サポート能力は地味かもしれないけど、あったらかなり重宝する。
ブクマ&感想を頂きましたので、予定より少し早い投稿です!
※今回と次回は、能力がほとんど出てきません。
平にお許しを。
俺たちの目に前に立ったのは、絵に描いたような美少女だった。
くっきりとした二重の目。小ぶりな鼻と口。肩まで届く黒髪。スラリとした手足。
いま彼女が身に着けている制服も本望だろう。
彼女は口を開くと、太一に向かって
「あんたさあ、人前で気安く話しかけないでくれる?」
あれ、おかしいぞ?
俺の耳がおかしくなければ、今聞いたのは罵倒のはずだ。
なのに、なぜだろう。
風鈴とも言うべきか、プロの演奏するピアノとも言うべきか。
とにかく、そう表現したくなるような、そんな声。
天は二物を与えずと言うが、あれは嘘だと今確信した。
こんな女子に声を掛けられたら、大半の男は悪い気にはならない。
なのに、太一はやや後ずさりしていた。
「優香は……東京に行くんじゃなかったのか?」
言われて気付いた。彼女の父親は〈軍本部〉の人間だ。
それが、なぜこんな田舎の県の山奥に? だいぶ離れている。
「祖父がね、『孫を一人くらいは自分の近くに置きたい』って言うから。私がそれを呑むのを条件に、下の子たちは向こうに行かせてもらってるの。おかげでまたあんたと一緒だよ」
率先して自分を犠牲にできる、まさに人の鑑だった。
「そっちの人は?」
「ああ、ここに来る途中で一緒になったんだ」
彼女がこちらを向いたので、俺も自己紹介することにした。
「榎本優哉です。よろしくお願いします」
「はじめまして。二瓶優香です。あ、そうだ。これにあなたの名前書いてくれない?」
今度こそ、口調と声が一致した。
ああ、耳が幸せだ。
彼女は制服の胸ポケットから、ボールペンとメモ帳を取り出した。
わざわざ先を出してからボールペンを渡してくるのが、また優しいのだ。
ん……?
「え、でも普通に携帯で連絡先交換とかでもいいんじゃ」
彼女ははっとしたように、
「ごめんなさい! 私携帯持ってなくて、こういう機会が多いからつい癖で。おじいちゃんから叩き込まれてるから」
なるほど。家庭の事情という奴か。
二瓶さんはボールペンとメモ帳を元に戻す。
一々仕草が可愛い!!
「榎本くん、一緒のクラスになれたらいいね!」
なんだ?
この眩しくて直視できない笑顔は。
初対面でこんなことを言われると、なんだかときめいてしまう。
実際、胸の高鳴りすら感じていた。
二瓶さんは、今度は太一に向かって、
「じゃあ、太一、新学期からも、よろしくね?」
少しだけ、冷たい口調で。
◆◆◆
その後、二瓶さんは別の手続きがあるとかで一度職員室に行くらしく、その場で分かれた。
それから歩くこと2分、目的の寮に着いた。
薄い水色の外壁の5階建て。寮というより、普通のマンションやアパートと変わりない。
なんだか希望が湧いてきた。
入り口の掲示板には、「新入生用」と書かれた紙に、部屋の割り振りが書いてあった。
「太一の部屋って、何号?」
「俺は103。優哉は?」
「お、隣じゃん! 102!」
「「そんじゃ、隣同士よろしくな!」」
俺は、良き隣人に恵まれたようだ。
鍵を開けて中に入ると、まず玄関と、中に続く廊下。
右手に浴室と洗面所への扉。
左手には、トイレと、一部屋分の扉。
奥に進むと、ダイニングキッチン。冷蔵庫、コンロ完備。
顔を右に向けると、エアコン付きの和室とフローリングが繋がっていた。
当然、襖を閉めてそれぞれを独立させることもできる。
学生一人のために、かなり手の込んだ仕様だ。
和室はそれぞれ、6畳プラス板間がついて、かなりの広さにがある。
クローゼットや押し入れもあるので、収納にも困らないだろう。
実家から送った家具も、希望した部屋に置かれていた。
最早、寮とは言い難い。しかし、これにもきちんとした理由がある。
その説明は、また今度。
◆◆◆
荷物が元々少ないおかげで、大方の整理がついた。
換気も兼ねて開けていた窓の外は、すっかりオレンジ色に染まっている。
