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《最強》になりえない彼が、《最恐》と呼ばれる理由  作者: 岡部雷
蓼の葉っぱは、辛いらしい。
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主人公はインフレできない。

最近、手直しを始めたら0時過ぎるケースが増えてきてる……


 ◇◇◇



「茶々を入れるようで申し訳ないけど、君の戦闘スタイルって独特だよねえ。蹴りも殴りもせず、()()()()()()って言うのは。まあ、《壁》の形を思ったように変形させられないから、仕方ないと言えばそうなんだけど。ただ、手例えば首に〈中心点〉を移して展開すれば、グローブの代わりくらいにはなるじゃない?」


「俺がそこまでできるような人間に見えますか?」


「……いや、そうだったね。ビビりでチキンで臆病者の君が、()()()()()()()()()()()なんてこと、できるわけがないものね」


「ご理解が早くて助かります」


「君が逃げに徹するのも、そこから来てるんだろうね。相手の疲労や衰弱を待つ、ある意味立派な戦法だ」



 ◆◆◆



「で、拘束したはいいけど、これからどうするの? ボコすの?」



 二瓶さんその顔で吐いちゃいけない台詞だよ。

 とは言いつつも俺も迷っていた。赤井は後ろ手で手錠をかけられて、体育座りで固定されている。伊藤が触れていることで能力の発動はできないし、《伝達操作》の能力者、山田によって体の動きを拘束されている。逃げる心配はとりあえずなしと思っていいだろう。

 しかし、こいつの主人に対する忠誠心は半端ではない。余計なことをしゃべるくらいなら、問答無用で自決しそうな勢いだ。


 ふと泣き声が聞こえたので振り返ると、宇田川が四つん這いになっていた。

 なんでも、「砂時計がコップになった……」と訳の分からないことを喚いているらしい。何が言いたいんだろう。

 小宮山先生が俺の肩を叩いた。



「榎本としては、こいつをどうしたい?」


「そうですねー。結局は俺の他に被害者もいないし、取っ捕まえようにも未成年だしなあ。先生、どうしましょう?」


「……もしおまがなにもしないようなら、こいつは叱るべき処罰を受けにゃならん。能力を使った犯罪は、普通と比べても重い処断になるのがセオリーだからな。まず、偽装偽証罪と名誉毀損。。榎本の『声』を真似て明らかに害となるように仕向けたことと、『姿』を偽って冤罪の場面を見せたこと。あとは殺人未遂だな。それ以外の立証は難しいが」


「会長は?」


「……殺人教唆と倉橋雛に対する暴行か? なかったことにされると思った方がいい。なにせ相手が相手だからな」



 どちらかと言えば、会長をきっちりと断罪してほしいものだ。

 個人的な意見だが、指示するだけで自分は安全圏にいる人間は一番悪だと思う。



「にしても先生、先生の方こそ大丈夫ですか?」


「何が?」


「だって軍の家族に逆らうことになるんでしょ? 春休みの先生方、軍の家族に危害が及ぶと知ったときの焦り方スゴかったんですけど」



 春休みの光景が蘇る。テロ襲撃か大規模な自然災害でも起こったのかと思うくらいだった。

 それだけ、二瓶さんの立場が重要だったということでもあるが。



「あー、それは気にするな。それくらいなら問題ない。でも、なんで今まで俺に相談しなかった? 一応担任だぞ?」



 そう。俺はこの一件を小宮山先生には相談していない。だってこの人新人だもん。●●で△△したような生徒の弁護など荷が重すぎる。だから経験豊富なはずの学年主任とか弱い生徒の味方になってくれそうな養護教諭を頼りにしたのだが、結果はご存じの通りである。



「……先生だって声かけてくれなかったじゃないですか。別に咎めはしませんが」


「悪いことしたなあ。すまん」



 今となっては過ぎたことだ。

 先生は新人なためか、異様なほど雑用を押し付けられていた。隣の花田先生も同じはずだが、まるで待遇が違う。正直、声をかけるタイミングがなかったのも事実だ。

 まあいいや。


 話は逸れたが、とりあえず俺の名誉は回復できそうだ。

 赤井が恨みがましい目でこちらを睨んでいる。いや俺悪くなくね?



「こいつナイフ持ってるんですよ。他にも武器持ってる可能性もあります」


「そうか。じゃあ女子全員でこいつのボディチェックしろ。男子は眼ぇ背けて、伊藤は目を瞑ってろ」



 誰だって女子の集団を前に、女を敵に回すようなことはしないだろう。

 俺も皆と同じく、赤井から目を背けた。背後から、カシャン、カシャンと軽い金属の音がする。それが数分続いた後、「もういいですよ」と二瓶さんの声が聞こえた。


 振り返った俺が見たのは、ナイフが10本。その他は名称不明だが先端が尖ったものが多く、暗殺に使うような代物であるのは間違いなさそうだった。

 かなりの数を押収したが、あの小さな体のどこにあんなに仕込んでいたのだろう。

 それにしても、ガチの暗殺者(アサシン)!?



