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《最強》になりえない彼が、《最恐》と呼ばれる理由  作者: 岡部雷
眼鏡キャラにありがちなこと
112/115

⑥ 反射で目が見えないときは、笑っているか泣いている。

夏バテにて遅くなりました…。


 




爆発は相当なものでかなりの大きさの黒煙が空に昇っていた。

 何が起こったんだ?


 俺たちを待ち構えていたように鉄の門が開いていく。


「––––ちょっ、これどういうことですか⁉︎」

「敵が罠にかかったんです。やはり君の周囲の未来はそう簡単には読めないようです」


 敵?


「さっきので終わりじゃないんですか⁉︎」

「あれで終わるなら、君は今頃こんなことに巻き込まれていませんよ」


 さも当然のように言ってのける。


「さて、私は中を片付けてきます。すみませんが、これの面倒を頼みます」


 おいおい扱いが雑だぞもっと丁寧に片手で投げるな


「では」


 慌てて《壁》で受け止める。

 秋山さんを俺にぶん投げた阿久津は脱兎もビックリの勢いで学校に突入した。が、


「がっ……⁉︎」


 正門を潜り抜けた途端、急ブレーキでもかけたかのように盛大に転んだ。

 何かに足を引っ掛けたのか?


「……ん………あれ………」

「おう目覚めたか眠り姫!」

「え、榎本くん? ちょ、やだっ、離してっ‼︎」


 目覚めた瞬間に暴れんな。

 せっかく助けたのにこれじゃ俺が変態みたいじゃないか。


「汚らわしいっ‼︎」

「人を汚物扱いすんじゃねえ‼︎」


 マジで殴ってやりたい。

 だけど怯え方が尋常じゃない。こいつ前もそうだったよな。


「まあいい。目が覚めたなら後は自分で何とかして!」

「はあ⁉︎ 私も行く!」


 彼女は《虎》を出していた。


「寄ってたかってバカにしやがって……!」


 何かが吹っ切れたのか、さっきとは別人だ。

 戦力になってくれる分には問題ないので、2人で学校の敷地内に突入する。

 煙の位置は––––校庭か? ここからだと建物が邪魔で見えない。

 転んでいたはずの阿久津もいない。きっとあの煙のところに行ってしまったのだろう。

 急がないと、と思ったが一度《壁》を発動している以上、一旦切れるのを待った方がいいかもしれないと思い至った。

 この能力の面倒なところは、一度発動してしまうと、制限時間のタイミングが確定してしまう点だ。

 5分後に必ず能力の使えない時間が来てしまう。周囲に露見していないことを祈るばかりだ。


 それにしても、俺さっき撃たれたよな? 額を触ってみるが、別に普段と変わらない。

 あのとき《壁》は使えなかった。そうなると、奇跡が起きて弾が外れたのだろうか。


 あと気絶して目覚めたら全部終わってたとか俺のいた意味よ。

 大体。超能力者とやらも胡散臭い。複数の能力が使えたら条件クリアなのか?

 そういう人が持ち上げてくれること自体が嬉しくないわけではない。

 でも本人が使いこなしてないんじゃ格好着かないよなぁ。


 グシャッ。


 ……グシャ?


「………………」


 目の前に人間が落っこちてきた。

 結構な勢いだったのに、まだ原型をとどめている。その代わり全身血まみれだ。

 迷彩服、明らかに西洋人。日本語は通じないだろう。

 うわーおまけに子供だよ。ショタコンお姉さんが食いつきそうな美少年だよ。

 呼吸音が空気漏れの音と同じだ。


 何したんだあの人たち。


 制限時間はとっくに過ぎたものの、俺は自分の出番がないことを悟っていた。

 なにせここまで地響きがするようなドンパチを繰り広げているのだから。

 俺が知っている能力戦の中でもぶっちぎりで怖い。


 戦場ならこういう光景は当たり前なのだろうけど、俺のような元来無縁の人間が見るにはキツすぎる。


俺は少年を背負うと、重い足取りで校舎に向かう。


 ◆◆◆



「感謝してよねー、私がいなかったら今頃惨劇よ?」


 十分惨劇ですが。


 舞台になったであろう校庭は、もはや原型を留めていなかった。

 地下で爆発が起こったと言われても納得できるだろう。

 その中心に、あの彼女がいた。両手にそれぞれ、男と女の首根っこを掴んでいる。

 そしてなぜか、校庭の端にスクラップされた大型トラックがあった。


 四つん這いになっている阿久津を見て、彼も間に合わなかったのだと悟る。俺の隣では秋山さんが歯を食いしばっていた。

 これだけ暴れているのに、なんで誰も出てこないんだ?


