新生活の下準備
すみません。
日常モードに入る前に、片付けなきゃならないことがいくつか残ってました。
次回からは本当の日常モードでスタートします。( ノ;_ _)ノ
結果から言おう。
学校が二日、休みになった。
入学して早々ではあるが、あれだけの事件が起こったのだから仕方あるまい。
安全の確保ができるまで、生徒全員は自室から出ることを禁止された。
で、現在。休校一日目。やることもないうえに、ネットは今全面停止している。
なんでも、セキュリティシステムに外部から攻撃を受けたらしく、強化と修繕が必要なのだとか。
しかしなにより、太一の飯が食えないのが辛い。
あれ以来、インスタント食品を食べると、舌がチリチリする。
味覚が完全に改造されてしまった。
もうあれじゃないと満足できないのぉっ!!!
……と言ってしまうと、若干の誤解がありそう。
「腹へったなあ」
畳の上に寝転がりながら、ぼんやりと昨日のことを思い出す。
◆◆◆
「いやあ、悪かったなあ」
目が覚めた相手の最初の一言。
その声は、くぐもっていた。
この学校は、生徒が缶詰で生活するので、ちゃんとした病院が敷地内にある。
保健室でどうにもならなさそうな怪我は、ここで治療するのだ。
病室のベッドにの上で、彼は笑っていた。身体中に包帯、顔にガーゼ。
さっきまでは血で見えなかったが、今度も顔を見ることは叶わなかった。口と目だけしか出ていない。
名を伊藤光太郎という。
「もしかして、クラスは1年1組か?」
「ああ。初日から思いっきり遅刻したけどな!」
「……でも、お陰で助かったよ。もしおまえがいなかったら、《門》が消えなかっただろうし」
彼の能力は《無効化》。
彼の話によると、この学校にいたテロリストは一人。《転移門》の能力者だ。
先生を操っていた能力者は、学校の敷地の外にいたらしい。
侵入したテロリストがいたのは、監視カメラのある部屋。
なんでそこにいたのまでは分からなかったが、
「とりあえず、そこでバトってそいつの能力を無力化した。でも大変だった……」
とのこと。
相当な実力者とドンパチしたんだな。
そのあと、事件の現場に足を運んでみたが、ひどい有り様だった。
所々から焦げた臭いすら漂ってくる。
よく勝てたな……。
「とにかく、お大事にな」
彼は安静が必要なので、早々に病室をあとにした。
◆◆◆
彼の活躍がなければ、この学校俺たちは強制的に連れていかれたかもしれない。
そう考えると、少し恐ろしくなった。
俺の体は、なんの傷もついていない。
「そういう能力だから」と言えたら楽だが、実際には違う。
今回ばかりは、「護られた」という要素が大きすぎる。
「強く、ならないと」
新生活の門出にて、俺はそう誓ったのだった。
◆◆◆
同じ頃、日本軍の大会議場には、全国から緊急召集された上層部が顔を並べていた。
司会の若い将校が、
「本日はお忙しいところお集まりいただき、ありがとうごz――」
「面倒な挨拶はいいよ。さっさと始めよう」
厳粛な雰囲気をぶち壊したのは、二瓶典孝中将。
不機嫌そうな顔を隠そうともしない。
一般人から見れば、その見た目は軍人よりも、ヤのつく職業の方に映るだろう。
能力は《天候操作》。
「で、テロ対策部隊はなんのためにあるんです? この失態、どう後始末つけるおつもりで?」
普段は寡黙な彼が、苛立ちを隠すことなく責任者に詰め寄る。
階級だけ見れば向こうの方が上だ。しかし、娘に危機が及んだと知った彼は、冷静になれずにいた。
「今回の一件で、我々としてもやはり、科学の力だけでの警備体制に、見直しが必要だと認めざるを得なくなりました。そこで、これを導入することにしました」
鶴宮が目配せをすると、脇に立つ部下が、ジュラルミンのケースから、厳重に保管されたガラス瓶を取り出した。
その場の注目が集まる。
中に入っているのは、黒いアスファルトのような、ドロリとした液体だった。
「これを、特別能力者学校の建物全てに使用します」
会場がざわめく。
一人の中年の将校が、手を挙げて発言の許可を求めた。
「どうぞ」
「鶴宮大将、それはどこから――」
「こんちわー、あら~、もう知らない世代の方がいるんだねぇ~」
