天下の回りものは、決して金だけではない。
主人公のテンションがおかしなことになる部分がありますが、彼は至って正常です(自称)。
〈太一目線〉
赤井が見つからない。彼女がいそうな場所はあらかた探したのだが、無駄足に終わった。
優哉が会長を引き付けている間に、彼女を味方にできないか交渉してくれと頼まれたのにこれはまずい。
あと探していない場所と言えば、会長の自室くらい。
ただ、鍵がない限り部屋に入ることは難しいだろう。あれは合鍵が作れるものではない。ピッキングをしようものなら、すぐさま警報がなる仕組みになっている。
でも、彼女ならやるかもしれない。俺と伊藤は、会長の寮へと急いだ。
◆◆◆
(優哉目線)
「大体、おまえみたいな奴がどうしてこの学校にいるんだ? そんな雑魚みたいな異能力で、戦場で活躍できるとでも思ってるのか?」
いや別に軍人になる予定はないのですが。
なんて答えられるはずもなく、俺は一歩下がるに留まった。
会長の口の端が上がっていく。まあ、そうなるわな。復讐したい相手が目の前にいるのだ。好機を逃すほど、この人は甘くない。
「俺が消してやるよ」
ほーら来た。
事前に、太一から会長の能力に関してはある程度聞いていた。こいつの能力は《重力操作》。まあベタな異能力だ。強力であることは間違いないが、俺の能力とは相性が悪い。俺の《壁》は、異能力による干渉をシャットアウトできるのだから。
それに彼の場合、重力を操作できるのは対象物のみ。俺個人にかかる重力は操作できても、周辺の領域までは、重力を操作できない。しかも、視界に入っている間だけというおまけ付き。
攻撃だってある意味シンプルだ。上から押し潰すだけなのだから。
よし、勝った。
「『勝った』、って思ったでしょ?」
会長の口から、聞こえるはずのない声が聞こえた。
◆◆◆
「もしあなたが、最初から能力を発動させながら来れば見抜けたのに。案外間抜けなんですね。私の異能力で周囲が騙されるのは当然ですが、あなたは本当に滑稽です」
会長の姿が揺らぎ、景色が変わる。
今、伊藤たちが探しているはずの彼女が、目の前に現れた。今は能力を完全に解いたのか、本来の見た目に戻っている。回りに誰もいないせいか。
てか、こんな口調だったっけ?
「な、なんで赤井がここに……」
こいつの幻術を甘く見ていた。
よく考えてみれば、普段まるっきり違う見た目じゃん! 畜生、男にも化けられるのか!
「今、会長はご自分の部屋で待っています。今のあなたに協力的なのは、真田太一、伊藤光太郎。あとは倉橋雛ですかね。どうせあなた方、私を味方に引き入れようとでもしたんでしょう? 私の演技にほだされるなんて、人を見る目がないんじゃないですか? まあ、私の正体も見抜けない雑魚と比べれば多少はましですが」
やられた……!
あの気障眼鏡、俺がここまでするのを読んでたって言うのかよ!
赤井はにこにこしながら
「当然です。確かに会長は、倉橋雛の一件で不覚をとられ、今なおその部分の記憶は戻っていません。しかし、倉橋があなたのクラスメートの伊藤と仲睦まじくお話しされているのを見て、ご自分を陥れかつ彼女の心を奪ったのが伊藤光太郎であると推察をなされました。今回の計画を練り、私を送り込んだのはその直後です。あなたが私と階段で争いを起こした日、会長はあなたが私を尾行していることに気づいておられました。なのであの会話を、わざとあなたに聞かせたのです。そして、今日の昼休み。真田太一と倉橋雛の接触を確認。私がした報告の内容から、あなた方が〈私は弱味を握られているから仕方なく会長に協力している〉と確信したことを確信されたのです。あなたは自分が私を説得できるとは思わなかった。だからあの二人に託した。そして見つからない私を探す二人は、やがて会長の秘密がある寮に向かうでしょう。私がいるものとおもいながら」
べらぼーに長い解説どーも! 端末のレコーダーを起動させておくべきだったぜ! 自白してたのに!
完全に裏をかかれた。足止めを食らったのはどうやら俺のようだ。今は姿を見せているが、この間のように姿を隠されたら手こずる可能性がある。
なるほど、俺は詳しくは知らないが倉橋先輩は『氷室会長が人の弱味になりうる何かを握っている』と思っているようだ。それを太一たちに聞かせた結果、俺の推測と合致するところが出てきたのだろう。となれば、それをどうにかしようとするのは自然な流れになる。
会長は、まとめて俺たちを潰すつもりだ。
「なあ、赤井さんよぉ。一つ聞いてもいいか?」
「はい?」
「なんでそんなに頭がいいのに、訓練の時は手ぇ抜いたんだよあのアホはああああああああああああああああぁっ!!!」
最初から真面目にやれよ!
