生徒会VS??? 終息
「……訓練に見せかけて、実は生徒会長の評価か。なるほど、鶴宮さんらしいね」
鶴宮の自宅にて、社長と家主は対峙していた。
「こんな間抜けでアホみたいな命令を、どう処理するか。判断力が求められる場面だねぇ」
社長は、のんびりとソファに身を委ねていた。
対する鶴宮は、茶菓子に選んだカステラにフォークを入れる。
「となれば、彼らは安全圏からただ指示を出す参謀じゃあない。現場で判断する師団長、といった具合かな? それにしてもえぐいことするねえ」
社長の推察を、鶴宮は次の言葉で肯定する。
「彼らは公平に選ばれたとはいえ、全国の特別能力者学校の生徒会長は、全員が軍人の血縁だからな。……で、何が言いたい?」
「いやあ、私怨があるなあと思って」
社長はポケットから知恵の輪を取り出す。
かなり初級のものだが、社長は金属音を鳴らすだけで、全く外れる気配はない。
「まず、『訓練だとバレると危機感がない』って理由だけで、『反抗勢力を作れ』っていうのが馬鹿らしい。しかも、反抗勢力にも、事の真相は喋っちゃいけないなんて。一方的に『悪役お願い☆ 理由は言わないけど♪』って頼まれたら、頼まれた方だって素直に『うん』とは言わんでしょ」
「だろうな。でもそこを何とかするのも、技量のうちだぞ? 従わせる方法は、いくらでも持ち合わせているはずだからな」
ブチッ、と今まで違う音が鳴る。
知恵の輪が、強引に引きちぎられていた。
「脅迫とか、まあ、いろいろあるだろうけどね。そこまでできれば、あとは生徒会の他の人を動かして、戦わせればいいだけだ。そこでは、生徒会長の《指揮力》を測ると」
「大筋はそうだな。まあ、反抗勢力にも本気を出させないと、訓練にはならないからな。その辺りも含めて、頭の回転が求められる作業ではある」
鶴宮は紅茶を一口、啜る。
「で、どこに俺の私怨があった?」
「だって、『命令を遂行しない』のが満点だなんて、私怨以外のなんだっていうのさ? 確かにあなたの足は、命令に従った結果ではあるんだろうけど」
社長は、新しい知恵の輪を取り出す。
今度は、いとも簡単にクリアした。
「だからって、親が入院したって聞いて凹んでる子供に、そんな無茶なことさせるかねぇ? 表向きは緊急時に対応できる人間を作るってことになってるけど、重圧かけすぎじゃね?」
鶴宮は数回、瞬きをすると
「……おまえにしては珍しく、他人に情が移ったみたいだな。だがな、俺たち軍人ってのはそういうときに冷静さが求められる職業なんだよ。ただ上の指示に従うだけの人間じゃ、この仕事は務まらんからな。それに、これは生徒会長の人間性の評価でもある」
社長は、知恵の輪を懐に戻すと
「でもねぇ、子供が無理ゲーさせられてるの見たらねぇ。真面目にやろうとすると、敵役を選ばないといけない。じゃあ、誰を選ぶ? 信頼できる友人にでも頼む? それとも、自分に従う奴隷に汚れ仕事を押し付ける? 私だったら後者だね。でも、そうなれば大幅な減点。ただでさえしんどいのに、知らない間に自分の将来に暗雲が立ち込めてたら、泣きっ面に蜂どころの騒ぎじゃないって」
しかし鶴宮は怒るでもなく、ノートパソコンの画面を開く。
「一応、正解を弾き出した生徒は何人かいるぞ? 『こんな訓練はおかしい』と、俺を相手に啖呵切ってきた。声は震えてたから、勇気を振り絞ってるのは伝わった来たがね。あれはいい上司になる」
「……で、無理矢理にでも訓練をした生徒会長は?」
「基本的には減点だな。だが、努力点はあげてもいい。戦闘の様子は記録するよう指示してあるから、映像を見ての判断になるが」
「シビアァ…………。にしても、なんでこんな回りくどいことを?」
「この訓練の指示は、どう聞いても穴がある。それが分かった時点で、周りの生徒はどう動く? 『それ、欠陥だらけだろ』と言えるかってことだよ。分かってて会長に従うなら、それはよっぽど信頼しているか、無理矢理従わされてるかのどちらかだ。そういうところも、判断の対象になる。なにせおまえのせいで、今の軍は猫の手も借りたいようなピンチなんだ。即戦力になりそうな生徒には、今のうちから狙いを定めておきたい。ところで、なんでおまえ、勝手にうちに上がり込んでるんだ?」
鶴宮が仕事から帰ると、当然のように家の中にいたのだ。
「そぉぉぉぉんな鶴宮さんにぃ、凶報を持ってきましたああああああああ!!!!!!」
今までのテンションはどこへやら。
「ああ、そうだろうとは思ったよ。おまえがうちに突撃してくるときは、9割が良くない知らせを持ってくるから。で、なんだ?」
社長は、普段にも増してハイテンションに
「いやぁ、こればっかりは多分、想定外だと思うよぉ~? 生徒会とも反抗勢力ともほぼ無関係の人間が、生徒会より先に反抗勢力潰しちゃったなんて」
