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《最強》になりえない彼が、《最恐》と呼ばれる理由  作者: 岡部雷
蓼の葉っぱは、辛いらしい。
34/115

シンデレラは前半が重い。

 教室に戻ってから放課後になるまでの間、俺はこの異常事態をなんとか整理しようと、頭を回転させ続けていた。

 彼女からは、ただ自分の痛々しい姿を隠したいというもの以上に、何か別の目的を感じた。


 今朝、宇田川に声をかけたのは間違いなく彼女だろう。

 彼女は、伊藤について尋ねていた。

 異能力で自分の姿を隠しているのなら、《無効化》である伊藤は、間違いなく天敵であり、最も警戒すべき相手だろう。

 だが、そこでもおかしな部分がある。


 なぜ赤井は、宇田川が伊藤のことを()()()()()と分かったのだろう?


 もし本当にただの転入性なら、大勢の登校する生徒の中から、同じクラスメート、しかも仲が良い奴を、ドンピシャで当てることなど不可能なはずだ。


 となれば、事前に伊藤の周りの人間関係について把握している、と考えるのが妥当だろう。

 友人から見た人間像を、確かめておきたかったのだろうか。


 日直の挨拶が終わってから、俺は太一、宇田川、伊藤を伴って、図書館に足を運ぶのだった。



 ◆◆◆



 まず最初に、伊藤が面識がある相手かどうかを聞いてみた。



「肌が荒れて、髪パサパサで、猫背で小さい女子? 悪いけど見覚えがねえな」



 事実1:伊藤と彼女に面識はない。



「昔の知り合いで、今の姿を見られたくないっていうなら、納得できたんだけどな……」



 俺は早々に、最も高い可能性を捨てる羽目になった。



「赤井様が偽りの自分を見せてるって言うのか? そりゃねえぜ」



 宇田川、まだおまえはしゃべらないで。

 なんだ、「様」って。



「こーなりゃ、本人に確かめるしかねえかなぁ……」



 俺は視線だけを動かして、ある方向を見る。

 話題の彼女が、小説を読んでいた。



「……で、今のおまえの目にはどう映ってるんだ?」



 普通に見れば、夕暮れ時に美女が一人、気品を漂わせながら読書しているようにしか見えない。

 しかし、いざ能力を発動すると。

 椅子の上に、体育座りをして収まってしまうほどの小柄さ。

 ただ小柄なのではなく、あれは素人目で見ても、栄養状態が悪すぎる。

 そして気付く。

 彼女も、こちらをチラチラと見ているのだ。



「やべっ……、こっち見てる……!」



 興奮するな宇田川。多分、俺と同じもの見たら、そんなことは言えなくなるぞ。



「何が目的なんだ……?」



 ◆◆◆



 結局、図書館で彼女は特に動きを見せることもなかった。

 その帰り道。


 宇田川は住んでいる寮の方向が違うので、図書館で出てすぐに別れた。

 残り3人で歩いていると。



「なあ、太一」


「何も言うな。……尾行されてるんだろ」



 背後から、気配を感じる。

 俺たちの前を歩く伊藤は、全く気付いていない様子だ。

 意識して一定距離から、付かず離れず。

 俺は、太一にアイコンタクトで合図を出すと、同時に振り返った。


 案の定、生徒が行き交う往来のなか、鞄をもった赤井がいた。

 隠れる素振りを見せる様子はない。



「なんだい赤井さん。つけ回すような真似をして」


「あれ、そんな風に映ってました?」



 向こうは、俺が正体を見破っていることに気付いていないようだ。



「ちょっとお話ししたかったんです。でも、声が掛けづらくて」



 クスクス笑っているが、本当はどんな動きをしているのか。

 俺は万が一を考え、能力の発動は極力控えるようにしていた。

 いくら連発ができるようになったとはいえ、やはり再発動までの1分は、命取りになりかねない。

 やがて彼女は少しずつ近づいてきた。



 その距離が2メートルを切ったとき、俺は能力を発動した。

 小さな体で、一気に距離を詰めてくる。



「あなたと、お話ししたかったんですよ。榎本優哉さん?」



 俺は、少し勘違いをしていたようだ。



 ◆◆◆



 時間にして一瞬。

 後から太一に聞いた話では、俺が長身の美女に抱擁されたように、周りには見えていたそうだ。



 だが、実際には。

 どこから取り出したのか、ナイフが俺の脇腹に届きそうになっていた。

 《壁》は顔全体を覆うように球体状に発動している。

 寸でのところで止めたが、嫌な汗が吹き出してきた。

 対して向こうは、



「へえ……、案外、用心深いんですね。私の()()の姿を見たら、少しは哀れんでくれると思ってたんですけど」



 掠れた声が鼓膜を揺らす。

 バレてた……!?



