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《最強》になりえない彼が、《最恐》と呼ばれる理由  作者: 岡部雷
蓼の葉っぱは、辛いらしい。
32/115

見えてるだけが、全てじゃない

伊藤光太郎について、いい加減話さなければなるまい。


異能力を《無効化》させる、とんでもない能力者だ。

しかしこいつ、それ以外にも様々な特徴を併せ持っている。


わずか1日で、こいつがどういう人間なのか、嫌と言うほど思い知らされたのだから。



◆◆◆



「……なあ、優哉くんよお」


「どうした宇田川。顔が般若のようだぞ」


()()、どう思う?」



教室の入り口で、二人の人間が会話している。

一人は、我らが伊藤光太郎。

そしてその相手は、生徒会役員の、あのナイスバディ先輩だ。



「太一、俺が寝てる間に何かあったのか?」



俺は隣の友人に丸投げした。

彼なら何か知っているかもしれない。



「……この間の生徒会の一件で、会長がいちゃもん着けてきてな」


「いちゃもん?」


「『おまえらの仲間が余計なことしなかったら、こんな恥をかくこともなかったのに』ってさ。いや知らねえよって。大体さ、自分はズルしようとしてたのに、お門違いだと思わねえか?」


「……俺か。で、そこからどうやったら、あの場面に繋がるんだ?」



太一の話によると、その場は通りかかった先生によって、事なきを得たそうなのだが。




「むしゃくしゃした会長が、人気のないところで倉橋先輩に八つ当たりしたところを、伊藤が通りかかって助けた。それだけだ」



わーお。

俺はボリュームを落として宇田川に耳打ちする。



「……あの先輩、伊藤に惚れてないか? なんか雰囲気が前と全然違うんだけど」



宇田川が俺の肩を掴んで別の方向を向かせた。



「ちなみに、あの先輩だけじゃねえぞ」



あああ?



「ほれ、あそこ見てみろ」



宇田川の指差す方を見ると、



「桐山……?」



伊藤とは因縁のある彼女だ。

入学当初から、何度か衝突していることは知っている。

……って。



「……おかしいなあ。俺の目が節穴じゃなければ、桐山の目、どう見ても嫉妬してるだろ。俺が寝てる間に、マジで何が起こったんだ?」



記憶が正しければ、数日前までは犬猿の仲だったはずだ。

それにしても、あの裏がありそうな微笑みを浮かべていたあの先輩が、今はいたいけな少女のような笑い声をあげて喋っている。

人間、こんな短期間で変わるのか?



「伊藤は普通にしているが、先輩の目は恋する乙女の目だ」



と宇田川が断言した。



「で、桐山はどう見ても『あたしというものがありながら』って顔だな。早くも三角関係が出来上がりつつあるぞ?」



おい太一、楽しそうに言うな。



「それだけじゃねえ。今朝方、俺、変な女に声掛けられたんだ」


「詳しく聞かせろ」



宇田川によると、登校する途中で、この学校のものではない制服の少女に、「伊藤光太郎という人物について」尋ねられたそうだ。



「それだけ答えて、もうちょっと話そうかと思ったら、いなくなっててさ」



正体不明の少女。

この学校の生徒ではない。

では、何が目的だ?



「だけど、不思議なんだよ。他の友達に聞いて回っても、誰もそいつを見てないんだ」



()()()()()


ますます怪しい状況だ。

やつの周りで、いったい何が起こっている?