施錠されているはずの扉が、普通に開いた。
急な乱入者に、全員が臨戦態勢をとる。
異様な姿に、誰もが凝視せずにはいられない。
その人物は全く気に留めない様子で、ずかずかと鶴宮の方に歩いていく。
「……『社長』。もう少しだけおとなしくはできなかったんですか」
公衆の面前であるためか、鶴宮も敬語を使う。
「どこで私が出ようと、嫌な顔されるのは変わらないからね~。どうせなら、初っぱなからいた方がいいでしょ? あぁ、お茶とかいいよ、すぅぐ帰るから!」
目の前に現れた男は、どう見ても若い。良くて三十代前半だ。
お堅い場であるにも関わらず、まるで友人の家に遊びに来たかのような態度に、若手将校は特に顔をしかめた。
得体の知れない物体と、それを持ってきたらしき人物に、何人かが疑問を呈したが
「大丈夫です。塗ったら無色透明。異能力などの侵入や騒音を防ぎながら、人体には全くの無害! 素晴らしい商品ですよ! 薄さだって、ただの断熱材や防音材と比べてどうです? なんと千分の一ミリ塗るだけで、同じ効果が得られるんです! しかも今回は緊急事態なので、なんと無料でプレゼント! こんな機会は数年に一度あれば、いいほうですよ?」
テレビ通販のような営業トークで押しきろうとして来た。
だが当然、納得しない人間もいるわけで。
「鶴宮さんよぉ、こんな奴を《提携先》にしてるって、あんた頭おかしいのか?」
二瓶中将の言葉に、所々から失笑が聞こえる。
鶴宮は少しため息をつくと、
「じゃあ、社長。今すぐ頼む」
頼まれた方は、特に返事はしなかった。
が。
「「「「「うわあああああああああああああああああああっ!?」」」」」
大の大人が悲鳴をあげる。
無理もない。
社長の袖口と、袴の裾の部分から、あの瓶に入っているものと同じものが、大量に飛び出してきたのだから。
二瓶中将も、思わず目を瞑ってしまったが。
「あれ……?」
再び目を開けたとき、そこには先ほどと何ら変わらない景色があった。
「はい。これで全国の能力者さんのための学校は、もう襲撃を受けなくなりました! 良いことをすると気持ちがいいねぇ!!!」
それだけ言い残すと、「はっはっはっはっはっはっは!」と高笑いと共に、会場を出ていった。
「では、それ以外の警備体制の見直しについてですが」
「「「待て待て待て!!!!!!」」」
全員がから突っ込みが飛んだ。
「誰だあいつ!?」
「なんの能力者だ!?」
「どういうつもりだ!?」
方々から質問が止まらない。
鶴宮は、少しだけ面倒そうな顔をして
「第三次大戦のときの、《悪夢の半日》の主犯ですが?」
「「「「…………!?」」」」」」
今度こそ、全員の顔に緊張が走る。
さっきまで怒りに任せていた二瓶ですら、鶴宮の言葉に思考が追い付いていない。
一人の女性将校が、
「ば……バカを言え! あの戦争は17年も前の話だぞ! あの見た目なら、戦争当時は子供だろう!」
「ですから、その子供が、あれですよ。あなた方も、その力の片鱗くらいは知ってるはずですし、現に今、体感したでしょう?」
鶴宮は平然と返した。
しかし、誰にも聞こえないようにボソッと
「余計なことしやがって……」
それからも、数十分、テロ対策会議そっちのけで、鶴宮は質問攻めに遭うのだった。
◆◆◆
「う、嘘だ……」
学生寮の一室。
生徒には二日の自室待機が言い渡されていた。
二瓶優香もその一人である。
彼女は隣室に住む真田太一と交際しており、夜な夜な自身の能力、《転移門》で彼の部屋を訪れていた。
ところが。
「なんで、一番会いたいときにっ!」
午前までは使えたはずなのに、午後になってから能力が全く使えなくなってしまった。
いや、正確に言えば、「この壁の向こうにだけ、行けない」。
自室で移動、例えば玄関からリビングまでは、普通に移動できる。
しかしそれは、障害物がない場合だ。
扉を閉めてしまうと、途端にできなくなってしまった。
「なんでよおおおおおおおおおおおおお!!!」
少女の悲痛な叫びは、誰にも届かなかった。
ちょっとでも面白いと思ってもらえたら、部熊などしてもらえるとありがたいです。




