黒幕は誰?
誰も何も、目の前にいるこいつだよ。
「君は、どういうつもりだい?」
会長が先手を打ってきた。
「何がです?」
「君は生徒会とは無関係の生徒だ。なのに、どうして俺たちの利益になるようなことをする?」
「……その口ぶりだとまるで、無関係の生徒は、生徒会に不利益なことをするようにしか聞こえませんよ?」
生徒会の空気が張り詰めている。
生徒会の面子は、表情こそ変わらないが、目が怖い。光宿ってない。
今まで、会長にこんな口の利いた生徒はいないのだろうか。
「俺の質問に答えてほしい。なぜあいつらを?」
ちっ、はぐらかしに勘づきやがった。
「成り行きですよ~。『いつになったら生徒会と勝負するんですか』って聞いたら、妙に動揺し始めたんです。おっかしいな~、まずいな~と思ったときには後の祭りです。俺の口を封じようとして攻撃してきたんで、仕方なく」
あの二人には悪いが、カードを一枚切ることにした。
「生徒会襲撃は、ブラフでした。あの二人に、生徒会とドンパチするつもりはないみたいです。いくら実力者でも、権力者には勝てないでしょ?」
俺の言葉に、会長以外の役員の顔が変わる。
「ねえ、それはないんじゃないかな」
男の制服を着ているが、妙に女っぽい先輩が口を開いた。
「彼らは、確かに見た目は大したことない。でも、実力は本物だ。それは俺たちが保証する。その彼らの覚悟を、君は否定するのかい? だから俺たちだって本気で相手しようとしてるんだ」
……
…………
知るかあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!
もしかして騙されてんの?
いや実力は分かるよ? 俺の危機を感じるくらいだもの。
でもさ、なに『敬意を払うべき敵』みたいになってんの?
彼らの決死の演技力がスゴいのか?
それともこいつらがアホなのか?
それとも実は、俺が嵌められているのか?
まずい。パニックになったら会長のペースにされる!
落ち着け落ち着け、俺。
少なくとも会長は、俺が真相に気付いていることに気付いている。
だって余裕の笑みが消えてるもん。
会長も、少しは焦っているはずだ。
「いやあ、本人たちに確かめたんでえ、間違いないですよお。それに、俺みたいな1年生にビビってゲロしたんですよ? とても生徒会に喧嘩を売れるような胆があるようには、見えませんでしたが」
どうにも周りの空気が険悪になっていく。
この反応を見る限り、あくまで茶番の立案は、会長個人。
まあ、生徒会が全員グルの可能性がゼロではないので、あくまで暫定的な判断だが。
考えすぎると、ど壺にはまる。
あー、むずむずするぅ!
……いや、そうか。
俺はただ、美味い飯を食いたいだけなんだ。
別に会長の思惑に興味はない。
ならシンプルにいこう。
「とにかく、これで生徒会に襲いかかっていた危機は去ったってことで。謝礼はいいですわ」
三十六計、逃げるにしかず。
これ以上関わると、面倒が増えそうだ。
今の俺は能力が使えない。
下手に喧嘩したら、厄介どころの騒ぎではない。
回れ右。そのまま進め。
「残念だなあ」
背中がぞわっとした。
この嫌な感じ。手順を誤ったか。
「せっかく、君にも生徒会に入ってもらおうと思ったのに」
会長の笑顔が戻っている。
なんか悪いこと思い付いたな、これ。
「せっかくだから、そいつらを倒した能力、見せてもらえないかな?」
……想定内ではあるけど、最悪のシチュエーションが来た。
最初は考えた。
狙いは俺じゃないか? とか。
最初はあえて無視して、周りを固めてから俺を生徒会に引き入れるつもりじゃね? とか。
いやー、でもこれ違うわー。
これは多分思い付きだわー。
「あれえ、出せないのかな?」
厳密に言うと、潰す気だわー。
俺の能力知ってるわ~、
口封じるつもりだあ!!!
◆◆◆
今の俺は、非能力者と同レベルである。
つまり、能力者からすればカスだ。
対して俺は、向こうの情報はほとんど知らない。
こんなことになるんなら、太一からちゃんと聞いときゃよかったなあ。
さて、俺は生徒会室を飛び出し、絶賛逃走中である。
厄介なのは、あのホルスタイン先輩が追いかけてきたことだ。
あの体でよくそんなスピードが出るな!
あの先輩、《速度操作》の能力者か?
にしては、少し加速が遅い。瞬間的な加速が売りの、このタイプではないだろう。
《身体強化》かとも思ったが、これだとしても加速がやや微妙だ。
よってこれも除外。
それ以外で人を加速させる能力となると――――
候補はいくつかあるが、風が吹いていないことから、気圧や気体をどうこうする能力ではない。
じゃあ、質量を変えている? いや、足音が重すぎる。
それに、速いとはいえ、普通と比べて少し早い程度だ。
――もしかして、なんか隠してる?