「……は?」
彼は、自分が出した指示を思い出す。
記憶に間違いがなければ
「『生徒会の総戦力に匹敵、もしくは実力は上』を選ぶように、指示したはずだもんねぇ」
まるで生徒に同情するかのようなフリをしていたのは、これをやりたかったからだろう。
鶴宮はどっと疲労が増すのを感じた。
「無茶振りをしたのは認めるが、そんなやつがいるのか? 一応、他者には手出しさせないことも、評定に入れてるって伝えてあるんだが」
社長はその場でフィギュアスケートのようにスピンをすると
「こないだ話した、勇者候補の片割れだよ。何を思ったか知らないが、この茶番に首を突っ込んで、計画そのものをなしにしようとしたみたい。というか、実際、生徒会長がやる気をなくしちゃってる。にしてもぉ、その学校の生徒会長は酷かったね~。だって、訓練なんてやる気がなくて、やったフリで済ませようとしてたんだから。そういう場合、評価はどうなるの?」
「……その場合は最低だな。それって、作戦を遂行してないのに『成功しました』って報告あげるのと同じだろ。俺は敵前逃亡を咎めるつもりはないが、虚偽の報告は一番困る」
鶴宮は、全国の生徒会長の名簿に目をやる。
命令を真面目にこなそうとした生徒は△、鶴宮に「無理だ」といったり、遂行を無視した生徒は◎、やったふりだけした生徒には×が着いていた。
ちなみに、これをどうやって調べているのかについては、後程記述する。
「まあ、それはあくまで鶴宮さん個人の主観だよね。ほかのお偉方は、虚偽でも良い情報がほしいかもしれないよ?」
「アホか。そんなことして、後になって『実は負けてました。そもそも戦ってすらいません』ってなったら、そっちの方が大恥だろうが。それに――――」
鶴宮はそこで思案顔になる。
「…………いいこと思い付いた」
「鶴宮さんがそう言うときって、私にとってはあまりいいことじゃないときが多いよね。ところで、私はともかく、そっっちはどうやって調べてるの? 確か、軍は教育に口出さないようにって法律あるよね?」
鶴宮は苦笑いを浮かべた。
「おまえなあ、俺がどうやって生徒会長に、この無茶振りを伝えたと思ってるんだ? ほら、誘拐未遂事件のせいで、犯人にやられた先生たちは、ほとんどが辞表を出しちゃったんだよ。で、その穴を埋める、というか、あくまで人員の補填、及び警護として、俺の部下を送らせてる。扱いは事務員みたいなもんだから、教育には一切、関わってない。さすがに今は、軍人が一人いるだけでも安心感が違うだろ?」
社長は大きくうなずく。
「は~、なるほどね。つまり、避難訓練に消防署の人が来たようなもんだ。テロ対策の訓練なら、軍人に教えてもらった方が効率も良いか。で、実際どうなのかを現場から報告させると」
「話が早くて助かるよ。さて、今後の計画を練ろうじゃないか。ちょうどよく、おまえもいることだしな」
社長は、不思議そうに首をかしげながら。
「……でもさあ、軍人の監視があるのに、フリで切り抜けようなんて舐めすぎでしょ」
◆◆◆
「美味い!」
あんなに嫌いだった魚料理が、今になっては楽しみになっていた。
俺が生徒会から逃げた日の夜。
太一たちは、お役御免になった。
「まさか事務員さんが来て、会長に『君、評価最低だよ』って言うとは思わなかったなあ。あのときの会長の顔、凄かったよ……」
なんかよく分からないが、あの訓練とやらは生徒会長に対するテストするものだったそうだ。
いやどうでもいいけど。
「それにしても優哉、なんであれだけ止めたのに首突っ込んできたんだよ?」
「おまえなあ。あんな愛情ゼロの料理を強引に食わされる側にもなってみろ。美味しいはずなのに美味しく食べられないとか、どんな拷問だよ」
しばらくだし巻き玉子は見たくない。
「え、そんなに卵多かったか?」
自覚ねえ!
今朝がごみの日じゃなかったら、あの大量の殻を見せてやったのに!
「俺が帰ってからで良いから、二瓶さんに確認しろ。あの二瓶さんが『卵はしばらくいいかな……』って言うくらいだったんだからな!」
「お、おう」
◆◆◆
「……っていうわけなんだけど、しばらく卵はやめとくか?」
「えー、でもいつも通りに戻ったからなぁ。前みたいに美味しく食べられるし、別に気にしなくても良いよ?」
◆◆◆
「……だとよ。焦ったじゃねえか」
翌日、俺はなじられた。
この色ボケがあぁぁぁぁ…………
主人公のオチはこんなもんです。
さて次回より新章、異能力の訓練パートです(凄まじい今更感)。
面白いな、続き気になるなと思ってもらえたら、ブクマやら評価やら。
お待ちしております。
次回は8月25日更新予定です。
(祝)10000PV突破!