「私の姿を見てあんな反応をしておいて、隠せるとでも?」



 畜生、ポーカーフェイスを磨くべきだった!

 相手が動いたので、俺はバックステップで距離を取る。

 赤井は体制を崩し、尻餅をついた。

 しかし、これだけの人がいるなかで、よくもまあ強行できたものだ。




 だが。



「なにあいつ……」

「最低……」



 ん?

 周囲の人間が立ち止まって、こっちを見ている。

 皆が嫌悪感に満ちた、憎しみの視線を向けているのだが、なぜか()()()()()()()()()()()



「おいてめえ」



 先輩だろうか。ちょっとケバい感じの女子が俺に向かってずんずんと歩いてくる。



「女突き飛ばすとか、男のくせに恥ずかしくないの? しかも、何て言った?」



 は?


 突然のことに返せないでいると、全力の蹴りが横から飛んできた。



「うぐっ……!?」


「死ね。クズ野郎」



 ペッ、と俺のそばに唾を吐き捨てると、先輩はそのまま去っていく。

 激痛のあまり立ち上がれないでいると、カメラのシャッター音がいくつも聞こえてきた。


 やがてすぐそばに、彼女が歩いてくる気配がした。

 そして少し大きめの声で、



「フフ。私はあなたを殺しません。でも、自分の罪を反省してください。一生、許しませんから」



 意味の分からない言葉に混乱していると、周りの生徒は赤井に向けて信じられないものを見る目をしていた。



「あの人、どんだけ優しいんだよ……」

「マジパネェ……」

「ほんっとあの男、クソだわ」



 謎の恥のせいか、しばらく、動けなかった。



 ◆◆◆



「さっきは悪かった。でも、おまえ相当な相手を敵に回したみたいだぞ?」



 今日はやけ食いがしたい、と言ったら、太一は素直に炒飯大盛りと、円盤餃子、ラーメンのセットを出してきた。

「残させないぜ?」と脅しをかけながら。


 彼の話によれば、周囲の人間には、包容しようとした赤井を俺が突き飛ばし、「この●●●! ――――――――――だよ! (以下略)」と、ほぼ伏せ字にしなければならないような罵倒を浴びせたように聞こえたらしい。

 そして、蹴りを食らった俺に対して、「私、あなたのこと諦めませんから。待っててください」と言い残して立ち去った。



 ほうほう。

 俺は炒飯を貪った。



 あンにゃろおおお~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!



 ナイフを出したのは、俺に突き飛ばされるためか!

 あいつの能力を舐めていた。

 精々、姿や声を変えるものだと思っていたが。

 まるで違う場面だ。



「正直、俺も伊藤もなにもできなかった。おまえ、明日からきついぞ?」


「『明日がきつい』? バカ言うな。これ食ったらあいつのところに突撃だよ!」



 冗談じゃねえ。

 こんな仕打ちを受ける理由が、全くもって見当たらない。



「大体よぉ、なんだ? 『罪を反省してください』って。おめーは裁判官かっつーの!」



 ガツガツと、麺をすすり、飯をかきこみ、餃子を頬張る。

 15分もしないうちに、器は全て空になった。



「ぐふっ……、よし、行ってくる!」


「待てよ優哉。俺も行く」



 太一がエプロンを脱ぎ捨てるが、



「おまえは来るな。問題を起こして二瓶さんとの仲に亀裂が走ったら、またテメーの飯が不味くなる」



 協力するというのなら、祝杯を用意しておけ。


 俺はそう言い残し、彼の部屋を出た。



 ◆◆◆



 とはいったものの、もうすぐ門限の時間だ。

 早々に決着をつけなければ。


 なんだよ、罪って。

 俺はこの学校に入って、まだ1ヶ月も経っていない。

 トラブルには巻き込まれたが、大体は相手が悪い。

 悪くない相手をぶん殴った覚えは





 ……あ。

 悪くない相手を陥れた覚えはないが、俺のせいで人生狂ったと思っている奴なら、心当たりがある。



 会長かぁ!

非常に今さらですが、章タイトルの「蓼」、読み方は「たで」です。



ブクマ登録や、評価のほど、心してお待ちしております!

ガソリンをいれるつもりで、よろしくお願いします!



次回は9月8日、更新予定です!

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