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《最強》になりえない彼が、《最恐》と呼ばれる理由  作者: 岡部雷
蓼の葉っぱは、辛いらしい。
37/115

勇者の片割れは姫の下に参ずる。(前編)

 ◇◇◇



 青年と大臣の会話は続く。



「……なるほど、さっき鶴宮さんが言ってた『自分のせい』ってのは、そういうことですか。自分の作戦で、思わぬ被害が出たから。もしかして、あの茶番、本当のターゲットは会長たちとは別なんじゃありませんか?」


「うん。あの特に君のところの、あのバカ息子は、自分の思うように事が運ばなかったら癇癪起こすのは分かってたんだよ。全国の生徒会長、言ってしまえば〈軍人の子供〉の一部にそういう奴がいたのもの事実だ。僕はね、そこから弱味に漬け込んで、その親もろとも軍から弾こうとしたんだ」


「『軍人の癖に、家族に対して、有事の際の教育はなにもしていない。それで軍人が勤まるものか』って感じですかね。根拠としては弱いですが、エリートの化けの皮は剥がれるでしょう。鶴宮さんのことですし、それ以上にえげつない攻めをしていてもおかしくはないですが」


「まあね。でも、だからこそ君の存在は、僕としても想定外だった。軍人同士での反発はまあまあ予想してたんだけど、君みたいになんのバックもなしに突っ込んでいくのは、前例がなかったからね。おかげで、君には辛い思いをさせてしまった。――――いや、申し訳ない」


「まあ、なんとか生きてはいますが」



 ◆◆◆



 赤井夏美によって、俺の学生生活は崖っぷちどころか、若干崖から落ちつつある。


 その日は無地に帰宅できたし、夜中に襲撃を受けることもなかった。

 赤井が教室で大泣きした翌日。


 散々だった。

 噂が広まるのは早いもので、隣のクラスどころか学校全体から白い目で見られていた。

 ただの変態とか、そんな生ぬるいものではない。あの赤井がお涙と共に、他人にどんな嘘を並べたのかは知らない。だが、俺を見る目は、既に人間に向けられるものではなかった。


 先生たちまでが彼女の味方だった。

 弁明をしたいと言っても、「あんなことをしておいて、よくもまあいけしゃあしゃあと!」と怒鳴られた。

 ちなみに相手は四十過ぎの女性教諭。彼女の口からは、俺がやったとされている事実以上の罪状が、湯水のように湧き出てきた。しかも相手が複数に増えている。

 挙げ句、「これだから男は」なんて言い出す始末だ。

 あれで養護教諭なのだから、世の中間違っていると思う。


 放課後まで耐えた後、俺は一つだけ太一に頼み事をしてから、教室を出た。



 結論。

 元凶を潰す。



「かーいちょぉ~~」



 生徒会室から出てきた会長は俺の姿を見て露骨に顔をしかめた。俺のせいで大恥をかいたのだから、当然だ。

 いや「俺のせい」は違うな。あっちが勝手に思っていることだ。

 それでも彼は無理矢理スマイルを浮かべると



「なんだい?」


「この間の謝礼の件ですよぉ。生徒会に反逆した奴らを、たまたまとはいえ潰したの僕じゃないですかぁ。なのにぃ、未だにお礼も謝礼品ももらってないんですけどぉ。それでぇ、今日はそのお願いに来ましたぁ」



 ウザい、と自分でも思うくらいにねちっこい喋り方を通す。

 自分の手駒の攻撃が全く通じていないかのような図々しさを、感じ取ってくれればいいのだが。

 しかしここでも、相手は一枚上手だった。



「おまえなあ、なんか女子に●●して、△△△までして、あげくに(おぞましい犯罪。文字数すら明かしたくない)までしたんだって? そんなやつに謝礼を渡すバカがどこにいる?」



