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《最強》になりえない彼が、《最恐》と呼ばれる理由  作者: 岡部雷
トラブルは入学式の前に
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大抵の強いキャラクターは、敗因が慢心。

 ガタンッ。



 大きな揺れのせいで、俺の強制的に目覚めさせられた。

 窓ガラスに頭をぶつけたせいで、目の前がチカチカする。




 3月29日。




 バスに揺られながら、俺はとある場所を目指していた。

 来週から、新しい生活が始まる。


 車内の電光掲示板を見ると、次のバス停が目的地だ。

 停車ボタンを押そうとしたが、隣のボタンが先に点灯した。

 押したのは、すぐ後ろの乗客。



「あれ、もしかして新入生?」



 俺が寝ている間に、乗車したのだろう。

 俺とお揃い(当たり前)の学校指定の濃紺のブレザーと、黒と灰色のグレンチェックのズボンに身を包んでいる。

 声をかけてきたのは、座っていても分かるくらい、背の高い男子だった。

 涼しげな目に、キレイに揃った歯並び。さわやか、と言う単語がピッタリだ。



 ……だからこそ。「何故()()に?」と思ってしまう。

 俺は心の声をグッと飲み込んだ。



「うん、そうだよ。俺、榎本(えものと)優哉(ゆうや)。君は?」


「俺は真田(さなだ)太一(たいち)。よろしく」



 やがてバス停に着くと、そこから続く坂道の上に、目的地が見えた。

 意外に傾斜がきついが、それでも何とか登りきる。

 息を整えてから見上げると、目に映るのは巨大なコンクリートの壁。

 目線を下に戻せば、大型バスが横に2列並んでも通れそうな、大きな門。



「すっげえなあ」



 隣で真田が目を輝かせている。

 門の右隣りには、大きな木の板に毛筆で



 《国立○○県第一特別能力者学校》の文字。



 ここが、来週から俺たちの新しい学び舎だ。

 警備員が寄ってきたので、俺たちは事前に郵送された入校許可証を見せる。



「ああ、君たち新入生ね。悪いんだけど、この先に事務所あるから、まずそこに寄ってくれないかな」



 警備員の指示通り、事務所に向かうと、眼鏡をかけたおばさんがいた。

 再び許可証の提示を求められる。

 おばさんは口早に



「えーと、……あ、ちょうどいいわ。あなたたち、同じ寮を希望したのね? だったら、そこの道を真っ直ぐ行って、二つ目の分かれ道を左に曲がって、あとは道なりに歩いていけば見えるから。じゃあ、これが鍵ね。大きな荷物はもう部屋に届いてるから、それは自分で荷解きしてね。もし何かあったら、部屋にある内線電話でここにかけてね?」




 見覚えのある、お釣りを置く青いプレートに、鍵が二本置かれていた。

 それぞれ、個人名が書かれた札がくっついている。

 見た目は、よく見る普通の鍵だ。

 だが、セキュリティの面から、様々な対策が施されている。……らしい。

 詳しくは知らない。



 ◆◆◆



 学校、と名は冠しているが、敷地は広く、なんと東京ドーム21個分にもなるという。

 中に進むと、舗装された道と、芝生が目に入った。



「学校って言うか、庭園みたいだな。どんだけ金注ぎ込んでるだろ?」


「まあ、缶詰生活だからなあ。憩いの場みたいのがいるんだろ」



 彼の言うとおり、確かに、コンクリートばかりで緑が目に入らないと、心が貧しくなる気がする。

 首を回して景色を目に焼き付けていたが、あることに気付く。



「なんか人少なくない?」


「よっぽどなことない限り、上級生は春休み、強制で自宅に帰らされるんだ。先生たちも新しい年度にむけての準備があるし。新入生だけは引っ越しとかしなきゃいけないから、今日から来てもいいことになってるけど」


