勇者の片割れは姫の下に参ずる。(後編)
太陽が昇っていないので許してください(二回目)( ノ;_ _)ノ
普段より暴力描写が多いのでご注意ください。
数日前、生徒会室。
「ああっ、クソっ!!!」
氷室蒼馬は、罵倒と共に近くにあったゴミ箱を蹴飛ばした。掃除したばかりで中身が入っていなかったが、箱そのものには亀裂が走った。
生徒会の役員はなにか言いたげにしているが、暴走する会長に怯え誰も目を会わせようとしない。
倉橋雛は、そんななかでも落ち着いた態度を崩さずにいた。
「蒼馬くん。落ち着いて、ね?」
「うるさい! あいつがいなければ俺はこんなことにならなかったのに!」
「あいつ」とは、氷室が受けた試験に横槍をいれた新入生のことだ。
その生徒が活躍したせいで、彼は試験で最低の評価を受けた。
これだけ聞けば新入生は余計なことをしたように聞こえるが、実際には違うということを生徒会の面子は知っている。
自分たちが信頼した相手が、実際にはそうでなかっただけの話だ。
「雛、どうせ夜は暇だろ? 付き合えよ」
そして、この男は思い通りにならないことがあると必ず手近の女に当たる。
絶対に、自分に逆らわないと知っているから。
雛は、この男と交際していることに少しの後悔を感じ始めていた。
氷室は顔はいい。普段表に出ているときは、勉強もスポーツも異能力も文句なし。
誰にでも優しいので、男女ともに好感度は高かった。
しかしそれは、あくまで出会ったばかりの頃の話だ。
彼が生徒会長に就任してからは全てが変わった。
それまでの爽やかさは消え、覆い隠していた本性をむき出しにするようになった。
自らの才能と力に物を言わせ、かなりやりたい放題をするようになり、気に入らない相手は実力と権力で捻り潰す。逆らえない相手を思う存分殴って蹴って。まるでスポーツのように楽しんでいる。
気になって調べたところ、彼は元々こういう性格らしい。
いままでの仮面は、全て生徒会長になるためのもの。なんでも、軍人である父親から生徒会長にならなければ勘当すると言い渡され、その条件をクリアした今、もはや仮面は必要なくなったのだ。
そしてもう一つ。氷室にはとんでもない一面があった。
性欲の塊だったのである。
一度だけ彼の部屋の机の引き出しを見たときは、吐き気に襲われた。
中に入っていたのは、一冊のアルバム。そこには、何人もの少女のあられもない姿が記録されていた。
そこを、氷室に見つかった。だが彼は雛をとがめもせず「デジタルより味があるだろ?」とせせら笑った。
相手についても「ちょうどいい人」としか答えなかった。
告白したのはこちらだったが、今すぐにでもこの男と別れたいと思った。
だが、彼は唯一自分には関係を迫ってこない。一度理由を訪ねてみたが、「軍人の子供には手ぇ出すなって言われてるんだ」としか返ってこなかった。
例え、彼女が別れたところで氷室蒼馬という人間は変わらないだろう。
被害者が増えるだけのような気がした。
雛にだってプライドがある。そして彼女は、氷室の被害が拡大しないよう、監視することを心に誓うのだった。
それから、数ヵ月が過ぎた。
なにもできない自分に嫌気が差していたとき、あの事件が起こった。
いい薬になるだろうと思ったが、その期待は見事に裏切られた。
今日限りで、あいつと付き合うのはやめよう。
◆◆◆
雛が校舎を出る頃には、日は既に沈み、東の空は暗くなり始めていた。
腕時計を見ると、7時の少し前を指していた。この時間になると、校舎にはほとんど人はいなくなる。
寮の門限が8時のため、学校側が強制的に帰らせるのだ。
そこへ、氷室がやって来る。
「で、今日はどうするの?」
「あのクソガキ殺しに行くぞ。手伝え」
雛は一瞬、目の前の男が何を言っているのか理解できなかった。
数秒かけて、ようやく脳が情報を処理した。
「じょ、冗談だよね?」
「何言ってるんだ? 俺の経歴に傷がついたら良くないだろう? おまえもそう思うよなあ? おまえは俺のものだもんな?」
暗に、「おまえがやれ」と言っている。
狂っている。
前提が間違っていた。この男とは、最初から関わるべきではなかったのだ。
「わ、私、帰る――――」
逃げようとして数歩走ったところで、体がズシリと重くなる。
彼女が今まで何度も見た異能力。氷室による《重力操作》だ。
「おっかしいよなあ。おっかしいよなあ?」