「それと先生、これは解析をお願いします。奥歯に詰まってました」



 と、二瓶さんは小さなカプセルをティッシュに包んで先生に渡した。

 自決用の毒薬か?



「分かった。とにかく、あと数分で警察が来る。あとは俺がやるから、用がない生徒はもう帰れ」



 俺は聴取に協力する必要があるので残ることになり、他は帰らせることになった。

 なにせ彼女は、俺以外には誰にも危害を加えていないのだから。



 ◆◆◆



 警察と話した結果、分かった事実。

 驚いたことに、「赤井夏美」という名前は偽名だった。これで私文書偽造も、彼女の罪状に加わることになる。

 彼女の本名を尋ねたところ、「無戸籍」という返事だけが帰ってきた。

 確か、戸籍はなければ作ることができるはずでは? と聞いたら「そんなの知らない」と冷たい返事。

 でも、会長からすれば使い勝手のいい人間だったのだろう。どこで彼女と出会ったのかは知らない。それでも、今にして思えば、彼女も利用された被害者のような気がする。

 チラリと警官が彼女をガッチリと押さえている。あの警官も《無効化》の能力者のようだ。

 あの感じでは、自分と会長の繋がりは一切ない、と言い切るだろう。罪を全部一人で背負うつもりだ。

 赤井が連行されていく。少し虚ろな目をしていた。



「小宮山先生、彼女はこれからどうなるんですか?」


「まあ、数年は間違いなく刑務所だな。いや、刑務所ならまだましだ」


「はい?」


「『戸籍がない』時点で、奴の将来は暗い。まともな場所に引き取られればいいが、善人面した奴等も少なくねえからな」


「それは……?」


「裏ルート。人体実験、人身売買。大きな声じゃ言えねえが。特にあいつみたいに、年齢のわりに経歴が汚れきってると、ましなところは引き取っちゃくれねえわ」


「え゛?」



 あれ? 俺もしかして一人の人間殺した?



 ◆◆◆



「お巡りさんちょっと待ってぇえぇぇ!」



 人目を気にせず、連行される赤井(仮)を追いかけた。

 冗談じゃない!



「どうした? 聴取への協力なら、またお願いすることもあると思うが」


「いやですね俺はこいつに恨みがあるので連れてかれる前にちょっとぶん殴りたいのでお借りしますねさようなら!」



 警官がポカンとしている間に、彼女の手を取って走る。

 とんだ愛の逃避行だ。



「ちょ、ちょちょ、なにを……!」


「うるせえ! お前、殺人の経験は!?」


「はあ!? ないわそんなの!」



 ナイフの使い方プロなのに!? 



「ちなみに会長との出会いはいつ!?」


「い、一ヶ月前!」



 よくその短期間で忠誠心あれだけ高まったな! 



「ならよぉぉぉぉし!」



 腕力にものを言わせ、強引に引っ張る。しばらく走ると、前方から小宮山先生が駆けてくる。



「おまえ、どういうつもりだ?」


「この年で一人の人間の人生狂わせたとか寝覚めが悪すぎます! 会長んとこいくんで、それまでこの子匿ってください! 旅は道連れですよ!」



 こいつが裁かれて会長がのうのうとしているのは癪にさわる。



 ◆◆◆



 会長を探していたところ、端末が鳴った。相手は太一で、伊藤が会長と交戦しているそうだ。

 場所は言われなくても分かった。音がこっちまで聞こえてくる。


 見えた!


 二人が戦っている周囲は、嵐の後のような凄惨な景色だった。建物も道路もボコボコに凹んでいる。校舎から真正面の大通りが、戦場と化していた。

 会長が伊藤に馬乗りになっている。見てるだけで腹が立ってきた。


 俺は《壁》に、最大限の弾性を付加した。そのまま、真っ直ぐ突き進んで、会長に体当たりをかます。


 弾き飛ばされたが、思っていたよりは飛ばなかった。どうやら、自分の体に重力をかけて伊藤を押し潰していたらしい。だがそのせいで、会長は自信の重みで舗装された道路に体を叩きつけ、やがて動かなくなった。

 俺は伊藤に駆け寄る。直に触れたら能力が解除されるのを警戒してか、ゴムシートを一枚、挟んでいた。



「おい! 大丈夫か!?」



 伊藤の顔には殴られた痕があり、口の端から血が流れていた。



「ああ、なんとかな……」

いつもご覧いただき、ありがとうございます!


アクセスも積み重なっていますので、本当に励みになります!

ブクマや評価、感想などこれからもお待ちしています!



次回でこの章は最終回です! うまくいけば9月17日に投稿します!

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