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使い道は自分次第

全員がジャージに着替え、体育館に集合していた。

隣の1年2組も参加しているので、総勢40名。

それはいい。



「うげっ」



喉から変な音が出た。


整列した俺たちの前には、先生が二人。

一人は、我らが担任、小宮山先生。

もう一人が、



「私が、1年2組担任の、花田です。1組の皆さん、よろしく~!」



……どちらかと言えば、「!」じゃなくて、「黒いハート」な気がする。

なぜ塗り潰そうと思ったんだろう。

謎だ。

説明の主体は、ほぼ花田先生が取り仕切っていた。



「え~、ご存じかとは思いますが、皆さんにはこれから、〈直結型〉、〈範囲型〉に別れてもらいます。今から分けますので、〈範囲型〉の人は、私と一緒に来てくださ~い」



熱血?

違う、この雰囲気は花畑だ。



◆◆◆



「…………」



太一たちの予想通り、俺は〈範囲型〉だったようだ。

理由は不明だが、俺たちは校庭に移動した。

時間がなくて、どういう違いがあるのか太一たちから聞き出すことはできなかったが、一つ分かったことがある。


少なっ!!!


40人中、9人。


残りの生徒は、皆が〈直結型〉だった。

なんでこんなに少ないんだろ?

俺のクラスからは、なんと俺と、女子が一人だけ。



「はい、ではまず、今の皆さんの実力をテストしたいと思いま~す!」



花田先生は妙にテンションが高い。

……しかし、笑顔のはずなのに、どうしてだろう。

どうにも胡散臭さが拭えない。



「ではこれより、鬼ごっこを開始しま~す!」



……テスト、なんだよね?



◆◆◆



「ざっくり説明しましょう。今から15分の間、あなたたちには逃げてもらいます。私は手に蛍光塗料を着けて追いかけます。塗料があなたたちの体に付着したら、その時点でアウトとします。もし逃げ切れた生徒がいたら、その人の今後の授業は免除します。もちろん、最高評定も着けてね」



つまり、それだけ自信があるのだろう。



「じゃあ、10秒あげるので、さっさと逃げてくださ~い」



逐一語尾を伸ばすのやめてほしい。


カウントダウンが始まると、蜘蛛の子を散らすように、全員が逃げていく。 

唯一、顔を知ってる彼女は、俺には目もくれず、とんでもない速度でその場を離脱していった。



「あれ、あなたは逃げないの?」


「先生なら、俺の能力ご存じでしょう? 勝てもしない勝負には、最初から挑みませんよ」


「とか言いながら、始まった瞬間に――――」



先生が言い終わる前に、開始のブザーが鳴る。

その瞬間、俺は《障壁》を展開する。



「あはっ、やっぱりそうだ――――!」



あれ? 雰囲気変わった?

先生は、思いっきり俺の《壁》を殴ってきた。

しかし、この間の先輩のようにはいかない。なぜなら。


見た目では、先生の手は俺の《壁》に届いていない。

でも、確かに()()()()感触があった。


先生の腕の周りには、微かだが砂煙が見える。

能力は、風か?



向こうは手袋を着けて殴っているようなものだ。

これでは向こうにダメージがない。

いや別にダメージ与えるつもりはないけど。



「残りは後でいいやぁ……、今は君の物理耐性を見させて貰おうかなぁ?」



ん?



「君相手なら、多少本気でも良さそうだしねぇ」



んん?



「そんじゃいっくよおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」



あー、なんかスイッチが入ったような。

俺は一気に後退する。次の瞬間、俺がいた場所に先生の鉄拳が炸裂した。



「ふんっ!!!!!!」



うわあ、地面に穴空いてるぅ!

風ごときであんななるの!?

俺は全力で逃亡を図る。



「あれぇ、逃げないんじゃなかったのお!?」


「殺す気かもしれねえ奴からは、逃げるのが常識でしょうがぁぁぁぁぁぁっ!!!」



俺はサバイバルゲームに申し込んだんだっけ?

もしくはデスゲーム?

おーい、平和よ、どこ行った?


しかしまあ、この先生、容赦ない。

小規模とはいえ、とんでもない風速で殴っているのだ。

あ、違う。


プラス蹴りだ。


あ、ヤバイ能力が



「ぐはぁ――――――――――――――――――!!!!!!」



暴風で空高く飛ばされた。

人飛ばすほどって、一体風速いくつだよぉ!!!!!!