 まあ、そうなるだろう。

 知らない間に俺の鬼畜レベルが更に上がっていた。もはや常軌を逸したサイコパスである。

 自分が思った以上に、俺への風評被害が酷いのを知ってか、若干口がにやけている。


 でも、これでいい。会長をここで足止めする。それが俺が選んだ役割。俺が太一に頼んだのは、その隙に、伊藤と一緒に、赤井に接触をしてもらうことだった。

 伊藤が赤井に触ることができれば、彼の《無効化》によって、少なくとも長身美女に見せかけている幻影は潰せる。

 俺が行っても対話は成立しない。彼女を味方にするには、他の誰かに頼むよりなかったのだ。

 ちなみに、俺がこの世で一番嫌いなものは、冤罪である。


 うまくやっておくれ、親友よ。



 ◆◆◆



 〈太一目線〉



 俺は、優哉と出会って良かったと思った。

 入学式の前、あいつが俺と優香を助けてくれていなければ、どうなっていたことか。

 入学式当日だって、あいつが稼いだわずかな時間のおかげで、俺たちは無傷だった。

 優香とこっそり部屋で会っていたのができなくなったときも、あいつは笑顔で壁を壊した。

 生徒会のせいでストレスが溜まっていた時も、俺のわがままに付き合ってくれた。


 もしあいつの姿を見ていなかったら、間違いなく俺も向こう側にいた。

 そう考えるとゾッとした。


 優香は、自分の名前に「優」の字が入っているのは、「優しい子に育ってほしい」という祖母の希望が理由なのだそうだ。

 きっとあいつの親も、そう願ったに違いない。

 今の時点で弁明に走っても、無駄になる。確実に、絶対に勝てる場を整える。

 あいつはそうやって戦ってきた。

 ならば俺は、ここで親友としての務めを果たそう。


 俺は隣を歩く、もう一人の友人に声を駆ける。



「なあ伊藤、会長にどうやって勝ったんだ? 確か、能力が使えなくても戦えるように、格闘術習ってるって聞いたことあるんだけど」


「ああ。倉橋先輩が加勢してくれなかったら、間違いなく負けてたな」



 氷室会長が倉橋先輩に対して、一方的に殴る蹴るの暴行していたので間に割って入ったのだという。

 会長は、「倉橋は俺の女だ。どうしようと俺の勝手だ」とあまりにも身勝手なことを言うので、伊藤もキレたらしい。



「だから、『人間は物じゃねえ』って言ってやった。そのあとはもうドンパチだ。でも負けそうになって、そこで倉橋先輩が会長を組伏せてくれたんだよ。あの人、異能力抜きでも結構強いのに、なんであんなのに従ってたんだろうな」



 俺は昼休み、倉橋先輩と会ったときに聞いた話を思い出していた。



 ◇◇◇



 彼女は伊藤に助けられる前は、会長と男女の関係だったと言った。しかし実態は、不純異性交遊とというより、主人と奴隷に近かったとも言った。

 彼女は、唯一味方になってくれた上級生だ。伊藤に助けられたことに、相当な恩義を感じているらしい。


 人気のない場所に、と普段人にいないエリアに連れていかれた。

 そう言えば、昨日あいつが、会長と赤井もここで会っていたと言っていたな。



「氷室がなんでこんなことしたのか、大方予想はついてるでしょ?」


「ええ。優哉と伊藤への復讐、プラス自分の落ちた名誉の建て直し、ですよね?」



 これは、最初に聞いたときから想定していた。

 会長が自爆したという噂は、上級生の間では持ちきりだった。

 ところが、赤井による介入によって、皆の興味が一気に持っていかれた。

 もし、あの悪行を重ねている生徒に、会長が鉄槌を下せばどうなるか。――――支持率は持ち直し、学校を救った英雄になれるだろう。


 俺は内心で苦笑う。奇しくも、あの茶番の再来だ。しかも今回は、ただ生徒会に歯向かう反逆分子ではない。

 学校どころか、世間的に見ても明らかに《敵》。それを倒せば、自らの失態など帳消しにした上でお釣りが来るだろう。



「でも、やっぱり一番の狙いは榎本くんだね。なにせ、彼がいなければもっとましな判定だっただろうから」



 ここで、俺すら知り得なかった情報が出た。

 会長の様子を見ていた軍の関係者は、「最低評価の、さらにもう一つ下」という判定を下したのだ。

 その理由は、「戦力の見誤り」。「実力のある能力者二人を相手取って不足なし。そんな強大な戦力を見逃すのは、観察力がないからだ。おまえ、人を見る目がないんじゃないのか?」と、容赦ない言葉の弾丸に、完全にプライドをへし折られたらしい。



「そのせいで、『無能』だの、『詐欺上司』だの、いままで慕ってたような人たちからも、手のひら返しされちゃったから。多分だけど、伊藤くんはおまけ。本命の榎本くんを、なんとしてでも潰すと思う」



「……ちなみにですが、伊藤はどうやって会長を倒したんですか? いくらあいつが《無効化》を使えても、格闘術をプロ並みに鍛えている会長に勝てるとは思えないのですが」


「ええっと、それはね――――」



 彼女は語った。伊藤光太郎という人間を。

???「あっれぇ~? 私の出番は?」


しばらくないです。たぶん。








ブクマと評価をいただけると、大変嬉しいです!



次回は9月13日、更新予定です!

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