遠い先に交わる話
今回、主人公は全く登場しません。
その部分をご留意の上でお読みください。
「この二瓶って中将さん、プライド高い父親だよねえ。家族に自分の入院を知らせないでほしいなんて。1週間も連絡なかったら、怪しまれるとか思わないのかねぇ」
日本軍・異能力テロ対策部隊。
本来であれば関係者以外の立ち入りは厳禁であり、下手に侵入すると殺害されても文句が言えない場所である。
そこの本部長である鶴宮の目の前には、一応民間人の扱いである、それがいた。
本名は誰も知らない。ただ、《社長》と呼ばれる。
「男としての威厳ってヤツかな? まあいいや。で、私が病院送りにしたのって、何人?」
「人数だけで言えば20万人中の5万人。だけど戦力で考えたら8割が飛んだ。俺が何人かを説得して現場を離れさせてなかったら、今ごろ日本は無防備だぞ」
彼の目の前には、大量の書類の山。
今回入院した軍人たちのリストと、補償の請求である。
かなりの数、しかもそれぞれがかなりの戦力を持つ軍人が、《社長》によって入院を余儀なくされていた。
「だからこうして鶴宮さんの仕事を手伝ってるんじゃないかぁ。私も悪いとは思ってるよぉ?」
傍目から見れば、ただ突っ立っているだけにしか見えない。
しかし、社長がここにいることによって、国の防衛力は今までの比ではないほどに高まっている…………らしい。
鶴宮は気分を落ち着かせようとして、紅茶を口に運ぶ。
「誰が聞いても反省してるとは思ってもらえないぞ、それ」
鶴宮はため息をつくと、再びパソコンの画面に目をやる。
現在失われている戦力を考えると、その補填ができるのは、目の前にいるこいつだけ。
もしくは。
「なあ、おまえんとこの」
「ダーメ」
有無を言わさず、社長は鶴宮の言葉を遮る。
「鶴宮さん、それはいけない。うちの社員に、こんな仕事はさせられないなあ。うちの会社は傭兵の派遣会社じゃないんだから」
「そこ、なんとかならないか? 別に敵が来たときに殺せって言ってるんじゃないんだ。拘束、いや威嚇だけでもいい。おまえのとこの社員なら、それくらい朝飯前だろ?」
「ダメだよ。いくら鶴宮さんの頼みでも、それは許せないなあ」
社長は、頑として首を縦には振らなかった。
だが、鶴宮はフッと息を漏らすと、
「……おまえは変わらないな。まあ、そうでなくちゃおまえじゃない。じゃあ、その代わり、みんなが復帰するまでは、おまえがこの仕事、やれよ?」
「穴埋めはするさ。まー、入院するって言っても、あと一週間もすれば全員復帰できると思うよぉ。そこまでやってないから。ただ、全員が復帰する頃には、私を倒そうだなんて思えなくなってるだろうけど」
今回の一件によって、第三次世界大戦当時の当事者が、再び集まらざるを得なくなった。
日本だけではなく、全世界の有力者たちが。
当時は全面的に秘匿とされた情報を、後世に伝える必要が出てきたのである。
それにより、現在世界の上層部は大混乱に陥っており、終息にはもう少しかかるというのが、鶴宮の見立てだった。
「無論、異能力も科学も当時と比べて飛躍的に進歩しているからねえ。可能性に賭けようとする猛者もいるかもしれないけど」
「無理だろう。人類全てを犠牲にするような戦争を起こしても、おまえからすればお遊びだからな」
「失礼な! お遊びだなんて思わないよ!」
子供のようにムキになった。
「せいぜい、蟻塚を見つけたアリクイくらいの気分だよ!」
「例えがよく分からんな……。まあいい。それより、社員にあまり迷惑をかけるなよ? この間の生徒誘拐事件の一件で、社員を随分こき使ったそうじゃないか」
「えー、でも動いてもらったのは女性陣だけだよぉ? そのほうが楽だし」
聞こえようによっては完全に女性蔑視である。
が、この言葉の真意を知る鶴宮は、特に咎めるでもなく。
「……まあ、そっちのほうがいいのは分からないでもないが、女社員は大事にしろよ。特に秘書は」
鶴宮の言葉に、社長はうーん、と宙を睨み、
「やっぱ揃いも揃ったインドア派に、温泉旅行のプレゼントってまずいかしら」
「どうだろうな……」
◆◆◆
「……クチュンッ!」
某有名温泉地。
そこにあるとある旅館。その一室で、件の秘書がくしゃみをしていた。
せっかくの有給だというのに、彼女は平机の上でノートパソコンを開いていた。
その中身は――
「あれ、今日華さん? まだ温泉に行ってなかったんですか?」
部屋のなかに、若々しくも芯の通った声が響く。
「ああ、シャノン。いや、急だったから片付けてない仕事も多くて」
襖を開けて入ってきたのは、長身の女性。
どっからどう見ても外国人だが、彼女には、それ以上の強烈な個性があり。
「でも、肌弱いのに温泉なんて大丈夫だった?」