「何かしたんですか? あんなにうるさかったのに誰も来ないじゃないですか?」

「あー、《改変》の能力使ってるから。今日は誰もいない休日。テロリストなんて来てないことにしてる。現に先生たちは職員会議中だし」


 何この人。なんでもありじゃないか。


「これではっきりしたわねー」

「何がですか?」

「敵は君が絡んだことは《未来予知》が使えないってこと。こいつら、『なんで女がいるんだ』って言ってたから」

「……はい?」


 阿久津がため息と共に立ち上がった。


「本来なら、私がここにいるはずだったでしょう? 君と一緒に出たことで、相手の《未来予知》にブレが生まれたんですよ」

「ブレ?」

「詳しくは後で話します。とにかくスバルさん、ここはちゃんと元に戻してくださいよ? ここは生徒のための場所なんですから」

「はいはい。話は場所を変えよっか。ここじゃなんだし」


 どこかに電話を掛けた彼女は、それを終えると同時に《転移門》を作り出し、その中に両手の男女、そして俺の背中にいた少年を放り込んだ。

 挙句、わずか30秒で綺麗に整地された校庭を見て、俺は考えるのを止めた。



 ◆◆◆



「改めまして、私は鶴宮(すばる)。趣味で人助けやってるニートです」


 阿久津の根城にて。彼女はそう名乗った。

 なんだその矛盾したような自己紹介。


 どうやら彼女は存在そのものが認知されていないらしい。先生たちと廊下ですれ違ったが、誰も彼女に見向きしなかった。

 俺の様々な感情が顔に出ていたのか、昴と名乗った女性は


「お金はあるんだよ。だから道楽で過ごしてるの」


 と追加で説明してきた。

 お洒落なファッションに合わない不健康な肌。まあギリギリ納得できそうな。


「珍しいじゃない。あなたが一般の女の子に能力を使うなんて」


 彼女は阿久津に顔を向ける。その阿久津は未だ気絶している赤井を布団に寝かせていた。

 戻ってきたときに教室の前で倒れたままの赤井を見つけたときは、流石に可哀想だった。


「不可抗力です。それに、そこのガキを気絶させた貴女に言われる覚えはありませんよ」

「それこそ不可抗力よ。ああでもしなきゃこの子、死んでたわよ? そうだ、私の邪魔をしたのはパパの指示?」

「そうですよ。『どうせ血が昇って後先考えずにミンチにするだろうから』と。どうせあの黒い布も元々は使わないつもりだったんでしょう?」


 それは所謂『むしろ殺した方が情け』的なものか?


「まあ軽率だったのは認めるわ。保険のつもりだったんだけどね」


 阿久津はフーッっと息を吐いて


「だから問題なんですよ。とにかく間に合って良かった。とりあえず色々と報告してきますから、大人しくしててくださいね」


 阿久津は振動する電話を握り締め、部屋を出て行った。





「「……」」





 気まずっ。

 なんでじっと見てくるの、怖い怖い。視線までナメクジなの?


「君、《探査系》の能力は弾かないんだね」

「へ?」

「どこを調べても健康体。極々普通の人間ね。変なのは異能力だけ」

「普通……」


 喜んでいいのか?


