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《最強》になりえない彼が、《最恐》と呼ばれる理由  作者: 岡部雷
トラブルは入学式の前に
3/115

サポート能力は地味かもしれないけど、あったらかなり重宝する。

ブクマ&感想を頂きましたので、予定より少し早い投稿です!


※今回と次回は、能力がほとんど出てきません。

平にお許しを。

 俺たちの目に前に立ったのは、絵に描いたような美少女だった。

 くっきりとした二重の目。小ぶりな鼻と口。肩まで届く黒髪。スラリとした手足。

 いま彼女が身に着けている制服も本望だろう。

 彼女は口を開くと、太一に向かって



「あんたさあ、人前で気安く話しかけないでくれる?」



 あれ、おかしいぞ?


 俺の耳がおかしくなければ、今聞いたのは罵倒のはずだ。

 なのに、なぜだろう。


 風鈴とも言うべきか、プロの演奏するピアノとも言うべきか。

 とにかく、そう表現したくなるような、そんな声。


 天は二物を与えずと言うが、あれは嘘だと今確信した。

 こんな女子に声を掛けられたら、大半の男は悪い気にはならない。


 なのに、太一はやや後ずさりしていた。



「優香は……東京に行くんじゃなかったのか?」



 言われて気付いた。彼女の父親は〈軍本部〉の人間だ。

 それが、なぜこんな田舎の県の山奥に? だいぶ離れている。



「祖父がね、『孫を一人くらいは自分の近くに置きたい』って言うから。私がそれを呑むのを条件に、下の子たちは向こうに行かせてもらってるの。おかげでまたあんたと一緒だよ」



 率先して自分を犠牲にできる、まさに人の鑑だった。



「そっちの人は?」


「ああ、ここに来る途中で一緒になったんだ」



 彼女がこちらを向いたので、俺も自己紹介することにした。



「榎本優哉です。よろしくお願いします」


「はじめまして。二瓶(にへい)優香です。あ、そうだ。これにあなたの名前書いてくれない?」



 今度こそ、口調と声が一致した。

 ああ、耳が幸せだ。

 彼女は制服の胸ポケットから、ボールペンとメモ帳を取り出した。

 わざわざ先を出してからボールペンを渡してくるのが、また優しいのだ。

 ん……?



「え、でも普通に携帯で連絡先交換とかでもいいんじゃ」



 彼女ははっとしたように、



「ごめんなさい! 私携帯持ってなくて、こういう機会が多いからつい癖で。おじいちゃんから叩き込まれてるから」



 なるほど。家庭の事情という奴か。

 二瓶さんはボールペンとメモ帳を元に戻す。

 一々仕草が可愛い!!



「榎本くん、一緒のクラスになれたらいいね!」



 なんだ?

