偶然も重なりすぎると怪しまれる。
以前2本投稿をしようとしてできなかった分をここで回収します。
休みが開け、教室の扉を開くと、そこにいたクラスメートの視線が俺に注がれた。
「よ、英雄!」
「昨日は助かったぜ!」
「かっこよかったよ!」
男女から好印象を得たようだけど、正直言って気が進まない。
見方によっちゃ、俺は彼らを見捨てて自分だけ逃げたのだから。俺が狙いなのは分かっていたけれど、じゃあ俺を追いかけてくるかと聞かれたら、話は別なわけで。
なので、
「礼を言うなら、俺じゃなくて《門》の能力者を倒したやつに言っとけ。そうじゃなかったら、今ごろどこにいるか分かんないんだから」
本物のヒーローをフォローしておくことにした。
あれだけ全身を包帯でグルグルにされているのだ。
多分、今日は来れないd――
「きゃあああああっ!?」
女子の悲鳴と共に、後ろから何かが激突した。
あまりの衝撃に、そのまま吹っ飛ばされてしまった。
ああ、何回「吹っ飛ばす」とか「ぶっ飛ばす」とか言ったんだろう。
「ごぶばばばばばばばっ!?」
水のようなものが気管に入ってしまった。
呼吸ができなくて、一瞬パニックになった。
咳き込みながら目を擦ると、何やら教室が水浸しになっていた。
「さいってーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」
後ろから、知らない女子のシャウトが脳に響く。
もしかして、俺に言ってるのか?
セクハラをした覚えはない。
「事故だって! そっちが前見てないのが悪いんだろ!?」
……なんか聞き覚えのある声だなあ、と思っていると、案の定。
俺がフォローしたはずの人物が、女子相手に猛抗議していた。
たった二日で、ここまで回復できるのか。ようやく、伊藤の顔を見ることができた。
太一ほどではないにしろ、整った顔立ちをしていると言っていいだろう。
ただ、真面目そうに見えるか? と聞かれると答えに詰まる。
女子の方は、長身のポニーテールだ。気が強そうな目付きと、
「しかもあんた《無効化》? 厄介なやつが、厄介な能力持ってるね!」
皮肉っていた。
しかし、周りはそれどころではなかった。
俺以外にも、謎の洪水によって被害を受けた生徒が多数。
ブレザーを着ているからいいものの、もしこれが衣替えのあとだったら、ワイシャツが透けてとんでもない事態が起こっていたに違いない。
「ああ、ごめんね?」
口ではそう言いつつも、謝罪する気持ちは1ミリも伝わってこない。
すると彼女は、左腕を前に出すと、人差し指をピッ、とまっすぐ上に伸ばす。
途端に、床を濡らす水や、服が吸った水分が、彼女の指先に集中する。
どんどんと増えていき、最終的には空中に巨大な水のボールが出来上がっていた。
「……ったく、あんたが余計な動きしなかったら、みんなに迷惑かけなかったのに」
ポニテ少女はそのまま、伊藤に向かって蔑むような目線を向けている。
何をしたんだ、英雄よ……。
「あんたさあ、事故で胸を掴むか?」
瞬間、クラスの他の男子からは羨望の眼差しが、女子からは汚物を見るような視線が注がれる。
「だから、悪かったっつってんだろ!」
伊藤も半分以上キレていた。
「大体、俺がゆっくり歩いてるところに、後ろから突進かけてきたのはおまえだろ! どうやって避けろってんだ!?」
う~ん、確かに。ただ。
じゃあどうやったら、胸部に手が行くんだ?
あえて好意的に見たとしても、彼女が伊藤の後ろからハグするような形になるわけで。
物理的に不可能なような。
「しらねーよっ!!!」
女子は相当頭に来ているようだった。
しかし、迂闊には攻撃できない。またさっきのように、水浸しになるのがオチだ。
見たところで、彼女の能力は《液体操作》ではないか? と予測をたてた。
別に彼女の能力に興味があったわけではない。ただ、どんな能力者でも伊藤の能力には叶わないだろう。
それは俺も同じだ。
「はーい、席についてください。ホームルーム始めますよ~」
先生が入ってきたので、勝負は一旦お預けとなった。
ちなみに、彼女が操っていた水は、水道水である。
怒りのやり場を失った彼女は、窓の外に水の大玉を投げ捨てた。
◆◆◆
「え~、担任の渡辺先生が、この度教職を辞することになりましたので、替わりに担任になりました小宮山です」
教壇に立ったのは若い男の教師だった。
チャラい、とまで言うつもりはないが、新任教師特有の雰囲気を一切感じさせない。
なんと言うか、熱意がない。
ネクタイ緩いし、少しだらけているようにも見える。
「では、まず君たちの写真を撮りますので、別室に移動してください」
生徒手帳用の写真らしい。本来は朝のホームルームを先に済ませるのだろうが、初っぱなから休校をした俺たちの学年は、時間が足りないのだ。
俺たちは1組なので、撮影もトップバッターだった。
全員が教室に戻ると、教壇の脇には大きな段ボール箱が二つ置かれていた。
「つ~ぎ~に、君たちにこれを配ります。一人一台なので、名前を呼ばれたら取りに来てください」
箱を開けると、さらに小さな段ボールが見えた。
「次、榎本優哉くん」
俺は教壇の前に立つ。先生が段ボールの中から、一つ箱を取り出した。
