馬鹿なこと言ってないで、次の仕事しなさい? あんたの仕事はこの国をより良くするためにあるんだから」
「そういうわけにも行かないのよねぇ」
どちらのものでもない女性の声が狭い部屋に反響する。ぎょっとした花田は思わず少女の手を離す。
部屋の鍵は閉めている。明らかに部屋の中からだった。朗からな女性の声は、狭い部屋に全くマッチしてないかった。
「……誰?」
「教えるわけないじゃーん? その子、うちで貰うことになったから。本人との契約は済んでるし後は軍人事部からクビにしてもらえれば、晴れて転職完了ってわけ」
花田は姿の見えない敵を探しながら
「それがまかり通るとでも?」
しかし相手は全く動じず
「嫌だって言ってもいいよ? ただ、あんたの所属してる派閥の大将の悪事をまとめたファイル、ばらまくことになるけど。女性隊員にセクハラって、あんま変わんないじゃん」
さすがの花田も言葉に詰まった。彼女自身、その大将にも悪い部分があることは知っていた。事実を言い当てられたとなると、部が悪い。
「……だからと言って、正当な手続きもなく軍から人材を引き抜かないでください」
「正当? 何それ? 未成年の労働だけでも違法だってのに、やってることが犯罪まがいじゃ、ろくな職場じゃねーってことくらいガキでもわかるっつーの」
花田は反射的に能力を発動した。どうせ狭い空間だ。暴風を起こせば相手も少しはこちらの恐ろしさをりか
「だ、か、ら」
風が止む。
次の瞬間、手首を捕まれた。そのまま後ろ手に組伏せられる。能力が何故か発動しない。
頭を押さえつけられているので、相手の顔は見えない。背後から勝者の余裕を纏った声が流れてくる。
「そーゆーところが良くないってこと。『力でねじ伏せるだけなら、動物にだってできる』んだから」
「…………!? まさかあんたら」
フレーズを聞いた花田の表情が変わる。彼女の脳裏に浮かんでいたのは、あのチャラチャラした格好の男性教師。
「後でヒロ坊にはなーんか奢って貰わないとな~。このあたしを引っ張り出してくるとか、普通できないからね?」
「てめえら、IPRG!?」
「せいか~い。さーて、さっさと戻って我ら〈国際能力者人権団体〉の代表んとこ行かないと。早くしないと怒られるから、車飛ばすけど許してね、お嬢ちゃん♪ そして、お役目ご苦労軍人ちゃん♪」
さっきまで部下だった少女が、手に缶を持っていた。ピンを外すと、気体が漏れだす。
それが催眠ガスであると気づいたときには、花田の意識は遠退いていった。
◆◆◆
「……『忙しい』って相手にしてもらえなかったよ。少し面倒なことになったな」
「え~? 本当はそんなこと露ほども思ってないんじゃないのぉ~」
電話を切った鶴宮を、社長はニマニマと見つめていた。
「……どうしてそう思う?」
「だってぇ、この子の異能力は『このノートに予想してあった』。つまり想定内だ。頭がいいあなたなんだから当然のように対抗策は用意してあるはず。なにせ私という無理ゲーを経験してるんだ。それに比べたら多少は楽だろう?」
社長は、基本的に言動は理解不能なレベルだ。が、こういうときは頭が回る。
「それに、この異能力では私は倒せないしね。ンフフフフゥゥゥゥゥゥゥゥゥ、ンフアハッハッハッハッッハッハッハッッハ――――――!!! ざーんねんでしたぁあああああああ! アーヒャヒャヒャヒャヒャヒャッ!!!」
鶴宮は驚きも納得の声もあげない。ただ、推測はしていた。最初に例の二人の話をしたときに言った「嫌な感じがする」。その「嫌」には二種類あると。
笑いが冷めた社長は、異常なほど冷静な声で
「問題は、こいつは人を惹き付ける。既にその原型が成立しつつあるみたいだ」
鶴宮は紅茶をすする。そして、笑顔のまま固まっている社長を見て、考える。
基本的に、人類が束になっても目の前のこいつは倒せない。故に、この《零点回帰》も社長にとって脅威にはならない。
こいつが恐れているのは、その能力者の持つ求心力。ただ、それは昔から知っていた。人を惹き付ける人間が、大の苦手なのだ。
いや、正確には違う。「魅力に引き寄せられる方の人間」を見るのが苦手なのだ。
優しいとか、親切というワードは、こいつのなかでは未知の領域だ。出会ってからかなり経っているがその部分は一切変化がない。
「ま、おまえの苦手なものが増えるなら人類にとってはいいことだ。ただ、おまえが笑いたいのはそれだけじゃないだろう? いい加減吐いてもらおうか。『勇者の片割れ』なんて言ってるが、本当の勇者は一人だ。おまえが感じたもう一つの『嫌』は、本当に通用するからだろう?」
しばらくの間、風が季節外れに設置された風鈴を鳴らす音だけが響いた。
やがてゆっくりと、社長は薄笑いをさらに歪ませて笑った。
「なぁんだぁ。調べたの? でも、その《私を倒せるかもしれない未発見の能力一覧》のノートにすら書いてないでしょ?」
「ああ。《拒絶》の異能力と違う時点で、そうする価値はあった。ただ、見分けはとんでもなく難しい。普通に審査しただけでは《拒絶》で通されるのがオチだ。それに、まだ分かってないことがある」
鶴宮の声は、いつになく厳しいものだった。
「あの壁は何で出来ている?」
薄笑いに戻った社長は、ゆっくりと語り出すのだった。
次回、新章スタートプラス、ようやく月が進みます。ベースは置き終わったので、もうちょっとテンポよく行けるかと思います。
あまりにも嘘予告が続くので、今回より予告なしにします。投稿ペースにはあまり変化はないのでご安心を。
この後もご覧いただければ嬉しいです!
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