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《最強》になりえない彼が、《最恐》と呼ばれる理由  作者: 岡部雷
蓼の葉っぱは、辛いらしい。
41/115

大人たちは暗躍する。

ちょっと遅れたです。あと、長くなったので切りました。最終回も前後回になります。

 伊藤に殴られ、俺のタックルを食らい最終的に自らの能力のせいで自爆した会長。完全に気絶したのかピクリとも動かない。念のため呼吸を確認したが、特に問題はなかった。

 それを尻目に俺は伊藤に肩を貸した。



「退学で済めば儲けかなぁ……」



 なんて、呑気なことを言ってみた。往来での出来事だったので目撃者が多すぎる。会長の好感度は低いとはいえ、逆らえるかと問われれば大半がノーと答えるだろう。

 それだけ軍の人間を怒らせることは禁忌なのだ。



「あれ~? どうしたの?」



 俺の耳が聞いたのは、可憐な少女のような声。

 聞き覚えがある。というか、あんまり聞きたくない声だ。

 なんだろう。そよ風と共に現れたのだが、その風がなんかわざとらしい。



「は、花田先生……」



 先生は状況を一別すると、ウンウンと首を縦に降った。



「会長は先生たちがどうにかするから帰っていいよ、二人とも。早くて当てしないと、辛いでしょ? あと、あなたのクラスの転校生。あの子の安全は保証してあげる。信じる信じないは…………任せるわ」



 そのまま、鼻唄を歌いながらその場を去っていく。入れ替わるように複数の男性教諭が、動かなくなった会長を担架で運んでいった。

 あの人、何者だ?



「……おーい、無視すんなぁ………」



 後ろで大の字に倒れていた伊藤から、怨みのオーラが発せられていた。



「悪い悪い。ほれ、捕まれ――――」



 差し伸べた手を、伊藤が掴んだ瞬間。



 バチン!!!



 手に衝撃が来た。これは、静電気? 改めてもう一度つかむと、今度は何事もなかった。 

 四月もあと5日で終わる時期にこれだけの静電気を溜め込むなんて、余程の特異体質なのだろう。



「一人で特攻したことは、後でみっちり聞かせてもらうからな?」


「勘弁してくれよ……」



 そう言いつつ、伊藤の顔は笑っていた。



 ◇◇◇



「その後会長がどうなったかって、聞いてるかい?」


「いえ。『行方不明』になったとしか。鶴宮さん、ご存じなんですか?」


「……元々彼の親も、内部調査で黒が確定してたからね。今は除籍処分を受けて、あと数十年は刑務所からは出てこれない。あの頃から、能力者学校では様々な人間が暗躍していたんだよ」


「うへぇ…………」



 ◇◇◇



 結果的に言えば、彼は再び入院することになった。

 四月まだ終わってないのに。



「で、伊藤は会長から俺への謝罪の言葉を言わせようとしたと。それだけの理由で、あの会長に会いに行ったのか?」


「俺だって穏便に済ませようとしたんだよ。でもあいつ『自分は知らない』て言ったんだ。あの子にだけ押し付けるとか卑怯じゃねえか」



 だからって短絡的に動いていい理由にはならない。



「そういうおまえだって、会長にタックルしてたじゃねえか」



 ぐうの音も出ない。どうやら似た者同士のようだ。

 病院で手当てを終えた彼は、入学式のときのように顔中が包帯が巻かれ、今度は頭にネットも追加だ。

 俺はなんとか言い訳を考えていた。



「あれは伊藤が殴られていたからであってだなあ…………」



 伊藤は包帯の上から鼻の頭を掻くと



「本気だしたら勝ってたんだけどな。悪い」


「おーいそれだと負け惜しみに聞こえるぞー」



 それから少し喋ってから、俺は病室を出た。

 廊下のベンチに小宮山先生がいた。俺に気付くと、足早に近づいてきた。二人で話がしたいという理由で、非常階段の踊り場に案内された。



「……喜べ。氷室が退学になった」


「え? 本当ですか!」


「ああ。タイミングよく、あいつの親父の犯罪が明るみに出てな。芋づる式に隠蔽されてたあいつの悪事も露見した。これであいつは軍人の息子じゃなくてただの犯罪者だ。身柄はもう学校にはない」



 ビックリするほど恐ろしい偶然だ。本当に偶然なのか? しかしまだ確認しなければならないことがある。



「――――そう言えば、さっき花田先生が『赤井の身の安全は保証する』って言ってたんですけど、どうなったんですか?」



 先生は即答はせず、視線をそらした。



「……まあ、そうだな。うん、大丈夫。もうこの先会うことはないだろうけど、あいつは自分の人生を掴めるよ、きっと」



 奥歯にものが挟まったような言い方だが、先生が大丈夫と言えばそうなのだろう。



「それと、お前に頼みがある」


「なんでしょう?」



 誰もいないはずの非常階段なのに、先生は露骨に声を潜めた。



「……伊藤は退院してもしばらくは学校には来れない」


「え……?」



 どういうことだ? まさか謹慎?