「ところで、鶴宮さんは

「昴でいいよ。苗字で呼ばれるのは嫌いなんだ」

「じゃあ昴さん。あなたは何をしにあそこに来たんですか?」

「君たちと同じよ。あのテロリストに用があったの」

「具体的には?」

「私の個人的なことだから、これ以上の詮索はよしてね」


 やんわり釘を刺してきた。


「じゃあ質問を変えます。あなたの異能力はなんなんですか? まさか《じょう》――――」


 閉めきった部屋に風が吹いた。


「それ以上喋ったら串刺しにするよ? あんな下衆なものと一緒にしないでくれる?」


 やべえ本気で怒らせた。

 彼女の後ろに化物のビジョンが見える。


「それに、なんで君に個人情報をベラベラ垂れ流しにしなきゃならないの? 何様のつもり?」


 逆鱗に触れたらしい。

 眼がカエルを睨む蛇だ。表情変えないでこれは怖すぎる。


「分かりました。詮索したことは謝ります。それにしても、単身で乗り込んでくるにしてはその格好はどうなんです? 戦闘には不向きでしょう」


 スーッと剣呑な雰囲気が消えた。オンオフの激しい人だな。


「ああ……これね。文字通り勝負服よ」

「はい?」

「こういう服じゃないとやる気が出なくてねー。異能力で服にダメージを出さないっていうのも縛りプレイには丁度いいし」


 知らんがな。


「ところで、あなた方この女子とはどういう関係ですか? 阿久津さんはやたらとこの人を嫌っているようなんですが」

「ああ。その子は私と取引したの。あの男はそのことでキレてるのよ」


 彼女は取引の内容について語らないし、秋山さんは恨めしげに昴さんを睨んでいる。

 内容に関してはスルーしよう。阿久津さんがなぜあそこまで怒っていたのかは分からないが、俺は知らない方が良さそうだ。


「まあそれも済んだことだし。君には協力してもらった恩もあるし、言える範囲のことは言わないとね。さっきまで君たちと一緒にいたのは私の《分身》。本体の私はあなたたちが学校を抜けた直後にここに入ったの」

「どうしてそんなことを?」

「け––––あなたたちが阿久津って呼んでる人が、今日ここに来ることは分かってた。そっちの監視を《分身》に任せて私はあそこに行くつもりだったんだけど、あいつ急にどこか行っちゃうし、その直後くらいに変な連中入っていくのが見えたから。タイミング良すぎてちょっと怪しかったんだよね」


 彼女が言うには、食材を運び込むトラックが来たが、その荷台に銃を持った人間がいるのが分かったらしい(《波長操作》の応用で、ソナーの要領だと後で聞いた)。


 それで既に演習場跡地にいた《分身》と《入れ替わった》。

 彼女がどうやって入ったのかというと、トラックの屋根に《貼り付いた》らしい。

 姿は一応《消した》らしいが、門をくぐり抜けた時点で強制解除させられた。

 それが警備室の人間に見つかって止められそうになったので仕方なくトラックを《ぶん投げた》そうだ。


 ……どこまで無茶苦茶なんだこの人。


「で、さっきの話だけど。ここを襲った連中は阿久津さんがいると思って来てたのよ。でも変でしょ? 《未来予知》が使えるなら、彼が独断でここを抜け出して自分たちのアジトに来る未来が見えてなくちゃ」

「……あっ」


 俺のリアクションに満足したのか、昴さんは続けて


「事件を調べてこのことに気づいた人がいてね。この組織は何度も君の周囲で事件を起こすけど、君が関わるごとに計画が失敗している。極端な話、こいつらの計画には君の存在が織り込まれてない。いや、『織り込めない』が正しいのかな」


 彼女の説明で、今まで謎だった部分がスッと解けた気がした。が、


「いやいや、でも俺も狙われてるんですよ? 懸賞金までかかってるらしいですよ? バレてるじゃないですか」


 しかし彼女は淀みなく


「だからだよ。《未来予知》に引っ掛からない人間なんて計画の邪魔でしかない。いなくなればそれでいいだろうし、生け捕りにして手元に置いておけば別の《未来予知》を妨害できる。生きてても死んでても利があるんだよ。もちろん後者の方が合理的だから、懸賞金も高めに設定してるんだろうし」