彼が近づいてくるたび、重さがどんどん増していく。
ついに、耐えかねた彼女は膝をついた。
そこへ、強烈な蹴りが入った。
鍛えているだけあって、洗練された無駄のない相手に最もダメージを与えるものだった。
「俺の言うことを聞けば、みんな幸せになるのに。どうしてみんな言うことを聞かないんだ?」
動けない彼女に対して、氷室は何度も蹴りを放つ。そして、徐々に拳も混ざっていく。
同じ言葉を繰り返しながら、氷室の暴行は続く。
そのうち、雛は気づいた。
氷室が狙っているのは服の上から。つまり、見えないところを狙っているのだ。
一体、どれだけの人間が同じ苦痛を味わったのだろう。
衝撃で口の中が切れ、血の味が広がる。10分も続くと、もはや感覚がなくなってきていた。
雛は、「これは罰だ」と思った。
自分はただ見ていただけ。
もし自分がここで死んだら、こいつの悪事も白日のもとになる。そうなるなら、そのほうがいいのかもしれない。
彼女はゆっくりと、目を閉じた。
――――次の攻撃は、来なかった。
朦朧とする意識のなかでうっすらを目を開けると、地面でのたうち回る氷室の姿があった。
そして、自分のすぐそばに、人の気配を感じた。
「ふざけんなよ、てめえ」
男子が一人、立っていた。その拳は、固く握りしめられている。
「てめえは上に立つべき人間じゃねえ」
男子はそのまま、唖然としている氷室に向かって走り出す。
氷室は、攻撃の対象を雛から男子に変更し、彼に向かって能力を発動した。
が、男子はそれをものともせず、もう一発お見舞いした。
「クソっ、てめえ《無効化》か!」
「知ってんだろおめえはよぉ!」
だが、ここで氷室がニヤリと笑う。
男子生徒は馬鹿正直に答えたせいで、氷室に攻略法を教えてしまったのだ。
彼は素早く起き上がると、男子の拳をかわした。
その腕をつかんで、柔道のような技をかけた。そうとうキツイ技なのか、男子生徒は体制を崩す。
次の瞬間、氷室は寝技に持ち込み、さらには絞め技で落としにかかった。
男子生徒は腕を叩いているが、明らかに不利だ。
「おまえみたいな下等な人間が、俺に逆らうとどうなるかわかるか? 死ねよ、死んで償え!」
氷室の奇声が響くが、誰も来ない。
誰も助けに来ない。
誰か。
誰か――――――――――――
「ぐああああああああああああああああああっ!?」
氷室が、白目を向いて気絶する。
雛は、残りの体力を全て使うつもりで、自らの異能力を発動した。腹部や背中はまだ痛むが、異能力が使えないほどではなかったようだ。
スタンガンと同じ量の電流・電圧を浴びせたのだ。
まともに食らった氷室は、泡を吹いていた。
拘束から解放された男子生徒を見て、彼女は合点がいった。
「君だったのね、伊藤くん。でもどうしてここにいるの?」
「いやあ、忘れ物しまして。取りに来たらこんなだったので」
その顔が、彼女にはとても輝いて見えたのだった。
◆◆◆
〈太一目線〉
「……で、会長は放置された結果、翌朝に登校した生徒に見つかったと」
「うん。でも彼はなにも覚えてなかったみたい。そのせいかな。嫌がらせが後回しにされているの。とにかく、やるなら急いだ方がいいわ。今は忘れてるかもしれないけど、私たちが動けなくなるもの時間の問題だから」
「ありがとうございます。必ず会長の尻尾は掴みます!」
俺は先輩に深々と頭を下げ、その場を後にした。
「伊藤くんにもよろしくねー!」
…………惚れたな、ありゃ。
◇◇◇
(現在)
伊藤が俺に聞かせた内容も、ほとんど一緒だった。
「なるほどな。にしても会長に関してはちょっと残念だったな」
「まあな。まさかあんなクソ野郎だとは思わなかったよ。あーまた腹立ってきた」
伊藤はさっきから関節をポキポキ鳴らしている。
だが、見えてきた。
倉橋先輩によると、会長は女癖が悪い。そして、明らかな犯罪行為に手を染めている。
その相手の一人が、恐らく赤井だ。
次回、ついに主人公が……?
お陰さまで2万PV突破しました!
いつも読んでくださり、本当にありがとうございます!
ブクマや評価も増えてきたので、これを糧にまた頑張って参ります。
もちろんこれからもお待ちしております!
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次回は9月15日、更新予定です!