「……おまえ、あいつと異能力でぶつかったことはあるか?」


「いいえ?」


「……さっき分かったことなんだが、あいつの異能力は《無効化》じゃない」



 この人はなにを言い出すんだろう。



 ◆◆◆



 同時刻、鶴宮邸。



「とりあえず、腐った膿の排除おめでとう。これで少しはクリーンな組織に変わることを願っているよ。それにしても、腕立て伏せって楽しいのかい? さっきから偉く熱心にやってるけど。思うんだけどさ、畳というものは、こうやって今の私のように寝転がるためにあるものじゃないかな?」


「あいにくこの体だと、動かす機会が少ないんでな。ちょっとでも運動しないと、食ったものがすぐに脂肪に変わるんだよ」



 〈社長〉の問いかけに、家主は一切目線を会わせない。



「で、今日は?」


「やだなあ、呼び出したのはそっちじゃないの~。体より頭鍛えた方がいいんじゃない?」


「四六時中アポなしで人の家に押し掛ける奴が言っていい台詞じゃないぞ、それ」



 鶴宮は自らの失態を覆い隠すと、腕立てを止め、腕と体を使って、離れた場所にあった文机に向かう。

 そこには、『一人の能力者に関して重大な事実が認められた』と記載され、当人の顔写真まで掲載されている。



「この間の異能力審査の結果だ。この子、ただの《無効化》じゃなかったみたいだ。どおりでおまえが警戒するはずだよ」


「釈迦に説法かもしれないけど、《無効化》の仕組みは?」


「『対象となる能力者の放つ異能力もしくは異能力エネルギーに対してマイナスとなる、自らの異能力エネルギーによって干渉するもの』。だけどこれは」



 鶴宮は少し青ざめながら査定結果を見る。熟年の彼でさえ、見たことがないようなものだった。



「……想定はしていたが、実際に生で見ると迫力が違うな。これだと、この子も〈超能力者〉扱いか?」



 社長は、うんしょ、と起き上がると、まだそのまま畳に倒れた。



「……鶴宮さんの想定は大方当たりだと思うけど? ただ問題は、この異能力は〈超能力者〉()()でぶつかってもかなり有利だろうねえ。ただでさえ《無効化》が基盤にあるんだ。近接だとまず勝てない」



 鶴宮は使用人を呼ぶと、一冊のノートを持ってこさせた。

 それをめくると、びっしりと書かれた文字が白紙を埋め尽くしてた。見やすさを度外視し、ギチギチに詰め込まれている。

 ページをめくる手が止まる。そこには、《零点回帰》の文字。



「……こんなファンタジーものの能力が出てくるとはな」



 あらゆる物体の運動量を《ゼロ》にさせる異能力。それは異能力とて例外ではない。つまり《無効化》は、この異能力の一部でしかないのだ。

 単純に物の運動を止めるだけなら、《停止》と呼ばれる。

 この異能力の恐ろしいところは、《無効化》が()()()()()。完全な上位互換の扱いなのだ。



「彼に触れたあらゆるものはその動きを封じられる。うちの社員みたいに、ただ凍らせるのとは訳が違う。規格外の異能力だ。人に触れれば、血流、神経の伝達信号、果てには心臓の拍動まで。1秒かからないだろうねえ」



 鶴宮は難しい顔をしていた。



「能力者は腐るほど見てきたが、ここまで危険なのは初めてだな。対抗しうる能力者がいるとすれば――――」



 言いかけて、首を横に降った。いないことはないが、協力を依頼しても断られるだろう。



「ヤッチーのところのナンバー2か、もしくはお宅の使用人くらいかな。普通の能力者じゃ相手にならないし、超能力者で対抗できるとすればその二人。でも使用人さんは厳しいかな。系統は似てるけど、あっちの方が格上っぽいし。やっぱ消去法でユリちゃんかな」



 鶴宮はため息をつくと、懐から携帯を取り出し、ある番号にかけた。



 ◆◆◆



「……はっきり言おう。伊藤の力は間違いなく狙われる。今は限られた人間しか知らないが、どこから情報が漏れるかわからない。それと、これは勘だが、あいつは自分の本来の異能力に気付いているんじゃないか?」



 さっきの伊藤の言葉が、脳内で再生されていた。

「本気になれば勝てた」。あれは嘘じゃなかったのだ。

最近、予告すると上手くいかない……予告しない方がいい?(錯乱)



次回は9月20日、更新(予定)です。



読んでくださっているかた、本当に申し訳ございません。

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