今日華の問いかけに、シャノンと呼ばれた女性は、サムズアップで応えた。
「問題なかったですよ! 社長って基本シバきたくなるほどアホですけど、こういうときだけは、きちんとしたの選んでくれるんですよね~」
そう語る彼女は、雪のように白い肌と、同じく白い、肩にかからない程度の長さの髪。
その目は、彼女の血液の色を、そのまま反映していた。
「エラと若菜ちゃんは? 一緒に行ったよね?」
「あの二人は、もう少し入るって言ってました。……買い物組は、まだ戻りませんかね。まだ3時だし」
「8人ともなると、さすがに一部屋じゃ済まないからねえ。あ、あたしもこれ終わったら温泉入ってくるから。留守番よろしく~」
シャノンはそのまま、部屋に設置されている小型冷蔵庫に手を伸ばす。
中から取り出すのは、瓶詰めのコーヒー牛乳。
「……シャノンさん? それは銭湯の後の行事だよ?」
「湯上がりなのは同じです! 家でもやってるんで、飲まないと落ち着かないんですよ」
そういうなり、豪快にコーヒー牛乳を胃袋に流し込む。
女性らしさの欠片もない。
「ぷは~~~~~~~~ッ!」
まさに至福。
そうとしか表現のしようがない。
「ところで今日華さん。残ってる仕事ってなんなんですか?」
「この間の、集団誘拐未遂事件の報告書。なんか社長が余計なことしたみたいで」
「……なにしたんですか?」
「『海外に、誘拐の犯人たちの拠点があった』って言ったでしょう? あのアホはなにを思ったのか知らないけど、そこに乗り込んで、能力を一兆分の一解放しちゃって。お陰で犯人たちが喋れないほど衰弱してるんだって」
シャノンは、大体の予想がついた。
「黒幕が、分からずじまいですか」
今日華は黙って頷く。
しかし、シャノンの予想以上の問題があった。
「一つ確定してるのは、この組織には《譲渡》の能力者がいる。誘拐の目的は、生徒から異能力を〈奪う〉こと」
「ひどい……。あ、だから、陽葵ちゃんのいない今のうちに?」
「この情報引き出してきたのが、一緒に行ってる他の3人なんだ。やっと立ち直りかけてるのに、こんなの聞いたら、また以前の状態に戻っちゃうから」
しかしここで、シャノンは少し怪訝そうな顔をした。
「その情報、どうやって引き出したんですか? 留美ならともかく、佳乃さんやきーちゃんは、情報探索に向いてるようには思えないんですが」
「あの二人だからね。気圧された相手が勝手に喋ってくれたみたい」
「一応、確認しますけど、脅迫はしてないんですよね?」
「その辺は大丈夫。怒ったら恐いからねえ~、特にあの二人は」
シャノンは、「みんなが、多分社長も含めて、一番怒らせたらヤバいと思ってるのはあなたです」という言葉をグッと押さえた。
「だから、帰ってこないうちに。珍しく社長も仕事してるし。私も頑張らないと」
今日華は、本気を出すかのように眼鏡をかける。
画面を長時間見るときは、いつもそれ用の眼鏡を使うのだ。
この手の作業がさっぱりのシャノンは、傍観することしかできない。
「そういえばこの間、打ち上げの前に、なんか周りの山が騒がしかったですよね。あれも社長が?」
「まあね。あの人も、あれでいて苦労はしてるから」
シャノンは自分の上司について、以前、思うところがあった。
この人は、社長に惚れているのではないだろうか?
あの傍若無人、慇懃無礼、自由気のままのオンパレードである社長と、ずっと一緒にいるのだから。
まあ、社長だって、黙っていれば悪い顔ではない。
一度だけ、それについて訪ねたことがある。
しかし
〈悪いけど、それ二度と口に出さないでくれる? 次は外さないから〉
今日華の本気の《異能力》が、自分の頬を掠めたのを思い出す。
それだけで、せっかく温泉を満喫したにも関わらず、汗が吹き出てきた。
今日華の異能力は、異常な《速度操作》。
もし、社長がいなければ。
彼女こそが、この世の能力者のなかで最強であったことは間違いないだろうと、シャノンは確信している。
今日華だけではない。
この「会社」に属している人間は、もし一人でも本気を出せば、軍とやりあえるだけの実力を持った能力者のみで構成されている。
現在、社長以外には14名が、会社に籍を置いている。
そして将来。
榎本優哉は、この会社の人間と、否応なく関わっていくのである。
活動報告にも書きましたが、テンションが上がっています。
さっきちらっと見たところ、日間ランキングにもタイトルがありました!
これからも頑張ります。
さて、次回ですが次の章に進みたいと思います。
章タイトルは、
「生徒会VS???」
です。
面白いなーとか、続きが気なったな~とか思って貰えたら、ブクマ、評価などよろしくお願いします!
誤字脱字のご指摘も含め、感想もお待ちしております!