箱の表面には、何も書かれていない。
先生が小箱を開けると、スマホが入っていた。電源を起動すると、そこにパソコンから伸ばしたケーブルを挿して、何やら操作している。
それが終わると、箱ごと渡された。
その後、全員に行き届いたのを確認すると、だらけきった声のまま、
「これが、君たちの生徒手帳になります。学校内での連絡はこれを通して行います。また財布の役割も果たしますので、学校の中のスーパーで買い物をするときや、食堂、購買に行くときは必ず持っていくこと。個人情報がたくさん入っているので、絶対になくさないでください」
子供が持つには高い代物だ。
しかしこれで、晴れて俺たちもこの学校の生徒である。
これがあれば学校の敷地内の施設は、ほぼ使えると思っていい。
その後も様々な説明を受けたが、何よりも全員が待ち望んでいた時間がやって来た。
「じゃあ、昼食と昼休みが終わったら、全員ジャージに着替えて第一体育館に移動してください」
教室を出るときまで、小宮山先生はだるそうな態度を崩さなかった。
◆◆◆
「よう、一緒に食っていいか?」
俺が太一と一緒に、彼の作った弁当に舌鼓を打っていると、伊藤が購買から戻ってきた。
「え、別にいいけど……いいのか?」
太一が向こうの女子に目を向けた。
伊藤の背中には、女子からの視線が槍のように刺さっている。
「まあ、気まずいのは事実なんだけどさ。俺は君に話を聞きたくて」
「俺?」
伊藤が言うには、操られていた先生の話を聞きたいのだそうだ。
「なんでまた?」
「俺と戦ってたやつがさ、『おまえのクラスに、俺の仲間がいる。俺よりも数段怖いやつだぜ?』とか言ってたからさ」
……
…………
どー答えりゃいいんだろ?
確かに、先生の体を乗っ取って俺たちを誘拐しようとしたわけだから、怖い奴には違いない。
でも、俺に一度吹っ飛ばされたからと言って、あそこまで感情的になるのは違うような気もする。
そもそも、あの恐ろしいパワーは先生の肉体に由来するものであって、先生を操っていた奴は顔すら分からない。
考えた末、
「怖いやつかもしれないけど、表に出てこなかったってことはビビりなんじゃね? あれは物理的に怖いって言うより、精神的に怖いやつだと思う」
適当に返事をした。
その場で早速スマホを開いて、ニュース欄を見てみる。ほとんどの記事が学校襲撃に関するものだった。
一つを開いてみてみると、なんとあの渡辺先生は4ヶ月も体を乗っ取られていたそうだ。
正確には昨年の年末に、《仕込み》を受けたのだとか。
なんでも、忘年会で飲みすぎて意識が朦朧としていたところを、テロリストに狙われたらしい。
「全国の全ての特別能力者学校から、一人の教師が狙われた。そのほとんどがお酒に弱いという情報が入っている」
記事にはそう書いてあった。
先生を襲った《伝達操作》とは、人体の運動神経を乗っ取る異能力である。
しかも、一度でも直接触れてしまえば、相手が起きている間はいつでも好きなときに、乗っ取りができるという側面がある。この直接触れる行為を《仕込み》と呼ぶ。
あとは、必要なときにだけ乗っ取りを行い、後は本人の意思で普通に生活をさせる。ただし乗っ取っている間、本人の記憶はない。そこで矛盾が生まれないよう、一日に乗っ取る時間は10分と決めてたそうだ。
また、操作している相手と感覚をリンクすることもでき、相手が知った情報は筒抜けになる。
ただし、記憶や感情までは探れない。例えばリンゴを見たとして、本人が「俺、昔無理矢理食わされたから、リンゴは嫌いなんだよなあ」と思っても、それは向こうには伝わらない。
非常に恐ろしい異能力だが、本来は医療現場でリハビリに使われるなど、有用な一面もあるのだ。
正しく使えば、人の役に立てただろうに。
◆◆◆
いよいよ、お待ちかね。
「え~、それでは、これから《異能力審査》を行います。カテゴリーが別れているので、黒板に張り出します。自分の能力のカテゴリーが書いてる場所に、各自移動してください。さっき配った生徒手帳を必ず忘れないように」
小宮山先生がだるそうに大きな紙を黒板に磁石で張り付けた。
カテゴリー1
物体干渉系……個体、液体、気体。もしくは生物、無生物に干渉できるもの。
→グラウンドAへ
カテゴリー2
法則操作系……温度、重力、振動など目には見えないものの《大小》を変えることができるもの。
→グラウンドBへ
カテゴリー3
物質生成系……自身のエネルギーから、物質を作り出せるもの。生き物も含む。
→理科実験室Aへ
カテゴリー4
変質強化系……普通の人間以上の知覚、体力を持つもの。もしくは、自身の体の構造を変化させることができるもの。
→音楽室へ
カテゴリー5
空間操作系……ワープ、もしくは空間をねじ曲げるなどの能力を有するもの。
→室内プールへ
カテゴリー6
能力無効系……能力を無効にするもの。
→担任の指示があるまで待機。
カテゴリー7
異質変化系……上記のどれにも当てはまらない異能力。一例として《障壁》、《未来予測》、《模写》などがある。
→大講堂へ
ちょっとでも気に入ってもらえたら、ランキングや評価などをいただけると嬉しいです。
ブクマはもっと嬉しいです。
次回は8月2日の予定です。