 筋は通る。通るけど。


「俺が絡むから計画が頓挫するなら、俺が絡まないところで計画を進めれば良い話じゃないですか?」

「そうもいかないでしょう。だってここには無視できない能力が揃いすぎてる」


 学校を出る前、阿久津が「この学校には逸材が揃っている」と言っていたのを思い出す。


「あいつが戻ってきたら、もう少し詳しい説明が聞けそうなんだけど」



 ◆◆◆



「やれやれ、こっぴどく怒られました」


 その割に、阿久津の顔に反省の色はない。

 もうすっかり夜になってしまった。


「さて、どこから話しましょうか?」

「できれば最初から。あなたの目的はなんだったんですか」


 俺の求めに応じ、阿久津は座布団に腰を下ろす。


「私が受けた命令は『君を連れて独断で動く』、これだけです。命令を出した人は、どの時点で敵の《未来予知》とズレが生じるのかを調べたかったんでしょうね」

「さっきも言ってましたけど、俺がいると《未来予知》がおかしくなるってのは本当なんですか? 能力を発動してる間は分かりますけど、言い方からして俺の存在自体が《未来予知》に干渉してるように聞こえるんですが」

「ええ、そうですよ」


阿久津は眼鏡を掛け直す。


「そもそも、敵の《未来予知》は正式には《相対予知》と呼ばれるものです」

「《相対予知》?」


阿久津が言うには悪い未来Aを予知した場合、それに至る過程を変えることで良い未来Bに路線変更ができる。

なので《超精密な予想》らしい。


「ですが、君の存在は《予知》の中に組み込まれていない。だからこそ敵は一番最初の事件でそれは明らかです。君の存在が分かっていれば、もしくは異能力が分かっていれば、絶対に対策をしたはずですから」

「なるほど……」

「だから次は君を調べるために、秋山(あれ)を使って君と接触したのでしょう。君と戦闘をしたのもデータを取るのが目的だったのではないかと」


阿久津は秋山さんを横目で見た。俺もその時のことを思い出そうとしたが、ふと疑問が浮かんだ。


「じゃあ、あの時点で校内に秋山さんを操っていた人間がいたってことですか? 確か学校の敷地の外からは異能力で他人を操るのは無理だって聞いた気がするんですが」

「そういうことになります。体育祭のときに見つかった地下通路から出入りしていたのでしょうね。そこで君の能力を観察した上で懸賞金を掛けた」


……思い返してみると、なんとなく納得できた。


「じゃあ体育祭を襲った連中は?」

「捕まったのは懸賞金に釣られた人間と、テロ組織が半々。異能力を封じる作用がある薬を持ち合わせていたらしいので君に使おうとしていたことも考えられます。まあ、捕まえた人間は全員死んでしまったので話は聞けなかったそうですが」


これも保険か。


「文化祭で君に何をしようとしたかはまだ分かりません。ただ生徒に紛れた敵が君の行動を監視していたのは間違いないでしょう。常に敵の一歩先を行けるなら、犠牲は厭わないスタンスのようですしね。今日捕まえた連中と合わせて軍で調べるそうですよ」

「そうですか……」


随分と効率の悪い作戦だと思っていたが、俺が敵にとって障害になるならこうなっても仕方ないか。


「あとは報告を待ちましょう。私はあと数日ここに残りますが、昴さんはどうしますか?」

「今日だけここで休ませてちょうだい。後はほとぼりが冷めるまで身を隠すわ〜。それくらいは許してくれるでしょ?」

「ええ。その代わり助けることもしませんよ」

「それでいいわ。ちょっと飲み物だけ買ってくる、榎本くん、ちょっと付き合って頂戴」


なんだろう、ちょっとデジャブ感が。



◆◆◆



「……」

「そう睨むな、約束は守っただろう? これに懲りたら、手っ取り早く異能力を高めようなんて考えは捨てることだ」

「《あんな能力》だって知ってたら頼まなかった……! ねえ、あいつは《私の能力》をどこまで使えるの⁉︎」

「……全て、だ。ちなみにおまえが今のままなのは、長くても明日の昼まで。そこからしばらくは地獄を見るぞ。3日は昏睡、2週間は寝たきり、1ヶ月は立てないと思え。異能力が使えるようになるには、さらに3ヶ月はかかる。担任に話は通しておいてやるから、安心して入院しろ。おまえには才能がないんじゃない、おまえに扱えるだけの器がなかっただけの話だ。あとはその腐った性根を治しておくんだな」


阿久津の言葉に、秋山直子は崩れ落ちた。




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