夕飯をどうしようか考えていると、チャイムが鳴った。
ドアを開けると、太一が立っていた。
「良かったら、うちに来て食うか?」
「え! でも悪いよ……」
この学校の寮が、ただのマンションの理由その1。
〈生徒は、自分の生活を全て自己管理すること〉
生徒は、食事は自分で用意し、掃除や洗濯も自己責任でやらなければならない。
能力に頼りきった生活をしてはならない、という国の方針らしい。
しかし、面倒なルールが一つ。
この学校は、〈現金の持ち込み〉が禁止されている。
生徒が教師を買収しないように、というのがその理由だ。一円すら持ち込みが発覚すれば、停学処分を受けるくらいだ。
校内での食品や生活必需品の入手は、とある方法を使うことになる。
それを使えば、入学すれば使い放題。
ところが、まだ正式に入学していない俺たちは、そこを利用することができない。
にも関わらず、一度学校に入ってしまうと、冠婚葬祭レベルのイベントが起きない限り、敷地の外に出ることはできない。
ほとんどの生徒が入学ギリギリまで来ない、大きな理由の一つだ。
なので俺は、大量、かつ多種多様のレトルト食品を段ボールに詰めてここに送った。
来月の入学式まで毎日3食分。
「だろうと思ったよ。せめて初日くらいまともなの食え」
憐れむように見る目が、若干癪にさわった。
どうやら、まともなものをご馳走してくれるらしい。
……ほほう。
お手並み拝見と行こうじゃないか。
◆◆◆
「美味い…………………………!!!」
あまりの美味さに、俺は床に這いつくばっていた。
正直、魚は骨が多くて苦手だった。しかし彼の作ったサバの味噌煮は、骨が箸でちぎれたし、何より味が染みていた。骨がうまいと、生まれて初めて思った。
ほうれん草ともやしの和え物も、出汁醤油が素材の味を引き立てている。
豆腐と油揚げの味噌汁も、味噌の味が少なめにもかかわらず、味がしっかりしている。出汁だ。出汁が違う。
米すらも、同じ炊飯器で炊いたところで、俺とは雲泥の差だろう。どのおかずと一緒に口に放り込んでも、主張をしつつ、決して相手を否定しない。
何こいつ。
イケメンで坊主頭なうえに料理上手?
どんだけ設定盛ってんだ?
そして、理解した。
奴の能力《知覚強化》。
その真髄は、こういう繊細さを必要とするものに如実に現れるのだと。
「材料はまだあるから、気にするな。実は入学までに親がもう一回食材送ってくるから、正直一人で食べるのしんどかったんだ」
羨ましい……。
俺なんてせいぜい、素うどんに生卵落としたくらいしかやったことないのに。
「今時、昆布とかつお節から出汁とるやつなんていたのかよ」
「ん? 瓶に水と一緒に放り込んどけば普通に取れるぞ? さすがに毎回は無理だって。確かにそっちの方がおいしいとは思うけどさあ。素人だし」
素人レベルじゃないもの食わせておいて何を言う。
今まで食べてきたものが貧相に思える。
「太一ぃ、俺、決めたよ」
「何を?」
「ジャンクフード食べるのやめる。そして毎晩夕飯たかりに来る!!!!」
「ストレートに来たなオイ」
だがなんと、彼は「いいよ、別に」という。
「家が食堂やってたせいかなあ、一日に何か作らないと落ち着かないから。どうせ入学したら材料は手に入るし」
俺の食事事情が決定した瞬間だった。
「そういえばよお、おまえ、あの二瓶さんってどんな人だ? 知り合いなんだろ?」
「一応な。でもそこまで仲がいいわけじゃない」
しかし、俺が聞き出したいのはそこではなかった。
「あの人、誰かに狙われてるのか?」
「え?」
〈何を言ってるんだこいつは?〉と言いたげな顔なので、俺は見たままの真実を告げる。
「あのボールペン、隠し撮りのカメラだろ?」
主人公の特徴ー① どんな相手でも、実はなめ回すように観察する。
決して変態じゃないんです。
次回更新は7月19日の予定です!
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