「詳しいんだね」


「俺の姉ちゃんも、ここ出身だから」



 意外な話かもしれないが、能力が発現するかどうかは、血筋では決まらない。

 あくまで本人にその素質があるかどうかだ。


 実際、俺の家族や親戚に能力者はいない。逆に言えば、能力者ばかりの家系もある。

 真田は後者だったようだ。



「まあ、寮での生活も悪くないみたいだから、気楽に行こうよ」



 この学校の寮は、建物によって部屋のつくりが違う。

 俺は5種類ある部屋のうち、和室が2つあるところを選んだ。他はほとんどがフローリングで、和室が多くても1つしかなかったのだ。



「そう言えば、榎本も同じ寮なんだ。奇遇だね」


「優哉でいいよ。真田君はどうして?」


「俺も太一でいい。あそこ校舎から一番遠いから、人気ないんだよ。で、抽選で負けた。くそう、あのときパー出しとけばなあ……」



 知らないところで攻防戦が繰り広げられていたらしい。

 それから俺たちは、お互いのことを聞いたりしながら移動を開始した。



「へえ、太一は《知覚強化》かあ。就職とかに便利そうだねー」


「でも、コントロール面倒だぞ? 最初の頃はのた打ち回ったなぁ……」



 遠い目をしている。きっと苦労したんだろう。



「優哉は何なの?」


「俺は《障壁》。いろいろ面倒だけど」



 太一は足を止めて、怪訝そうな顔をした。



「あれ、確か《障壁》って、使い勝手がいいんじゃなかった?」



 そう。彼の言う通り、本来この能力は《当たり》とされている。

 だが、俺の能力は本来の物とはかけ離れている。悪い意味で。

 あれもできない、これもできない。

 ナイナイずくしの俺の能力だが、知ったときに俺の心をへし折りかけた、最悪の短所がある。

 思い出したら泣けてきた。



「なんか、悪いこと聞いたか……?」



 太一がおずおずと俺を覗き込む。



「え? なにが? 気にしてないけど?」


「鼻水すすって、涙流しながら言われても説得力ねえよ!」



 思っていた以上に、俺の顔はひどかったらしい。

 俺はティッシュで鼻をかむ。



「正直、使い勝手があんまり良くないから、普段は、人前で使うのは控えてるんだ」


「……そっか。悪かったな」


「まあ、これは俺の問題だから。別に気にしなくていいよ。じゃあさあ、太一の能力、今ここで使って見せてよ。学校のなかで、どんなことが起こってる?」



 彼の能力、《知覚強化》は、文字通り、五感が強化される。

 それを例える言葉として、「鷲の目、犬の鼻、兎の耳、蛇の舌、猫の髭」というものがある。最後の言葉は、触覚のことらしい。



「いいよ」



 太一は荷物を下ろすと、深呼吸をして集中の姿勢を取る。

 見た目に変化こそないものの、彼の頭には、普通の人間が感じることのない世界が広がっている。


 ところが。

 太一の表情が変わる。集中から一転、何やら苦悶に満ちた顔になる。


 突如。

 カッ!!! と目を見開くと、そのまま荷物を残してどこかに走っていく。

 何が起きたのかさっぱりだったが、俺も急いで後を追う。


 太一が急に足を止める。そこは、建物の影になっている場所だった。人目につきにくい、そんな印象を受ける。


 そこで。

 俺は、異様な景色を見た。



「太一、あれのことか?」



 俺が指さした方向には、1人の少女が、3人の男子生徒に囲まれていた。

 少女は壁を背にしているので、逃げ場がない。



「許されるのか、この学校」


「本当はダメだけど、春休みでタガが外れてるんだろうなあ、あの先輩たち。先生が注意しに来ないのと、この時期に学校にいるってことは、多分――」



 彼の言わんとしたことを悟った。

 彼らは、()()()()()()()()()()、《上流》階級の人間。

 俺があいつらと同じことをすれば、すぐにでも先生たちが飛んできて、つまみ出されるのがオチだ。



()()()が家にいるのは嫌なんだろうな。だから無理を言って学校に残らせてる」



 人のいないところで女一人に寄ってたかるような連中だ。

 ロクな奴らではあるまい。

 何があったのかは分からないが、なんか男たちが怒鳴りはじめた。

 一番強そうな先輩が、自分の手に炎を纏わせている。



「どうする?」


「助けてあげたいけど、しない方がいいかも」



 太一が妙な表情をしている。



「……その理由は?」



 太一の口が動くより先に、俺の目は彼の言葉の意味を見ていた。



「「「うわあああああッ!?!?!?」」」



 裏返った悲鳴が聞こえてきた。

 少女に殴りかかろうとした男たちが、いきなりぶっ飛んだ。

 再び襲いかかろうとするも、また何かに阻まれた。


 少し遠いがはっきり見える。


 男たちの周辺。そこに見える、青白いドーナツ状のリング。

 そこから、()が出てきているのだ。




「……《転移門》か。中々レアな能力だね」



 お察しの通り、空間と空間を《繋げる》異能力だ。

 先輩たちは、()()()()の拳を食らっていた。

 その証拠に、肘と手首の中間あたりに、同じ青い光。そこから先が()()()()()()()



「優哉、見たことあるのか?」


「一回だけ。それにしても、ああいう応用の仕方があるのかと思うと、やっぱ怖い能力だわ。にしても太一。あの女子とは知り合い?」



 太一は気まずそうに頭を掻くと、



「あー、うん、まー」



 棒読みで返した。

 それから数分、先輩たちは彼女に何度も襲いかかろうとするが、彼女自身の回避能力と、《転移門》の能力が合わさって全く通用していない。



「自業自得と言えばそうだけど、先輩たちが可哀そうに見える負けっぷりだなぁ……」



 能力を見せて脅していた先輩は、自分の炎で焼かれることはないものの、拳の衝撃はわりとダイレクトに食らっている。



優香(ゆうか)は、相手に容赦するようなタイプじゃないからなあ」


「へえ、優香って名前なんだ」



 下の名前で呼ぶあたり、二人の関係を邪推してしまう。



 それよりも、勝負は決着がついたようだ。

 ダメージが蓄積した先輩たちが、地面に這いつくばっている。



「このアマァ!! 俺たちにこんなことして、タダで済むと思うなよ!? 俺の親父はこの辺の《支部》で大佐なんだからな!」



 一人の先輩の声がここまで聞こえてきた。

 それに対して、彼女は蔑視の態度を崩さないまま、二言、三言口を動かした。


 途端に、先輩たちが血相を変えて逃げ出す。



「ちなみに聞くけどさあ。あの優香って子の親、何?」


「……《軍本部》で《中将》ってだけしか知らない」



 そりゃ先輩たちが血相変えるわけだ。

 階級が違いすぎる。



「おーい、優香!」



 太一が手を振ると、彼女はこちらに歩いてきた。

主人公が実際に能力を使う機会は、もう少し先です。

後すみません。設定にも若干の変更がありました。

違和感を覚えたかた、申し訳ないです……。


ブクマ・評価などお待ちしてます。

「前の時よりは面白い」と感じたかた、特に御願いします!




次回は7月18日の更新予定です!

(もし希望が多ければ、早めの更新もあるかもです)

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