だったらこんな面倒なことにはならなかったのにさ!
「アホ……?」
やべ、なんか失敗した?
「会長が、アホ? あなた、本気で言ってるんですか?」
本気じゃなきゃ言わねーよこんな台詞。
……と言いたいところだけど、目の前の赤井の表情がみるみる変わる。
「いずれ国を背負って立つお方に向かって、あなた、アホと言いましたね?」
「たぶん無理じゃないかな?」
おっと素の感想が。
赤井が懐からナイフを引き抜く。俺も能力を発動させる。
「貴様侮辱したなっ!」
いつも通り、短期決戦だ。多少手荒になるが仕方ない。一歩踏み出そうとして、――――踏み留まった。
焦ってしまって、忘れていた。
味方は、まだいたことを。
「な、なにこれっ!?」
姿を消す直前、赤井は両脇から音もなく現れた腕に、がっちりと拘束された。
「本当だったら榎本を殴るつもりで来たけど……」
「悪役はきみだったみたいだな、赤井さん」
彼女を掴んでいたのは、一組の男女。どちらもクラスメートだった。
《透明》の能力者の佐藤葵。
《迷彩》の能力者の岩田仁。
二人とも姿を隠すにはもってこいの能力者だ。
廊下の向こうから、宇田川ともう一人。確か、彼も《重力操作》だったような。
「「「ぐええええ!」」」
会長とは違って、彼は一定の領域全ての重力を操作できるようだ。
両脇の二人もまとめて押し潰している。
その後ろから。長い髪を振り乱し、一人の少女が悠然と歩いて来た。
「ここは私たちが何とかするから、君ははやく二人を追いかけて!」
どうやって皆を説き伏せたのかは知らないが、二瓶さんが取り仕切っていた。彼女の後ろには、クラスの面子が揃っていた。
「行って!」
俺は声援を背中に、会長の寮に向かって走る。
◆◆◆
校舎を飛び出した俺は、会長の寮に向かって《壁》を使って跳躍する。大体の方向は分かっている。
二人よりも先回りできれば及第点だ。
校舎からは2番目に近い寮。高さがかなりあるのですぐに分かる。
確か、会長はマンションの中層あたりに居を構えていたはずだ。そのほうが防犯には良いと聞いたことがある。
ロビーに突入したとき、エレベーターに乗り込む二人が見えた。
声をかける前に、 扉が閉じてしまう。
俺は隣のエレベーターに乗り込むと、すぐさま彼らと同じく10階を目指す。
焦る気持ちを落ち着かせながら到着すると、二人はまさに会長の部屋に入ろうとしていた。
「ストオオオオオォォォォップウウウウウウウウウゥゥゥゥ!」
叫びすぎて喉が潰れるかと思った。
ぎょっとした二人が同時に振り替える。
「帰るぞ野郎共おおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
二人の首根っこを掴み、帰還する。
おっしゃ会長ざまあみろぉ! 思い通りにはさせねえぜ!
二人に事情を説明した上で生徒会室前の廊下まで戻ると、拘束された赤井がいた。もちろん、俺は《壁》を通して見ているので見えるだけだ。
正確に言うと、重力をかなりかけられているのか、床に張り付くような形になっている。
ただ、周りの生徒には見えていないようだ。
二瓶さんに、無効化なしでどうやって拘束したんだと聞いたら、「見えなくなる前に、太田くんに重力をマックスまで強化してもらった」とのこと。
なるほど、いくらいないように景色を変えたところで、本当にいなくなったわけではない。なにもないところに重力をかけているように見えて、実際はガッチリ拘束できていたわけだ。
あれだけ俺たちを振り回した彼女がこんな形で敗北しているのを見ると、なんだか虚しさすら感じる。
しばらく眺めていると、小宮山先生を連れて桐山が戻ってきた。先生は腰に下げたホルダーから、手錠を取り出す。
それを俺に放り投げると、
「誰も姿が見えないし、伊藤が近づいたら重力が解除されるからおまえがやれ」
特に逆らう理由もないので、そのまま彼女の片手に手錠をかけた。
しかし後悔した。重力が強化されている領域に足を踏み入れた瞬間、あまりの重さに動けなくなったのだ。
「すまん、少しだけ緩めてくれ…………!」
ちょっと重力がましになった。その隙に、赤井の両手を後ろ手にして手錠をかける。
すぐさま離脱し、今度は伊藤に触れてもらうことにした。
ようやっと、俺を苦しめた奴の顔が公開される。
次回、決着です。ギャグのつもりが、いつの間にかシリアスな雰囲気に……。
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次回は9月16日 更新予定です!