 この眩しくて直視できない笑顔は。

 初対面でこんなことを言われると、なんだかときめいてしまう。

 実際、胸の高鳴りすら感じていた。


 二瓶さんは、今度は太一に向かって、



「じゃあ、太一、新学期からも、よろしくね?」



 少しだけ、冷たい口調で。



 ◆◆◆



 その後、二瓶さんは別の手続きがあるとかで一度職員室に行くらしく、その場で分かれた。


 それから歩くこと2分、目的の寮に着いた。

 薄い水色の外壁の5階建て。寮というより、普通のマンションやアパートと変わりない。

 なんだか希望が湧いてきた。

 入り口の掲示板には、「新入生用」と書かれた紙に、部屋の割り振りが書いてあった。



「太一の部屋って、何号?」


「俺は103。優哉は?」


「お、隣じゃん! 102!」


「「そんじゃ、隣同士よろしくな!」」



 俺は、良き隣人に恵まれたようだ。



 鍵を開けて中に入ると、まず玄関と、中に続く廊下。

 右手に浴室と洗面所への扉。

 左手には、トイレと、一部屋分の扉。

 奥に進むと、ダイニングキッチン。冷蔵庫、コンロ完備。

 顔を右に向けると、エアコン付きの和室とフローリングが繋がっていた。

 当然、襖を閉めてそれぞれを独立させることもできる。


 学生一人のために、かなり手の込んだ仕様だ。


 和室はそれぞれ、6畳プラス板間がついて、かなりの広さにがある。

 クローゼットや押し入れもあるので、収納にも困らないだろう。


 実家から送った家具も、希望した部屋に置かれていた。


 最早、寮とは言い難い。しかし、これにもきちんとした理由がある。

 その説明は、また今度。



 ◆◆◆



 荷物が元々少ないおかげで、大方の整理がついた。


 換気も兼ねて開けていた窓の外は、すっかりオレンジ色に染まっている。

 夕飯をどうしようか考えていると、チャイムが鳴った。

 ドアを開けると、太一が立っていた。



「良かったら、うちに来て食うか?」


「え! でも悪いよ……」



 この学校の寮が、ただのマンションの理由その1。

 〈生徒は、自分の生活を全て自己管理すること〉

 生徒は、食事は自分で用意し、掃除や洗濯も自己責任でやらなければならない。

 能力に頼りきった生活をしてはならない、という国の方針らしい。


 しかし、面倒なルールが一つ。

 この学校は、〈現金の持ち込み〉が禁止されている。

 生徒が教師を買収しないように、というのがその理由だ。一円すら持ち込みが発覚すれば、停学処分を受けるくらいだ。

 校内での食品や生活必需品の入手は、とある方法を使うことになる。

 それを使えば、入学すれば使い放題。


 ところが、まだ正式に入学していない俺たちは、そこを利用することができない。

 にも関わらず、一度学校に入ってしまうと、冠婚葬祭レベルのイベントが起きない限り、敷地の外に出ることはできない。

 ほとんどの生徒が入学ギリギリまで来ない、大きな理由の一つだ。


 なので俺は、大量、かつ多種多様のレトルト食品を段ボールに詰めてここに送った。

 来月の入学式まで毎日3食分。



「だろうと思ったよ。せめて初日くらいまともなの食え」



 憐れむように見る目が、若干癪にさわった。

 どうやら、まともなものをご馳走してくれるらしい。


 ……ほほう。

 お手並み拝見と行こうじゃないか。




 ◆◆◆




「美味い…………………………!!!」



 あまりの美味さに、俺は床に這いつくばっていた。

 正直、魚は骨が多くて苦手だった。しかし彼の作ったサバの味噌煮は、骨が箸でちぎれたし、何より味が染みていた。骨がうまいと、生まれて初めて思った。

 ほうれん草ともやしの和え物も、出汁醤油が素材の味を引き立てている。

 豆腐と油揚げの味噌汁も、味噌の味が少なめにもかかわらず、味がしっかりしている。出汁だ。出汁が違う。

 米すらも、同じ炊飯器で炊いたところで、俺とは雲泥の差だろう。どのおかずと一緒に口に放り込んでも、主張をしつつ、決して相手を否定しない。



 何こいつ。


 イケメンで坊主頭なうえに料理上手?

 どんだけ設定盛ってんだ?


 そして、理解した。

 奴の能力《知覚強化》。

 その真髄は、こういう繊細さを必要とするものに如実に現れるのだと。



「材料はまだあるから、気にするな。実は入学までに親がもう一回食材送ってくるから、正直一人で食べるのしんどかったんだ」



 羨ましい……。

 俺なんてせいぜい、素うどんに生卵落としたくらいしかやったことないのに。



「今時、昆布とかつお節から出汁とるやつなんていたのかよ」


「ん? 瓶に水と一緒に放り込んどけば普通に取れるぞ? さすがに毎回は無理だって。確かにそっちの方がおいしいとは思うけどさあ。素人だし」



 素人レベルじゃないもの食わせておいて何を言う。

 今まで食べてきたものが貧相に思える。



「太一ぃ、俺、決めたよ」


「何を?」


「ジャンクフード食べるのやめる。そして毎晩夕飯たかりに来る!!!!」


「ストレートに来たなオイ」



 だがなんと、彼は「いいよ、別に」という。



「家が食堂やってたせいかなあ、一日に何か作らないと落ち着かないから。どうせ入学したら材料は手に入るし」



 俺の食事事情が決定した瞬間だった。



「そういえばよお、おまえ、あの二瓶さんってどんな人だ? 知り合いなんだろ?」


「一応な。でもそこまで仲がいいわけじゃない」



 しかし、俺が聞き出したいのはそこではなかった。



「あの人、誰かに狙われてるのか?」


「え?」



 〈何を言ってるんだこいつは?〉と言いたげな顔なので、俺は見たままの真実を告げる。



「あのボールペン、隠し撮りのカメラだろ?」

主人公の特徴ー① どんな相手でも、実はなめ回すように観察する。


決して変態じゃないんです。



次回更新は7月19日の予定です!


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