◆◆◆



「え~、時期外れではありますが、転入生を紹介します」



午後の授業が始まる前、小宮山先生から衝撃の発表があった。

教室中がざわめく。

無理もない。もう来週から5月。転校にしては、あまりにも中途半端すぎる。



「じゃあ、入ってきてどうぞ」



ドアに注目が集まる。



「うわあ、背ぇ、たっか……!」

「超美人……おまけに肌きれい……」

「髪ツヤッツヤじゃん、羨ましい」



生徒が口々に感想を述べるなか、

彼女は黒板に名前を書く。



赤井(あかい)夏美(なつみ)です。急な転入ですが、よろしくお願いします」



きれいなお辞儀。

どこぞの良家のお嬢さんだろうか。



「悪いけど、机持ってくるから。君たち、相手してあげて。今日は自習」



先生が教室からいなくなると、女子のほとんどが彼女に近づいた。



「なあ、宇田川よ。おまえに伊藤のこと聞いてきたのって、あの人か?」



彼は大きく首を降った。



「いや、あんなに高い背じゃない。それに顔も全然違う」


「そうか……」



こういう場合、十中八九、彼女が伊藤について尋ねた人間なのだろうが。

心にしこりを感じながらも、あの女子の塊に突っ込んでいく勇気は、残念ながら持ち合わせていなかった。



◆◆◆



今日もジャージに着替えて校庭に集合。

ちなみにこれ、3着目だ。タダだからいいけど。



「はい。じゃあ今日から、実習訓練を行っていきま~す」



相変わらず呑気な先生だと思う。

ちなみに、前回ボイコットした彼らは、花田先生の「愛の鉄拳」を食らったとかで、おとなしく授業を受けるようになっていた。



「さて、皆さん知ってるとは思うけど、私たち《範囲型》は、《直結型》と比べると、〈スタミナ〉、〈安定性〉では勝りますが、〈応用性〉、〈有効範囲〉では劣ります」



先生は、俺たちにトラウマを植え付けた異能力を発動した。


先生の能力は、性格には《流体操作》と呼ばれるもので、文字通り、気体と液体の両方を、自在に操るというものだ。

先生の回りに、とんでもない風速によって竜巻が発生する。



「●●●●●●●●●●●●●」



風が邪魔で、なに言ってるのか聞き取れない。

しかし、その姿を見るだけで能力の恐ろしさが見てとれる。


砂ぼこりは、脛、胴体、手首から肘の部分に集中している。

まさに鎧である。


風だけじゃない。巻き上げた砂に触れようものなら、手は間違いなく犠牲になる。



「先生! 風速の上限はいくつですか!」



隣のクラスの女子が手でメガホンを作って質問した。



「私の風速は大体、最大値は音速の倍ね~」



恐ろしい数字が出た。

しかも先生は、その状態で数時間活動できるそうだ。



「さあ、皆さんも頑張ってみましょ~」



先生の掛け声と共に、あちらこちらで能力が展開される。


皆が練習に励むなか、俺は花田先生に呼ばれて、少し離れた場所に来ていた。



「なんでしょう?」


「あんたの能力、《障壁》じゃないかもしれないね」



今なんて?



「一つ試してほしいことがあるの。今日、あんたのクラスに転校生が来たでしょう?」


「ええ」


「もし私の予想通りなら――――」



先生は、驚きの一言を放つのだった。



◆◆◆



授業が終わり、教室に戻ったあと。



「いやー、夏美ってすごいねえ!」

「ほんと。小宮山先生のあの驚いた顔!」



ぞろぞろと、直結型メンバーが帰ってきた。

俺は、先生の提案通り、いつもとは少し違う形で能力を展開した。



「…………!? 」



一瞬、声が出そうになって、慌てて口を押さえる。



「どうした優哉。ゲロでも吐きそうなのか?」



太一が冷やかしてくる。

だが、まともな返しも叶わないほど、俺の受けた衝撃は凄まじかった。



あのとき、先生が俺に言った言葉。



〈中心点を片目に移して、展開してみなさい? たぶん、そっちの目からは、違う景色が見えてくるから〉



《壁》を通して、俺の左目が見たもの。


ガサガサに荒れた肌。

まるで手入れの行き届いていない、パサパサの髪の毛。

そして何より、彼女は、とても小さかった。



「…………優哉、優哉!」



太一に頭をはたかれて、ようやく意識が戻った。

気絶してたのか? 俺は。



「なあ、太一。変なこと聞くけど、おまえ、あの転校生とぶつかったりとかしたか?」


「……ラッキースケベでも期待してるのか? 悪いが俺は一筋なんでね」



哀れむような視線を向けられたが、ならまだましかもしれない。

一度、能力を消して普通に見てみる。

やはり、長身の美少女しか見えない。


幻覚?



「ほんっとに肌すべすべしてる~! ねえ、どんな手入れしてるの?」



違う。そんな生ぬるいレベルじゃない。

視覚だけじゃない。

他の感覚器官でも、通用している?

その細くて荒れた腕を、羨ましそうに女子が眺めている。


俺はいったい、何を見た?

今度は試しに、片耳に、と思ったところで気づく。

頭を覆うような形で展開したら、どうなるのか?









「…………嘘だろ」




もう、覆い隠すことなどできなかった。


その小さな体からは、鼻をつまみたくなるような異臭。

上品だと思っていた声は、痛めたようなかすれ声。



俺は思わず、教室を飛び出した。

夏休み、終わりますね。



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面白い、続きが気になる! と思ったかたは、よろしくお願いします。



次回は9月4日、更新予定です。

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