そうなると、より遠距離に逃げる必要がある。
「逃がしませんよ」
直後、背後から電撃が飛んできた。
なるほど、これは予想外だ。
少し軌道はそれたが、髪の毛がおかしい。
静電気でも発生したか。
そのまま階段を二段飛ばしながら、最後は数段上からジャンプする。
足がビリビリするが、ここは仕方ない。
今いるのが3階。
ここで撒ければいいのだが。
と思ってたら来たぁ…………
幸い、物陰に隠れた俺の存在には気付いていないようで、辺りをキョロキョロと見回している。
放課後で誰もいない校舎。
夕方なのに、思った以上に怖い。
そこで警笛のような音が鳴り響いた。
思わず体が動きそうになるのを、理性で必死に押さえ込む。
「あ、会長ですか? …………分かりました。すぐに」
そのまま、先輩は来た道を戻っていった。
何があったんだろ?
◆◆◆
〈太一目線〉
倉橋先輩が出ていってすぐ、会長は自身の端末から彼女に電話を掛けた。
〈すぐ戻るように。今捕まえてないなら、1年は放置していい〉
ものの一分と経たずに、倉橋先輩は一人で戻ってきた。
「すみません会長。撒かれました」
倉橋先輩から、優哉は逃げきったようだ。
彼女は自身の能力である電気を操作して、身体能力をある程度向上させることができる。
神経を流れる電気を強化して、一時的に筋肉のリミッターを外すのだ。
以外と速度が出るので、侮っていると痛い目を見る。
「あいつはなんだったんだ? そういえば、あれも事件の当事者だったな。となると、おまえらのクラスか」
新田先輩が、疑惑の目を向けてくる。
こっちに。
「あいつは、スタンドプレーが趣味なのか?」
あながち間違いではない。
しかし、生徒会には関わるなと、念を入れて釘を刺してある。
「間違ってはいませんが、それよりも先輩方、聞きてえことがあります」
伊藤が俺の前に出た。
「あいつの言うことが正しいなら、俺たちが生徒会にいる必要はないですよね。そこまでは調べなかったんですか?」
「……」
誰も喋らない。
どういうことだ?
「蒼馬、これは喋ってもらうぞ。元々はおまえが持ってきた情報だろう?」
言ったのは新田先輩。彼もまた、この異様な事態に疑問を抱いたようだ。
「……言っておくけど、この状況はこの学校だけじゃない。全国の学校で同時に起きてる。全ての学校で、生徒会に対抗する勢力が作られている。仕方がないことなんだよ」
会長は、あっさりと茶番であることを認めた。
「なんだってそんなことを?」
「これは他言無用で頼むが、今、日本軍は大幅な戦力不足という状況に陥っている。で、上層部からのお達しだ。有事の際は、俺たち学生は自分で自分を守らないといけない。そのための訓練だよ。でも、訓練という形にすると、どうしても危機感が足りないから、これを知らされたのは、生徒会長の生徒だけ」
俺は耳を疑った。
あの日本軍が戦力不足?
世の中の情報にはかなり目を通しているが、それに繋がりそうなものは一切見つけていない。
もし紛争や戦争が起これば、それを隠すことは難しいからだ。
「あの1年が倒したのは、俺が協力を依頼した相手だ。当然あいつらにも本当の理由は言えないから、ちょっと脅しに近い形でやったけどな」
生徒会と反抗勢力の争いは、あっけなく瓦解した。
しかし、とんでもない事態だ。
「あの、どのくらいの戦力が不足しているんですか?」
「俺も断片しか聞いてないが、将校はほとんど。能力者は9割が病院送りだそうだ。当然俺の親父もな」
それだけの事態が、今起きているとなれば。
優香のお父さんは大丈夫だろうか。
「いったい、何が起こったんですか?」
「だから、俺も詳しくは聞いてない。一つはっきりしてるのは、この国には、とんでもない脅威が近づいてるってことだけだ」
会長は、頭を抱えた。
「一応、俺たちが有事の時にしっかりと組織できるように、マニュアルまで作ってくれてたのに。あの1年のせいで台無しだ」
軍上層部の目的は、「未知の恐怖に対抗する精神を育てること」。
訓練であることが暴露された以上、「未知」ではなくなってしまった。
こんな間抜けな作戦、誰が考えたのだろうか。
もうちょっとしたら、新登場した人物、まとめます。
モチベーションのため、評価やブクマ、お待ちしてます。
次回は8月23日、更新予定です。