だよぉ…………


だよぉ……………………









あー、この高さから落ちたら確実に死ぬわー。

短い人生だったなー。

あ、落ち始めた。

うえ、気持ち悪いぃ……


意識飛ぶぅ…………



「はぁい、一人確保♪」



死ぬ前に聞くのが、そんな言葉だなんて。

嫌だぁぁぁぁぁぁぁ…………



◆◆◆



「大丈夫か?」


「太一ぃ、そう見えるか?」



目が覚めたときは、保健室のベッドの上だった。

あの不登校二人組は、あれ以降保健室にすら来なくなったらしい。

静かになったけど。



「起きられるか?」


「あ~……、まぁ、なんとかな……」



あれ、どうして俺はベッドにいるんだっけ?

保健室に来た記憶もないし、今日は体調が悪かったわけでもない気がする。



「おまえ……、覚えてないのか? 本当に?」


「うーん……」



なんか、笑顔が脳裏をよぎっているのだが、それ以上は、思い出したらいけないと、全身が危険信号を発している。

ところが、太一は信じがたい言葉を口にした。



「でも、おまえはまだ良い方だぞ?」


「え?」


「おまえ以外の8人、病院送りになった」



記憶甦ったよこん畜生!



「授業だよねぇ、ねえ俺たちがやってたの授業だよねえ? もう一個聞きたいんだけど、おまえの頭のガーゼはなに!?」



坊主頭にでっかいガーゼ。

なんだろ、怖い。



「俺たちの方も似たようなもんだ。小宮山先生、あの人とんでもねえ能力者だぞ」


「ほげ?」



発声器官、仕事してくれ。



◆◆◆



〈太一目線〉



「えー、君たちは〈直結型〉です。詳しい内容は座学でやりますので、とりあえず今日は、君たちの今の実力を見たいと思います」



黙っていればイケメンの先生なのに、態度が教師らしくない。

そう思っていた自分を殴りに行きたい気分になった。



「競技は鬼ごっこ。15分、逃げ切れるよう、せいぜい頑張ってください。一分後に始めます」



開始のブザーが鳴ると、先生は軽い足取りで生徒を追いかけ始めた。

皆は先生と距離を取りながら、体育館のなかを駆け巡る。

体育館という限られたエリアのなかで、どう逃げるか。

まあ、生徒相手に先生も本気はださな



「「うわぁあぁぁぁっ!?」」



ドサッ。





「……え?」



宇田川と伊藤が、まとめて捕まった。


バカな! 伊藤は《無効化》だから、異能力は効かないはずなのに!



「あれ、見てなかった? あの先生、伊藤の()を逃げてた宇田川に、能力かけたんだよ。伊藤は巻き添え」



俺の隣にいた女子が、こっそりと耳打ちしてきた。

同じクラスだったはずだが――



「えーと、君は」


江川(えがわ)。とにかく、先生の能力は気を付けた方がいい。あれは多分、《逆行》だ」


「運動の向きを()にするあれか!」



つまり、先生から見て逃げようとした宇田川は、引き寄せられたのだ。宇田川の後ろを走っていた伊藤は、その巻き添えで、捕まった。

いや、もしかしたら、無効化という、厄介な存在を、早急に片付けたかっただけかもしれない。


逃げようとしても引きずり込まれるだろうし、かといって向かって行くわけにもいかないしなぁ。


優哉なら、どうするだろう?

あいつなら、なんとか逃げる方法を考えそうなものだ。

なにせ、上級生相手に逃げ切ったのだから。


先生の能力を考えると、恐らく正解は「動かない」。

動いているものの向きを変えるのだ。動いていないものには意味がない。

ただ、じっとしていると、捕まえてくださいと言っているようなものだ。

それに、一つどうしようもないものがある。

重力だ。

いくらじっとしていても、その向きを逆にされたら、天井に突き刺さる。


……勝ち目はない?


考えている間に、次々と生徒が捕まっていく。

それにしてもあの先生、恐ろしいまでに淡白だ。



「ちょ、真田くん、後ろ!」


「え?」



ゴン。



◆◆◆



「……逃げてきたやつとぶつかってか。大丈夫か?」


「まあ、頭皮がちょっと切れただけみたいなんだけど、結構血が出てな」



結果は惨敗だ。



「つーかさ、テストとかいう名目で遊ばれたような気もするんだけど」


「それは否定しないけど、やっぱ先生たち強いわ。勝てない未来しか見えねえ。そうだ、向こうのお見舞い行ってやれよ。場所は案内するからさ」



俺はぼんやりと天井を見上げる。

あれ、本当にテストか?

猛暑は、いつ終わるのでしょうか。



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次回は8月28日、更新予定です。

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